ヒトヒトの実 モデル超人種 ゴールドマンを食った男の話 作:アルピ交通事務局
「どうなのですか?」
「肺が非常に悪いですね……煙草や酒は?」
「先生はその手のものは手を出しません」
ケンが吐血をしたので街の病院にやって来た。
直ぐに病院でケンの容体を検査し、孔明が容体について聞いてみれば肺について悪いと言われており煙草や酒の類に手を出して悪化させたのかを聞くが、孔明はケンはその手のものには手を出さないことを知っているのでハッキリと使っていないと述べる。
「でも、おかしいですね……酒や煙草でないのなら、この肺の弱り方ならば病弱な肉体を無理に押したか急激な環境の変化を何度も何度も行っている者に起きる形でして。まぁ、無理な事をしなければ問題は無いかと。とりあえず点滴をうっておきますね」
「点滴?アレの実態はただの栄養価の高い砂糖水では?」
「入れるだけで割と元気になるものですよ」
病に対する特効薬や手術を即座に行うと言い出さずに点滴と言うので孔明は点滴の正体について知っているので医者を睨む。
点滴はざっくりと言えばスポーツドリンク、飲み物としては良いものではあるが栄養剤としては他にも色々とある。医者は入れるだけで割と元気になる物だと軽く流してその場を後にした。
「話はついた……ウェザリアは黒とは認定されなかった」
医者がその場を後にしたら今度は貴虎が現れた。
ウェザリアが海軍の正義執行対象になる可能性があったが、カトリーヌやゼファーが正義執行対象にしなかった。それを聞いてケンと孔明がホッとしている。
「だが、緩くて知識が無いからどうにかなっている所もあるから下手に頭の良い奴に捕まればなにを言われるかは分からない」
ゼファーやカトリーヌ達が妙なところが緩くて天気に関する知識が無いから一部が誤魔化せている。
賢い人間が居ればなにを言われるかは分からないので貴虎はあまり長居をすることは勧められない……ウェザリアは風の向くままに動く空島、動きたい時に動けない。
「……ケン。肺を病んでいる事を自覚して尚且つ隠していたな?」
「……貴方には敵いませんね……えっと」
「この姿の時はナイトールで頼む」
「ナイトール……ええ、その通りです」
「先生、病ならば治さなければ……幸いにもここは病院です。ちゃんとした医者がいらっしゃいますので治療を」
「いや、無駄だろう」
ケンは肺を病んでいる事に気付いていて隠しており、更にその先、どうして自分が肺を病む原因になったのかを気付いている。
幸いにも設備が整っている病院だからと孔明は治療を受けようと提案をするが私が無駄と否定すれば孔明は睨んだ。
「何故医学の心得が無い貴方がそう言えるのです?」
「簡単なこと。ケンは治す気が無いからだ……何処の世界に病を自覚し治さない愚か者が居る?ケンはハレダス達には及ばぬものの学者なのだぞ?治療に専念する事ぐらいは視野に入れるだろう」
「それは……」
「孔明、ナイトールを睨まないでください……ナイトールの言う通りです。私はこの病を治すつもりはないですよ」
「何故だ?病気であるのならば治すしかないだろう?」
病を治すつもりはないのだと読み通りの答えが返ってきたので貴虎が病気ならば治すものと認識しているので治さない理由が分からない。当然、病気である以上は治さなければならないが……ケンはそれを承知の上で言っている。
「自分が肺を病んでしまった原因は急激な環境の変化です……ウェザリアで暮らしている以上はどうしても青海との間に気圧差が生まれ、それらに自分の心肺が追いついていないのです。もし治療に専念しなければならないと言うのであれば自分はウェザリアを降りなければならない……それだけは出来ません」
「そんな……ただでさえ農耕で体を酷使しているのに、どうして……生徒が心配ならば、私も下天を致します!!」
「ハハハ……君は冷静で視野が広い子なのにこういう時は我儘を言って困らせますね、孔明」
「笑い事ではありません!」
肺を病んでしまった原因はウェザリアと地上との間にある気圧差等の急激な環境の変化に追いつけないこと。
ケンはそれを見抜いており、自分がウェザリアから出ていき治療に専念さえすれば何れは元に戻るのだろうがケンはそれを拒んだ。孔明は生徒達が心配ならばと自分も降りると言う。ケンは困った顔をして苦笑いをした。
「申し訳ありません……自分にはそれが出来ないのです」
「何故ですか?先生ならば仮にこの街でもやっていくことが」
「ええ、やっていく事が出来るでしょう……でも、それは自分が、いえ、私が心の底から望んでしたいと思った事じゃないんですよ」
「……何故拘る?」
ウェザリアで天気に関するあれこれを勉強するわけでなく農耕等をしている。
