透き通る世界のフツーな少年と妖怪達 作:nalnalnalnal
今回はすこし短め。
また真面目なケータきゅんですが……これもケータきゅんの魅力だと思うんですよ。
ケータの視界に突如として広がったのは、壁や天井が崩壊して外に机が積み上がった青空と水平線の広がる教室のような空間で、突っ伏して眠っている少女の姿だった。
(ど、どこだここ……キヴォトスっぽくないけど、ウィスパー達もいないし……それにあの子は誰だろう……オレと同じくらいの学年っぽい?)
「……くぅ……Zzzz……Zzzz……」
「むにゃぁ……カステラにはぁ……いちごミルクよりバナナミルクのほうが……くぅ……」
(どっちでもいいな──じゃなくて! 起こした方がいいのかな……?)
眠る少女から食べ物の寝言が漏れ出した為ジバニャンを彷彿とさせるケータだったが、二人きりの状況で起こして良いものかと疑問に思っていた。
「そう言えばなんでウィスパーとジバニャンはいないんだろ……一緒にいたのに」
「う〜ん……うんがい鏡みたいな力があったのかなあのタブレット……え〜でもそんなもの作れるのかな?」
「ん、んぅ……? まだですよぉ……しっかり噛まないとぉ……ん──んっ、ありゃ?」
「あ、えっと……?」
「ありゃ、ありゃりゃ……?えっあれ?あれれ!?」
ケータが独り言をぶつくさと呟くとそれが聞こえたのか、突っ伏していた少女はムクリと席から起き上がってまだ眠気が残っている瞼を擦っている。未だに正体が掴めない少女と目線を合わせるケータだったが、何故だか少女側の方が動揺しているようだ。
「こ、この空間に入って来たってことは──まさかけ、ケータ先生!?」
「あ、う、うんそうなるのかな……?」
「う、うわぁぁ!?そうですね!?もうこんな時間!?落ち着いて落ち着いて……」
「ふ、ふぅ……えっと、その……」
「ま、まずは自己紹介からですね! 私は『アロナ』! このシッテムの箱に常駐しているシステム管理者で、メインOS──そしてこれから先生をアシストする秘書です!」
「えっ、じゃあここあのタブレットの中なの!?」
「そうですね! やっと会うことができました〜……ここでケータ先生を私はず〜っと待っていました!」
「そうなんだ……でも寝てなかった……?」
「あ、あぅ……たまに居眠りしたこともありましたが……と、とりあえずよろしくお願いします!」
OSという言葉はウィスパーやヒキコウモリの影響もあって知っていたのだが、いざ聞いてみるとウィスパーと妖怪パッドが合体したような女の子なのかなの苦笑しながら考えるケータだったが、OSとは言えども久しぶりの同年代くらいの存在に少し肩の荷が降りた。
「ではまず、形式的ではありますが、生体認証を行います!」
「生体認証……?」
「す、少し恥ずかしいですが、こちらに来てください!」
そしてケータがアロナに近寄ると、アロナがスッと指を差し出す。
「さぁ、この私の指に先生の指を当ててください」
「あ、うん……」
「おぉっ……私と同じくらいの手の大きさ……! 先生は11歳なんですよね? 何かと苦労されてるんじゃないですか?」
「すっごい苦労したよ……ともだち妖怪がいなかったらどうなってたか……」
「その『ヨウカイ』というものについて私は詳しくないのですが、ゆ、幽霊的なアレですか!?」
「そんな感じだけど、怖くはないよ! 皆なんだかんだ優しいからね」
「先生はスゴイですね! 11歳の先生が呼ばれたのも、妖怪の影響があるのでしょうか?」
「そ、それはオレもよく分からないんだ……多分そうだとは思うんだけど、どうして急に……」
「──あっ! 確認終わりました!」
「……なるほど。ケータ先生の事情は大体分かりました!」
「連邦生徒会長が行方不明になって、その影響でサンクトゥムタワーを制御する手段がなくなった……ですが私も連邦生徒会長についてはほとんど知らないんです。キヴォトスについての情報は入っているのですが……何者なのかも、行方不明になった理由も」
「そっか……妖怪のことも知ってるのかな?」
「先生の事情を知っているなら十二分に有り得ますね!」
