ハジメが奈落に落ちてから1週間たった。
とある場所で悠と賢介が話をしている。
「香織さんはまだ落ち込んでいるのか」
「しょうがないだろ、自分の恋人が奈落の底に落ちたんだぞ」
「雫さんのおかげで少しずつ回復していってるみたいだけどな」
「とりあえず今後俺達がどうするか考えないとな」
「話すことはあまりないだろ、俺達がやることはオルクス大迷宮を攻略してハジメを救い出すことだ」
「普通なら生きている見込みは無いというところだが、ハジメは錬成師だ〝錬成〟を駆使すれば生き残る可能性がある」
「とりあえず今は勇者パーティに混ざりながら攻略を急ぐとしよう」
それから2ヶ月ほどが過ぎた……。
「…………」
「…………」
悠と賢介の目からは生気が感じ取れなくなっていた。
それでも彼らは焦ったように攻略を進めていくハジメを助けるために。
強くなるための努力を怠らなかったおかげか、彼らは2人でベヒモスを倒せるレベルにまで成長していた。
今日の攻略が終了し宿に戻ろうとしたところメルド団長が彼らに話しかけた。
「悠、賢介お前らに伝えなければならないことがある」
「何ですか?」
悠が返答をすると
「お前達をこれ以上迷宮攻略に参加させることはできん」
「一体何故!?」
悠はそう言ったが周りからすれば彼らは無理をして迷宮攻略に参加しているのは火を見るより明らかであり、メルド団長もこれ以上無理をさせるわけにはいかないと思ったのだろう。
実際、悠と賢介は明確に休んだことはほとんどなく、いつ倒れてもおかしくない状態なのだ。
「俺達はまだやれます!!」
「いいやダメだ! 今のお前たちは見るに堪えない一度しっかりと休んだほうがいい」
「わかりました……」
「俺達は無理をしすぎたのかもしれないな」
賢介がそう言うとメルド団長は話を続けた。
「とは言ったもののお前らのことだこっそり迷宮に忍び込んで攻略を進めるかもしれん」
悠が図星をつかれたような表情をする。
「だからお前らには畑山愛子の護衛役としてウルの町に行ってもらう、しっかりと体を休めて護衛としての役目に励んでこい」
「わ、わかりました」
次の日、先にウルの町にいる愛子先生達を追いかけるように2人を乗せた馬車が出発した。
それから2ヶ月ほどは、農作業を手伝いながら町周辺の魔物を狩るような生活を続けていた。
「愛子先生! 植え方はこんな感じでいいですか?」
「いい感じですね、これが終わったら今日の作業はもう無いので、しっかりと体を休めてください」
『『はーい』』
ウルの町は平和そのものだ魔物もあまり現れず1日の大半は農作業をして終わる。
少し時間が過ぎて晩御飯の時間になった。
「ああ、相変わらず美味しいぃ~異世界に来てカレーが食べれるとは思わなかったよ」
「まぁ、見た目はシチューなんだけどな……いや、ホワイトカレーってあったけ?」
「いや、それよりも天丼だろ? このタレとか絶品だぞ? 日本負けてんじゃない?」
「それは、玉井君がちゃんとした天丼食べたことないからでしょ? ホカ弁の天丼と比べちゃだめだよ」
「いや、チャーハンモドキ一択で。これやめられないよ」
他のクラスメイトがそんな会話をしていると、愛子達が泊まっている宿〝水妖精の宿〟のオーナーであるフォス・セルオが話しかけてきた。
「皆様、本日のお食事はいかがですか?」
「今日もとてもおいしいですよ。毎日、癒されてます」
愛子が返事をすると、フォスが少し申し訳なさそうな表情をした。
「実は、大変申し訳ないのですが……香辛料を使った料理は今日限りとなります」
「えっ!? それって、もうこのニルシッシル(異世界版カレー)食べれないってことですか?」
カレーが大好物の園部優花がショックを受けたように問い返した。
「はい、申し訳ございません。何分、材料が切れまして……いつもならこのような事がないように在庫を確保しているのですが……ここ一ヶ月ほど北山脈が不穏ということで採取に行くものが激減しております。つい先日も、調査に来た高ランク冒険者の一行が行方不明となりまして、ますます採取に行く者がいなくなりました。当店にも次にいつ入荷するかわかりかねる状況なのです」
