ヒトヒトの実 モデル超人種 ゴールドマンを食った男の話   作:アルピ交通事務局

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成功の番人になるつもりはない!の巻

 

 貴虎が大きい買い物をした。

 

 村の葬儀屋から墓石を購入した……墓石ということなので当然、墓場に置くのだが普通の墓石と異なる点が1つ。それは普通ならば死者の名前を刻むのだが誰の名前も刻んでいない事だ。

 

「お前が得た金で買った物をとやかく言う権利は無いが、無駄な買い物は感心せんな」

 

 貴虎が墓石の前で座っている。

 

 表情は切り替わらない無言の状態で……なにかを言いたそうではあるものの、それを押し留めている。折角自分の金で欲しい物を手に入れたと言うのにそれを全くと言って活かしきれていない。

 

 私は持ってきたメロンを置いた。

 

「そのメロンは」

 

「お供え物だ……誰のか分からんがコレが墓石であることは確かだ。ならば少しは供養するものだ……誰の墓だ?」

 

「……ここに来る事が出来なかった奴等の墓だ」

 

 メロンをお供え物として置いて改めてこの墓について聞いた。

 

 貴虎は答えるべきかと一瞬だけ考えた後に答えを教えてくれる。

 

「俺は掃き溜めの様な所で育った……そこは意図して作られた掃き溜めだった。世界政府加盟国の必須条件は天竜人への天上金と食料だ。国土が大きい割に資源が不足している土地ならば必然と金と食べ物が足りない。ならばなにをするか分かるか?」

 

「……天上金を少しでも抑える理由、例えばうちは小さな国と言って誤魔化すか」

 

「ああ……本来そこには国があった筈だが、国を生かす為に国だった場所は切り捨てられた。国を繁栄に導ける能力を持った人間は国民、そうでない人間は非国民と言う政治を行っていた」

 

 ワノ国の花の都の様に、使える人材は残しているがそれ以外は切り捨てる。

 

 天竜人への天上金と食べ物を渡せなくなった時点で世界政府加盟国ではなくなる。世界政府非加盟国に対しては法律は関係は無い。例え王を名乗る人間を殺したとしてもなにも文句を言われることはない。

 

 そういう差別があるからこそ世の中は動く事を私は否定しない。その差別から生まれる圧倒的なハングリー精神はバカには出来ない。

 

「じゃあ、俺の様な子供はどうなのか……共食いをさせていた。這い上がる事は可能だが座れる椅子は1つだけだと」

 

「上に行くと言うことはそういうことだ」

 

 上があるならば下もある。上に行くのならば、必ず誰かを蹴落とさなければならない。全員が全員仲良く手を繋いで上を目指しても辿り着いた場所は上じゃない。下という存在があるから上と言う存在が生まれるんだ。

 

「分かっている……だが、仲間を友を切り捨てたのは忘れてはいけない行いだ。国自体が掃き溜めの様な場所だ。だから出ていく為に力を求めた……年齢を偽装し、手っ取り早いと海軍になった。正義を掲げている組織ならばと思ってな」

 

「海軍は今の秩序の維持する組織だ……ドラゴンとミホークを見て揺れ動いているな」

 

「……なにが正義か、正しいのかがわからなくてな」

 

 革命家として悪名を持っているドラゴン、海兵狩りとして悪名を持っているミホーク。

 

 本来であれば来るなとしか言いようが無い人材ではある。ドラゴンはここは下手に触れてはいけない場所と判断をし、進路を作れば直ぐに去っていった。ミホークは逆にここを気に入っているのか最初の目的であるはぐれ武器を私が破壊した今もここに残っている。

 

「今の世の中を作ったり動かしたりする人間にとってドラゴンやミホークは居るだけで迷惑な存在だ」

 

「理屈では分かっている……人の安寧を願う者が居るのならば、秩序を作らなければならない。その秩序に従えば受けなくてもいい苦しみを味合わずに生きていける。だがどうしてもはみ出した存在というのは生まれる。そういう存在に対して何かしらの受け皿が必要とは思うが……それを作れば今の秩序の崩壊を辿る」

 

 厳しい規則を作る、その規則を破らないように真面目に研鑽する。

 

 その規則をなにかしらの形で破ってしまったのならば厳しい罰を受ける。特例は一切作らない……そういう質実剛健な要素があるからこそ秩序は価値を持っている。秩序に歯向かい秩序を変えようとする者はともかく、秩序が合わないはみ出し者に対しての受け皿を作ればそれは特例になり、秩序の崩壊を辿る。

