ヒトヒトの実 モデル超人種 ゴールドマンを食った男の話 作:アルピ交通事務局
悪魔の実、と言うのは色々と不思議な物である。その正体は人のこうであったらいいなという幻想が生み出した産物、もしくは歪な進化であり不自然が故に自然の母たる海に嫌われている。
オレが口にしたのは、キン肉マンに出てくるゴールドマンになる悪魔の実だ……ヒトヒトの実 モデル超人種 ゴールドマンと言うのが正しいのだろうがありえない。ゴールドマンと言う存在はこの世界には絶対に存在しない存在で、こういう風に進化したらと言うのはありえない。絶対に存在しない悪魔の実であり、やはりと言うべきかオレの為に用意されていた悪魔の実だった。
ゴールドマンと言うのはキン肉マンに出てくるキャラでも最強に相応しい実力を秘めている。
キン肉マンの作者が強すぎるが故にどういう風に倒そうとか悩んだり、シリーズのラスボスの中で一番強い扱いだ……まぁ、公式曰く最強のキャラは全盛期のプリンス・カメハメらしいが。
「……」
ONEPIECEの作者である尾田栄一郎は空を飛ぶ能力に関してスゴく厳しく規制をしていたりする。
フワフワと浮かぶ能力はある。ロケットの様なジェット噴射を利用して一時的に飛ぶ技術はある。だが、空を自由自在に飛ぶことは出来ない様にしている。
しかしゴールドマン、と言うか超人になったオレは普通に空を飛べる。ドラゴンボールの舞空術の様に意識をすれば軽々と空を飛べる様になった。意識をすればと言っているが自転車を漕ぐのと同じぐらいの感覚で空を飛んでいる。
「……オレの為に作られただけはあるか」
あの悪魔の実はオレに食べさせるために仕向けたもの。
弟が食べていたら弟がゴールドマンになっていたのだろうが……何かしらの形でオレが食すことになるかもしれん。弟が死ぬと言う事も普通にありえたわけで……その状況だけは避けなければならない。
「ミュース、ムキムキになったな」
「それが悪魔の実か」
「スゲえな」
悪魔の実についてはふわっとしか知らない村の人達だが割とあっさりと受け入れてくれる。
オレに対して向けている視線は色々とあるが決して悪いものじゃない……だが……むぅ……
「下品だな」
「まぁ、そりゃね」
海賊達の処理を任せて海軍に売払い日常は戻る。体格がいきなり変わったことに違和感を抱くのだがそれよりもと今の自分について一言、下品としか言えない。
ゴールドマンと言うだけあってか頭部が純金で出来ている。純金で出来た頭部、仮にこれがプロレスラーのマスクで純金でなければ中々にいい顔だったが、純金の頭部なので品性を感じない。
動物系の悪魔の実はオン・オフが出来る筈だが、それが出来ない。ヒトヒトの実を食べたルフィやチョッパーは能力を発動するぞ!と能力を発動する事が出来てない。オン・オフが効かないが逆にセンゴクはオン・オフが通じている。謎だ。
「…………」
「どうしたの?」
「……話がある。とても大事な話だ」
食事を終えて皿洗いをしながらも色々と考えた。その結果、1つの答えを導き出す。
とても大事な話でオレ達兄弟にとって今後を左右するとても大事な話だ。頭部が純金で出来ているが故に表情が読みにくいかもしれないが弟は何時になく真剣な声を出しているオレに反応し即座に椅子に座る。
「どうしたんだい?兄さん?」
「オレはこの村を出ようと思っている」
「え!?」
色々と考えて導き出した1つの答え、それはオレはこの村を出ようという決意だ。
別に畑を耕したりして命を育む事について不満を持っているわけではない。オレの中で実に充実した日々だと実感している。
「どうして急に、まさか海賊になりたいなんて言い出すんじゃないだろうね?」
「海賊には憧れん……外の世界に冒険のロマンがあると言う事については否定はしない。しかし、そこにある物よりもお前と過ごした日々の方がオレにとっては宝だ」