「あの……不穏っていうのは具体的には?」
「何でも魔物の群れを見たとか……北山脈は山を越えなければ比較的安全な場所です。山を一つ越えるごとに強力な魔物がいるようですが、わざわざ山を越えてまでこちらには来ません。ですが、何人かの者がいるはずのない山向こうの魔物の群れを見たのだとか」
「それは、心配ですね……」
「先生、これって清水の件と含めてなにかあるんじゃないですか?」
悠が言った清水の件というのは、2週間と少し前クラスメイトの1人である清水幸利が失踪したことだ。
愛子達は、八方手を尽くして清水を探したが、その行方はようとして知れなかった。町中に目撃情報はなく、近隣の町や村にも使いを出して目撃情報を求めたが、全て空振りだった。
「流石にそんなことはないと思いますけど……」
愛子はそんな返答をしたが、少し不安を感じているようだった。
フォスは、「食事中にする話ではありませんでしたね」と申し訳なさそうな表情をすると、場の雰囲気を盛り返すように明るい口調で話を続けた。
「しかし、その異変ももしかするともう直ぐ収まるかもしれませんよ」
「どういうことですか?」
「実は、今日のちょうど日の入り位に新規のお客様が宿泊にいらしたのですが、何でも先の冒険者方の捜索のため北山脈へ行かれるらしいのです。フューレンのギルド支部長様の指名依頼らしく、相当な実力者のようですね。もしかしたら、異変の原因も突き止めてくれるやもしれません」
〝金〟クラスの冒険者となればこの世界でも有数の実力者ということ、そんな人達ならばこの異変を解決してくれるだろう。
すると、階へ通じる階段の方から声が聞こえ始めた。男の声と少女二人の声だ。何やら少女の一人が男に文句を言っているらしい。それに反応したのはフォスだ。
「おや、噂をすれば。彼等ですよ。騎士様、彼等は明朝にはここを出るそうなので、もしお話になるのでしたら、今のうちがよろしいかと」
愛子達がどんな人なのだろうと思っていると、その男女の話し声がだんだん近づいてくる。
ちなみに愛子達のいる席は、三方を壁に囲まれた一番奥の席であり、店全体を見渡せる場所でもある。一応、カーテンを引くことで個室にすることもできる席だ。唯でさえ目立つ愛子達一行は、愛子が〝豊穣の女神〟と呼ばれるようになって更に目立つようになったため、食事の時はカーテンを閉めることが多い。今日も、例に漏れずカーテンは閉めてある。
そのカーテン越しに若い男女の騒がしめの会話の内容が聞こえてきた。
「もうっ、何度言えばわかるんですか。私を放置してユエさんと二人の世界を作るのは止めて下さいよぉ。ホント凄く虚しいんですよ、あれ。聞いてます? 〝ハジメ〟さん」
「聞いてる、聞いてる。見るのが嫌なら別室にしたらいいじゃねぇか」
「んまっ! 聞きました? ユエさん。〝ハジメ〟さんが冷たいこと言いますぅ」
「……〝ハジメ〟……メッ!」
「へいへい」
〝ハジメ〟その名前にクラスメイト全員が4ヶ月ほど前に奈落に落ちた男子生徒を想像する。
すると、悠と賢介が急に席を立ち上がりカーテンを勢いよく開けた。
「お前、ハジメなのか?」
賢介達の眼の前にはには、白髪に眼帯、黒コートの青年が立っていた。
「…………みんな?」
ハジメがそう声を出す。
その後は愛子からの怒涛の本人確認が行われた。
取り乱している愛子を金髪の少女が落ち着かせると、話を再開させた。
「すいません、取り乱しました。改めて、南雲君ですよね?」
今度は、静かな、しかし確信をもった声音で、真っ直ぐに視線を合わせながらハジメに問い直す愛子。そんな愛子を見て、ハジメは、どうせ確信を得ている以上誤魔化したところで何処までも追いかけて来るだろうと確信し、頭をガリガリと掻くと深い溜息と共に肯定した。
「ああ。久しぶりだな、先生」
「やっぱり、やっぱり南雲君なんですね……生きていたんですね……」
再び涙目になる愛子に、ハジメは特に感慨を抱いた様子もなく肩を竦めた。
「まぁな。色々あったが、何とか生き残ってるよ」
