綺羅星は煌めかない   作:夢と希望(ハンプトンズで休暇中!)

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第一章 魔法少女に歓声を
第一話 魔法少女は笑えない


 

 

 亀裂を走らせながら陥没したアスファルトの道路。

 途中で折れて道路を塞ぐように倒れた電柱。

 外側から強力な外圧によって押し潰されたように拉げた自動車の残骸。

 

 まるで砲撃が行われたあとの市街地のような光景だが、今その場には悲鳴もなければ怒号もなく、ただ静寂だけが満ちている。

 

 だが音がないだけで、そこで何も起こっていない訳ではない。

 街に広がる惨状の中、人の気配が途絶えたこの場において唯一静かに佇む一人の少女がいた。

 

 フリルをあしらったボリューム感のあるスカートを履き、先端には星の飾りが付いた指先から肘までと同じ長さのステッキを手に携える。

 まるで年頃の女児の「憧れ」を形にしたような衣装を身に纏う彼女は、戦いの跡が色濃く残るそこで「憧れ」とは程遠い陰鬱とした空気を纏いながら耳元の通信機に手を伸ばす。

 

 

「討伐完了」

 

『此方からも確認した。今のところ特筆すべき被害は報告されていない。政府との協定で定められた魔獣災害対応プロトコルに基づき、当該地域の管轄権は現時刻をもって自衛隊に移譲される。既に先方からは現場に到着したとの連絡を受けている。直ちに帰投するように』

 

「了解」

 

 

 淡々と、根気を振り絞るようにして報告を終えた彼女は、通信機越しのオペレーターの言葉を反芻するように最後の言葉を口の中で転がす。

 

 

「直ちに帰投するように」

 

 

「早く帰ってこい」「もう仕事は終わりだ。戻って休め」など、文字通りの解釈しかできない言葉を譫言のようにブツブツと呟く。

 まるで上手く飲み込めなかった食べ物を口の中に留めて咀嚼するように。

 

 何度も何度も何度も。

 

 

「直ちに、帰投、する、ように……直ちに、帰る……帰る。……帰ろう」

 

 

 自分に向けられた言葉を、言葉の羅列でなく意味ある文章として、たっぷりと5分ほどの時間をかけて理解した彼女は、遠くから響くサイレンの音が近付くのを感じながら軽く脚に力を入れ───そして飛んだ(・・・)

 

 

「ぐっ……!」

 

 

 あとは帰るだけとなってとなって緊張が解けたのか。

 肉体か精神か、はたまた両方か。いずれにせよ戦闘中(・・・)は努めて意識しないようにしていた疲労感が決壊したダムのようにどっと溢れて来るのを感じながら、彼女は空高く舞い上がり、そして帰るべき場所へとふらふらと不安定に揺れながら飛び去って行く。

 

 人は余裕を持つが故に他者を羨望し、憧憬し、嫉妬し、義憤に駆られ、悲哀を感じ、共感し、そして同情する。

 自身に特段差し迫った危機がなく、一度立ち止まって後ろや横を見れるからこそ、人は感情を表現し、周囲への関心を持つことが出来る。

 

 これは逆説的に、人は余裕がない時、一切の感情と周囲への関心を失うことを意味する。

 

 彼女の眼下では、帰るべき場所を失った人々が、周囲の助けを得ながら新たな門出を目指して、今度こそ人ひとり居なくなった都市に入り、復興に取り掛かる。

 しかし、一刻も早く失った寝床を建て直さんと必死に藻掻く群衆が彼女の視界に入ることはない。

 

 そしてよしんば入ったとしても、彼女がそれに心が動かされることはないだろう。

 それは彼女にとって、何ら珍しいことではなかったし、それについてどうこう考えられる程の余裕はないからだ。

 自分自身のことで既にキャパシティを超過していた彼女に彼らを気遣う贅沢なぞ出来る訳がなかった。

 

 

「はぁ……」

 

 

 ため息すら、もどかしい。

 少しでも疲労感を紛らわすために肺機能を総動員して行ったため息は、結局残り少ない体力と精神に更なる消耗を強いるだけだった。

 

 

 ───魔獣災害。

 

 