 

 貴虎はそれをわかっている。

 

「平和や平穏を望むのは極々普通の思考だ。刺激のある冒険よりも平凡な1日の方が後になって良いと誰しも語るだろう。だが、平和の維持には矛盾が生まれる。平穏の維持にも矛盾が生まれる」

 

「それは維持出来ない要因を排除する為に血みどろな事をするからか?」

 

「無血開城は理想論だ、出来なくもないがそこに至るまでに血が一滴も流れていない事は基本的には無い……平穏や平和を維持するには人を統一しなければならない。所謂、個性の否定だ……だがそれでは前には進まない、なにも動かない」

 

 平和や平穏はいいことではあるが、なにも動かないという事は悪いことだ。

 完璧というものが生まれてしまえばその時点でそれ以下もそれ以上も何もない、終わってしまう。

 

「動かないのは……悪いことなのか?将軍は強い。心も体も、きっとこの世界で上澄みも上澄みのレベルの住人だ。あんたが立つべき所に立てばカリスマを発揮すれば多くの人間を率いれる。現にシュウジ達はあんたの強さに憧れて自警団になった……将軍は強くなることを強要し、皆鍛えて考える力を持つ。だが、全員が全員、同じ所に辿り着けるわけじゃない。あんたは成功した、勝ったからそこに立てている。出来ないことを努力して出来るようになることはいいことだが、出来ないことは努力しても出来ないで終わることもある。弱さに絶望することも普通にある。だったら、秩序の管理人達が幸福を与えようと理想を描き与える幸福の恩恵も悪いことではない」

 

「その秩序の管理人は……いや、そうだな。私は強いし便利な力を持っている……すまないな、偉そうな事を言ってしまって」

 

 弱い人間は強くなれるなどと言うが、それでも弱いどうしようもない人間は確かにいる。

 それは本人が努力を怠っているわけではなく、本当にどうしようもない才能等の壁の問題だろう……なにより、勝者が居る以上は敗者が居る。私は……未だに自分が何者なのか分からない。なにか1つ、面白い経験談でもと思ったがそれすらまともに出来ない。

 

「とは言え秩序の管理人達は己の快楽にのみ溺れている」

 

「世界平和なんて夢は捨てておけ、全ての人間が全ての事を同じ考えを持ち同じ行動しか出来ない様に人格否定するところからはじまる」

 

「そこまでは思っていない。ただ……天竜人がな……」

 

「……よりよい世の中にしたいのならばやらなければならない事は2つ。1つは世界の真実を解き明かす事だ」

 

「空白の100年を?……何故だ?」

 

「歴史を研究するのは学者として極々普通の事だ。だが、空白の100年だけは禁止にしている……それをやったら世界政府がハッキリと消す行動をする。逆説的に考えれば空白の100年には世界政府にとって不都合極まりないものが眠っている」

 

 平和や平穏な世の中について色々と考えているので天竜人が目の上のたんこぶ状態であるので教えておく。

 空白の100年を解き明かす事を。空白の100年は何なのかは知らないが、何かが起こったというのだけは事実だ。そもそもで本気で歴史をどうこうしたいのであれば偽りの歴史を用意しておいてそれっぽい場所とか文献とか用意しておけばある程度は誤魔化せる。

 無論、一部だけ真実を混ぜればより効率がいい……空白の100年の歴史学んでる、ではそいつら皆殺しは何かあると言っているも同然だ。

 

「2つ目は物資の行き来の開拓だ……偉大なる航路は島自体に強い磁気がある為に専用のコンパスである記録指針が必要なのだろう?その記録指針で何処にどういう風に行くかの全てのルートの開拓、そこから全ての土地の永久指針の作成。そこから独自の商会を作成し物資運搬等を確立させる」

 

「…………要するに色々な所に行きやすくし、情報伝達等をスムーズに。それこそ勉強が出来る国の教師が勉強があまり得意でない国の学校の教師になって全体の底上げか」

 

「情報及び物資が色々な土地にスムーズに行き来出来ればそれだけで全てが潤う……もっとも、それが一番難しい話だが」

 

 この世界で竹とんぼが普通に作れる。

 グルグルと回転してほんの数秒だけ空中を飛ぶあの竹とんぼが……しっかりとした学者ならば、そこからヘリコプターの様な物を連想する事が出来るだろう。だが、それは出来ない。尾田栄一郎が空を飛ぶ能力を徹底して制限しているのもあるが、偉大なる航路の気候がありえないからだ。