「ますます連邦生徒会長って人が謎だなぁ……」
「えっと、お役に立てず申し訳ありません……」
「あ、いいよいいよ大丈夫だから! キミもオレと同じで分からないことだらけだと思うし、仕方ないよ!」
「──ですが、サンクトゥムタワーの問題は私が何とかできそうです!」
「そのサンクトゥ、トゥムタワー?ってのは一体何なの?」
「連邦生徒会の本部でキヴォトスの中枢とも言える超!超〜重要な建物で──まぁめちゃくちゃすっごいところって感じです!」
「急に雑っ!」
とは言えケータも難しい言葉を羅列されるよりかはアロナの雑な説明の方が何かと分かりやすかった。ケータの反応に心なしか嬉しそうな笑みを見せたアロナは立ち上がると──
「それでは、サンクトゥムタワーのアクセス権を修復します!」
・・・・・・
「サンクトゥムタワーのadmin権限を取得完了……」
難しそうな作業だと思っていたが瞬きしたら終わっていたことにそんな簡単にできるものなんだと苦笑するケータ。
「ケータ先生! 制御権を無事に回収できました。今サンクトゥムタワーは私アロナの統制下──今のキヴォトスは先生の支配下にあるも同然です!」
「そんな一瞬でやっちゃっていいの!?」
「いいんです!」
「後は先生の承認さえあれば制御権を連邦生徒会に移管できますが、大丈夫ですか? 制御権を渡しても……」
「えっ、まぁオレが使えるとは思えないし、リンさん達も立て直せるんでしょ? なら大丈夫だよ!」
「分かりました。これよりサンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒に移管します!」
「それと、先生!」
「ど、どうしたの?」
「きっと色々苦労することもあると思いますが、ともだち妖怪の皆さんだけでなく、私もガンガン頼ってくださいね! ともだちとして!」
「……うん、分かった! 約束するよ!」
「はい! 楽しみにしてます!」
「それじゃあ、また!」
そのアロナの一言と同時に再び視界は暗転し、アロナが手を振っている姿を最後にシッテムの箱から一時去るケータだった。
「……あれ、電気点いてる……そっか、アロナが制御権を回復させたから……」
「──あっケータくん! どうしたんでウィスか固まっちゃって……」
「あっウィスパー! 二人とも来れなかったの?」
「ニャ? どこにニャ?」
「この中」
「……えっこんなのに入れるんでウィスか!?」
「……ま、まぁ後で説明するね……?」
アロナとの邂逅にウィスパーとジバニャンがいなかった理由が分からなかったが、後で説明すればいいかと考えるケータ達の元に、リンが再び姿を見せた。
「ケータ先生。サンクトゥムタワーの制御権の確保が確認できました。これからは連邦生徒会長がいた頃と同じように、行政管理を進められます」
「はぁ〜こんな短時間で凄いでウィスね」
「お疲れ様でした先生。キヴォトスの混乱を防いでくれたことに、連邦生徒会を代表して深く感謝します」
「い、いやいやオレは別に……」
「ケータきゅんここは『どういたしまして……』って先生らしく言うところでしょうが!」
「顔に似合ってないセリフニャンね」
「ンだとこのジバ野郎がぁぁ!!」
「あ、あはは……」
「ふふ、仲がよろしいのですね」
「いっつもあんな調子ですから……もう慣れちゃいましたよ」
「それと、攻撃した不良達についてはこれから追跡いたしますのでご心配なく」
「だ、大丈夫なんですか?」
「安心してください。巡航戦車はケータ先生が再起不能にしたお陰で後は小物だけですので」
「そ、そうですか……」
(こういうのも慣れっこなんだろうなぁ……)
「それと、もう一つ先生には紹介しなければならない場所がありますね」
「えっ?」
「先生には一度伝えましたね。『
そしてケータはリンに連れられて『空室 近々始業予定』という張り紙が貼られた部屋の前にやって来て、いざ部屋に入ってみると全体的にキレイな為いつもの雰囲気とのギャップに思わず感嘆の声を漏らす。
「広っ! オレの部屋の何倍の広さあるのコレ!? これをオレ達が使っていいんですか!?」