 それは『魔獣』と呼ばれる敵対生物(と思われるもの)を先ほどまで何もなかった虚空から生み出し、周囲の人間や建物に甚大な被害を負わせる災害。

 長き人類史の中で、とある国を除いて(・・・・・・・・)初の邂逅となったその災害は、2000年(ミレニアム)の到来と時期を合わせるようにして世界各地で発生するようになった。

 

 不定期、不規則、不透明、不確実、不連続。

 

 いつ発生するのか。何処で発生するのか。なにが発生するのか。どうやって発生するのか。そもそもどうして発生するのか。

 それらの問いが齎され、そして世界中のどの研究者も匙を投げた───それより前。

 

 新たな世紀の夜明けを祝うために集まった多くの人で賑わう渋谷のスクランブル交差点が、タイムズスクエアが、天安門が、トラファルガーが、ナヴォーナが、ムルデカが───そして、恐らくはモスクワ(ソ連)の赤の広場も。

 そこで一斉に発生し、その場を血の池とした魔獣災害とその産物たる魔獣は、人類の危機として新年早々に世界中を恐怖のどん底へと陥れた。

 

 のちに『ノアの捲来』と呼ばれる世界的同時多発型大規模魔獣災害は、新たな時代を迎えようと前を向いていた人類に昏い影を落とした。

 だが影があるところに光あり。世界が悲鳴と恐怖に包まれる中、彼らを傷付けんとする魔獣を一筋の光と共に斬り伏せる者が現れた。

 

 空を駆け、可愛らしい衣装をその躰に纏い、強力で無慈悲で、そして神秘的な『魔法』で以って闇を打ち払い、怯える人々に安寧と光を齎す存在。

 

 魔獣による被害から救われた人々からは畏敬を。

 国を統べる者たちからは畏怖を。

 

 見つめられる瞳にどのような感情が籠っているにしろ、己の身を顧みずに果敢に魔獣へと戦いを挑む者たちを世界はこう呼んだ。

 

 

 ───魔法少女、と。

 

 

 それは、血塗られた絶望と恐怖と渇望によって「至った」存在。

 多くの者を救える力を持ちながら、自身は全く救われることのない少女たち。

 うら若き10代の少女のみが「成る」ことを許され、汎ゆる喪失の末にその小さな手に手繰り寄せた勲章。

 

 持たざる者からは憧憬と嫉妬と憎悪と恐怖を。

 持つ者からは執着と諦観と軽蔑を。

 

 さあ少女たちよ、そなたらが力を望むというなら世界はそれを授けん。

 闇より深き闇に身を置くからこそ、その力は見る者の目を焼き尽くさんばかりの眩さを放つだろう。

 門戸は誰にも開かれている。扉を叩く権利は誰もが持ち合わせているのだ。

 

 だが忘れるべからず。

 

 あるのはただ「権利」のみ。

「成る」ことを“許された”というのは、「成る」ことが“出来る”と同意ではない。

 自ら動かない者が機会を掴むことはできない。

 自ら動く者にこそ、その黄金の果実を食す機会は生まれるのだ。

 

 例え、それが動かざるを得なかったが故の結果であれ。

 動いたという「結果」は変わらないのだから。

 

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 

 ───公益財団法人魔法少女協会。通称、『魔法少女協会』。

 

 

 今や世界に名だたる列強国である日本の首都、東京の一等地に本拠を構える法人組織。

 法規制に引っ掛からない限界まで高さを伸ばした巨大なビルは、政府主導で2013年(・・・・・)に建設された東京スカイツリーと遜色無い威容を誇っている。

 

 そのビル───俗に言う「協会本部」のエントランス。窓のない吹き抜け構造の巨大な空間は、白い壁や床の各所に光のラインが走り、所々に置かれた白いベンチと緑の観葉植物、そして透明なガラスの塀で仕切られ、澄んだ水が静かに流れる水路は、清潔感と未来感を両立した景観を有している。

 その場にいる者たちに可能な限りの心理的な安らぎを与えることを目的として設計された其処は、一切の糸目を付けずに行われた資金投入により、常に利用者にとって快適な環境と視覚的な平穏を提供している。

 

 この建造物は巨大だ。

 内部にはエントランスを中心に会議室、訓練場、病院などの医療施設、居住区や食堂、レストラン───果てにはプールや映画館、ゲームセンターといった娯楽施設から、外部から召集した教職による講義を受けられる教育施設まで。

 