「なら……」
「オレは目をつけられた。海軍や世間に」
ここでの日々について不満は無いどころか実に充実している……だが、形はどうあれオレは悪魔の実を口にしてしまった。
悪魔の実の能力者を軽々と殺せる別格の能力である悪魔の実を口にした。海賊の首を海軍に渡したが為にオレは海軍に目をつけられた。
「これから先、海賊はこの村に立ち寄る。この村自体になんの価値も無い……だからこそ、この村は狙われやすい。オレは戦う力を手にし、理不尽に抗える。海賊達を倒すことは容易いだろう……だが、それだけだ。そこから生まれる様々な余波は隠しきれない」
力を持っているが故に畏怖される。力を持っているが故に責務に問われる。力を持っているが故に様々な問題を生み出してしまう。
ここに居ては村の連中が腐るとは言わない。オレ自身が腐るとも言わない。だが、世間はとっくの昔に腐敗している事実は隠しきれない。腐ったミカンはペニシリンには出来ても、食べれるミカンには出来ない。そして腐ったミカンは他の物を腐敗させてしまう。
「人は良くも悪くも変わってしまう。特に強い力を持っていれば……お前にとってオレがどういう風に見えているかは分からないが、おそらくはオレもこの悪魔の実の力に飲み込まれる」
「飲み込まれるって、ミュース兄さんが!?」
「驚くことはない……少なくとも、オレはこの力でなにが出来るのか?と言う探究心に飲み込まれている」
既に充分なまでの怪力を手に入れたが、それだけではリキリキの実と同じだ。
ゴールドマン、いや、超人の力を使えるのだからそれについて色々と知りたいという欲望には駆られている。人の本質は闘争だ。闘争の末に分かり合う心もあれば闘争の末に差別する心もある。
「そう、か……」
「オレは近い将来……いや、違うな……オレはお前の知っている兄じゃない」
「え?」
「長い間、黙っていてすまない……オレはお前の知っている兄ではない。お前の知っている兄の肉体を借りた別の誰かだ」
この村から出ていくのだから清算するところはキッチリと清算しなければならない。
コレを言うことについては1つの恐怖を抱いている。ミュースと言う男の肉体を奪った……仮にこのミュースと言う男の肉体がオレの為に用意された物としても、オレが現れるまで過ごしていたミュースと言う部分を弟は知っていて、弟はそのミュースを兄と慕った。
「…………知ってたよ」
「……なに?」
「あの日から兄さんが変わっていたのはなんとなくで。僕の知っているミュース兄さんとはどうも違うなって」
「ならば何故……」
「……貴方が僕の兄であろうとするからだよ」
「兄を侮辱しているのでは?」
「かもしれないね……でもね、貴方もミュース兄さんも僕にとってはかけがえの無い兄さんなんだ」
弟は気付いていた。オレがミュースと言う男でない事をなんとなくで。しかしその事について今まで問い詰める事はしなかった。
オレならば問い詰めていた。弟は落ち着いている性格ではあるが怒るときはしっかりと怒る。兄を消したオレについて憎しみの感情の1つでも抱くのが道理だろうが、弟は憎しみの感情を向けておらず……オレを兄として慕っており、受け入れていた。
オレが弟に情けない兄になりたくないと兄として動こうという行動を弟は見抜いていた。弟にとってミュースは兄である。だが、オレもまた弟にとっては兄である。
「きっと僕だけじゃとっくの昔に終わっていた。ミュース兄さんだけじゃとっくの昔に終わっていた。兄弟2人が手を取り合う事で成長が出来た……この時間が永遠と続けば良いなんて思うけれど、何時かは終わりを迎えてしまう」
「……」
「ミュース兄さん……僕も島を出ていくよ」
「何故だ?お前はここで幸せに」
