ヒトヒトの実 超人種モデル ゴールドマンを食った男の話 作:アルピ交通事務局
「ふん」
「船長さん!?」
ぐつぐつと煮え滾る鬼出しの釜を出して手を突っ込んだ。
見るからにでなく実際に熱いと熱気が伝わっているのでなんの迷いもなく手を突っ込んだ事にワトソンは驚いているのだが、私は大して気にしていない。
「ワトソン、カレン……貴様達はこの後になにをしたい?」
偶然にもゼロ・オリジン号に乗船したワトソンとカレン。
宗次の時とは異なり正式な乗員としては認めていない……しかし、この2人は次の島に辿り着いたからとはいそうですかで降りない事はこの数日で分かったことだ。
だからこそ私は鬼出しの釜を出した。
宗次とロビン以外はこの鬼出しの釜に手を入れた事はある。この鬼出しの釜の中には煮え滾る熱湯が入っている。普通であれば火傷をするのだが、私と共に最後まで冒険をする覚悟を決めた者にとってはただのぬるま湯だ。
「なにがしたい、ですか……」
「この船に乗っている者はそれぞれ悩みや問題は抱えている。中には私に忠義を誓っていない者も居る。だがそれでもこの船に乗って旅をしている間は私の冒険を見届けるという覚悟が出来ている。その覚悟が出来ている者にとってはこの煮え滾る熱湯はぬるま湯だ」
私はそういうと鬼出しの釜から手を出した。
火傷らしい傷は一切ついていない。私は私の冒険を見届ける為にここに居る。なんの為にこの世界に転生させられたかと過去に何度か考えたことはあるが、今となってはどうでもいい。私はこの世界に1つの命としてしっかりと生きていて、終わりを求める冒険をしている。
「カレンよ……貴様の故郷である魚人島は白ひげの縄張りだ。奴が旗を貸す事である種の抑止力が生まれている……しかし、それでも暴動が起きているのを知らないわけではあるまいな?」
「それは……」
「ここは楽しい冒険家の船ではない。時には血も涙も慈悲もない相手を1人残らず殲滅する事もある悪魔超人軍だ……この船に乗りたいと言うのであれば拒みはしない。しかしこの船に乗るというのは冒険を続けて私と共に駆け抜けると言う事だ」
海賊の中にはシャンクス、白ひげ、ルフィと話し合いが通じる奴は居る。
しかしそれは本当に極少数、限りない少数派でビッグ・マムやカイドウの様に力にものを言わせている勢力が多い。
私達悪魔超人軍がどちら側かと聞かれればどちら側でもある。
どうでもいい相手にはいちいちくだらない喧嘩はふっかけない。だが、この前のオークション会場襲撃からの金品の強奪の様に誰の目から見ても悪事としか思えないことも時には平気な顔でする。
全員がそれが正しいことや楽な事とは思っていない。しかしそれでも悪魔超人軍の面々は私に従う。私を船長と認めているからだ。
※
「皆はこの釜に触れても問題は無いのよね?」
「ええ……沸騰した煮え滾る湯が入っていますが、どうにもぬるま湯と同じ感じがします」
鬼出しの釜についてカレンは孔明達に聞いた。
自分が鬼出しの釜に手を伸ばせば中に入っている煮え滾る熱湯が蒸発した水蒸気に当てられてあまりの熱さに手を入れるどころの話ではない。もしかしたら悪魔将軍が我慢して鬼出しの釜に手を入れているんじゃないのかと疑ったのだが、孔明はこの通りですよと鬼出しの釜に十数秒手を入れた。煮え滾る熱湯に手を入れたのならば火傷の1つでもする筈だが孔明の手は全くと言って無傷だった。
「ふぅむ、不思議な釜ですな。船長さんの悪魔の実の能力かなにかで?」
「おそらくはそうだろう……お前達がそれに手を入れてなにも問題は無いようにしたいのだろうが、あまりオススメは出来ないぞ」
鬼出しの釜が不思議な物だとワトソンは感じ、悪魔将軍の能力かとリグレットに聞けば頷いた。
鬼出しの釜がここにあるという事は悪魔将軍がワトソンとカレンに悪魔超人軍の1人として仲間になるには鬼出しの釜に手を入れてもなにも問題は無い状態にしなければならないと言った事を予測し、先にオススメは出来ないと忠告をする。
「どうして?貴女達は平然と触れているじゃない」
「カレンの嬢ちゃんよ……お前さんは覚悟は出来てるのか?」
鬼出しの釜に手を入れてもなにも問題は無い状態でなければ悪魔超人軍の一員ではない。
カレンとしてはなんとかと思っているのだが、リグレットにやめたほうがいいと言われた。しかしそれではいそうですかで納得することはカレンは出来ない。
普段のひ弱でミーハーなハヤトでなく舵輪を握った事で1人の男として船を操作している本気モードのハヤトがカレンに覚悟が出来ているのかについて聞いた。