 一つの建物に機能を集約させた複合施設───もはや「小さな街」と形容すべきこのビルは、多くの魔法少女にとって唯一の「帰るべき場所」であり、そして「終の棲家」の意味を持つ。

 魔法少女協会では、利用者の「会話」という行為によって生じるストレスを極限まで減らすため、施設内の可能な限りの無人化と人間の排除を行っている。

 

 共有スペースの清掃、飲食サービスの提供、外部から搬入された物資の補充や対象者の居室への輸送、エトセトラエトセトラ……。

 

 魔法少女以外の許可を得ていない人間による施設への侵入は、幾重にも張り巡らされたセキュリティと魔法少女協会のためだけに施行された法による規制、不自然なまでに多い警察の派出所と大都市の中心でありながら無理矢理確保された土地に建てられた自衛隊の駐屯所によって事前に防がれている。

 

 

 そうでありながら、或いはそうであるが故に、疎らに見える人影を除いて一切の生命が存在しない空間。

 耳を澄ませば辛うじて聞こえる息遣いと水路を流れる水の音に包まれた静寂が支配する空間。

 

 その入り口付近に置かれた受付カウンターに気怠げな声が小さく響く。

 

 

「協会登録番号、No.1313。魔法少女『イサニ』」

 

 

 その神聖にして不可侵の領域で、イサニを名乗る少女は、今日初めて面と向かった会話をしていた。

 

 ……受付ロボット相手に。

 

 

『ナンバー、イチ、サン、イチ、サン。……認証ヲ完了シマシタ。イサニ様、アナタノ無事ノ帰還ヲ、心ヨリ歓迎シマス』

 

「……ああ」

 

『今年ハ、今回デ、20回目、ノ、単独出撃デス。総出撃デハ、35回目ニ、ナリマス』

 

「……ああ」

 

 

 ロボットの奏でる流暢とはとても言い難い中性的な合成音声と蚊の鳴くようなイサニの言葉のキャッチボールは、一般的に想像される会話とは程遠いものであったが、彼女はそれを会話だと認識していたし、ロボットはエントランスが静寂に包まれていることもあって、イサニの声を正確に認識していた。

 

 

「……もういい?」

 

『オ待チ、クダサイ。……検索中。……イサニ様、ニ、一件ノ着信ガアリマス』

 

「表示」

 

『畏マリマシタ』

 

 

 ロボットは淡々と下された命令に従い、カウンター上にホログラムを展開する。

 ヴンという静かなハミングと共に、カウンターに零れた光の粒が糸を引くように編み上げられ、透き通る画面を形作った。

 

 画面にはユーザーインタフェースの起動を知らせる「黄金蜂重工」と書かれたメーカーの文字と上を向く金色の蜂をモチーフにしたロゴマークが、空中に投影された画面上にひとりでに踊り出す。

 切り替わり現れたログイン画面に慣れた手つきで情報を打ち込んだイサニは、次いで表示されたメッセージアプリに素早く目を通す。

 

 件名はなし。この時点で緊急性はない。機密性を高めるために何も書かれてないことがあるが、自分のような下っ端魔法少女相手にそれはないだろう。つまり、慌てる必要はない。

 

 宛先は勿論、自分。

 差出人は───

 

 

「よっ」

 

「…………ッ!」

 

 

 気の抜けるような声と共に突如背後から感じた人の気配に、イサニは反射的に手に持っていたステッキを振り返りながら構える。

 

 

「…………?」

 

 

 振り返ると、其処には一人の少女が立っていた。幼稚園児がクレヨンで書く夜空のような紺色の上下のパジャマを身に纏い、いくつかの黄色い星をあしらった同じく紺色のナイトキャップを被っている。

 無表情で眠たげな顔、何も映さない印象を受ける目、ぼーっとした雰囲気。その者に何かを為そうとする強い意志は感じられず、あるのは起伏のない空虚な感情だけ。ステッキを向けられたことを疑問に思ったのか、こてんと首を傾げている。

 

 その全ての情報が、如何に彼女の非力を周囲に示しているが、それでもイサニが警戒を緩めることはない。

 常に一瞬の判断の間違いが命取りとなる魔獣との戦闘の場に身を置き続けたイサニにとって、いくら疲労しているとはいえ、すぐ傍にまで接近を許したことは、その下手人を警戒するに足る理由となっていた。

 

