綺羅星は煌めかない 作:夢と希望(ハンプトンズで休暇中!)
「…………」
ガチャッ、パタンと。
待ち人のいない空間に扉の開閉音が響く。
「…………」
ドン、ドン。
先ほどまで静謐に満ちた空間で雑音を引き起こす張本人であるイサニ。
誰も咎めないところを見るにこの空間の主は彼女のようだ。
空間は奥へと足を進めるイサニを向かい入れ、彼女の指示を聞き逃さぬようにと耳を欹てる。
「…………」
パチッ。
───次の刹那
『───国は本日未明に発生した軍事クーデターにより首都を中心に大規模な混乱が生じていましたが、先ほどインターネットを通じて今回の事態に対する声明が公開されました。えー、これによりますと、既にクーデター軍は首都の掌握、及び前政権中核メンバーの捕縛を完了しており、またクーデター軍以外の正規軍もこれに同調───』
『───暫定政権は前政権に比べて
『───さて、この会見で報道官が発言した「太平洋圏合同任務部隊」とは一体どのような存在なのでしょうか。そんな皆様の疑問を解決するため、本日は軍事史研究家の◯◯さんにスタジオにお越しいただきました。では◯◯さん、本日は宜しくお願いしま───』
一斉に
頭上からはライトがその下に無条件の煌めきを押し付け、それは指揮者たるイサニも例外ではない。
「ふぅ……」
協会本部、其処に用意された居室。
同じ扉が並ぶ廊下の中、己に割り当てられたその一つにて、イサニはベッドへと倒れ込みながら深く息を吐く。
職人たちの緻密な加工技術と現代科学が齎す最新の理論や素材がふんだんに織り成され、世へと送られた超高級ベッドは、ダイブの衝撃を完全に吸収し、彼女を優しく包み込む。
そうして暫く枕に顔を埋め唸っていた彼女だったが、一向に疲れが取れないことに気付くと、体の向きを変え、仰向けとなる。
ゾワリと肌をなぞる悪寒。
“いつも”感じるこの感覚。部屋に入り、彼女が気を抜くと特にそうだ。
頭から足先まで。
魔法少女として
イサニの内面を除いた全てを一つも余すことなく掠め取るように「見られる」のだ。
「はぁ……」
天井を向いたイサニは目に映るもの全てを疑い深く探るように視線を彷徨わせる。
壁に投影されたニュース映像に映るニュースキャスター───違う。コイツラはただカメラを見ていただけ。その向こうに偶然
トイレや風呂場の暗闇───違う。開けっ放しになっていた扉からはポッカリと写真を切り抜いたような黒い闇が広がっているだけだ。イサニの魔法少女としての優れた五感───その気になれば10メートル先の内緒話を聞き取れる───は、そこには少なくとも人が知覚できる類いの存在はいないことを示している。
そして最後に天井の一角に目を向ける───いつものように。
天井から下がるは、一つのカメラ。
白い天井と同色の機械からは無機質な黒黒としたモノアイが部屋全体を睥睨している。
それはコンビニやスーパーなどでよく見られる防犯カメラと同じものであったが、しかしこの部屋にあるそれは防犯とは別の目的で使われている。
それ即ち、監視。部屋の居住者たる魔法少女の監視。
だがそれは抑圧のための監視ではなく、寧ろ彼女らを守るための善意の監視だ。
魔法少女は強い。
それは誰もが認める事実だ。
現代兵器で武装した正規軍が大隊単位、時には師団単位で投入されることでやっと討伐できる魔獣にたった一人で対抗できる存在が弱い筈がない。
───だが。
「馬鹿ですね」
ボソリ、と。
呆れたような、落胆したような。
思わず、といった様子でイサニは掠れたような声を溢す。
ポチャンと唐突に投入された材料によって、心の奥でぐつぐつと煮詰めた
今回の材料は「監視カメラ」であった。
「何を心配しているのでしょうね。私が───自殺なんてするわけないのに」
自殺。
自らの手で命を絶つことを意味するその死因は、魔法少女にとって最も多い死因である。
魔法少女は弱い。
それは
世間が認めなくとも、世間が知らなくとも。
魔法少女は弱い───心が。
例えその身は如何なる攻撃への耐性を有しようとも、その中身まで耐性がある訳ではない。
