禪院の王庫   作:ナムルパス

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第6話 居場所 前編

禪院家の屋敷は、夜になると余計に静かだった。

 

音がないわけではない。

人の気配も、呪力の流れも、確かにある。

 

ただ――

それらがすべて、抑え込まれている。

 

当主の部屋。

 

障子の向こうに、数人の気配が揃っていた。

 

「……で?」

 

低い声が、場を支配する。

 

禪院直毘人だ。

 

感情は読めない。

怒っているわけでも、楽しんでいるわけでもない。

 

ただ、事実を待っている。

 

「報告しろ」

 

命令は、それだけ。

 

一歩前に出たのは、分家筋の術師だった。

言葉を選びながら、口を開く。

 

「本日の任務で……真依が、本来の構築術式とは異なる挙動を見せました」

 

「異なる?」

 

「はい。

弾ではなく、武器そのものを――

一時的に、ですが」

 

部屋の空気が、わずかに変わる。

 

直毘人は、すぐには反応しなかった。

 

「一時的、とは?」

 

「再現性はありません。

本人も意図していない様子で……」

 

「ほう」

 

短い声。

 

興味を示したのか、

それとも――確認か。

 

「で?」

 

視線が、横に流れる。

 

そこに立っていたのは、直哉だった。

 

「……偶然ですわ」

 

少し早口だった。

 

「弾切れで追い詰められて、たまたま出ただけや」

 

「二度とできへん」

 

断定するように言う。

 

直毘人は、直哉を見る。

 

その目は、穏やかだった。

 

「……そう思う理由は?」

 

直哉は、一瞬、言葉に詰まった。

 

「二級相手です。それに……」

 

言いかけて、止める。

 

直毘人は、待たない。

 

「それに?」

 

「……女です」

 

場の空気が、凍る。

 

だが、直毘人は怒らない。

 

「女、か」

 

ゆっくりと、繰り返す。

 

「なら聞こう」

 

「総司は、どう見た?」

 

その名が出た瞬間、

直哉の表情が、わずかに歪んだ。

 

「……異常やと」

 

「管理下に置くべきやと、そう言うとりました」

 

直毘人は、ふう、と息を吐く。

 

「管理、ね」

 

しばらく、沈黙。

 

やがて、直毘人は言った。

 

「なら話は早い」

 

「――高専に出す」

 

直哉が、顔を上げる。

 

「は?」

 

素の声だった。

 

「高専、ですか?」

 

「そうや」

 

直毘人は、淡々としている。

 

「家の中で抱えとくには、あれは少し面倒や」

 

「外で揉ませる」

 

「使い方を覚えるか、壊れるか」

 

「どっちに転んでも、禪院に損はない」

 

直哉は、奥歯を噛み締める。

 

「……総司も、ですか」

 

「当たり前やろ」

 

直毘人は、笑った。

 

「王は、檻に入れたら腐る」

 

「外に出してこそや」

 

その言葉に、

誰も反論できなかった。

 

――同じ頃。

 

屋敷の別棟。

 

真依は、銃の整備をしていた。

 

分解。

清掃。

組み立て。

 

手順は、身体が覚えている。

 

(……高専)

 

総司から、まだ何も聞いていない。

 

だが、

この家が“動いた”気配だけは、

はっきりと感じていた。

 

足音。

 

顔を上げる前に、分かる。

 

総司だ。

 

「行くぞ」

 

短い一言。

 

「準備しろ」

 

「……どこへ?」

 

真依が尋ねると、

総司は、ほんの一瞬だけ視線を落とした。

 

「外だ」

 

それだけ。

 

真依は、それ以上聞かない。

 

銃を収め、立ち上がる。

 

外。

 

禪院家の外。

 

胸の奥が、わずかにざわついた。

 

それが不安なのか、

それとも――期待なのか。

 

真依自身にも、まだ分からなかった。

 

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