「将軍の旦那は何時かはラフテルに向かうつもりだが、そこまでラフテルに執着してねえ……オレ達は故郷を出て、世界中を走り回って諸国漫遊の冒険をすると決めてんだ。その冒険は普通の冒険じゃねえし、この通り賊になる覚悟が出来てねえと……将軍の旦那の冒険が終わるまで付き添う覚悟がねえと出来ねえんだよ」
ハヤトは自分の手配書を含めた5枚の手配書を置いた。
悪魔将軍、貴虎、リグレット、宗次、そして自分……既に世間には賞金首の海賊として認知されている。悪魔超人軍に入って悪魔将軍と冒険を共にするという事はこの汚名も時には背負わなければならない事なのだと少しだけハヤトはカレンを威圧する。
「……」
威圧されたカレンはハヤトの覇気に怯えはしなかったが、この船に乗るというのがどういう意味なのかについて改めて考える。
5人の手配書を確認する。もう一端の海賊団に相応しい賞金額であり……オークション会場を破壊した時の事を思い出す。オークション会場を破壊して奴隷として売られていた珍しい種族の人達を助けてくれたのはカレンにとっては救世主の様に見える。
しかし実際のところは、悪魔将軍はオークション会場を滅茶苦茶にして金を持っている連中から金を奪ってやろうという物騒な考えで動いており、結果的には自分は救われた。そして悪魔将軍の目的である金を得ることが出来た。
「悩んでますな」
「ワトソンさん……貴方はどう思っているの?」
このまま悪魔超人軍の1人になるか、それとも泳いで魚人島に帰るかの2択に迫られているカレンにワトソンは声をかけた。
カレンはこのままどうすべきかと悩んでいる。手配書や新聞を読んで悪魔超人軍は正義の味方でも何でもない事は分かった……ワトソンも鬼出しの釜に手を入れる事はしなかった。いや、出来なかった。自分と同じく煮え滾る熱湯の熱気にやられて手を入れる事が出来なかった。
「そうですな……この船も悪いもんじゃないとは思いますね」
「悪いもんじゃないって、そんな呑気な」
「お嬢さんは正義の心を持っている……だから悩んでるでしょう」
カレンの質問に対して悪魔超人軍の居心地は悪くはないと答える。
呑気な答えを求めていないとカレンが主張しようとすれば、カレンの心の中に眠っている物、正義の心についてワトソンは指摘した。
「食事をしている時や動きの所作の1つ1つがしっかりとしている。言動も真面目で……こういう所には向いてないね」
品行方正で真面目である。少しだけ過ごして分かったカレンの性格をズバリ見抜いたワトソン。
世間では悪として数えられている悪魔超人軍には向いていないなと感じ取っており、向いていないと言われたことでカレンの心の中にあった迷いの様な霞が晴れていく。
「……確かに、そうね……私、こういうところは向いてないわ」
「でも、ここならばと思ったんでしょう?」
「……ええ」
品行方正で真面目で正義の心を宿しているカレンに海賊として扱われている悪魔超人軍は向いていない。
改めて考えれば自分は悪党に向いていない性格をしているとカレンは認めた。だがワトソンはそれでもこの船ならば安心して乗れると思って乗船したことを聞けばカレンは頷いた。
「ワトソンさんは……宗次が乗っていたからよね」
「ええ、まぁ……侍が気になったもんで……私自身もどうすべきかは悩んでるね」
ワトソンがこのゼロ・オリジン号に乗ってきたのは侍である宗次が乗っていたから気になって便乗して乗ってきたからだ。
貴虎の治療をしたから今は特になにも言われていないが……ワトソン自身もどうするべきかを悩んでいた。
「私は医学を納めて、決戦の日まで医学で戦おうと思ってます……けれど、それが終わった後にはやることはありゃせん。だったら、このままこの船の船医になって各地を転々として医学を学ぼうってのも面白そうではありそう」
「医学……」
ワトソンはこの船の一員になっても構わないかなと心が揺れ動いていた。
戦闘能力にはあまり自信が無く、医学で他の面々をフォローしようと考えていたのならば、この船で学んだ医術を発揮する。決戦の日がやってきたとして、きっと悪魔超人軍はそこに連れて行ってくれる。その決戦の日の戦いが終わったのならばワトソンには使命らしい使命は無くなる。この船に船医は居ないので、船医として活躍するのも悪くはないとワトソンは考えている。
カレンは医学と言う言葉に反応を示した。
賢い魚の代表格であるイルカの中で最も賢いと言われるバンドウイルカの人魚なだけあってかとても賢く、本人が自主的に勉強をするタイプである。
勉強をすることの喜びや楽しさを知っている。まだまだ未熟なところはあるがその辺の医学生には負けないぐらいには医療の心得があると思っている。