銃弾を防ぐ防弾ベストとて、防ぐのは銃弾による直接的な外傷であって、その後の衝撃による内臓へのダメージを消すことはできないのだ。防ぐのは
「
ハードの「魔法少女の肉体」は頑丈だが、ソフトの「本人の心」まではそうとは限らない。
どれだけ長時間動き続け、並みの小銃弾では傷ひとつ付けられないほど強靭な肉体を持っていても、また「変身後」の姿が老いを知らず、
それは中身の、謂わば「魂」と呼ばれる部分の耐久性を保証するものではない。
彼女ら魔法少女の精神───
疲れ知らずの体を頼り、戦い続けることを強要され、また己に課し続ければどうなるか。
「人」とは精密機械のようなものだ。
肉体を形作る骨格があり、内臓があり、それらを駆動させる筋肉があり、それらを制御する脳と神経系がある。
それらハードに加えて、ソフトに当たる所謂精神、乃至人格や自我と呼ばれるものは、目には見えなくとも「人」が「人」の形を成すための大切な要素のうちの半分だ。
そしてそれは「人」の派生でしかない「魔法少女」も例外ではない。
動き続ければ、「魔法少女」はいつか壊れる。「人」と同じように。
つまり───魔法少女は死ぬ。
他でもない、己自身に殺される。
「まあいいか」
世の中の全てに疲れ切ったように。
もはや面倒臭さまでを含んだ声で現状を受け入れる。
『…………』
その全てを監視カメラは収め続けている。
ただ静かに。永遠と。
監視カメラは、イサニが「ねぼすけ先輩」と呼ぶ一人の魔法少女のように声を掛けてくることはない。
だが、今の彼女にとって誰にも気にされないというのは有難いことだった。心地の良いことだった。
「見られている」ということを加味したとしても。
「……でも───」
ピーピーピーッ!
続けて口を開いたイサニをアラート音が遮る。
魔獣が現れた時に発せられる警報だ。
プライベート空間でのストレスフリーを目指す魔法少女協会では、別に警報を切っていても咎められることは無いのだが、イサニはそれをしていなかった。
『この放送をお聞きの方に通達します。2分前、近畿地区で魔獣災害が発生。観測所から収集されたデータによると、発生場所は都市の中心部、数棟の建造物の倒壊、及び多数の死傷者が確認されています。AIによる推定では「個体性低脅威度魔獣災害」とのこと。対応に向かわれる方は至急、ロビーに集合して下さい』
部屋に備えられたスピーカーから幼い少女の声───オペレーターの声が聞こえる。若干舌っ足らずな声の彼女もまた、魔法少女の一人である。
魔法少女協会では、魔法少女の在り方に関する規定は、たったひとつのみ存在する。
永遠と怠惰に過ごそうが、アイドルとして活動しようが、「魔法少女らしい」仕事───魔獣災害への対処、乃至救助活動を行おうが。
───それを決めるのは魔法少女本人の役目だ。
それを支え、全力で背中を押し、汎ゆる障害を予め排除するのが魔法少女協会の役割である。
「ホムサポ」
ホムサポ。正式名称「
経済混乱が続くアメリカで日本の新興財閥、黄金蜂財閥に合併されたIT系企業発の製品。
AI音声アシスタントを搭載し、話しかけるだけで音楽再生、ニュース・天気予報の取得、スマートホーム機器の操作、タイマー設定などができる無線スピーカー───俗に言うスマートスピーカーと呼ばれるものだ。
『どうかされましたか』
女性的な合成音声がイサニに応える。
主である彼女の声を聞き取りやすくするためか、他の機器から流れていたニュースはミュートになり、ベッドに横たわるイサニの衣擦れのみが部屋で聞こえる唯一の音となる。
「フロントに連絡して」
『分かりました。どのような内容でしょうか』
「私が出ます、と送って」
『はい』
再び音が流れ出したニュースを横目にイサニは立ち上がる。
自分が行かなくては。何かに急かされるようにイサニは扉へと向かう。
分かっている。己がどれだけ恵まれているのかぐらいは。
『日本』という国は、魔法少女たちにとって世界で類を見ないほど生きやすい国である。
