ヒトヒトの実 モデル超人種 ゴールドマンを食った男の話 作:アルピ交通事務局
「申し訳ありません。何分、若い人達が少ないものでして」
「気にするな」
「私も将軍も農耕は出来る方だ」
ウェザリアの滞在許可を貰えばタダ飯を食うわけには行かないのだと農耕に協力をする。
お天気研究所と言うに相応しいのか学者肌の人間が多い。当然と言うべきか体を動かすことを苦手としている者が多い。
「あ、自己紹介が遅れました。自分はケンと申します」
「……悪魔将軍だ」
「貴虎だ」
最初に出会った初老の男から別の男が私達のあれこれを世話してくれる……と言うのが正しいのだろうか?
ケンの言っている様に若い人間が居ないのでどうしても3Kの仕事である農耕関係で動ける人間が少ないので農耕の手伝いをしており、その事を感謝されてなんとも言えない気持ちになる。
「このウェザリアについて色々と気になっている、ここで学べそうな事は学びたいそうですね」
「ああ……とは言っても気象学は高度な学問と認識している」
軽く誰でも閲覧可能な本を読んだが意味が分からなかった。
覚え方が悪いのか私の頭が悪いのか、どちらなのか分からん。
「では、軽くウェザリアについて……この世界には空に浮かんでいる空島なるものがあります。そこには独自の文明を築き上げています……しかし、その空島は天然の空島です」
「天然、と言うことは……この島は人工物なのか?」
「ええ、平たく言えばそうなります」
農耕をしながらもケンは口を動かしてウェザリアについて教えてくれる。
私は色々と知っているが貴虎にとっては何もかもが未知な存在であり、この空島が人工物なのかを聞けばケンが頷いた。
「島を人工的に作れるとは……」
「島雲と呼ばれる人や物を乗せることが可能な雲を作り上げた……中には天然の物がありますが、ここは人工的な島雲から作った空島で自由自在に移動が可能なのです。それこそ気象が読めない偉大なる航路や偉大なる航路を阻む壁である赤い土の大陸の上を何事もなく進めます」
「……凄すぎるな」
「貴虎よ、プラスの側面だけでなくマイナスの側面を見ておけ」
島を人工的に作るだけでなく普通の航海技術では突破が困難の偉大なる航路を突破することが可能である。
コレがこの世界でどれだけ恐ろしい技術なのかは言うまでもなく貴虎は理解しているが、デメリットが0というわけではない。
「なにかデメリットがあるのか?」
「空に浮かんでいる島ですので風に弱いです……偉大なる航路の不規則な気象を突破出来るとは言いましたが、荒れ狂う海や風よりも遥か上空に居るわけでして突破しているとは言い難くやっている一部の研究は政府に目をつけられるものもありまして、基本的にはウェザリアはここにあるとは言えません」
風の力にだけはウェザリアは絶対に勝つことが出来ず、研究内容が研究内容だけに危険な物も多い。
ケンはそれを素直に認めてそこがウェザリアのデメリットを教えた。
「頑張れば行きたい所に行けはするのですが、基本的には不可能でして特定の地に永住出来ないと言う事は外部との貿易も……当然と言うべきですが、自分達の存在が御伽噺の様に扱われている地域もあります」
永住出来る場所ならば色々と貿易が可能だが、そうではない為に様々なデメリットがある。
自分達の存在が御伽噺と扱われている……だが真実を知っている者も中には居るだろう。
「センセイ、そろそろお昼ご飯の時間です」
ウェザリアについて色々と聞きながら畑を耕していると1人の女が現れる。
間もなく昼時だと時計を見せてくるとケンは汗をタオルで拭った。
「ああ、どうも」
「先生?ケンは教師なのか」
「ええ……普段はウェザリアの子供達に気象学の基礎や生きていく上に必要な農耕を教える事を担っていて、周りから気付けばセンセイと。このウェザリアで私より賢い人なんて大勢居るのに、お恥ずかしい」
ケンの事をセンセイと呼んでいたので疑問に思ったので聞いてみれば、ケンは教師をしている事を教えてくれるが少し浮かない。
ウェザリアには自分より賢い学者なんて幾らでも居ると言う……実際のところはそうだろうが、少し話をしてそれで落ち込むタイプの性格ではないのが分かる。何かがあるのだろうがそれを聞くと飯が不味くなると飯を優先し聞かずに飯にする。