天気に関する勉強が出来ないわけではないものの、ケンはそれ以外の勉学について深く興味を抱いており熱心に学んでいる……それならばウェザリアに拘らずに外の世界に立つ。今は肺に病という爆弾を抱え込んでいるが、そうなる前に外の世界を見れた筈だ。
ケンが譲れない、拘る理由を聞きたい。
「……私には妹が居ました」
「妹?……先生の弟ならば会ったことはありますが、妹だなんて」
「知らないでしょう。それもその筈です。私の妹は幼い頃に亡くなりました、今の私の様にウェザリアと青海の気圧差にやられて。当時は弱っていく妹をなんとかして治せないのか頑張りましたがなにも出来ず、弱い自分を木偶の坊だと憎んでいました……妹は死ぬのが分かっていて怖いと言う思いがあったのでしょうが、それと同時に最後まで嬉しそうにしていました」
「嬉しそうだと?」
「ええ……どうにかしようと色々と手を尽くす私は外の世界の色々な物を持ち込みました。この野菜や果物があれば元気になる。このお話を聞かせれば、この音楽を聞かせれば元気になる。どれもこれも結果だけで言えば妹の体を救うことが出来ずなにも成果を成し遂げられなかった。でも、妹の心を救う事は出来たのです……物心ついた時からウェザリアに居て外の世界をまともに知らない自分に様々な外の世界を教えてくれたと」
病に苦しみ嘆くことはあれども嬉しそうにする事については貴虎は分からない。
なにが楽しかったかについてケンは語った……妹は外の世界について知らないがケンが外の世界を教えた。
「長い闘病の末に妹は死にました……私を含めて家族は幼い妹の死に悲しみました……特に私は、妹になにもしてあげられなかったと。失敗で終わった無能だと絶望に打ち拉がれていると声が聞こえたのです」
「声……妹の声ですか?」
「きっとその中に妹の声も含まれていましたね……笑い合う声でとても心地良い音色で、何処から聞こえるのか必死になって探せばそれは私が妹の為にと学んだ外の世界について、そして妹の為にと行った行為で喜ぶ無数の声でした……墓の前で誰も居ないのに聞こえる。今でもまだ聞こえるのです。温かい声が」
「……それは幻聴では?」
「親の望んだ立派な学者には馴れていない、身に付けた術を持ってしても妹1人救えない人間が大成するなんて烏滸がましい……幻聴ではない、今も耳を澄ませば聞こえる。その声が……私はその声を聞いていたい。そしてその声が聞こえる時は私がやっている行いなのです。周りからは私が聞こえる声は孔明の言う様に幻聴だと聞こえない、馬鹿の戯言に聞こえるでしょう……でも、私はこの最高の声を聞きたい、私にとって最高なのはこの声を聞いている時なのだと」
「っ……少し、失礼します……」
孔明は俯いた後に病室から出て行く……誰がなにを言ったとしても、ケンはその音を聞く為にウェザリアに残ると言う意志を感じ取った。このままなにをしたとしてもケンは病を治すことに専念せずに音を聞くことに集中する。
「その音色が聞きたいから孔明を送り出すのか?」
「……その音色は外の世界との交流から始まるもので、私が聞こえるのはほんの一部……孔明、いえ、生徒達には私が聞いた一部だけでなく私が聞こえなかった全てを聞いてほしいのです。決して私自身が音楽を楽しみたいが為に送り出すつもりはありません……きっと孔明なら、私が聞けなかった素晴らしき音を聞く以上の事が……ケホケホ……すみません、点滴のこともありますので少し仮眠を取らせていただきます」
「ああ」
どちらにせよ点滴が終わるまではケンは病室を出られないので仮眠を取ると眠りにつく。
ここに居ては邪魔だなと病室を出ていった。
「声が聞こえたとは、奇妙な話だな」
「……おそらくだが、奴は目覚めているのだろう。見聞色の覇気に」
妹を失った精神的なショックからケンは見聞色の覇気に目覚めている。
武芸は嗜まないので見聞色の覇気をコントロールすることは出来ていないが、それでも見聞色の覇気に目覚めているのは確かだ。
「見聞色の覇気は気配を感じ取るものじゃ」
「その認識で間違いは無い……だが、気配の方が色々と出来る。お前のメロンディフェンダーの素材になった盾も職人が魂を込めた結果、生まれた。強い意志が強靭な魂があるのならばそれは目にも耳にも聞こえないが見聞色の覇気でのみ感じ取れる。そしてそれはおそらく見聞色の覇気の中で最も感じ取るのが難しいものだ」
おそらくは1年ほどしっかりと修行をすればあらゆる声が聞けて判別する事が出来る優れた見聞色の覇気の使い手になる。
アレほどまでに有能な人材は死なせるには惜しい……そしてそれほどまでに有能な人材が推薦する者もまた惜しい。
「仲間が欲しいと認識している割にはどちらにも積極的に仲間になってくれと言わないな」