潤沢な支援と福祉を基とした魔法少女に対する政策の数々は、この国が世界で最も多い魔法少女を「保有する」国として諸外国に優位に立つことを可能にした。
「魔法少女は現代国家の礎であり、故に魔法少女は他の何よりも優先され、優遇される。よって、国税を彼女らのために使用することは当然のことである」
当時そう選挙の場で公言した政治家───今の政権の
世論は「当然だ」と唱え、彼女らが守る力を持ちながら守られる立場にいることを許した。
魔法少女協会は膨大な資金力を元に、魔法少女を第一に添えた方針を採り続けた。
そして魔法少女は───恐れた。
己がこの環境に身を置き続けることを、ぬるま湯に沈められるような感覚を、何処に行っても笑顔を向けられ、好感を向けられることを。
彼女らは知っているのだ。
自分たちの同族が、海の向こうではどのように扱われているかということを。
街を歩けば石を投げられ、人を助ければ罵声を浴びせられ、信じる神には否定され、人としては最低も最低の扱いを受けていることを。
故に恐れる。
この生活は何時まで続くのか、と。
彼らは何時まで笑顔を向けてくれるのか、と。
自分以外の全ては一体何を己に期待しているのか、と。
己はソレに応えれているのか、と。
もし期待に応えられなくなればどうなるのか、と。
疑問は尽きない。
それに対するアンサーはない。
誰も聞かなければ、誰も答えることがない。
一見平穏な世界で、魔法少女は足掻き続ける。
今日と変わらない明日を見るため。
昨日と同じ今日を見るため。
魔法少女協会は選択肢を与えた。
選択は常に「自発的」だ。
真綿で締め付けられるような感覚に襲われながら、それを享受するも良し。
いつか来るかも知れないし、或いは永遠に来ないかも知れない「終わり」に怯えて逃げるのも良し。
「期待に応えられているはずだ」と自分の心に言い聞かせながら己に役割を課すのも良し。
選択は常に「自発的」だ。
イサニは前進を選んだ。それだけだ。
だが彼女らは常に意識しなければならない。
それらの選択肢は、本質的には同一のものであるということを。
ただ「現実逃避」の一言で済むものであるということだ。
36:睡☆魔
ね、可愛いでしょ? ……ね?(極圧)
37:名無しの輩
「ね?」じゃねぇよ。やってることやばスンギ
38:名無しの輩
後輩の盗撮とか……これが魔法少女のやることですか……
39:名無しの輩
イサニちゃん可愛いグヘヘヘ
40:名無しの輩
てかその法具、気を付けて扱えよ
壊れやすいうえに「視線」を消し切ることは出来ないんだからな
41:名無しの輩
でもこの子、こっちに気付くくらい勘がいいのに監視カメラだと勘違いしてたよね
42:名無しの輩
何もない空間、だけど感じる視線……
ひらめいた
43:名無しの輩
通報した
44:名無しの輩
隣りにいた
45:名無しの輩
共犯になった
46:名無しの輩
捕まった
47:名無しの輩
判決、死刑
48:名無しの輩
脱獄した
49:名無しの輩
自首した
50:名無しの輩
アホばっか
51:名無しの輩
大学の講義受けながら見る盗撮生配信サイコ~
え? 「ニヤけ面がキモい」って? ……そんなに言わんでもええやんか
52:睡☆魔
あっ、あの子魔獣討伐に行くっぽい
ボクも行ってくるわ〜
53:名無しの輩
行ってら〜
54:名無しの輩
いってらっしゃい
55:名無しの輩
56:名無しの輩
57:名無しの輩
58:名無しの輩
59:名無しの輩
………いったか?
60:名無しの輩
行ったっぽい
61:名無しの輩
ホンマに変わったよな〜、アイツも
62:名無しの輩
一時期大変だったからなぁ……
63:名無しの輩
まあ前に比べたら全然こっちのほうがいいよ
64:名無しの輩
明るいし
65:名無しの輩
毎日楽しそうだし
66:名無しの輩
後輩盗撮してるけどな
67:名無しの輩
それをワイらに生配信してるけどな
68:名無しの輩
草
69:名無しの輩
あの子が笑顔でいてくれるだけで嬉しいわ。数少ない同胞がたかが魔獣如きに自殺まで追い込まれるのは、ツライっていうかなんというか……恐怖?