医学を学んでみたいという探究心はある。
だがこのまま魚人島に引きこもっていたりしては学べる医学に限界が見えており、更には治せる相手も魚人や人魚だけになってしまう。
「この船が悪くない、一緒に冒険をしたい、そう思ってるんじゃないのか?」
「ええ……でも……」
心の中で、海賊は野蛮で危険な存在だと思っている。
悪魔超人軍はそういうタイプの人間ではないのは分かっているが、それでも心の中で人間が怖いと思っている自分が居る。実際にマクロ一味に捕まっては奴隷として売られかけたのだから否定する要素は無い。
「ふん、甘えた考えだな」
「船長さん……聞いてたのですか?」
迷いがある中で悪魔将軍が現れた。
ワトソンがさっきまでの話を聞いていたのかについて聞くが悪魔将軍はそれに答えず、カレンに話しかける。
「この世界は理不尽と狂気に満ちている世界だ。安全を求めての冒険等、不可能に等しい」
「……」
「私を含めて賞金首になった者達、いや、この船に乗ろうと決めた者達は皆、覚悟を決めている……曖昧な気持ちでなく、しっかりとした覚悟が無ければ悪魔超人軍には入れない」
「……貴方は、正義の味方じゃないわよね」
「当然だ。私は悪魔将軍なのだぞ?」
覚悟を決めることが出来ないカレンに、覚悟が無い奴は乗船する資格が無い事を改めて伝える。
カレンは悪魔将軍に正義の味方じゃないのかを聞けば悪魔将軍は頷いた。自分は悪魔、悪党だと認めた。
「貴様達はそもそもでなにをしたい?……この船は海賊にありがちな
「…………私は医者だよ。怪我をしている仲間が居るのならば、医者としてしっかりとした治療を施す……船長さん、いや、将軍さん。釜を出せるかい?」
なにがしたい?と言う問いかけに対して、ワトソンは自分は医者であり医者として病人を治療すると主張をする。
ワトソンは覚悟を決めることが出来たと鬼出しの釜を出してくれないかと聞けば悪魔将軍は鬼出しの釜を出した。
「将軍さん、何れは決戦の日がやってくる。あんたならそれに参戦するだろう……だから、それが終わった後も船医としてあんたの冒険に付き合おうじゃないか」
ワトソンはそう言うと鬼出しの釜の中に手を入れた。
グツグツと煮え滾る熱湯が入っている釜だったが、ワトソンは全くと言って熱さを感じることなく引きあげた。
「後は貴様だけだ……チャンスは1回だけだ。2回あると思うな」
ワトソンは覚悟を決めて鬼出しの釜に手を入れた。
やけどを一切せず、悪魔超人軍の1人になったのだがまだカレンは終わっていない。カレンに最初で最後のチャンスを与える。
「あくまでも私の冒険を最後まで付き添う覚悟こそが火傷をしない条件だ。ただ私に傅き頭を垂れるつもりであれば火傷はする」
改めて悪魔将軍は鬼出しの釜の煮え滾る熱湯に手を入れて火傷しない条件を述べる。
ただ悪魔将軍を最高だと太鼓判を押すだけの者は悪魔超人軍には入れない。悪魔将軍の冒険を最後まで付き合う覚悟があるかどうかが重要だ。
グツグツと煮え滾る熱湯が入っている釜を見てカレンはゴクリと息を呑んだ。
普通に手を突っ込めばれ如何に人魚と言えども火傷はする。しかし本当に覚悟がある者ならば火傷はしない。それはワトソンや他の悪魔超人の面々が見せた。
「私は……この船に乗って冒険をしたいわ……汚名を被ることになるかもしれない。極悪な海賊を相手にするかもしれない。正義とは反対の道を歩むかもしれない。けど……外の世界を見て医学を学んで色々なことをしてみたい」
カレンはゆっくりと手を伸ばして鬼出しの釜に入っている熱湯に手を入れた。
グツグツと煮え滾る熱湯にカレンは最初は怖いと思っていたが、煮え滾る熱湯に手を入れても全くと言って熱さを感じなかった。カレンは鬼出しの釜の煮え滾る熱湯につけていた手を離した。その手は煮え滾る熱湯に手を入れる前となんら変わらない美しい手だった。
「どうやら覚悟は決まった様だな……ワトソン、カレン。これよりお前達を悪魔超人軍の船医に任命する」
「船医って、2人ですが」
「ワトソンは男でカレンは女……同性の方がなにかとやりやすいだろう。2人はあくまでも主治医だ、何れは作業を補佐する看護婦の様な者も仲間にするから船医としてしっかりとしておけ」
悪魔将軍はワトソンとカレンが仲間になったことが分かれば役職を与えた。
2人とも船医だ。ワトソンは主に男性を診る。カレンは主に女性を診る。何れは色々な補助をする看護婦の様なアシスタントを仲間にするから船医としてしっかりとしておけと一言だけ釘を差した。
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