プロローグで賢介の影が薄かった気がしますが気にしないで下さい。
目を開けられないほどに埋め尽くされた光が徐々に収まっていき、俺達はゆっくりと目を開いた。
周りを見渡すと、教室にいたクラスメイト達が訳が分からず困惑している。
どうやら俺達は巨大な広間にいるようだった。
すると、
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
そう言って煌びやかな衣装を纏った老人が進み出てくる。
何の宗教か分からないが、今言ったことが本当なら教皇様らしい。
そのまま自称教皇様の案内で別の大広間に移された俺達は、長大なテーブルの席に座らされた。
全員が着席すると、絶妙なタイミングでカートを押しながらメイド達が入ってきた。
何か不自然なほど美女、美少女が揃っている。
少し彼女らに見惚れてうっとりしていると。
「気をつけろ悠、もしかしたらハニートラップかもしれない」
と、賢介が小声で話しかけてきた。
「あぁ、わかった」
俺はその言葉を聞いて、賢介と同じように周囲を観察し始める。
周りの大部分の男子生徒が美女、美少女に釘付けになっている中、ハジメはやや警戒しているようだった。
ハジメはオタクのため異世界召喚系の小説もよく知っているのだろう。
だとしても困惑は隠しきれていないようだが。
ちなみに俺と賢介はデジタルワールドでの経験もあって周りと比べればあまり混乱していない。
全員に飲み物が行き渡るとイシュタルが話し始めた。
「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」
イシュタルの話からわかったことは。
この世界がトータスと呼ばれていること。
トータスには大きく分けて人間族、魔人族、亜人族の3つの種族がいて、人間族は北一帯を、魔人族は南一帯を支配していて、亜人族は東の樹海でひっそりと生きていること。
人間族と魔人族が何百年も戦争を続けていること。
魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差に人間族は数で対抗していたこと。
戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近、その拮抗が崩れ始めたこと。
魔人族が魔物を使役し始めたということ。
ちなみに、魔物とは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した怪物の事らしい。
今まで魔物を使役できる者はほとんど居らず、使役できてもせいぜい1、2匹程度だったこと。
人間の物量に対して魔族が魔物を使役することで、その量に対抗できるようになってきたため、質の高い魔族に苦戦を強いられていること。
「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〟です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という〝救い〟を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、〝エヒト様〟の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」
正直ここで俺と賢介は同じ事を思ったと思う。
((胡散臭いなこいつ))
俺達がそんな事を思っていると。
「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」
愛子先生が叫ぶ。
この先生は本当に教師の鑑とも言うべき人なのだが、その幼い容姿も相まって、生徒達か
ら『愛ちゃん先生』の名で親しまれる………というか、実年齢よりも低く見られている
上、一生懸命なのに空回ることも多い。
すると、
「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」
その言葉に愛子先生だけではなく周りの生徒達も凍り付いた。
「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」
「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉 するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」
「そ、そんな……」
愛子先生が脱力してストンと椅子に腰を落とす。
周りの生徒達も騒ぎ出した。
「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」
「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」
「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」
「なんで、なんで、なんで……」
まさにパニック状態というやつだ。
「おい賢介このままだとまずいんじゃ…」
俺がそう言いかけたとき、バンッとテーブルを叩く音が響いた。
その音にビクッとなり注目する生徒達。
テーブルを叩いた張本人、天之河は全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始めた。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもない んだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚さ れたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どう ですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」
「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがしま す」
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」
握り拳を作って宣言する天之河。
元々カリスマのある奴だから妙に説得力があるし、言ってることは立派だと思うが、そんな安易に決めちゃっていいのか?
しかし、その言葉は不安になっていた生徒達には希望と捉えられたらしい。
「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」
「龍太郎……」
「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」
「雫……」
「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」
「香織……」
いつものメンバーが賛同すると、それにつられたのか次々と生徒達に賛同の意見が広がっていく。
愛子先生が反対するも流れを止めるには至らず、結局は全員が戦争に参加する流れになった。
「どうする?賢介」
俺が賢介に相談すると。
「自称教皇様は怪しいし、こんな簡単に決めていいことなわけないが、今は表面上だけでも賛成ということにしておこう。」
その後、俺達は召喚された聖教教会本山のある【神山】の麓にある【ハインリヒ王国】に受け入れられる形となった。
それから王族との謁見があった。
国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒ。
王妃がルルアリア。
王子はランデル。
王女はリリアーナという。
最初に国王がイシュタルの手に口付けしていたので若干気持ち悪いと思ったのは秘密だ。
そう思った奴は多いだろうが。
どうやら王様よりも教皇の方が、立場が上らしい。
宗教国家とは面倒ごとが多そうだと俺は溜息を吐いた。
その後に、騎士団長や宰相等、高い地位にある者の紹介がされ、謁見は終了した。
翌日から訓練が始まった。
訓練の担当をするのは騎士団長のメルド・ロギンス。
まず、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。
「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれてい
る。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼の
ある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?