70:名無しの輩
わかる。「こいつがそうなったなら、自分もいつか……」って考えてしまうわ
71:名無しの輩
それが今では世間で話題沸騰中のエリート魔法少女
72:名無しの輩
ぽわぽわした表情も「冷静に魔獣を見据える顔」ってドアップで朝のニュースに流れてたしwww
73:名無しの輩
あれは笑ったわ
74:名無しの輩
実際アイツって魔法少女なん?
75:名無しの輩
どうやらそうらしい。魔法少女化する条件は十分満たしてる
76:名無しの輩
ほーー、魔法少女って不老なんか。肉体も頑丈やし変身できたら便利そうやな
77:名無しの輩
なお前提条件()
78:名無しの輩
これ満たすのは結構キツいんよな……
79:名無しの輩
ていうか、なれたとしても───あれ?
80:名無しの輩
どうした?
81:名無しの輩
どしたん話聞こか
82:名無しの輩
ヤリ◯ン乙ww
83:名無しの輩
いや2ちゃんねる見てたんやけど……
84:名無しの輩
それどっち? 掲示板? 国営放送?
85:名無しの輩
86:名無しの輩
アイツ?
87:名無しの輩
ほらアイツだよアイツ。えーっと……>>36の彼氏が住んでるところ
88:名無しの輩
あーーーーーーッ!!!!
89:名無しの輩
ほんまや!?
90:名無しの輩
彼氏なんていたの?!
91:名無しの輩
いるよ
92:名無しの輩
知らんかったんか
93:名無しの輩
おう、全然知らんかった
94:名無しの輩
お前らの中では有名なん?
95:名無しの輩
そうやで、ヤンデレ魔法少女に付き纏われる我らが主人公くん
96:名無しの輩
ヤンデレ魔法少女は草。いや草じゃねえわ
97:名無しの輩
その主人公って
98:名無しの輩
知らん。脳内掲示板は匿名だし、有志のスレ民が>>36を尾行してなんとか見つけた奴
ワイの個人的な意見として、主人公くんが転生者じゃないなら神降ろししてぶん殴ってやりたい
99:名無しの輩
アイツだけ出てくる作品違うんじゃねえかってくらいモテるんだよなァ
100:名無しの輩
僻むなよ、弱く見えるぞ
101:名無しの輩
実際弱い(生物学的に)
102:名無しの輩
繁殖できないオスは自然界では負け組なんだよね……
103:名無しの輩
そんなモテるの?
104:名無しの輩
無自覚ハーレム野郎
105:名無しの輩
心がイケメン過ぎるんだ。直視すればいくら転生者と言えど脳を焼かれるぞ
106:名無しの輩
※何人かの
107:名無しの輩
※主人公くんが他の女とイチャつきだすと、ナイトキャップを被った魔法少女が笑顔(目は笑ってない)で無言で見つめてきます
108:名無しの輩
目(ハイライトが消えている)
109:名無しの輩
スゥゥゥ……怖いっすね
110:名無しの輩
くたばりやがれ、馬鹿クソアホ間抜け主人公
111:名無しの輩
ただの嫉妬で草
……後ろから刺されればいいのに(ボソッ
112:名無しの輩
あんたもかい(呆れ)
【睡☆魔】
言うまでもなく、その正体は魔法少女『ストレート』。
趣味は後輩の盗撮
……と、愛しい人の
【私室】
魔法少女の殆どが寝泊まりする部屋、或いは監獄。
近未来的なデザインで扉はスライド式。
・特徴其の一
窓がない。理由は飛び降り自殺を防ぐため。
・特徴其の二
換気扇がない。より正確には、換気扇は巧妙に隠され、消音処置が為されている。
理由は練炭自殺など、人体に有害な気体を利用した自殺を防ぐため。
・特徴其の三
監視カメラは分かりやすく置かれた1台以外にも数個隠しカメラがある。
・特徴其の四
壁は一般的な硬度を有しながらも強い衝撃にはクッションとして作用する特殊な建材が使われている。ダイラタンシーの逆バージョンのようなもの。
居住者を「生かすこと」を目的に設計されている。