ヒトヒトの実 モデル超人種 ゴールドマンを食った男の話   作:アルピ交通事務局

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目覚めた転生者!の巻

 

「……!?」

 

 目を覚ませば見知らぬ天井だった。

 

 いきなりの事で驚いたので声を出そうと思ったが直ぐに叫ぶのを堪らえる。叫びたいという思いはあるのだが……見知らぬ天井の為に一周回って頭が冷えている。

 

「ここは何処だ……オレは誰だ?」

 

 大声を出して叫ばなかったものの声を出す。ここが何処なのか分からないので自分の立ち位置等から状況を整理すべきかと思えばはオレは自分が誰なのかが分からない。

 

 名前、住んでいる地域、家族構成、通っている学校……オレ自身を構成するであろうなにかが欠けている。

 

 逆に一般教養に関する知識はある……だが日常での出来事がピンポイントで消えている……かと思えば、ゲームやアニメ等の一般教養と異なる知識が何故かある。

 

 オレが純粋に記憶喪失しているのならば漫画やゲームの記憶も消えていてなにもおかしくはない。だが、オレはオレを構成する記憶が多く欠落している。普通、こんなにピンポイントで記憶が無いのであれば違和感や異変、なんだったらここまで冷静な人格は保てない筈だろうに。

 

「ミュース兄さん、入るよ」

 

「……」

 

「よかった。軽い疲労から来る熱だって聞いてたから」

 

 オレの事を兄と呼ぶ謎の男子、服装が明らかにおかしいとオレの中の日本人としての意識が言っている。

 

 あまりにも情報が少なすぎる……どういう風に誤魔化すか……

 

「どうしたんだい?」

 

「いや、少し不思議な夢を見ていてな……」

 

「不思議な夢ね。どんな夢なんだい?」

 

「それは秘密だ。それよりも倒れている間になにか変わった事はなかったか?」

 

「村長が少し心配していたぐらいかな……まぁ、兄さんならなんとかなるって言っててこうして直ぐに治ってよかったよ。ただでさえ両親が死んで兄弟2人な暮らしなんだから」

 

「……」

 

「あっ、嫌味じゃないよ。血を分けた兄さんが死んだら悲しいって意味だよ」

 

「そうか」

 

 この弟は実に出来た弟なのだろう。

 

 記憶喪失と適当な事を言うべきか言わないでおくべきかで考えていたらいきなり質問をされたので適当にはぐらかす。記憶喪失と言い全くと言って違う人間と言っても、それを証明する物が無い。前世の記憶が蘇ったと言うには前世という物が無さ過ぎる。

 

「朝ごはんは僕が作るよ」

 

「そうか。すまんな」

 

 弟が朝ごはんを作ると言うので、その言葉を受け入れる。そしてオレは改めて周りを見渡す。

 

 なんと言うか……違和感しか感じない。古臭い?オンボロ小屋?……いや、中世風な家だ……が、ガスコンロ等は普通にあり電気も通っている。

 

 なにか手掛かりになるものはないのか……こういう時にスマホ等の電子機器があればいいのだが、無いのは不便だ。

 

「新聞はないか?」

 

「ミュース兄さんが寝込んでいる間のならそこに……でもなんかスゴいニュースは特に無くて何時も通りだよ」

 

 情報収集が出来る機械が無い以上は新聞に頼るしかない。あるかないかを聞けばあると答えて新聞を一部手に取った。

 

「!」

 

 そこでオレは驚いた。

 

 オレの事をミュースと呼んでくる弟と思わしき人物からして、ここは何処なのかと色々な可能性を探っていたが新聞で直ぐに答えが出た。弟が用意してくれた新聞は普通の新聞かと思ったが違っていた。

 

 この新聞……ONEPIECEの新聞だ。

 

 英語や日本語等が色々と混じり合った見る人が見れば色々と困惑する新聞だが不思議と読める。

 

 偉大なる航路(グランドライン)、世界政府、天竜人……大人気漫画のONEPIECEに出てくる用語が沢山載っている。

 

 最初はなんの冗談かと思ったが、冗談ではない……形はどうあれ、尾田栄一郎先生が描いたONEPIECEの世界に酷似した世界にオレは居る。認識としては転生、前世の記憶を呼び戻したというわけではない。オレはミュースと言う男じゃないという認識がある。

 

「出来たよ、兄さん」

 

「ああ、ありがとう」

 

 コッペパン2つ、ベーコンエッグ、レタスとプチトマトとワカメのサラダ、牛乳。

 

 普通の食事で食べれば普通に美味しいと感じる。しかしなにを話題にすればいいのかが分からないので黙々と食べる。弟はその事についてなにか言ってくる事はしない。コレが当たり前であると認識をしている。

 

「よし、今日も働くか!」

 

「……ああ」

 

 子供なのに働く……どうにも違和感があるものの、この世界では極々普通の事だ。

 

