キヴォトス企業、アーキバス・コーポレーション   作:ねうしとら

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プロローグ(企業)

 あの後、オキーフによりフィーカを馳走して頂きました。スネイルです。

 

 彼の選ぶフィーカに外れはありません。彼自身は、あまり美味しくないフィーカやレーションを嗜むことも人間らしいとして好んでいますが、目利きは確かです。

 

 怒りに呑まれそうになった私を見かねたオキーフの配慮により、アーキバスの休憩室でフィーカを嗜んでいたのですが、偶然にもヴェスパーの面々が揃ったのでそこで簡易的な茶会と相成りました。

 

 連邦生徒会長の失踪に関しての情報を共有し、共に頭を抱えながらフィーカを啜ったのは印象深かったですね。主にスウィンバーンとメーテルリンク、ホーキンスの反応は見ていて同情するものでした。

 

 フロイトは我関せずでしたし、ペイターは何を考えているのか分かりませんでしたが、心から同情していることだけは確かでした。ラスティは苦笑いを浮かべてヴェスパーのフォローに回っていましたね。

 

 さて、そのようなこともあり、アーキバス社内も忙しなくなってきたこの頃。連邦生徒会長が失踪し、数週間が経過しようとしています。

 

 それに伴い、行政機関の機能もほとんど停止しました。出所不明な武器の流通率が2000%となった事実に、憤りを隠せません。

 

 なんですか、2000%とは。バカの考えた数値ですか。最早呆れすら感じてしまいますよ。連邦生徒会長が失踪したことで生じる混乱とは、これほど世紀末だったのかと。

 

 しかも、未だ連邦生徒会長の行方不明は世間にバレていないというのにこの始末です。連邦生徒会に対する信頼は地の底まで落ちているでしょう。

 私は事情を知っているからここまで冷静になれますが、もし事情を知らなかった場合、怒り狂っていたことでしょうね。

 

 行政機関としての適切な仕事をするようにと、上申していたかもしれません。

 

 致命的なまで悪化した治安に、銃火器等の兵器類は需要を大幅に引き上げました。我が社の株価も上昇しています。

 

 それに伴い、各学園より発注される数々の商品は、私の予想を大幅に上回りました。現在では受注を停止して、既に注文を受けた製品の生産に注力している現状です。

 

 これほどまで逼迫している現状に、キヴォトスでは様々な憶測が飛び交っていますが、無理もないでしょう。

 連邦生徒会長は何をやっているのかと憤っている人々を見かけますが、ここ数週間姿を見せていないのですから、何かあったと考えるのが妥当だと思うのですが。

 

 まあ、『超人』たる連邦生徒会長がまさか失踪するなんて思わないのでしょうね。

 

 とはいえ、この現状がいつまでも続くのであれば企業としても手を打つほか無くなります。連邦捜査部に着任するのが誰であるのか、それを見極める必要も出てくるでしょう。

 

 D.U.地区でも治安の悪化に伴った治安維持組織の人手不足は深刻化しています。我がアーキバスもヴェスパーを派遣することで暴動鎮圧に貢献していますが……。

 

 そもそも我々が行う業務ではないというのは、事ここに至っては野暮というものですか。

 

 そろそろ、現状を打開する一手が打たれても良い頃合いだと思うのですが……。

 

「スネイル。シャーレに関する情報を掴んだ」

 

「よろしい。聞かせなさい」

 

 色々と考え事をしていると、オキーフがやってきました。

 どうやら連邦捜査部に関する情報を取得してきたようです。

 

 この情報が、企業にとってよいものであることを祈るばかりですが。

 

 オキーフからの報告に、私は耳を傾けます。

 

「連邦捜査部シャーレ。超法規的組織であり、学園に所属する生徒を制限なく加入させ、自治区を自由に出入りし、戦闘行為すら行えるその組織には、キヴォトス外部から招かれた大人が顧問として着任することになったようだ。顧問の『先生』らしい」

 

「……キヴォトス外部から招かれた大人だと?」

 

「ああ。連邦生徒会長が直々に招いた重要人物のようでな。銃弾一発が致命傷となる人間を超法規的組織の責任者に据えるとは、中々思い切った決断をしたと言わざるを得ない」

 

 はて。

 

 私は一体何を耳にしたのでしょうか。

 

 連邦捜査部シャーレの顧問となるのが、よりにもよってキヴォトスの人間ですらないと? しかも、銃弾一発で致命傷となる……?