「ここに居たら、僕もダメになってしまう気がするんだ……ああ、安心してよ。海賊とか海軍とかにはならないよ。ただ少し大きな街に出て普通に過ごしていく。ここに居たら、きっと兄さんの事を思い出してしまう。それじゃあ何時までたっても一人前にはなれない」
オレは強過ぎる力を手に入れてそれに飲み込まれそうになっている。その為に弟に迷惑をかけるわけにはいかないから出ていく。だが、力を持たない弟が出ていく理由が分からない。
弟は別に巨万の富等を望んでいない。ただ、1人で立ち上がって歩いていくにはここは眩しすぎる。オレが居なくなっても問題無く歩いていく事が出来るようになるにはオレとの思い出は胸にしまい、次に進んでいく。
「そうか……今のオレは空を飛ぶ事が出来る力を持っている。悪魔の実を売ったお金を全て託しお前を新天地に運ぶ」
「全てって、そんな」
「オレは最初に向かう目的地がある。そこならば誰にも迷惑をかけん。だが、逆にそこでは金など大して意味を持たない。なによりも、弟を貧しさで苦しめるのはオレの性に合わない」
まだ9800万以上残っている悪魔の実を売った金を弟に託す。弟はオレにも少しは持っていた方がと言うが、オレの次の目的地は決めている。金など大して役に立たない場所だ。そして何よりも弟に貧しい思いをしてほしくない。
「オレはオレが誰だか分からない。まるで最初から何もなかったかの様に……お前がオレを兄と呼んでくれた。オレがお前の兄でないのだと薄々気付きながらもだ。それが今のオレを作り出している……今生の別れになる事は確かだが、オレはお前の兄であった事を誇りに思う」
「僕もだよ……僕もミュース兄さん、いや、ゴール・D・ミュースの弟であった事を誇りに思う……兄さんはこれから何をするかは分からない。けど、その圧倒的な力に飲み込まれない強い人間として生きていてほしい」
オレは弟に平穏だが幸福な日々を送っていて欲しいと願った。
弟はオレに、オレが手に入れた悪魔の実の力に飲み込まれない強い人間として生きてほしいと願った。
「……」
翌日、弟を都会に運んだ。
ローグタウンと言う街で優秀な海兵が駐屯している……ローグタウンと言う街、そして弟の名前から分かることに弟はおそらくは海賊王ゴールド・ロジャーの父だろう。オレと弟以外にゴール・Dの名字を持った人間は居ないのだから。
「……結局、その名を呼ぶことが出来なかったか」
弟にもしっかりと名前があった。だが、その名を呼ぶことが出来なかった。
一度もだ……オレがミュースと言う人間になっていると自覚はしているが、それと同時にミュースと言う人間でない別の誰かであることもまた理解している。弟はオレに無償の愛を向けて慈悲の心も向けていた。
「ふっ……オレがゴールドマンならば、弟はきっとシルバーマンだっただろう」
天使たる完璧を倒す為に悪魔となったゴールドマンがオレなのは分かる。ならば、弟は慈悲の心を求め他者と分かり合い尊重する精神を抱こうと教えを説くシルバーマンだ。
ゴールドマンの悪魔の実がオレの為に用意しているならば、あるいは世界の何処かにシルバーマンになれる悪魔の実が存在するかもしれない……これからオレは変わろうとする。弟も変わろうとする。仮に海賊か海軍になっていたのならば、天上の兄弟喧嘩が起きていたかもしれんな。
「……向かうか」
弟にも言ったように、今のオレはこの力を試してみたいという欲求に駆られている。
強い力を持っている超人ならば弱い人間を守ろうとする考えを持つだろう……だが、守られてばかりでは甘えてしまう。勿論、誰かが守ってやらなければならないという考えは否定はしない。だが、守るだけでなく守られた人間が立ち上がり強くならなければならない。
オレはゴールドマンの飛行能力を使い、目的地に向かって飛んでいった