 ステッキを構えたまま感覚を研ぎ澄ます。

 周囲は相変わらず水の流れる僅かな音と先ほどまで会話していた受付ロボットの静かな駆動音が流れるのみ。緊急時には警報を鳴らすアラートも、入り口に立つ屈強な警備員の駆け付ける音も、このビルの真向かいにある駐屯地から飛び出す戦車の地鳴りもない。

 とすると、目の前の少女は協会本部へ入ることを許された存在。つまり魔法少女ということになる。

 

 ……と、ここまで考えたイサニは漸くステッキを下ろす。この欺瞞に溢れた世界において魔法少女という同僚の存在は、ほぼ唯一と言っていい信用できる味方だ。

 気配を察知できなかったのは偶々だろう。それに人知を超えた力を使う魔法少女であるなら相手に気取られずに近付くことも容易い筈だ。きっと彼女もその手合いに違いない。

 

 そう元々粉々の自信がこれ以上傷付かないように己を慰め、そして態々この閑散とした場で自分に声をかけてきた人物について推測する。

 

 全身で無気力を垂れ流し、その瞳に宿るは諦観と虚無、そしてその心の内に何を考えているのか分からない無表情。

 何処にでもいる、一般的な魔法少女。

 世界で最も魔法少女の滞在人数が多いこのビルだとその密度は さらに増えることだろう。

 

 暇潰しか、或いは受付に唯一いる自分に対する好奇心故か。いずれにせよ迷惑なことだ。他者と会話することを面倒に感じたイサニは彼女を乱雑に追い払おうとして───はた、と手を止めた。

 自分はこの人物をよく知っている。

 

 

「お久し振りですね───ねぼすけ先輩」

 

 

 自分から話しかけたのに返事をされるとは思ってもいなかったのか、ゆっくりとまばたきを返す己の先輩に、イサニはゆるりと微笑んだ。

 

 

「うん、久し振り。覚えててくれたんだ」

 

「ええ、先輩の格好はなんというか……独特、いや、独創的なので」

 

 

 魔法少女が一般的な存在となって幾星霜。イサニ自身、魔法少女協会の保護と支援を受ける魔法少女の一人として、日本にいる多くの魔法少女と接したことがある。

 

 魔法少女のコスチュームとは、それ即ち心象世界の具現化。

 その心に秘めたる思いを汲み上げ、データとして参照することで「変身」し、その力を身に宿すことができる。

 人の心は千差万別。似ていることはあってもそれは決して同じではないし、全く別の方向を向いていても一周回って同じ思いに至ることもある。つまり魔法少女には、その数だけ個別の衣装があるということだ。

 

 ただその中であって先輩───ねぼすけ先輩の愛称で呼ばれる魔法少女は、とりわけ特徴的なデザインの衣装を纏っている。

 夜空のようなゆったりした服とナイトキャップ。まるで今にも寝ますと言わんばかりの装い。

 

 協会登録番号、No.1234。魔法少女『ストレート(連番数字)』。

 またの名を『銀漢を仰ぐ眠り姫』。

 

 そして、真に親しい者には「ねぼすけ姫」と。

 イサニは自身(イサニ)の名付け親として、また魔法少女になったばかりの頃、右も左も分からない彼女の面倒を見てくれた保護者としての敬意を込めて「ねぼすけ先輩」と呼ぶ。

 

 

「そう……独創的、ね。……そんなことより、さ。イサニ。君の活躍は聞いてるよ。なんでも主要都市のど真ん中に出現した大型魔獣を瞬殺したんだって? すごいね。流石はイサニ」

 

 

『君の名前はイサニ。“イ”チと“サ”ンが“2”個並んでるからイサニ。魔法少女になる前の名前なんて滅多に使わないんだから、これからはそう名乗るように癖付けときなよ?』

 

 かつての日々がイサニの脳裏に浮かぶ。

 魔法少女になる前の無力な弱虫から、自分で羽ばたくことができる蝶へと導いてくれた人生の先輩。

 

 

「そんな、褒めないでくださいよ先輩。先輩こそ噂で聞きましたよ。都市に侵攻した魔獣の群れをたった一人で消滅させたらしいじゃないですか。おまけに被害らしい被害と言えば都市間道路の損壊だけ。先輩のお陰で都市に住む人々の命が救われたんですよ」

 

