禪院家の任務は、いつも静かに始まる。
声を荒げる者はいない。
作戦の確認も、意見のすり合わせもない。
決まっているからだ。
誰が前に出て、
誰が消耗し、
誰が評価されるか。
「配置は変わらない」
総司の声が、森の中に落ちる。
真依は短く頷いた。
それで十分だった。
この数年で、
そのやり取りは当たり前になっている。
彼が決める。
彼女が従う。
そこに疑問はない。
周囲の禪院家の術師たちは、
二人の距離感を気にしながらも、何も言わない。
言えない、が正しい。
当主・直毘人が黙認している以上、
この配置に異を唱えることは、
そのまま総司に逆らうことと同義だった。
「……ふん」
少し離れた位置で、直哉が鼻を鳴らす。
視線は真依に向いている。
女。
出来損ない。
それが、銃を構え、前線に立っている。
しかも――
総司の指示で。
気に食わない。
だが、口には出さない。
出せば、
自分の立場が削られることを、
直哉自身が一番よく分かっている。
今回の対象は、二級呪霊が主体の群体だった。
単体で見れば脅威ではない。
だが数が多く、散開する。
一体ずつ確実に潰せば問題はない――
その判断は、正しい。
だからこそ、この任務は成立する。
弾を使わせる。
呪力を削らせる。
それだけでいい。
真依は銃を構えた。
指先の感触は、いつもと変わらない。
冷たく、確かで、裏切らない。
(……問題ない)
撃てる。
まだ撃てる。
最初の一発で、呪霊の頭部が弾ける。
続けて二発、三発。
正確。
無駄がない。
総司は動かない。
王庫も開かれない。
――これは、真依の仕事だ。
呪霊が距離を詰めてくる。
横から、背後から。
真依は位置を変え、撃ち続ける。
一体。
二体。
弾数が、確実に減っていく。
(……まだ)
数えている。
無意識に。
残り、四。
残り、三。
直哉が、ちらりと総司を見る。
(助けへんのか)
だが、総司は一切動かない。
助ける必要がない。
それだけのことだ。
残り、二。
呪霊の動きが、少しずつ変わる。
無駄に突っ込んでこない。
距離を測り、散る。
(……誘ってる)
無駄撃ちを。
真依は歯を食いしばり、撃つ。
残り、一。
最後の一体を撃ち抜いた、その直後――
視界の端で、別の呪霊が動いた。
(……まだ、いた)
銃口を向ける。
引き金を引く。
――空。
乾いた音だけが鳴った。
一瞬、世界が止まる。
(……あ)
呪霊が迫る。
距離は近い。
回避は間に合わない。
それでも、
真依の胸に湧き上がったのは恐怖ではなかった。
(……また)
何もできない。
役に立たない。
必要とされない。
嫌だ。
その感情だけが、
はっきりと、鋭く、胸を貫いた。