 

 現実でも台風が近付いているから、豪雪だから、濃霧だからで飛行機がまともに動かない時は普通にある。

 偉大なる航路は常時とは言わないがコロコロと気候が変わり続けているので飛行機は作れるがそこを走れるか?と言うのは無理だ。

 飛行機は10000m程の高さを跳んでいるから……空島の海にぶつかるというデメリットもある。

 

 だからどうしても海路しかない。

 

「学者でも何でもないのに辛気臭い倫理だ道徳だの話になってしまったな……お前達が誰なのか、顔も名前もなにも知らん。だが、お前達が来たかった場所に貴虎は知ることが出来た。美味しい物で腹を満たす事が出来て、一緒に鍛え合える同士もいて、欲しい物を買えるお金を手に入れて……心に関しては満たされているかは知らんが、なんだかんだで元気に生きている」

 

 墓前で辛気臭い話をしてしまったのだと反省し、墓前で謝る。

 貴虎でなく、そこに行くことが出来なかった者達に……色々と満たしたい物を満たして元気に生き抜くことが出来なかった。それに関して私が何かをする事が出来る訳がない

 

「ありがとう、将軍」

 

「私はお前の事を伝えただけだ……むしろ、それはお前がしなければならん事だ。思うことは色々とあるだろうが、墓前に座って無言になって、なにも言い返されないならなにか言わなければなにも始まらない」

 

「……将軍にはそういうのはいないのか?」

 

「居ない、と言えば嘘になる。弟と過ごした黄金の時間は胸の中で輝いている、あの時は良かったと思う時もあるが……だったら今はもっと良かったと思えるように行動するだけだ。なによりもコレはお前の墓だ、私は触れる権利を持っていない」

 

 貴虎がお礼を言ってきたが、墓前で無言に座っている貴虎が本来はやらなければならない事をしたまでだ。

 弟と過ごした黄金の時は忘れた覚えはない……だが、兄として弟に何もすることが出来ないどころか名前を呼ぶことすら出来なかった俺は失格だろう。何処かでそれは清算したい。

 

「お前はこれから色々と上に行くことが出来る人間だろうが、上に行けば色々と大事な物を失う。気付かずにだ……かと言って失わずに上に行けば更に別の大事な物を失う。何かを捨てて何かを手元に置く、上に行くとそれを好きに選んだり出来る」

 

「将軍」

 

「なんだ?」

 

「海軍に入らないか?……その辺の海賊達ならば自警団の人間でも倒せるし、それを理解しているなら」

 

「私は成功の番人になるつもりは無い」

 

 はじめてだろう、貴虎の口から海軍に来ないかの誘いがあった……貴虎に対して情の鎖の様な物は無いので断る。

 嫌だと言っても貴虎ならばその優れた力を良いことにという思想を持っているので、別のやり口で黙らせる。

 

「成功の番人?」

 

「海軍が求めるのは優れた戦闘能力を持った者だろう。私ならば上に上がる事は容易いが、そうなれば成功者の番人にならなければならない。この人は正しい、この人は成功する、この人はと周りから色々と圧を、失敗することを許されずこの人ならば出来て当然とハードルを上げられ窮屈に生きなければならない。例え賞金首の海賊を倒して莫大な賞金を手に入れても、海軍本部の中将クラスになろうとも、その名声に当てられた世界政府加盟国の人間性がしっかりしている貴族の美女との縁談が持ちかけられても、成功者の番人として成功し続けなければならない」

 

「失敗より成功するほうが誰だっていいだろう」

 

「そう思えるのは最初だけだ……物事を上手く回すにはほんの少しのバカが出来ることが大事だ。普段から圧倒的に硬い思想の持ち主でコミカルなジョークすらまともに言えない、言ってもリアクションが取ってもらえない。私自身そういうのを言うタイプではないが、そういうことが出来ずにギチギチに詰まっているのは生きていないとも言える……無論、誰かがこんなふざけたことを言っている奴の尻拭いをするという貧乏くじを引く。特例を許さずに真面目にコツコツやっているが、緩い奴の方に間違った評価が下る。そうすれば悪循環が生まれる……そうすれば正当な評価を求めることこそ間違いだなんだとなる」

 

 成功の番人になるつもりはない。

 私の行く手は私が決める。私の行く手を阻む物は神でも許さない

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