ヒトヒトの実 モデル超人種 ゴールドマンを食った男の話 作:アルピ交通事務局
狙撃手として自分の船に乗れと誘われたリグレットは自分の部屋で無言を貫いていた。
悪魔将軍が持ってきた話が魅力的だから、それに乗ってやろう!ではない……リグレットはただただ答えを探していた。
争いが無い世界があれば良いだなんて甘えた夢を持っている程に脳内がお花畑ではない。
海賊が暴れ、秩序を保つ為には国として認められる為に略奪を行っており、その為に海賊を利用している。やっていることは蛮族そのもので、自分たちはそうすることで明日に食べるご飯を手に入れる事が出来る。温かい布団で眠る事が出来る。
自分が生き残る為に他人に死んでくれと懇願して殺す……リグレットは自分の両手を見た。そして気分が悪くなり嘔吐した。
「真っ赤だ……こんなにも真っ赤だ……消えろ……消えろ、消えろ!消えろ!消えろ!消えろ!消えろ!消えろ!」
生き残る為に多くの命を殺めてきていたリグレット。
本来の彼女はとても理知的な女性ではあるが、世界が彼女を徐々に歪ませていった。大好きだった弟と平穏に過ごせていれば、こんな事にはならなかった。だが世界はそれを許さない。彼女自身に戦う才能があり、彼女はそれを開花させなければならない状況に自らで追い込まれており、気付けばその手は血塗れになっていた。
その手には一滴も血液がついていていないが何度も何度も手を洗うリグレット。
自分が生き残る為に見知らぬ誰かを殺した罪から逃れたいからこんな事をする?いや、違う。生きるか死ぬか分からない世界では今更な話だ。罪の意識から逃れたいわけじゃない。
「……助けて…………弟もこんな思いだったのか」
生きる為に海賊を殺し続ける、選ばれた使える人間のみしか国民と認められない。
歪な環境から抜け出したいと願って行動に出た弟は自分の手で殺めた……生きている、と言えない状況であり弟はこんな思いをしていたからこそ外の世界に出ようと海に出た。
※
「来たか……」
リグレットを誘った結果、リグレットはやって来た。
昨日の様に迷いを胸に抱いているかと思えば何処か吹っ切れた顔をしている……だがそれと同時に二丁拳銃を取り出した
「なんの真似だ、話を受けないのならば俺達は」
「確かにお前達の話は魅力的だ。惰性に生きている私にとって、世界や自分を変える一番のキッカケになるだろう……だが、それでもやらなければならない事がある」
二丁拳銃を取り出して戦う意思があるのかと思えば貴虎は戦極ドライバーを取り出す。
リグレットは私の話に魅力を感じていると認めているが、それと同時にやっておかなければならない事があると……銃を上に向かって撃った。
「悪魔将軍、私と勝負をしろ……お前はこの船の船長なのだろう。船長に必要なのは船員に船長である事を認められる事だ。コレから我の強い者達も船に乗るだろう。私もその内の1人だ。ならば、私に相応しい船長かどうか見せてもらおうじゃないか!」
「ふん……そう来たか。お前達、手は出すなよ……コレは船長としての仕事だ」
開戦の合図だと拳銃を撃った。
自分と戦って自分を屈服させてみろと言う課題を出した……相手は銃を使っているから何時もの様に天のダンベルを用いてリングを出す様な真似はしない。
片方の銃を撃ってリロードに時間が掛かるからとリグレットはリロードの為の時間を稼ごうとしたが私は動かない。
リグレットは撃った方の銃に新たに弾を装填する事を終えるが、その間になにもしてこない私を見て鋭く睨んだ。
「なんの真似だ?」
「そのままの意味だ……お前を相手にすると言うのであれば私はそれに答えるつもりだ。お前の胸の内が今はどういう風になっているかは知らないが、私は真っ向からお前を叩きのめす。お前がどの様な手を使ってもそれを真っ直ぐに破る。それがお前に対する最大限の礼儀だ」
「その様なやり方、広い海に出れば幾らでも背後を取られるぞ!」
リグレットはそう言うと目の前から消えた。
圧倒的な脚力で移動する……月歩を既に覚えていて、見聞色の覇気をも既に開花させかけている。コレは中々に鍛え上げられている証拠だなと思えばリグレットは上空を跳んでいた。
「魔神脚!」
月歩を使えるレベルの脚力を持っているという事は、他の六式を使うことも出来る。
誰かに教わったわけでもないのに嵐脚までも既に会得していて、蹴りによる飛ぶ斬撃を飛ばしてくるが私は軽々と受ける。
