ヒトヒトの実 モデル超人種 ゴールドマンを食った男の話 作:アルピ交通事務局
赤髪がやってきたが特になにかが起こるわけではなく、赤髪は物資の補給等を終えれば出て行った。
「やはり知られてはいるか」
謎の手紙がミホークの元に送られてきた。
貴虎がミホークを報告はしていないが海軍はなんだかんだで動きの行方を知っている。
「内容は?」
「新たなる制度、王下七武海についてだ。このオレに犬になれと言っている」
「どうするつもりだ?」
「……正直な話、受けようと思っている。ここでの暮らしは悪くはないが、このまま行けばオレが原因で崩壊するのは目に見えている」
王下七武海にならないかの勧誘について、政府の犬になれと言うのが嫌で今の暮らしを快適と思っている。
しかしその今の暮らしが壊れる、その主な要因がミホーク自身で、ミホークが悪行を行うならではの本人の問題でなく、ミホークが賞金首であると言う外的要因が原因だ。だからこそ受けるべきかと検討している。
「貴虎も手紙を受け取っていたぞ。同じところならば海軍本部からだ」
「そうか」
ミホークはこの話を受ける。
ただしなんだかんだで人を信頼や信用をしていない部分もあるので手紙で一筆するぐらいで直接的に海軍に行くことはしない。
「…………」
「海軍本部からか?」
貴虎の様子を見に行けば、貴虎は手紙を読み終えた後に無言でなにかを考えていた。
海軍本部からなにかしらの命令が下ったが、それが個人の主観でどうなのか?と言う疑問を抱いている感じか?
「……別に難しいことではない。登録手続き上、所属している支部でなく海軍本部に来い、栄転しろと言う話だ」
「昇進の話か、お前ならば上を目指せるだろう。なにを深く考えている?上に行くことで管理職となり仕事に対する対価が見合っていないから上に上がりたくないと言う怠慢な考えを持っているわけではないだろう」
支部から本部の人間になる、単純に考えて貴虎の能力を考慮すれば今後の事を踏まえても本部に栄転はいいことだ。
貴虎の性格上、怠慢な理由でなにかを止める等は早々に無い。ここでの暮らしが快適かもしれんが、ここには自警団が居るので海賊達の略奪行為等の心配が要らん。
「本部に栄転するならば、組織の人間としての自覚を持てと……先ずは己の正義を持つ様にと」
「正義、か……」
「海軍本部で上を目指しても、白ひげやカイドウの様な後半の海で活躍している大規模な海賊達は手を出せない。SWORDと言う抜け道はあるがそれだけだろう。この前の赤髪やミホークの様な人間も賞金首だが、所謂、善良なる正義の心で悪を倒そうと言う気持ちが全くと言って沸かなくてな……ホントにいい奴は最初から悪いことをしなかったり、限度を知っていたりで、破天荒なガープ中将が許されているのは今も尚、最前線に出て海賊を倒している確かな実績もあるが裏でコツコツとフォローに頑張っている苦労人な誰かのおかげだからなと」
真面目な性格である為に正義とは何なのかについて考えさせられるタイミングになった時点で貴虎は悩ませた。
もっと大雑把に!とは言えない。それがアドバイスとして正しいかは分からないが貴虎の様に大雑把じゃない細かい人間が裏でフォローを入れてくれているおかげで組織が回っていることはザラにある。
「ドラゴンにも言ったが、なにをするにしても答えに辿り着かなければならん……今の情勢を維持するならばそれも1つの正義ではあるが、正義では全ては救えない。全てを救うと言う正義を掲げた時点でそれは正義でなく矛盾した夢物語になる」
「流石に海賊達まで助けたいなんて夢物語は見ていない。だが、もっと革新的な何かや別の形を」
「それをすれば正義でなく己の信念を掲げての行動をしなければならん」
もっと革新的ななにか別の形で悪党達への抑止力等を作りたいと言うのでアレばそれは善なる正義から外れる。
一種の正論ではあるが、あくまでも一種の正論であり半分以上の人間が納得したり共感したりしてしまう正義ではない。
「己の信念が何時か遠い未来で正義になっても、はじめから幾つかの選択肢がある正義を選んで正義を貫いて行動しようは出来ない」