「そうかな……でもあの時は森がグチャグチャになっちゃったし、元に戻るには時間がかかるらしいよ」

 

「そんなのどうだっていいじゃないですか。人的損害以外は無いも同然って協会の作戦指導要領にも書いてあるでしょう? 誰も死んでないならチャラなんですよ。それより先輩。その時の話、後学のためにも聞かせてもらえませんか?」

 

「うん、いいよ。イサニだったら何か成長の糧にできるだろうしね。ここで立ち話もなんだし、一緒にカフェテリアにでも行く?」

 

「はい、喜んで」

 

 

 己の疲労に気付いた先輩は、きっとイサニの体調を心配して部屋に戻るよう促すだろう。

 

 だがそれは嫌だ。それだけは嫌だ。

 いくら疲れていようと、先輩との時間が減るのは───。

 

 

「どうしたの?」

 

「…………ッ! い、いえ! 何でもないです」

 

「そう? しんどいなら無理せずに休んで───」

 

「いや大丈夫です! 最近忙しいのは事実ですけど、先輩に鍛えられた私には大した問題じゃありませんよ!」

 

 

 突然立ち止まったイサニの顔を覗き込んだストレートになんとか誤魔化した彼女は、前を歩く先輩を見ながら、ほっと息をつく。

 

 どうか先輩には気付かれませんように。

 そう心の底から願うイサニは、魔法少女として鍛え上げた全てを動員して胸の奥に鉛のように沈む疲労を覆い隠すことに尽力する。

 必死に己の身体に鞭を打ち、健気に振る舞うイサニ。

 なにが彼女をそこまでさせるのか、それは誰にも分からない。彼女自身でさえ。

 

 だが、もしここに全てを知ることができる存在がいたなら、ソレはイサニをこう評することだろう。

 

 

 ───自身の飢えを満たすために必死で親に縋り付く雛鳥。本来なら与えられて然るべき親の愛情を受け取ることが二度とできなくなったが故の、貪欲なまでの執着行動。そして交流を経て、「愛情()」の供給源となったストレートの時間に、記憶に、心に、少しでも「イサニ」を刻み込まんとする独占欲。醜くも、悲劇に満ちた依存心。

 総じて、可哀想な、それでいてこの世界では余りにもありふれた少女。

 

 

 よく魔法少女の「変身」は、「二度目の孵化」と表現されることがある。

 母胎から産み落とされる時で一度目。

 そして魔法少女に「至る」時で二度目だ。

 

 魔法少女として変身することで「人としての殻」を破り、その身に超常の力を宿した存在としてこの世界に「孵化」する。

 まさに卵から孵った雛。ともすれば、魔法少女として「孵化」したイサニが、最初に目にしたストレートを「親」として認識するのも無理からぬことだろう。

 

 久方ぶりに再会した親鳥(ストレート)に、まるでアヒルの子のように後を追うイサニ。

 

 だが彼女は気付いていない。

 誰かに心配してもらえることがどれほど愛情に満ちたものであるかを。

 そしてこれからもきっと、歪みきった彼女がそのことに気付くことはないだろう。

 

 よくある悲劇、よくある歪み、よくある魔法少女。

 

 これでまだ恵まれている方だと言うのだから、きっとこの世界は間違っているのだろう。

 

 魔法少女は、真に笑わない。

 

 





【魔法少女】
数多の絶望と屍を乗り越え、自らの力でチャンスを掴んだ者。
尤も、超常の神秘を得られたところで、守りたいと思った相手はもう物言わぬ躯に成り果てているが。

【魔法少女協会】
魔法少女に対する扱いが「人道的」であることで有名な日本に存在する法人組織、民間防衛組織。
魔法少女自身による自治組織という体裁を取っており、魔法少女の権利擁護、生活支援、社会参加の促進を担い、政府や警察、自衛隊とも密接に連携している。

【魔法少女協会の理念】
「力なき誰かのために」。
自分たちのような悲劇を繰り返さないために彼女らは今日も祖国の空を駆け回る。だが協会の門戸を叩く魔法少女は減ることがなく、むしろ増す一方である。
それでも彼女らは諦めない。今を乗り越えた先に、よりよい未来があると信じて。

【彼女らの理念】
力なき誰か(自分たち)のために」。
それがただの自己満足に過ぎないと、誰が指摘できようか。
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