 簡単な文字の読み書きや計算等については教えてもらえるだろう。だが、学校というものや家庭教師というものは上流階級の人間しか無理な世界だ。戦国時代や中世のヨーロッパの時代で小学生以降に覚える教養関係の大半は上流階級やそれに纏わる仕事をしている人間しか学ぶ機会が無かったとはなにかで見た覚えはある。

 

 弟と一緒に働く。田植えの手伝いだ。

 

 田植えと言えば、手作業でやるアレがイメージされやすいが、アレを続けるのは色々と非効率だ。昔の人は手で田植えをしていたと学校で教えたりするのは知っているが、近代的な田植えでは農機を使って田植えをする。手作業でした方が美味い米が作れるのかどうかは知らんが昔の人は手で田植えをしていたと教える授業はいいが、今時は農機を使って田植えをする事も教えろと農家の人間が苦言を呈していた事について知っている。

 

「……」

 

 身体が覚えている、と言った方が正しいのであろう。

 

 手作業での田植えなんてきっと1回ぐらいしかしたことがないのだが体に疲労感を感じながらも、何事もなく田植えをする事が出来ている。農家の人にちゃんとしろという注意を一切受けず、黙々と田植えをしていく。

 

「……平穏だな……」

 

 田植えの途中で農家の人が作った握り飯を食べる。普通に美味しかった。

 

 農家の人と一緒に田植えをする。今日はここまででいいぞと言われて今日の分の賃金を貰う。オレと弟は何でも屋をしているみたいだ。

 

 新聞を読んだりして、この世界がONEPIECEの世界に酷似している世界である事が確かなのは分かった。

 

 だが、ゴールド・ロジャー等の原作に出てくる海賊団についての話は全くと言って聞かない。海賊の概念や天竜人、悪魔の実等についてはかなりの知名度があるが……だがまぁ、それだけだ。

 

 転生したと認識した。前世の記憶が大きく欠落しているが為に変な情が出てこない。そして普通に人の温かさに触れた。

 

 新聞の内容からして平和とは言えないがオレの周りは極普通、いや、平穏だろう……これに関してオレはつまらない、とは思わない。ここは力が物を言う世界で、力を持っているが故に色々と歪んだ人格をしている者達が多い。力を持っていないからつまらない等と思わないのか?……いや、力を持っていようがいまいが、海賊に走る者達は普通に居る。

 

 海の向こうには夢とロマンが溢れている……くだらんとは言わないが、それで苦しみ傷つく者が多く生まれている。

 

 ONEPIECEのベースとなった読み切りを思い出す。悪行をしている海賊と悪行をしている海賊を食って冒険家としてやっている海賊がいるという設定だった。ルフィや白ひげ、ロジャー達は後者に位置するだろうがそれ以外の大半は前者、悪行をしている。そして形はどうあれロジャー達も色々と迷惑をかけている奴等であることも変わりは無い。

 

 きっとこの世界に転生した者が他に居るのであれば海賊になろう!と海賊を夢見て憧れたりするだろう。

 

 だが、オレはそんな気持ちが湧かない。ONEPIECEの世界は見えないところは色々と苦しい世界だが、目の前にあるのは極々普通の田舎町の様な日常だ。これに関してつまらないなんて意見は無い。

 

 冒険漫画は面白いだろうが、それは読者として第四の壁を経由して見ているから面白いと言える。剣と魔法のファンタジーな世界で色々なややこしいトラブルが毎日起きる?……それは確かに面白そうではある。だが、平穏を否定することにもなる。

 

「……」

 

 ONEPIECEの物語は結末していない。ボンヤリとだが知識はあれども幼い子供であるオレには何かをする事が出来ない。

 

 ONEPIECEと言えば、特別なものが無くても拳骨1つで山をも砕く、しかもそれが出来る者が複数人いると言う中々に恐ろしい世界だ。オレの中では岩は素手で破壊する事が出来なくもないが、それを出来る人間は武術関係の世界で上澄みも上澄みの人間。しかし、この世界ではそれが出来て当たり前の住人が沢山居る。特別な血筋でも能力でもなく純粋に努力しただけでその境地に到れる。

 

 男ならばカッコいい必殺技の1つや2つ、使ってみたいとは思うだろうが……必殺技とは必ず殺す技と書いて必殺技だ。

 

 バトル漫画には敵を倒すという考えがあるがコレはフワッとしている。

 

 鬼滅の刃は敵を倒すと言っているが命を奪っている。BLEACHは敵を倒すと言っており、殺さずに倒して捕縛している。

 敵を戦闘不能にした事を一般的な定義で倒すと言うのかもしれんが、オレの中では敵を倒すと言うのは命を奪うという事と認識しており、命を奪う事は基本的には悪とも認識している。

 

 子供でもわかる明確な悪人が居るとして、そいつを殺しては同じ穴の狢だろう。

 