「よかった。本当によかったです」
それ以上言葉が出ない様子の愛子を一瞥すると、ハジメは近くのテーブルに歩み寄りそのまま座席についた。それを見て、ユエとシアも席に着く。シアは困惑しながらだったが。ハジメの突然の行動にキョトンとする愛子達。ハジメは、完全に調子を取り戻したようで、周囲の事など知らんとばかりに、生徒達の後ろに佇んで事の成り行きを見守っているフォスを手招きする。
「ええと、ハジメさん。いいんですか? お知り合いですよね? 多分ですけど……元の世界の……」
「別に関係ないだろ。流石にいきなり現れた時は驚いたが、まぁ、それだけだ。元々晩飯食いに来たんだし、さっさと注文しよう。マジで楽しみだったんだよ。知ってるか? ここカレー……じゃわからないか。ニルシッシルっていうスパイシーな飯があるんだってよ。想像した通りの味なら嬉しいんだが……」
「……なら、私もそれにする。ハジメの好きな味知りたい」
「あっ、そういうところでさり気ないアピールを……流石ユエさん。というわけで私もそれにします。店員さぁ~ん、注文お願いしまぁ~す」
最初は、愛子達をチラチラ見ながら、おずおずしていたシアも、ハジメがそう言うならいいかと意識を切り替えて、困った笑みで寄って来たフォスに注文を始めた。
「ハジメ、後で話すことはできないか?」
賢介が歩み寄り、ハジメに話しかける。
「チッ、まぁ飯食った後ならいいぜ」
あまり乗り気ではなさそうだったが、召喚前仲良くしていたからか多少なりとも話をしてくれるようだった。
「ありがとう、愛子先生すみませんが後で俺とハジメ、そして悠の3人で話をさせてもらいます」
「えぇ、いいですよ……」
愛子は自分も聞きたいことがまだあるはずだが、こういう返答を見ると(やっぱり先生だな)と賢介は思った。
ハジメ一行の夕食が終わり悠と賢介の部屋に3人が集まって話を始めた。
「まず、奈落に落ちてからここに来るまで何があったか言える範囲で答えてくれるか?」
ハジメは渋々了承して答えた。
奈落ではベヒモス以上に強い魔物に襲われ続け、生きるためにそれらを倒し食べた事。
ユエという金髪の少女とは攻略の途中封印されているところを助けた際についてくるようになったこと。
シアという兎人族の少女とはオルクス大迷宮攻略後、魔物に襲われていたところを助け、兎人族を助けてほしいと言われたそうだ。
兎人族の問題を解決したあと、ハジメたちはライセン大迷宮を攻略したらしい。
その後フューレンの町で依頼を受け、ウルの町にやってきたらしい。
「長々と話させて悪かったな」
「お前らになら全部話しても問題ないと思ったからだ」
ピピピピピピピピ
話が終わった瞬間、この世界では聞き慣れない電子音が部屋に響いた。
鳴っているのは悠と賢介の腕にあるデジヴァイス。
この世界に来てからも肌身離さず持ち歩いているようだった。
「わりぃ、ちょっと行ってくるわ!」
悠がそう言うと賢介と共に部屋を飛び出した。
彼らにはわかっていた。この反応がどこから来ているのか、誰から来ているのかが。
悠と賢介が着いた湖のほとりにはゲートが開いていた。
彼らがゲートの前に立った瞬間、4体の奇妙な生き物が飛び出してきた。
「「悠〜〜!」」
「「賢介〜〜!」」
彼らは2体ずつ悠と賢介に飛びついた。
だが2人共払いのけるようなことはしない。 なぜなら、彼らは自分の親友なのだから。
「アグモン、ガブモン」
「ブイモン、ワームモン」
「「おかえり」」
第4話読んでいただきありがとうございました。
再会の意味はハジメとデジモン達との再会ということだったわけです。
ということで、裏設定コーナーになります。
彼らがデジタルワールドで戦ったラスボス的なデジモンはアポカリモンです。
アポカリモンがデジタルワールドで暗躍、デジモン達だけでは対処できないと察した誰かが悠と賢介をデジタルワールドに連れて来たわけです。
ちなみに悠と賢介はその「誰か」と面識はしっかりとありますし、連れてこられたことで大変なことはありましたが恨んだりはしていません。
次回登場予定