禪院の王庫   作:ナムルパス

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第6話 居場所 後編

車は静かに走っていた。

 

禪院家の敷地を出てから、しばらく。

真依は窓の外を見ていた。

 

山道。

街灯は少ない。

それでも、屋敷の闇とは違う。

 

「……高専?」

 

ぽつりと、真依が言った。

 

総司は、前を見たまま答える。

 

「そうだ」

 

「決まったんだろう」

 

疑問ではない。

確認でもない。

 

事実を、受け取っただけの声だった。

 

「当主様の指示ですか?」

 

「直毘人が判断した」

 

それを聞いて、真依は小さく息を吐く。

 

(やっぱり)

 

禪院家が動く時は、いつもそうだ。

説明も、納得もない。

 

価値があるか。

使えるか。

 

それだけ。

 

「……私も?」

 

「当然だ」

 

即答。

 

「お前を置いていく理由がない」

 

真依は、口を閉じた。

 

胸の奥が、少しだけ熱くなる。

 

守る、でもない。

期待する、でもない。

 

ただ――

「物」として、連れていかれる。

 

それが、総司の一貫した態度だった。

 

だからこそ、信じられる。

 

――数時間後。

 

東京都立呪術高等専門学校。

 

結界を越えた瞬間、

真依ははっきりと感じた。

 

(……濃い)

 

屋敷とは違う。

雑多で、荒くて、制御されていない呪力。

 

「ここが、高専……」

 

「感想は後だ」

 

総司は、足を止めない。

 

校舎の前。

 

既に一人、待っていた。

 

白髪。

目隠し。

 

異様な存在感。

 

「やっほー」

 

軽い声。

 

五条悟だった。

 

「禪院家から二人、って聞いたけどさ」

 

視線が、総司に向く。

 

「君が“王様”?」

 

総司は、五条を見返す。

 

一切、臆さない。

 

「俺は総司だ」

 

「それ以上でも以下でもない」

 

五条は、一瞬だけ目を丸くしてから、笑った。

 

「あー、なるほど」

 

「これは扱いにくい」

 

次に、真依を見る。

 

「で、君が?」

 

「禪院真依です」

 

声は、小さい。

 

だが、視線は逸らさない。

 

五条は、少しだけ真剣な顔になる。

 

「ふーん……」

 

「面白い配置だね」

 

その言葉に、総司が口を挟む。

 

「説明はいらん」

 

「条件だけ言え」

 

五条は肩をすくめた。

 

「シンプルだよ」

 

「ここでは、家の序列は通じない」

 

「強いか、弱いか」

 

「生き残れるか、死ぬか」

 

「それだけ」

 

真依の喉が、わずかに鳴る。

 

だが、総司は頷いた。

 

「十分だ」

 

「それでいい」

 

五条は、少し意外そうに目を細める。

 

「……君、ほんとに禪院?」

 

「禪院だ」

 

「だからこそ、ここに来た」

 

沈黙。

 

五条は、軽く手を叩いた。

 

「はい決定」

 

「今日から二人とも、仮入学ね」

 

「正式な手続きは後」

 

「どうせ断らないでしょ?」

 

総司は、答えない。

 

その沈黙自体が、肯定だった。

 

――その頃。

 

禪院家。

 

直哉は、一人、縁側に座っていた。

 

「……高専、か」

 

面白くない。

 

いや、

分かっていた。

 

総司を檻に入れておくのは、無理だと。

 

だが――

 

「真依まで連れて行く必要は、なかったやろ」

 

拳を、畳に落とす。

 

「出来損ないが……」

 

その言葉が、途中で止まる。

 

思い出したからだ。

 

弾切れの瞬間。

あの、目。

 

(……違う)

 

出来損ないの目じゃない。

 

直哉は、歯を噛み締める。

 

「まだや」

 

「まだ終わってへん」

 

高専に行こうが、

外に出ようが。

 

序列は、覆らない。

 

覆させない。

 

「最後まで足掻いたる」

 

その呟きは、

誰にも届かなかった。

 

――夜。

 

高専の寮。

 

真依は、ベッドに座っていた。

 

慣れない空間。

慣れない匂い。

 

「……ねえ」

 

総司の背中に、声をかける。

 

「私、ここで……」

 

言葉に、詰まる。

 

総司は、振り返らない。

 

「役に立て」

 

それだけ。

 

「使えるなら、残る」

 

「使えなくなったら――」

 

一拍。

 

「その時は、俺が決める」

 

真依は、頷いた。

 

それでいい。

 

それが、誓いの延長だから。

 

窓の外。

 

夜空の向こうで、

何かが、静かに動き始めていた。

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