禪院の王庫   作:ナムルパス

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第5話 逸脱 後編

乾いた音が、やけに大きく響いた。

 

弾切れ。

それだけの事実が、真依の思考を一瞬で塗り潰す。

 

(……また)

 

視界の端で、呪霊が動く。

距離は近い。

避けきれない。

 

それでも、心臓は跳ねなかった。

 

恐怖ではない。

死の予感でもない。

 

胸の奥から込み上げてくるのは、

もっと直接的で、醜い感情だった。

 

(何もできない)

 

(役に立たない)

 

(――いらない)

 

嫌だ。

 

その一言だけが、はっきりと形を持つ。

 

真依の呪力が、軋んだ。

 

いつもの生成とは違う。

弾を作るときの、整った流れじゃない。

 

呪力が、内側で圧縮される。

押し潰されるような感覚。

 

「……?」

 

手の中に、重みが生まれる。

 

金属。

冷たく、鋭い。

 

だが、弾じゃない。

 

刃だ。

 

呪霊が腕を振り下ろす。

 

考える前に、身体が動いた。

 

真依は一歩踏み込み、

その刃を――投げた。

 

空気が裂ける。

 

次の瞬間、

呪霊の胴体が、真っ二つになっていた。

 

呪力の余波が、森を揺らす。

 

一瞬の静寂。

 

残っていた呪霊たちが、動きを止める。

理解が追いついていない。

 

その隙を、総司は見逃さなかった。

 

一歩、前へ。

 

王庫が、静かに開く。

 

無数の呪具が展開され、

次の瞬間には、すべてが終わっていた。

 

蹂躙。

 

それ以外の言葉が、見つからない。

 

呪霊の残滓が消え、

森に静けさが戻る。

 

誰も、すぐには声を出さなかった。

 

直哉は、呆然と真依を見ている。

 

(二級やぞ……)

 

弾切れだったはずだ。

それが、一撃で。

 

理解が、追いつかない。

 

総司は、すでに真依の前に立っていた。

 

視線は、手元。

もう何も残っていない、その手。

 

王庫が、微かに反応している。

だが、開かない。

 

(……自発的生成)

 

しかも、

王庫の概念に近い。

 

「……理解した」

 

低い声。

 

真依は、思わず背筋を伸ばす。

 

「さっきのは、弾の延長じゃない」

 

「お前は無意識に、“武器そのもの”を作った」

 

言葉は淡々としている。

評価も、叱責もない。

 

事実の確認だけだ。

 

「再現は難しいだろう」

 

「……はい」

 

「呪力の流れを見る限り、一日に一度が限界だ」

 

断定。

 

「二度目を無理に行えば、術式が破綻する」

 

真依は、黙って頷いた。

自分でも、分かる。

 

さっきの感覚は、

簡単に繰り返せるものじゃない。

 

「だから」

 

総司の視線が、真依に落ちる。

 

「縛りを用いた術式の強化は、俺の命令なくして行うな」

 

空気が、張り詰める。

 

「その判断を、お前に任せるつもりはない」

 

拒絶ではない。

線引きだ。

 

真依は、迷わず答えた。

 

「……はい」

 

即答だった。

 

総司は、それ以上何も言わない。

 

呪具を王庫へ戻す。

収まる感覚。

 

――完全に、管理下に置かれた。

 

踵を返し、歩き出す。

 

数歩進んでから、

ほんの一言だけ落とした。

 

「役に立った」

 

それだけ。

 

真依は、その場に立ち尽くす。

 

胸の奥が、じんわりと熱い。

 

(……よかった)

 

評価された。

必要とされた。

 

それで、十分だった。

 

直哉は歯を食いしばる。

 

(……女が)

 

(……出来損ないが)

 

言葉にならない感情が、腹の底で渦を巻く。

 

だが――

総司がいる。

 

それだけで、この場の結論は決まっていた。

 

真依は、歩き出す。

 

総司の後ろを、迷いなく。

 

(……次は)

 

次は、弾切れにならないように。

 

次は、

「何もできない自分」を、

もう一度、嫌にならないように。

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