「……絶対に正しいと言うものを求めてはダメなのか?」
絶対に正しいと言うものを求めたい、それがあればと貴虎は心の弱さを見せる。
「もし仮に、お前が後継者とは言わないが、強い海兵を育てる仕事をしたとして何処までの人間が育てられると思う?」
「それは……分からないが、ある一定のレベルにならなければ育てれたとは言えないな」
「武芸で生きている人間が弟子に求める事は師匠である自分を超える事だ。だが、師匠を超えるのに必要な条件として師匠の教えではない別のなにかを見つけないといけない。師匠の教えややり方はあくまでも師匠が様々な経験を経て手に入れた物で自分が考えたものや感じたものはなくあったとしても違う答えだ。例えそれが全知全能の神の弟子であろうとも、いや、神の弟子だからこそ神が下等と見下したものの中にある本当の価値に気付けない」
我が身、ゴールドマンの事を考えればこの世で絶対に正しいを信じたいは分かるがそんなものはこの世の何処にもない。
ザ・マンが10人の弟子にしっかりと教えを貫いて鍛えて、鍛えて、鍛えて、鍛え続けても自身の劣化コピー、最高傑作も自身の劣化コピーだった。
「この世で絶対に正しいと言うものを求めたい気持ちはある。だが、人は弱くて堕落するもので人の世の中は定期的に切り替わる。厳しさを徹底した質実剛健の正義を見つけたとしても人の堕落や進歩によって何時かはそれが下等な存在に落ちる」
「だが……」
「変わらないものも中にはある、だろう……世の中は思い通りに行かなくて当たり前だ。それでも理不尽と戦えとしか言えんな」
変わらないもの、変えてはいけないものという物はあるかもしれないが、それを変えたいという意見はある。
どれだけ素晴らしい理想を描いていてもそれを実現する実行力があったとしても、自分が思い描いたゴールには辿り着けない。世の中は思い描いた理想通り、思い通りにはならないものだ。
「全員をその人にとって都合の良い夢の世界に閉じ込める方法は無いわけではないが……人間は労働を得て理不尽に歯向かっている時が無ければなにも進歩はせん」
「なら、どうすれば……お前ならばなにを選ぶ?」
「私の意見を参考にするな……だが、それでもと言うのならば外の世界に出ることだ」
この世界にウタウタの実があるのならば、ウタワールドに閉じ込めて都合の良い世界を作れる。
だが、何でもかんでも好きな事をして生きていくことは出来ない。それは人が人として生きているとは言えない。自分にとって都合が良い事もあれば自分にとって都合が悪いこともある。
「外の世界に?」
「誰かを守りたい!と言う分かりやすい明確な目標があるのならばその目標を果たされる道を歩めばいい。しかしお前はそれよりも1つ前のステージに居る。お前は最初に掲げた信念が正しいかどうか迷い悩んでいる。それは自分とは違うタイプの人間と交流し凝り固まった思想を持った頭から柔軟な頭になっているからだ。だが、柔軟になった事で最初に決めた信念を支える足や土台が脆くなっている……最初の信念をより盤石にするにしても、凝り固まった思想を柔軟に切り替えるにしても、足や土台を整備しなければならない。その為には色々と巡る事が大事だ」
己の目で見て、己の耳で聞いて、己の手で触れて、己の口で語る……本当に初歩的な事だが、貴虎はそれを出来ていない。
海軍本部に行って偉くなることは貴虎ならば可能だろうが、今の貴虎は悩んでいる。
「昔からよくある言葉だが、正義の味方は遅れてやってくるものだ。この言葉に対して納得が行く返事を出せるか?」
「……悪を倒すから正義であり、悪が居なければ1つの思想で悪が動いてはじめて正義が生まれるから?……正義は時として抑止力にはなるが、悪として芽が開花した存在でなく悪になる可能性がある種すらも摘み取ればそれは人間の可能性を否定する事にもなる。やり過ぎるからはじめて秩序や正義になるが、それでも限度を超えれば1つの悪となる…………俺は……」