「終わり方は決めているが何時終わるか分からない冒険だ……そしてこの冒険は私の冒険だ。私の船に乗っている間は戦って死ぬ以外の死は許さない」
「そうは言うが、世界には未知の病気もある……例え病に苦しまなくとも先程のゼファー先生の様にロジャーの世代を生き抜いた猛者が老いによる衰退をしてしまっているぞ?」
「ふん、私がなにも考えていないとでも思ったか?……貴様はまだ成長するから手は出していないが全盛期と呼ばれる肉体となったのならばそこで時を止める。祭壇にダンベルを捧げ我が身が完全に消滅した後に我が船の者達の時計の針は動き出す」
何処までの冒険なのか分からないが私の船に乗ると決めたのであれば、戦って死ぬ以外は認めない。
ザ・マンが完璧超人始祖以外の完璧超人を不老にしていたがあれはマグネットパワーの恩恵だ。私の船に乗るのであればあまり使いたくはないがマグネットパワーの不老の力を使う。
「またぶっ飛んだものを……」
「安心しろ、終わりはしっかりと迎えるつもりだ」
ただし、その時が何時にやって来るかが分からない。
モンキー・D・ルフィ率いる麦わらの一味がロジャー世代の残党や神の騎士団達を打倒し、ラフテルに辿り着くよりも前かもしれないし、遥か後かもしれない。終わりはあれども終わるのが何時なのか分からない以上は早々に乗れとは言えない。
「どうやら彼は無事の様だな」
「…………先程までのアンパンマンの話は聞いていたか?」
「え、なにそれ?」
ゼファーとカトリーヌが現れたので先ほどまでの話を聞かれていたかどうか、特にマグネットパワーは洒落にならない物だから噛ましてみるがなに言っているんだ?と言う顔をしているカトリーヌ。言葉の揺らぎは感じないので話は全くと言って聞かれていない。
「聞いてないのならばそれでいい……」
「なによ、逆に気になるわね」
「ケンは学者だが色々な分野を嗜んでいてな、文芸に関して……とあるヒーローの話をしてやろうかと考えていたんだ」
聞いてないならばとそれでいいと貴虎が呟けば逆に気になってしまうカトリーヌ。
まだまだその手の技術が下手だが、口の上手さで誤魔化す事ならばどうにでも出来るとヒーローの話をしてやろうとすればゼファーがピクリと反応した。
「ほぉ、ヒーローか!そいつはまた面白そうな話だ」
「ゼファー、お前が面白いと思えるヒーローの物語ではない……だが、聞く者にとっては本物のヒーローと呼べる」
「どんな話だ?」
「なに、なんてことはない。ヒーローを名乗り、街をパトロールする……そしてお腹を空かせている子供を見つければアンパンで出来た自らの顔を千切って分け与える。時には悪者を倒すが、その悪者とも友達として仲良くなりたいと願っている」
「……なんだそれは?本当にヒーローなのか?ヒーローとは、悪を倒す正義の味方で」
「ならば、人類最大最悪の強敵である飢饉を救うのもヒーロー……腹を空かせている子供に自分は満腹だからと空腹を堪えて食料を分け与える者は悪を許さない絶対の正義の信念は持ってはいない。だが、誰かを救おうとし己の信念を押し付けるのではない寄り添う慈悲の心を持っている、それもまたヒーローなのではないか」
「……っ……」
ヒーローの話と言えばゼファーが嬉しそうにするが、アンパンマンなので自身の思い描くヒーローの姿とは異なる。
アンパンマンは世界を見ても異質なヒーローだ……だが、精神においては高潔なものである。
「正義とは己の身を削って損な役回りをすることもあるだろう……悪者を倒すだけのヒーローは二流だ」
「……そうか……」
「そうかも、しれないわね……ゼファー先生は海賊を倒す事は得意でもお腹を空かせている子供を助ける能力は無いから」
「カトリーヌ!?」
「まぁ、とにかく今からケンは点滴があるわけで日頃の農耕での疲れもあるから休ませてくれ」
ヒーローの姿を問われた際に異なっているものだがヒーローに相応しい姿であるとビジョンが取れた。
カトリーヌは確かにと納得をすることが出来ればゼファーが反応し……貴虎が幕を引いた。ゼファーもカトリーヌもケンが心配ではあったが、点滴をうって眠っていると聞けばなら大丈夫かと判断を下した。
「しょ……ナイトール、どうする?」
「世話になっているから次の道まではで通せ」
賊に拐われた行方不明の海兵が戻ってきた。このまま海軍本部に連れ去られそうな空気になるかもしれないと貴虎は方針を聞く。
ウェザリアに来て一ヶ月以上は経過しているのだからそこで色々と世話になっている。だから次の進路が決まるまでは行くことは出来ない……例えウェザリアが世界政府と関係無くとも恩義があると言うものを盾にすれば流石にゼファー達も無碍にする事は出来ない。