「本日は饅頭と南瓜の薬膳スープで御座います……客人の貴方達の分もありますので遠慮なくお食べください」
料理人がしっかりと栄養価を考えた料理、でなく饅頭とスープが出てきた。
先ずはスープの味はどんな物なのかと確かめてみれば上品な味であると同時に独特のクセがある。事前に薬膳スープと謳っているので色々な生薬が混ざっているのだろうが……カボチャが溶けて普通に美味い。
「如何ですか?孔明の料理は」
「コレは中々に美味い饅頭だな……ケンの妻……とは言い難いな。子供か?」
「いえ、生徒の1人です」
私は薬膳スープを飲んだ。貴虎は饅頭の方に先に手を出しており、中にはみっちりと具材が入っていた。
特別に舌が肥えている私達ではないが、美味いと感じる料理でありそれを用意し提供した女もとい孔明について疑問を抱いたので聞いてみれば孔明はケンの生徒の1人だと答えた。
「センセイの世話を買って出たのです。この手の小さな島では働き手は働き手として、他は怠惰に過ごすのでなくその者達の食事等を補助を」
「ああ……私達と同じか」
農耕に励み己の武の研鑽に励んでいた自警団。
食事等の世話は世話焼きの人間がしてくれることが多かったので貴虎はスンナリと納得した。
「しかし、この饅頭は美味いな……餡にフカヒレを使うだなんて豪華だがいいのか?雨を自由自在に操れる以上は水不足は無いが魚は早々に養殖出来ない。ましては凶暴な鮫なんて、フカヒレが無くとも極上の肉まんに仕上がるのだから俺達を気遣うことは」
「気遣い無用ですよ……なにせ私はフカヒレを使っていませんから」
饅頭を食べているとただの肉まんでなくフカヒレが入っている極上のフカヒレまんだと貴虎は気付いた。
自分達に対して豪華な素材を使って無理に気を遣わせているのではないのかと言えば孔明はフカヒレは一切使っていないと言った。貴虎は饅頭の中身を見る。フカヒレの代わりになる別の食材でフカヒレの味を再現しているのか?と疑問を抱いたので見たのだが、何処からどう見てもフカヒレ入りの肉まんだ。
「フカヒレが入っているじゃないか」
「フカヒレと言えば高級素材であるイメージがあるやもしれませんが、実はそうでもないのです」
「……どういう事だ?フカヒレと言えば高級な中華料理屋でしか使われてないぞ」
フカヒレが入っていると指摘すればケンがフカヒレについて説明をしようとする。
貴虎の中ではフカヒレ=高級中華食材と言うイメージがあり、実際に高い中華料理屋でしか扱われていない。その疑問を解消する。
「確かにフカヒレは希少価値が高い故に高級食材と言う認識では間違いはありません。ですが、フカヒレ自体は実はそこまでの物なのです」
「?」
「フカヒレはその物は無味無臭でして、貝等のしっかりと味がある濃いめのスープ等で煮込んだりして味付けをするのが主な調理方法です。本来の調理方法ではかなり難しく高度な技術が必要ですがフェイクフカヒレは食物繊維とゼラチンを注射器で絞り出した後に乾燥させた物で水洗い等の下処理をしフカヒレと同じ要領で味付けすれば誰もがフカヒレと思う物が出来上がります」
「それはスゴいな……孔明、お前が作ったのか?」
「それこそまさかです。このフェイクフカヒレはセンセイが考案しました」
ケンがフカヒレとフェイクフカヒレについて説明をすればそんな物があるのかと感心する貴虎。
孔明がこのフェイクフカヒレを作ったと聞けば孔明は呆れながらも首を横に振り、フェイクフカヒレを作ったのはケンである事を誇らしげに語っており、ケンは少し照れている。
「美味いな。フェイクフカヒレと言う高度な物を作れる博学な知識、さぞやウェザリアでも有望株であろうな」
フカヒレ肉まんを口にしたがフカヒレの味がしっかりとしている。腕に自信がある料理人でも早々に気付かれない高度なフェイクフカヒレ。こんな物を考案する事が出来るケンはウェザリアの中では若い方であり、将来性を考えれば有望株な存在だと言えば……空気が静まり返った。
どうやらなにかしらの地雷を踏み抜いたようだ。
「……悪魔将軍、センセイはスゴいお方なのです!」
「ああ、だからスゴい者だと評価をしているだろう?」
ケンがスゴいと孔明が主張をするがケンはどうしたものかと困った顔をしている。