「はい。シャーレは特に目標がない組織ですが、学園の自治区などに自由に出入りできるので、この部屋でも外でも先生がやりたいことをやってもらって構いません」
「はぇ〜こんなのフツーなケータきゅんには似合わないでウィスね!」
「それはウィスパーもニャン」
三人のいつもの会話が始まるが、リンがケータに対して思っていたことをケータ達を見て言わなければならないと、意を決して打ち明ける。
「……ケータ先生」
「は、はい?」
「……ケータ先生はまだ11歳という子どもの身──そして妖怪達がいるとは言ってもまだ状況が飲み込めていないと思います。そしてこの銃社会……先生は常日頃から危険に晒されていると言っても過言ではありません」
「シャーレは事務仕事もありますし、先生はご自身が元いた場所には帰れない可能性があるかもしれません……それでも、先生──天野ケータさんはキヴォトスで先生として居続けることはできますか?」
リンの一言でケータは思い出す──ケータが住んでいたさくらニュータウンを。そして自分の家族──父親、母親。友達──クマ、カンチ、フミちゃん。キヴォトスに彼らは当然おらず、先生として働くのならば日帰りなんかではなく長時間滞在することになる。
──いや、リンの言う通り帰れなくなるのかもしれない。
「そっか……」
今彼らはどうしているのだらうか。心配してくれているのだろうか。帰って来ないことに腹を立てているだろうか──両親や友達の顔を思い浮かべると会いたいという気持ちで一杯になる。
帰りたくないと言えば嘘になる。毎日危険に晒されるのなんてケータにとってもデメリットの方が多いかもしれない。
──だが、ケータは約束したのだ。『ともだち』と。
『私もガンガン頼ってくださいね! ともだちとして!』
そして祖父──天野ケイゾウの言葉も同時に思い出した。
『世界はトモダチ!! ゼンブ守るぜ!!』
ケイゾウにとっては自らの夢を叶えて強い男になって悪を打ち倒すまで心の支えとなっていた言葉──『無敵王者ガッツ仮面』のセリフだ。
時代が違っても、初めは対立しても『おまえのお陰で一歩を踏み出せた』と感謝の言葉をケータに述べたケイゾウ──その経験を通してケータは、困っている人がいるのならば時代も場所も関係なく助けるべきだと学んだ──世界はトモダチだから。
呼ばれた理由も、帰れるのかもケータには分からないが──少なくとも連邦生徒会長に必要とされてケータはここに来たと思っている。あの夢がその証拠だ。
だから──
「……やっぱり銃がフツーの世界は怖いです。でも、だからこそあんな危ない事件がよく起きてるんですよね? それで困っている人もいると思いますし……」
「家族に会えないのは寂しいですけど、キヴォトスで色んな人とともだちになれるんだったら、オレももっと頑張ろうって思えます」
「困ってる人がいてオレがいたら解決できるなら、オレは先生として頑張ってみようと思います!……事務作業はちょっとアレですけど……」
「……先生は強いですね。連邦生徒会長がケータ先生を選んだ理由がよく分かったかもしれません……」
「事務作業に関しては私達もできるだけお手伝いしますので、どうか気負いすぎないようにしてください」
「あ、ありがとうございます!」
「改めて、天野ケータ先生。キヴォトスへようこそ。これからもよろしくお願いいたします」
何もかもがケータの世界とは違うキヴォトスで、天野ケータは先生として、一人の大人として生きていく。
運動も勉強もフツーなケータだが、一つ、妖怪とともだちになれる程優しい心の持ち主だ。
──過去も妖魔界も救ったケータは、キヴォトスで一体何を、誰を救うのか。
どんな困難があってもケータは乗り越えて行けるだろう。
ケータは一人じゃないから。いつもともだちが側にいるのだから──
ケイゾウもといガッツ仮面のセリフはすごい印象に残ってるんですよね。その後のケータきゅんにも影響してると思うんですよ。
ケータきゅんの家族周りは少し重たくなってしまいそうですね……キヴォトスに来ちゃってますから
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