 

 オキーフは極めて気を遣った表現を用いて、連邦生徒会長の判断を評価していますが……。

 

「……そんな生易しい表現で濁すべきではありません。愚策中の愚策。下の下の下です。超法規的組織における責任者という、非常に重要な立場を任された人物が、キヴォトス外の人間である。これだけで采配としてはお話にならないレベルだ。だというのに、このキヴォトスで超法規的権限を持つ重要人物が、銃弾一発で致命傷となるなどと、笑い話にもならない……!」

 

 テロでも起これば一瞬で鎮圧され、超法規的組織は文字通り陥落します。

 

 シャーレが持つ権限を目的として、良からぬことを企んでいる生徒や企業がシャーレを襲撃したらどうするのですか。その『先生』とやらは自衛の手段無くあっさりと殺され、キヴォトスはその者の手中に収まるのですよ……!?

 

 連邦生徒会長には、一体何が見えている……?

 

 カイザーの害獣が尻尾を振って狙ってきそうな組織に、脆弱な大人を手配するなどと……!

 

「……それで、その『先生』とやらはいつから着任するのです。そろそろ、この混沌の中生活するのも飽き飽きしている頃なのですが?」

 

「既にシャーレの先生はキヴォトスに招かれている。今は連邦生徒会にいるらしい。シャーレの部室はD.U.地区郊外らしいが……。あそこは今、暴徒によって制圧されている状態だ」

 

 頭が痛くなってきた。

 

 いえ、既に痛いですが。

 

「……貴重な組織に対して、警備すらままならないとは。いくら人手不足と言えど、既に陥落しているとはどういうことです。シャーレは正常に稼働するのでしょうね?」

 

「……そうだな。これからその先生とついでに連邦生徒会へ苦情を呈しに来ていた各学園の生徒たちで、シャーレ奪還作戦を開始するらしい。どうする? 増援を向かわせるか?」

 

 ……苦言を呈したい箇所が山のように出てきますね。

 

 まず、連邦生徒会長が用意した部活であり、確実に重要であることが分かり切っているシャーレが、何故既に暴徒によって陥落しているのか。せめて警備くらいは配備しておくべきだというのに。

 

 次に、よりにもよって連邦生徒会の落ち度であるシャーレ陥落に対して、苦情を呈しに来た各学園の生徒たちを戦力として、あまつさえ先生すら向かわせるとはどういう了見なのか。

 

 最後に、せめて暴徒を鎮圧してから先生を向かわせなさい……! 先生がここで死んでしまったらキヴォトスはおしまいだというのが分かっているのですか……!

 

 クソッタレ……。私は、企業だぞ!? 

 

 落ち着け……。落ち着け……。私は企業。冷静さを失ってはなりません。企業たるもの、いつでも冷静な判断力を持ち続けなければ……。

 

 たしか、シャーレ奪還作戦に対する増援でしたか。

 

 ここでシャーレに恩を売っておくのは悪くありませんが、企業としての立場が厄介です。

 超法規的権限を持つシャーレの責任者と、着任前から関係を持つのはあらぬ噂が出没しかねない。

 

 社会的信用は積み上げていますが、ここは学園都市です。先生と生徒に任せられるのであれば、それが一番無難な選択肢。

 

 ですが、不安であることも確かです。

 

 ならば……。

 

「……ヴェスパーは出動させません。今、この状況で組織としてシャーレに接触することは、あまり良い選択とは言えないでしょう。権限が大きすぎる人間に対して真っ先に接触してしまえば、後々面倒になることが分かり切っている」

 

 企業所属であるヴェスパーは出動させることはできません。ですが、()()であるなら、話は別です。

 

「ルビコン総合技術学園にこの旨を伝達しなさい。分かっていると思いますが、事実を伝えるだけでよい。我が社から命令が下ったかのように捉えられる伝達はしないように」

 