このフェイクフカヒレと言う物からしてケンはスゴい人間なのは予想が付くのだが……どうやら踏み抜いた地雷の種類が良くなかった様で孔明と私の間には絶妙なまでに話が噛み合っていないところがある。
「孔明、落ち着きなさい」
「センセイ、ですが」
「私は好んでこの生き方を選んだのです。私にとって後悔の要素は微塵もありません」
興奮する孔明に対して落ち着く様にと注意を促すが、孔明は言い返そうとする。
なにを言い返すのかが読めているのかケンは孔明に先に釘を刺し、孔明は言い返すことが出来なかった。
「では、片付けを」
「ならば我々は休息を……よく学び、よく食べ、よく眠り、よく動く、
食事を終えれば孔明は食器類の片付けに入り、私達は農耕再開……ではなく1時間の休憩を取る。
食事での休憩以外に更に追加で1時間の休憩とはなんとも不思議なものだと思ったが、ケンにとってはコレが理想的な物であり食事により心と体の栄養を満たしてそこから更に動くのでなく、何もしないと言う事をすることで体力が大幅に回復する……気にもなれる。
「先ほどの孔明の反応だが、お前はなにかコンプレックスを抱いているのか?」
「いえ、自分自身はコンプレックスを抱いておりません……ですが、一部から不憫に思われているのですよ」
「不憫?見たところ優秀な人材だろう?」
1時間の休憩なので眠ろうにも眠れないので先ほどの反応について聞いてみた。
ケンは自分自身に酷い劣等感を抱いているのか、なにかコンプレックスがかと思っていればケン自身は特にそうは思っていない。しかし孔明の様にケンを不憫だと思っている者達が何人か居て不憫に思われている。
学食動眠の立派な考えを持っているケンを貴虎は立派どころかとても優秀な人材である事を指摘すればケンは語る。
「このウェザリアは主に天候について研究し気象学を生業としている空島です。私も当然、気象学についてはそれなりに学んでおりますが……私はそれ以外の分野の学問を好んでおります。農業、文芸、政治、民族、食育と様々な分野を。先ほどのフェイクフカヒレも食事に関する学問から生み出した物です」
「なら、尚更」
「このウェザリアは気象学が主体です……自分は気象学とは異なる分野の学問を好み独学で学び教えており、ウェザリアの中では変人と思われているのです。天気に関する気象学はしっかりと学んでいるわけで、未熟な子達に基礎を学ばせ勉強の楽しさを教えていますが……それこそこの空島を作り上げたハレダスさん達と比較すれば足元にも及びません。そして既に基礎を教えた生徒達は私よりも遥かに博識となっております」
ウェザリアと言う土地は天気に関する研究等をしている空島であり、どうしてもその他の分野が劣っている。いや、見下されるか変人の枠に納められるだろう。天気の研究をしている中で詩等の文学や先ほどのフェイクフカヒレの様な食に関する科学を出されたとしても印象が薄いだろう。
「ハレダスさん達に定期的に言われますよ。私にはまだまだ伸び代があるのだから、学問を1つに絞って勉学を極めろと……全ての学問に特化した人間なんてそれこそノミノミの実を食べた世界一の天才であるベガパンクですら不可能だと。でも、私は好んでこの生き方を選んだのです」
「……失礼を承知で聞くがなにかが?」
「特別と言えるものはありませんよ。私がやっている事は私が最高だと思える物なだけです……他人から理解してほしいや共感してほしいと思えることは稀にありますがそこは土地柄故に仕方ありません。ですが、孔明の様に色々と学び伸びてくれる子も何人か出てきました……悪魔将軍さん」
「なんだ?」
「このウェザリアに滞在しているのはこのウェザリアで学べそうな気象学を学びたいから、ですよね……勉学を教える先生をしている立場から言わせてもらえばこのウェザリアでは確かに高度な気象学を学ぶことは出来ます。しかし高度な物が多く、覚えるにはまず基礎的な気象学を覚えておかなければなりません」
「私達には不可能と言いたいのか?」
「いえ、時間を掛ければ一部は覚えれる事が可能です……私は先生ですので勉学を教えることは得意です。貴方達が賞金首の賊なのは理解をしております。無茶な要求をしていると言うのも……どうか彼女を、孔明を貴方達の冒険に連れて行ってくれませんか?」