「技の威力は中々だが、その程度の威力ならばダイヤモンドパワーを使わなくとも耐える事が出来る……高速移動を用いての撹乱は見事だが、何時までそれを行える?貴様の渾身の一撃を当てない限りは、この私に傷1つつけられん」
「まだまだ小手調べに過ぎない……決まり手は既に決めてある!」
この程度の攻撃は鍛え上げた筋肉の前には通じない。
自らで挑んだと言うのにこの程度の情けない戦いしか出来ないのならばと呆れているが、既に決まり手は決めているとリグレットは嵐脚を何発も放つ……ふむ……
「悪魔将軍よ、お前は強いだろう!だが、それでもこの一撃はまともに耐えられない!!Xブラスト!」
リグレットはそう言うと一発を撃ち込んだ。それと同時に高速で移動して二発目も撃ち込んだ。
弾丸をも越える速度で移動をするからこの世界では銃が不遇な扱いをされるのだと感じつつも……ダイヤモンドパワーを用いて受け止める。
「硬度10ダイヤモンドパワー……!」
「将軍が膝をついた!?何故だ、あの程度の攻撃では倒れない筈だ」
ダイヤモンドパワーを用いて攻撃を受け止めれば体に痛みが走って膝をついた。
あの程度の技で倒される事が無いのだと貴虎は驚いていると孔明は鋭い洞察力を用いて何をしたのかを見抜く。
「彼女の技はXブラストと言っていました。Xと言う名の通り別方向から攻撃して、何処かで線と線が繋がる様に仕向けて攻撃が届く……将軍のダイヤモンドの力はおそらく体をダイヤモンドに変えるものですが全てをダイヤモンドに変えるものではないでしょう。金剛の筋肉の鎧の中に隠された臓器に衝撃を受けた……そんな所ですね」
「その通りだ……コレは私が悪魔の実の能力者、特に純粋なパワーアップをする動物系の能力者の為に覚えた技だ」
Xブラストの詳細について語った孔明に対してリグレットは否定せずに頷いた。
体に感じる痛みは表面上の肉体の痛みでなく内側の痛みであり、久しぶりにちゃんとしたダメージを負ったのだと感じる。
「フフフ……」
「なにがおかしい?」
「おかしいのではない、嬉しいのだ……悪魔将軍となって自警団を鍛えていた。教える側となり様々な技術を体得したつもりだが、まだまだ上には上が居るのだと言う事を知れてな。世界は広い、思わぬ技術を持った猛者が居ると予想していたが、まさかこうも早くに出会うとはな」
この痛みこそが戰いをしている証だと感じると同時に強さの果てに至ったと思っていたがまだまだ上があるという事が分かって喜ばしい。ダイヤモンドパワーの状態でダメージを与える事が出来た奴は貴虎以来だ……
「Xブラスト、見事な技術……だが、それで倒される程にこの悪魔将軍は軟ではない。ダイヤモンドソード!」
ジャキンと両腕からダイヤモンドソードを抜いた。
今まで攻撃を受ける側に立っていた私が攻めに入ると警戒心を強めているリグレットに対して私はビリヤードの弾を撃つときと同じ構えをする。
「牙の速さの奥義……海獣牙」
ビリヤードの玉を突くのと同じ原理で何もないところを突けば、目には見えない空気の塊が飛んでいく。
六式を独学で会得している事は見事ではあるがそこまでで、見えない空気の塊には気付くことが出来ずリグレットは突き飛ばされた。
「うっ……うぅっ……なにをしたんだ」
倒れ込んだリグレットは自分が何をされたかについて分かっておらず、立ち上がる事が出来ない。
自分がいったいなにをされたのだと聞いてくるので私は答える。
「刀、槍、斧、弓、鎖、牙の6つの刃物に通ずる地、海、空の奥義の1つ。腕等に装着する武器、牙を用いた本来であれば液体等を破壊する剣圧の一撃を与える技……その名も海獣牙」
自分が何をされたのかが分からないリグレット。ゆっくりと起き上がろうとするので私は一歩ずつ近付いていく。
血を流すレベルの大きなダメージを受けているがリグレットはまだまだ倒れるかとなっているので、私はリグレットの手に持っている拳銃を弾き落としリグレットに突き押しをくらわせればリグレットは意識を失った。
「Xブラストを受けた時はどうなるかと思ったが……流石は将軍だ。相手の技を受け切り、真っ向から倒した」
「攻撃そのものを回避するという手段を取らなくてどうするのですか……しかし、安らかに眠っていますね」
リグレットを俵担ぎをしてゼロ・オリジン号に乗せた。
貴虎と孔明は戦いについて色々と述べた後に、安らかに眠っているリグレットを見た。
