乾いた音が、やけに大きく響いた。
弾切れ。
それだけの事実が、真依の思考を一瞬で塗り潰す。
(……また)
視界の端で、呪霊が動く。
距離は近い。
避けきれない。
それでも、心臓は跳ねなかった。
恐怖ではない。
死の予感でもない。
胸の奥から込み上げてくるのは、
もっと直接的で、醜い感情だった。
(何もできない)
(役に立たない)
(――いらない)
嫌だ。
その一言だけが、はっきりと形を持つ。
真依の呪力が、軋んだ。
いつもの生成とは違う。
弾を作るときの、整った流れじゃない。
呪力が、内側で圧縮される。
押し潰されるような感覚。
「……?」
手の中に、重みが生まれる。
金属。
冷たく、鋭い。
だが、弾じゃない。
刃だ。
呪霊が腕を振り下ろす。
考える前に、身体が動いた。
真依は一歩踏み込み、
その刃を――投げた。
空気が裂ける。
次の瞬間、
呪霊の胴体が、真っ二つになっていた。
呪力の余波が、森を揺らす。
一瞬の静寂。
残っていた呪霊たちが、動きを止める。
理解が追いついていない。
その隙を、総司は見逃さなかった。
一歩、前へ。
王庫が、静かに開く。
無数の呪具が展開され、
次の瞬間には、すべてが終わっていた。
蹂躙。
それ以外の言葉が、見つからない。
呪霊の残滓が消え、
森に静けさが戻る。
誰も、すぐには声を出さなかった。
直哉は、呆然と真依を見ている。
(二級やぞ……)
弾切れだったはずだ。
それが、一撃で。
理解が、追いつかない。
総司は、すでに真依の前に立っていた。
視線は、手元。
もう何も残っていない、その手。
王庫が、微かに反応している。
だが、開かない。
(……自発的生成)
しかも、
王庫の概念に近い。
「……理解した」
低い声。
真依は、思わず背筋を伸ばす。
「さっきのは、弾の延長じゃない」
「お前は無意識に、“武器そのもの”を作った」
言葉は淡々としている。
評価も、叱責もない。
事実の確認だけだ。
「再現は難しいだろう」
「……はい」
「呪力の流れを見る限り、一日に一度が限界だ」
断定。
「二度目を無理に行えば、術式が破綻する」
真依は、黙って頷いた。
自分でも、分かる。
さっきの感覚は、
簡単に繰り返せるものじゃない。
「だから」
総司の視線が、真依に落ちる。
「縛りを用いた術式の強化は、俺の命令なくして行うな」
空気が、張り詰める。
「その判断を、お前に任せるつもりはない」
拒絶ではない。
線引きだ。
真依は、迷わず答えた。
「……はい」
即答だった。
総司は、それ以上何も言わない。
呪具を王庫へ戻す。
収まる感覚。
――完全に、管理下に置かれた。
踵を返し、歩き出す。
数歩進んでから、
ほんの一言だけ落とした。
「役に立った」
それだけ。
真依は、その場に立ち尽くす。
胸の奥が、じんわりと熱い。
(……よかった)
評価された。
必要とされた。
それで、十分だった。
直哉は歯を食いしばる。
(……女が)
(……出来損ないが)
言葉にならない感情が、腹の底で渦を巻く。
だが――
総司がいる。
それだけで、この場の結論は決まっていた。
真依は、歩き出す。
総司の後ろを、迷いなく。
(……次は)
次は、弾切れにならないように。
次は、
「何もできない自分」を、
もう一度、嫌にならないように。