非常に気楽な喋り方をするメルド。
なんでも「これから戦友になろうってのにいつまでも他人行儀に話せるか!」とのこと。
「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」
「アーティファクト?」
生徒の1人が聞き慣れない言葉に質問をする。
「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具 のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」
ファンタジーによくある物だな。
生徒達も納得したのか、それぞれが針を指に刺し、血を垂らしていく。
俺達もそれに習って針に指を刺す。
すると、カードの表面に文字が浮かび上がった。
石神 悠 17歳 男 レベル:1
天職:魔法剣士
筋力:80
体力:80
耐性:80
敏捷:80
魔力:80
魔耐:80
技能:魔力操作・火属性適正・氷属性適性・雷属性適性・剣術・言語理解
本寺 賢介 17歳 男 レベル:1
天職:賢者
筋力:30
体力:80
耐性:70
敏捷:80
魔力:110
魔耐:110
技能:魔力操作・回復魔法・全属性適性・全属性耐性・言語理解
「賢介は賢者か、なんかぴったりだな」
「そういう悠も、魔法剣士ってぴったりじゃないか」
俺達がそう話していると、メルド団長がステータスの説明を始める。
「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」
つまりレベルが上がるからステータスが上がるわけじゃなくて、ステータスの上限値のどの位置にいるかがレベルで表されるという事か。
「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」
流石に経験値制ではないか。
「次に〝天職〟ってのがあるだろう? それは言うなれば〝才能〟だ。末尾にある〝技能〟と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」
俺と賢介のは流石に戦闘職だろう。
「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」
となると俺と賢介のステータスはこの世界では結構上澄みってことか。
周りの生徒は全体的に表情を輝かせてステータスプレートを見ていたが一人だけ微妙な表情をしていた。
ハジメだ。
すると、メルド団長がステータスを確認するよう呼びかけてくる。
早速天之河がステータスの報告をしに前へ出た。
そのステータスは……
天之河 光輝 17歳 男 レベル:1
天職:勇者
筋力:100
体力:100
耐性:100
敏捷:100
魔力:100
魔耐:100
技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・
高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解
とんでもねぇチート性能だった。
「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ!」
「いや~、あはは……」
団長の称賛に照れたように頭を掻く天之河。
ちなみに団長のレベルは62でステータス平均は300前後。
この世界でもトップレベルの強さらしい。
それから次々と生徒達がステータスを見せていくが、全員チートだった。
すると、ハジメの番になりハジメがステータスを見せると、今までホクホク顔だったメル
ド団長の顔が固まった。
それから見間違いか、というようにプレートをコツコツ叩いたり、光にかざしたりする。
そしてもの凄く微妙そうな表情でプレートをハジメに返した。
「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」
ハジメの天職を説明するメルド団長だが歯切れが悪い。
それを聞いたクラスメイトの檜山大介が、ニヤニヤとしながら声を張り上げる。
「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か? 鍛治職でどうやって戦うんだよ? メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」
「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」
「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」
檜山は一言で言えば小者臭がするいじめっ子だ。
序に白崎さんに惚れているので彼女が気に掛けているハジメを目の敵にしている。
実際は既に白崎さんはハジメのモノになってるんだがな。
「さぁ、やってみないと分からないかな」
「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボイ分ステータスは高いんだよなぁ~?」
ハジメはやれやれと溜息を吐きながら投げやり気味にステータスプレートを渡した。
「ぶっはははっ~、なんだこれ! 完全に一般人じゃねぇか!」
すると、檜山と良くつるむ男子達も笑い出した。
「ぎゃははは~、むしろ平均が10なんだから、場合によっちゃその辺の子供より弱いかもな~」
「ヒァハハハ~、無理無理! 直ぐ死ぬってコイツ! 肉壁にもならねぇよ!」
「こらー! 何を笑っているんですか! 仲間を笑うなんて先生許しませんよ! ええ、先生は絶対許しません! 早くプレートを南雲君に返しなさい!」
愛子先生が怒鳴る。
檜山達はへいへいと言わんばかりにプレートをハジメに返す。
愛子先生はハジメに向き直ると励はげますように肩を叩いた。
「南雲君、気にすることはありませんよ! 先生だって非戦系? とかいう天職ですし、ステータスだってほとんど平均です。南雲君は一人じゃありませんからね! ほらっ!」
愛子先生はハジメに自分のステータスを見せた
俺達もハジメの後ろからひょっこりと覗く。
そこには、
畑山 愛子 25歳 女 レベル:1
天職:作農師
筋力:5
体力:10
耐性:10
敏捷:5
魔力:100
魔耐:10
技能:土壌管理・土壌回復・範囲耕作・成長促進・品種改良・植物系鑑定・肥料生成・
混在育成・自動収穫・発酵操作・範囲温度調整・農場結界・豊穣天雨・言語理解
立派な食料チートを持つ愛子先生のステータスが映っていた。
ハジメは死んだ魚のような目をしている。
「あれっ、どうしたんですか! 南雲君!」
俺もやっちゃったな愛子先生、と首を振る。
「あらあら、愛ちゃんったら止め刺しちゃったわね……」
「ハ、ハジメ君! 大丈夫!?」
八重樫さんが苦笑し、白崎さんがハジメに駆け寄る。
いつも通り空回る愛子先生に皆がほっこりする中、俺達もメルド団長の前に進み出てステータスプレートを差し出した。
「最後は君たちか、どれどれ……」
メルド団長はそう言いながら俺達のステータスプレートを確認した。
すると、
「勇者ほどでもないが魔法剣士に賢者か、どちらともあまり見かけない強い天職だな。
しかも、賢介にいたっては魔力と魔耐で光輝を上回っているし、技能も強いものが揃っているな。」
「む、これはまさか……悠、賢介、実技訓練のときまず俺のところに来てくれるか?確かめたいことがある」
こうして、チートスキルを手に入れた俺達(ハジメを除く)は戦争のために訓練を行うのだった。
第1話読んでいただきありがとうございました。
今回の設定は、悠と賢介が魔力操作を持っていた理由についてです。
魔力操作は原作の方では魔物が持つ人間族にはない特性なのですが、悠と賢介が持っていた理由はデジタルワールドが少し関係します。
デジタルワールドで長い間旅をしていたため体の特性が少し変化していたのです。
それがトータスに召喚される際、魔力という力に体が適応し、行使するのに最適な状態になったからなのです。
メタ的なことを言うと原作の魔法の詠唱を覚えられないから、それっぽい理由をつけて書かないようにしているだけなんですけどね。