「ある程度言えるのならば、無理に答えを出す必要は無い。正義と言う言葉を基準に使うな。己の信念やしたいこと等を考える。下手に大きくなれば、この村の様な場所には二度と足を運ぶことが出来なくなる。結局のところ、最初に立てた信念を持った上で色々と見聞きした現実に対して答えを出さなければならない」
揺れ動く答えを持った状態で上に行くと良くも悪くも歪んでしまう。
最終的な決定権を持っているのは貴虎だ。今の貴虎は私にアドバイスを求めている。私の口から言えることは、色々と見て考えようと言う事だけ、なにせ私ですらまともに外の世界に出たことは無いが妙な知識はある。
「外の世界、か……それも悪くはないが」
「海軍の正義では救えないものもあるし、そもそもで何故?と言う疑問を解消されるぞ」
「……読心術はやめてくれ」
「そこまで器用ではない」
外の世界に貴虎は興味を抱いたのだが他にも色々とあるから踏み出すに踏み出せない。
諦める理由を取り見繕う、と言うよりは他に迷惑をかけてはいけないという根が善人だからこそ出てくる思考など簡単に読める。
貴虎は即座に答えを出さなかった……即座に出した答えは周りが見えていない事が多々ある。一度立ち止まって視野を広めるのはいいことだ。
「……」
赤髪のシャンクスは自らの海賊団を立ち上げようとしている、ミホークは王下七武海の話を受け入れ平穏を手に入れようとしている。貴虎は上に行くべきなのか、もう少し経験や知性を携えてから行くべきなのかと言う疑問を抱いている。
少ししたら原作が始まる……ONE PIECEはご都合主義が働く事で何とか成り立っている物だ。遊び続けて何時倒壊してもおかしくないジェンガの中から慎重にピースを選んで抜かなければならないのと同じで仮に原作に関わる行動をするならばするで、その後にどう影響するか考えなければならん。
私の中に何故かあるONE PIECEの知識は定期的に更新されている。
私を作り送り込んだ誰かがONE PIECEに関われと言う宣告なのかもしれんが、ONE PIECEはルフィ達麦わらの一味だから成立した物語であり、下手な事をしたらその時点で物語でなく冒険からなにまで詰んでしまって世界そのものが変革が起きない……いや、違う。
「ルフィ達を頼りにしている時点で間違いではあったな」
私と言う異物が居て、悪魔の実を口にした。
原作に関わらなければならない義務は無いが、未来を知っているから出来る権利は手に入れている。最終的には麦わらの一味が問題を解決してくれるだろう、自分達でなく奴等を中心に今の世界を変えなければならないと言う他責思考になっていた。
私自身に野心は無い、なにかしらの経験も無い。細々とした平穏を好む人間だ。
命を育む事の尊さや勉学を学ぶ事の大切さ等を理解しており、安易に楽な道を歩みたくない……その筈が何時の間にかルフィ達に任せれば大丈夫であろうという愚かな考えをしてしまっていた。情けない話だ。
「将軍、なんだ改まって話を?」
翌日に私は自警団と貴虎を呼び出した。近くには電伝虫がある。
何時もならば農耕から始まり、それが終われば鍛錬と言う一連の流れだが今回は大事な話があると一度農耕をする前にと全員を集めた。アランが改まった話があることに疑問を抱いて話の内容について聞いてきた。
「まず、貴虎が海軍本部への栄転が決まった」
「お、昇格か。やったじゃねえか!」
海軍本部への栄転が決まったという話をすればアランは笑った。
貴虎は自警団の人間ではない、だがアランはとっくの昔に仲間と言う認識を持っている。昇格の話があった事をアランは素直に喜んでいるが、その中でブラッドが聞いた。
「つまり、ここを出て行く事になると?」
「……結論から言えばそうなるな」
「ブラッドよ、そこで睨むのは間違いだ。貴虎は元々海軍の人間……ここには私達が居るじゃないか」
仲間である貴虎がこの島から出て行く事になる事を聞き、貴虎はその通りだと頷いた。
自警団は外の世界の住人からこの村を守る為のものであり、わざわざこちら側から相手の本拠地に乗り込む真似はしない。昇格は嬉しいが自警団から離れる事について疑問を抱いている。デンゾウが自分達が居るから後続の憂いの様なものはないと言う。