「なるほど。了解した」

 

 ルビコンに対して、何かを指図する権限は既にアーキバスにはありませんので。

 

 ルビコン自治区におけるあらゆる権限は既にアーキバスの手にありません。つい先日、移譲しました。

 しかし、生徒会長がV.Ⅵであることが少し問題です。傀儡政権ではないかと疑われる可能性は、少しでも減らしておきたい。

 

 公的に残る情報のやり取りで、下手なことはできません。

 

 そのため、本作戦でメーテルリンクが出動することはまずないでしょう。生徒会長という立場上、迂闊には動けませんし。

 

 まあ、断言はできませんが。彼女ならそこらの政治は考慮しているでしょう。その上でやってきたのなら、私はそれで納得しましょう。小言は言いますが。

 

 この情報提供に対する回答は、ルビコン生徒会が用意するでしょう。アーキバスはただ事実を伝えたにすぎません。協力関係にある学園が混乱に陥っているため、善意でシャーレに関する情報を与えた。それだけです。

 

 その上で、その情報をどう解釈するかはあちらが決めること。

 増援として誰がやってくるかは、あちらが判断することです。

 

 詭弁だと?

 

 そうですね。しかし、政治とは詭弁で成り立っているのです。

 

 ……なぜ企業なのに政治の話をしているのでしょうか。経済活動をさせていただけませんかね?

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「コード23、現着。目標を確認しました」

 

 連邦捜査部シャーレの顧問として任命された先生と、そんな彼を護衛する各学園の生徒たち。

 寄せ集めにしては動きが鋭いが、それもそのはず。シャーレの先生による指揮が加わっているからだ。

 

 そんな彼女たちでも、成り行きで戦わなければならなくなったことに対して多少の不満を持ち合わせていた。

 

 しかし、そんな戦場に二人の少女が現れる。

 

 一人は、赤い瞳に純白の髪を靡かせるスラっとした美少女。

 もう一人は、静かで無口。しかし、その体から醸し出す鋭利な雰囲気は正に刃物のような少女。

 

 突然やってきた闖入者に、一同は驚く。羽川ハスミは、敵襲の可能性を考えいち早く先生を庇える位置取りをした。その様子に、彼女たち二人は感心した様子を見せる。

 

“……君たちは?”

 

 突如として現れた新たな生徒。その存在に、先生は至極まっとうな疑問を呈する。その疑問に答えたのは、純白の髪を伸ばした少女だった。

 

「初めまして。シャーレの先生。私は、ルビコン総合技術学園で執行部副長を務めています。エアと申します。こちらは、執行部長レイヴン。以後、お見知りおきを」

 

「ルビコン……!? ってことは、アーキバスの差し金?」

 

 早瀬ユウカが驚きながら問う。

 

 その反応に、エアと名乗った少女が苦笑交じりに応えた。

 

「違います。ルビコンは既に自治権限をアーキバス社から譲渡されています。この混乱の中、把握できていなくともおかしくはありませんが、我々は既に独立した学園としての扱いを受けています。そのため、この増援もアーキバス・コーポレーションとは無関係のものです」

 

 エアのその発言に、ハスミは問う。

 

「増援……。つまり、手を貸していただけると?」

 

「はい。そのために来ましたので」

 

 どうやら敵ではないらしいということが分かり、安心した様子を見せる面々。

 先生の指揮があるとはいえ、数が心もとなかったところにやってきた増援の存在は願ってもないことだった。

 

“ありがとう、心強いよ”

 

 先生からそう言われたエアとレイヴンは、真剣な表情で頷く。

 そして、手に持った銃を敵に向けた。

 

「……さっさと片付けよう」

 

 ここで初めて、レイヴンが口を開く。

 

 その圧力は、並みではなかった。

 

 この場で戦っていた生徒たち各々が、自身が所属している学園にて最強と謳われている存在を想起させられるほどに。

 

 そんなレイヴンに対して、エアはいつも通りに言葉をかける。

 

「そうですね、レイヴン。仕事を始めましょう」

 




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