「薬、持ってきたわよ……何処か憑き物が落ちてゆっくりと眠る事が出来ているみたいね」
傷があるリグレットに塗る傷薬や包帯等をロビンが持ってきた。
リグレットは寝息を立てているから死んではおらず、安らかに眠っている。その光景はまるで憑き物が落ちたと言わんばかりであり、ロビンと孔明が傷の処置を施した。
「……ここは」
「気付いたか」
ゼロ・オリジン号に乗せたが出航はまだしない。
意識を失っていたリグレットが目覚めれば……自分の両手を見た。手には色々と傷やタコが出来ていたが、それは私との戦いでついたものでなく、前々から付いていたものだった。
リグレットは自分自身が敗北したという事はあっさりと受け入れた……それと同時にポロポロと涙を流し始める。
悔し涙かと思ったがそれとは逆、嬉しいと言う感情が伝わってくる涙を流している。
「久しぶりだ……久しぶりに眠る事が出来た」
「眠っていなかったのか?」
「ずっと悪夢に魘されていた。明日が来るのがとても怖いのだと恐怖を感じていた……船長と戦い今まで心の中で淀んでいた全てをぶつけた。その結果だろうな、今はとても清々しい気分になることが出来ている。悪夢を見ることをせずに眠る事が出来たのは最高だ」
「そうか」
何処か憑いていた憑き物が落ちたかの様になるリグレット。
ゆっくりと眠る事が出来たと荒れていた感情から普通の感情に切り替わっており……リグレットは二丁拳銃を私の前に置いた。
「……」
「ありがとう……そして改めて、我が名はリグレット。バンエルティア王国随一の銃の使い手、魔弾のリグレットと異名を与えられるほど……これよりは貴方、いや、将軍様の船である悪魔超人軍に狙撃手として配下となり将軍様の冒険の力となりましょう」
自分は敗北をして心の中にあった憑き物が落ちていき、新しい一歩を踏み出すと決意した。
自分は貴方に忠誠を誓うという証だろう、愛用の二丁拳銃を自分の前に置いて忠義を示すポーズをとった。
「狙撃手として銃の腕を求められれば応えよう。女として求められれば応えよう……これよりはこの船の一員として力になろう!」
「貴女、切り替えが随分と早すぎではありませんか?」
リグレットは私に忠義を誓うと頭を垂れる姿を見せたのだが、孔明が少し戸惑っている。
つい先程まで一戦始めていたというばかりなのに、負けたからと言ってあっさりと手のひらを返したかの様にリグレットは動いている。
「……お前は、疲れていたんだな」
そんなリグレットを見た貴虎はボソリと呟いた。
リグレットは疲れていたという言葉を突きつけられたので数秒間の沈黙が流れた後にリグレットは頷いた
「変わる為のキッカケかなにかが欲しいと思っていて、それをする為の最初の第一歩を踏み出すことが出来なかった」
「将軍とぶつかって溜め込んだストレスを発散させて、これから色々とですか……なんと言うか、お疲れの様ですね」
「この島で生きていれば心身共に苦労するか心身共にバカになるかのどちらかだ……私は前者で、その苦労から解放された」
孔明が確かに疲れているなと納得してリグレットは苦しむ事はもうしなくても済むのだと肩の力が抜けた。
荷物を取ってくると言い出せば戦っていた場所のすぐ近くにリュックが置いてある……あまりにも手際が良いことからか、この船に乗るつもりだったか。
「この場合は宴か?」
「リグレットよ、1つだけ勘違いしているが……悪魔超人軍は海賊ではない。悪魔超人の開祖たる悪魔将軍と冒険を共にする者達の事だ。お前が船に乗るのは喜ばしい事だが……宴と言うわけにはいかん」
「と言うよりは、この船にはコックは居ませんので……とは言え、貴女が入ったのは喜ばしいことなのは事実です」
リグレットが新たに仲間に加わったことで宴がはじまるのかとリグレットが聞いてくるが、貴虎は補足しておく。
悪魔超人軍は悪魔超人軍であり、海賊ではない。世間からすれば危険な賊である事には変わりはないのだが、悪魔超人軍は悪魔将軍である私と冒険をしている者達だ。
「ふん!」
リグレットが悪魔超人軍に入ったので鬼出しの釜を出した。
貴虎と孔明は迷いなく手を入れて、リグレットも続くように手を入れた。グツグツと煮え滾っている釜の湯に手を入れれば火傷をするはずだろうが、リグレットはただ単にお湯に触れただけで、やけどの後は一切無く悪魔超人軍の一員になった証を示す事が出来た。
「さて……次の仲間を探すか」
残りは操舵手と料理人……腕のある物を見つけたいものだ