「貴虎や将軍との出会いは運命的な出会いだ。だが、出会いである以上は別れもある。その別れの時が今日やって来た……悲しいかどうかなら悲しいけどよ、貴虎が新しい一歩を踏み出すってなら送り出してやるのが仲間としての最大の礼儀ってもんだ」
ナンジロウは別れることが悲しいのは否定しないが、仲間として背中を押して見送る事が大事だと述べる。
貴虎当人はと言えば少しだけ困惑しているが、仲間が背中を押してくれる事を嬉しく感じていた。自分は自警団ではないから仲間ではないのだと心の何処かで思っていたのだろう。
「将軍、鳴ってるぞ」
「ああ」
用意していた電伝虫が鳴っているとマツシロが指摘する。
そろそろ来るかと思っていたので電伝虫の受話器を手にして出れば電伝虫の顔が変わった。
『こちら海軍本部元帥、センゴクだ……海兵、貴虎。君に伝えたい事がある』
「伝えたいこと?」
『一部の海兵に支給された変身アイテムだが、使い手そのものが変身アイテム無しでも強くなければ変身した姿に耐えられないという欠点が見えた事や高額な稀少性の高い金属も使っている等の観点から量産が難しく廃棄処分が決まった。海軍本部に来た際には変身アイテム無しで文字通り1から鍛え直して欲しい』
電伝虫の向こうに居るのは海軍本部元帥、仏のセンゴクだ。
貴虎に斬月での戦闘ではなく生身の肉体等での戦闘方法に戦闘スタイルを切り替えてほしいと言う願いだった。
『次に君の後釜だ』
「それをする前に1つの男の話をさせてもらう。センゴク、貴様にとって耳寄りな話だ」
『私にとって耳寄りな話?』
貴虎が居なくなるので新しく貴虎の代わりにこの村に居着く常駐の海兵について説明をしようとする前に待ったをかける。
その手の話題ならば後にと言われる前にセンゴクに耳寄りな話があると意味深に告げて皆に興味を抱かせた。
「ある所に2人の兄弟が居た。兄弟は仲睦まじく暮らしており、ある日、弟が悪魔の実を手に入れた。悪魔の実は食べればなにかしらの力を得られるが力を求めているわけではないので弟は悪魔の実を売ることを決め、悪魔の実を売り飛ばし大金を手にした。しかし後日、再び同じ悪魔の実を手に入れた。流石にまた売れば怪しまれるので売ることはせずに保管していた……そして悪魔の実の能力者である海賊が現れた。悪魔の実の能力を持った海賊は恐ろしく強く兄弟が住んでいた村の人間では倒すことが出来ない。しかし希望はあった。弟が手に入れた悪魔の実だ。それが恐ろしく強い能力ならば悪魔の実の能力を持っている海賊に勝てると踏んだ」
『…………それは、もしや』
「兄が悪魔の実を食べ、悪魔の実の圧倒的な力を手に入れた。しかし当時は悪魔の実があまり認知されておらず、その村は外の世界に夢を抱いて冒険する人間は居ない長閑な村で力を手に入れた兄は自分が腫れ物だと即座に理解し、手に入れた悪魔の実の力を極める為に弟との別れを決意した。弟も兄が腫れ物なのを理解しているので新天地に向かい、1からの人生を歩むことを決めた……そして長い月日を得て長閑な別の村に兄は降り立った」
「お、おい、それって……」
私の話を聞いてまさかと驚いた顔をしているアラン。
私のことを言っているのだろうなと言う認識をしているのだろうが、他の面々はそれを聞いてそれがどうしたのだろうと疑問を抱いている。
「兄は今も尚、生きている。そして弟と言えば結婚をし子供を作った……その子供の名は……ゴール・D・ロジャーだ」
『なっ!?なんだと……』
「下の者が書いた上からの報告書には悪魔将軍と記載されているだろう……故に私の本名を教えよう。ゴール・D・ミュース……血縁関係上、ゴール・D・ロジャー、いや、ゴールド・ロジャーの叔父になる」
私がこの話をした意味、最後の最後にゴールド・ロジャーの叔父である事を海軍本部元帥であるセンゴクに告白すること。
ロジャーの血筋は当時断絶させる為に必死だった、ロジャーの父ならばとっくの昔に死んでいるだろうが……叔父が居ることには驚きだろう。