 勿論、殺すことで負の連鎖を強制的に止めて憎しみを1人で受け止めるという思想も理解出来る。殺すことで抑止力になることもだ。

 

 この世界がONEPIECEで特に異変が無い平穏な村だと分かった。

 オレは刺激を求めているのか?外の世界を知りたいと思っているのか?……気付けば外の世界の情報を集めていたが、ロジャー達主要キャラについて特に情報が無かった。

 

 調べれば出てくる用語からこの世界がONEPIECE世界であることは確かだろう……そこから考えられることは1つ。

 まだロジャー達が生まれていない……まぁ、然程驚く事ではない。ONEPIECEの世界で年齢と言うのは曖昧な扱いになっている。日本人ならば1つでも歳上ならば問答無用で目上の人として扱うが、この世界では社会的地位で上じゃない人間じゃない限りは大抵はタメ口が主流だ。歳上だから敬えの考えは一応はあるものの、年齢と言う力は違う力を使えば力関係が狂う。

 

「……このまま1つの命として平穏を迎えるのも悪くはないな」

 

 色々と考えたものの、冒険の船出という気分ではない。1つの命として平穏を迎えて終わるのもいい。

 

 地球、いや、現代の日本であって当たり前の物がこの世界には無い。代表例で言えば漫画だろう。この世界には絵物語はあっても漫画は無い……本を執筆する者が居て、本を印刷する技術はしっかりとある。それなのに何故か漫画が無い。不思議な物だ。

 

「ミュース兄さん、難しい本だね」

 

「ああ、そうだな」

 

 兄弟で暮らしていく生活費とは別に自分の好きに使っていいお金を手に入れたのでオレは本を購入した。

 

 ONEPIECE世界と言うのは色々とフワッとしている部分が多い。

 例えば冷蔵庫、現代人ならばそれを見ても特に違和感を抱かないだろう。だが、オレは違和感を感じる……何故この世界に冷蔵庫があるのか。

 

 別にスゴい魔法とかの神秘的な能力を秘めているわけではない。

 現代で手に入れようと思えば簡単に手に入れる事が出来る冷蔵庫だろう……だが、冷蔵庫とは電気を用いなければ作ることが出来ない物だ。

 

 明治や大正の冷蔵庫は氷を入れて氷から発する冷気で食材を冷やす物だった。

 現代の冷蔵庫はモーター等を用いて空気を冷やす物であり、その力で沖縄の様な土地柄故に天然物の氷が生まれない土地で氷を簡単に作る事が出来る。

 

 何故かは分からないが冷蔵庫がONEPIECEの世界にはある。そこから色々と見たが、ONEPIECEの世界には電気の概念がある。

 オレにとって電気とは雷と言う神秘的なエネルギーを人間でも扱う事が出来るようにした物と言う認識だ。電球と冷蔵庫があるが何故かテレビは無く映像関係は電伝虫で補っている。

 

 これに関しては割と答えは出やすい。

 ONEPIECE世界は普通のコンパスが狂う場所ばかりであり、磁場の影響か電波を上手く飛ばせない。そう考えればテレビが無いのも直ぐに納得がいく……まぁ、この世界独自の技術でなく現代で見るフィルムタイプのカメラがあるのがやや納得出来ないが。

 

「ふむ……」

 

 冷蔵庫、と言うよりは電気を用いた科学に関する基礎な本を購入した。

 予想通りと言うべきかこの世界では電気を生み出す技術は確立されているが、電気を用いた物の製造が上手くいっていない。

 冷蔵庫、電球、ストーブと言った物であり、電波関係は殆ど出来ていない。電伝虫を頼っている。

 

「フワッとしているな」

 

 電池の作り方等はあるが電波関係は電伝虫で代用している。

 

 電気工学に関して見てみるが一部はなんとなくでしか分からない……だが、そんなものだろうと認識をする。

 現代人にとってスマホや冷蔵庫は当たり前の如く認知されているが、それの原理について詳細に語れる人間は圧倒的に少ない。冷蔵庫がどうして冷たい空気を作れるのか?と言う疑問に対して答えれる人間は少ない。仮に答えても中でモーターが動いていて空気を冷やしているとざっくりとした答えだろう。実際、オレもそういう認識だ。

 

「この環境が当たり前ならば……」

 

 この世界では歴史に関して調べてはいけない部分がある。王様や貴族と言う地位の人間が普通に居る。

 今のオレは小さな村の村人だ。文字の読み書きと四則演算は容易く出来る……ならばそれ以上の知識は?法律関係の知識や専門的な技能の知識を必要とする機会が皆無だ。

 

 ONEPIECE世界は勉強が出来る奴はスゴく出来るが出来ない奴はとことん出来ない。

 地頭が悪い、と言うよりは単純に勉強する意味が無いから勉強をしていない、勉強をする事が出来ない環境だから勉強をしていない等もある。極端な話、文字の読み書きと四則演算が出来ればそれでこの世界は生きていける。

 

 

難儀な世界だな

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