ケンの口から出たのは孔明を私達の冒険に連れて行くこと……
「貴様ではいかんのか?……私はどちらかと言えば乗ってくれるならばお前が好ましい」
まだ他のウェザリアの住人と深く関わっているわけではない。
だが、ウェザリアの誰かを仲間にしても構わないと言うのであれば孔明でなくケンをスカウトしたい。
「ハハハ、いやぁ、高い評価を頂いて感謝します……確かに青海の大海原を駆け巡る冒険は楽しいでしょう。ですが、自分はその席を孔明に譲ってあげたいのです。今まで色々な子供を学者に育て上げましたが孔明が断トツで、もう既にウェザリアの創始者であるハレダスさん等の知識、洞察力を越えており私が教えた他の学問も直ぐに吸収する天才です」
「奴がか」
「ええ……彼女はまだまだ若い、ハレダスさん達はもう年老いている。そうなれば新しい時代の人間として彼女がこのウェザリアのあれこれを決めたりする人間の1人に選ばれます……コレは私個人の感想ですが、勿体無いんです。彼女をここに押し留めるのは」
まだまだ若いものの新しい世代としてしっかりと芽が開花している。
新しい世代の人間として孔明はこれからウェザリアを支えていくのだろうが、ケンはそれを勿体ないと認識している。
「彼女の才能ならばきっと何処でも食べていけるどころか組織を大きくする事だって可能で……ウェザリアだけのちっぽけな世界に押し留まるのでなく広い外の世界に出て思う存分にその力を発揮してほしい、彼女ならば貴方達が求めている航海士としてこの上なく充分な能力を持っております」
「……どうする?」
「私の旅の終わりは決めている。だが、基本的には諸国漫遊であり海賊と言うよりは冒険家に近い……己の意思で私についてくると言うのであれば私は迷うことなく手を取ろう。だが、お前が推薦したからと言う曖昧な理由で私についてくると言うのであればその手は拒むつもりだ」
私はルフィの様に気に入ったから仲間になれと言う時もあればその逆、己の意思でついていきたいと思わせてついて来てもらいたい。
ケンの推薦があれば孔明はついてくるだろうが、それはケンの推薦があったからこそだ。孔明の意思でついてきたとは言えない。例え奴が私達が今求めている航海士に必須な物を全て持っていたとしてもだ。
「第一、貴様はそれでいいのか?教え子が私達の様な賞金首になるのが」
「普通の海賊達ならば任せる気にはなりません……悪魔将軍さん、貴方ならあの娘を任せる事が出来ると判断したからです」
「ふん、会って間もない人間を早々に信頼し場合によっては悪に堕ちる可能性があるのに勧めるとはそれでも教師か」
「ハハハ……お恥ずかしい」
どれだけ綺麗な言葉で纏めて見繕っても私達は賞金首であることには変わりはない。
悪の道に走る可能性があるのを教育者としてしっかりと止めることも語り合ってどうにかする事も出来ずにどうすると呆れれば返す言葉も無いと苦笑いのみ返ってくる。
「将軍、誘わないのか?」
「無理に誘うのは好ましくない。特に私が誘えば嫌だと言えないだろう」
休憩を終えた後に再び農耕を再開し、その後に1日を終えようとする。
海賊を志して旅をした……と言うわけではないのだが、自警団の頃と大して変わらないなが違和感も疑問も抱かない。
貴虎が孔明を誘わない事について聞いてくるが、私の体には覇王色の覇気が込められているせいか無意識に圧迫感を与える。上の人間を前にしてNOと言えなくなっては元も子もない。
「……ふむ、少しトイレに行ってくる」
「奇遇だな、俺も……と言いたいが害意が無いから任せた」
トイレに行くと言い借りている部屋から出ようとすると貴虎も同じ事を考えていた。
トイレに行くがなにを意味しているのか分かっているので貴虎もついてこようとするのだが貴虎はなんなのか分かっているのでホントにトイレに向かった。
「わざわざこの様な夜更けになんの用事だ?」
私達が借りている小屋にやって来たのは……孔明だった。
悪意らしき物も激しい喜怒哀楽も感じ取ることが出来ないので害意は無いと判断した……だが、この様な時間に訪れるとはどういう事かと、万が一を考えながらも聞いてみれば孔明は頭を下げた。
「悪魔将軍、貴方に頼みがございます……どうかセンセイを、外の世界へ連れ出してはくれませんか?」