「と言うわけで貴方達にはキテレツ斎様の脱獄を手伝ってもらいます」
「ふむ……なにをしろと?」
悪魔将軍が派手に動くわけにはいかないと雑渡昆奈門はザウス達に頼み事をする。
キテレツ斎の脱獄を手伝ってもらうと言うのだが、直接座敷牢に突っ込んで破壊するという事はしない。ザウスはなにをするのかを聞けば昆奈門は小麦粉を持ってきた。
「この小麦粉は……見たことがない小麦粉だな」
「この小麦粉はキテレツ斎様が品種改良した麺類特化の小麦粉です」
「麺類特化?」
「切り方、茹で具合、焼き方、炒め方で様々な麺料理に変わる万能な小麦粉。この小麦粉で作った麺料理は全て全麺と呼ばれる物で、万能な麺になる」
「ほぉ、それはまた面白いな」
小麦粉を確認して見たことがない品種の小麦粉だと気付くザウス。
昆奈門はただの小麦粉でなく、あらゆる麺料理の麺に変化する全麺用の小麦粉だと聞けばザウスは料理してみたいという料理人としての探究心が疼く。
「それで、どうするのですか?」
「キテレツ斎様が捕らえられている座敷牢には常に誰か1人が監視役としてついている。同じ人がずっとついているわけではなく、ローテーションで回している……キテレツ斎様自身は暴れることをしない。キテレツ斎様を助け出そうという物好きはいない」
「その物好きは私達ですが」
小麦粉を使って麺を作ると言われてもイマイチピンと来ない孔明。
昆奈門は監視役について軽く語れば孔明は少し揚げ足を取るが昆奈門は気にせずに話を続ける
「監視役の1人に無類の麺料理好きが居るのですよ……監視中の食事は簡易的な携帯食で口が寂しい、そこで全麺を用いて様々な麺料理を振るい続ける」
「椀子そばと言う料理の様な事をしろ、という事だな」
「椀子そば?」
「一口で食べ終えれる量の蕎麦を無限に食べさせる料理だ」
作戦の内容について語ればザウスは監視役の人間を椀子そばの様に無限に麺料理を食べさせ続けるのだなと分かった。
椀子そばと言う言葉を知らない孔明はなんですかとザウスに聞けばザウスは椀子そばについて軽く答えた。
「脱獄用のルートについては既に算段はついています。重要なのは美味い麺料理を無数に作り続けて食べさせる事で監視役の注意を惹きつける事……可能ですか?」
「ふ……誰に物を言っている?」
料理を用いて相手を黙らせることなど、料理王と呼ばれるサウスにとっては日常茶飯事だ。
ザウスは小麦粉をテーブルの上に広げて生地を捏ねる。
「ふむ……あらゆる麺料理の麺になるというだけあってか特殊な調理が必要だな」
生地を捏ねている中で通常の麺料理の麺とは異なる生地を捏ねているのだなとザウスは感じ取った。
コレは久々に苦労する料理だなと黙々と生地を捏ねて捏ねて捏ねて……半日かけて生地を捏ね続ける事で全麺の生地を完成させた。
※
タソガレ王国の外れ。
キテレツ斎が収容されている座敷牢は、外から見れば極めて質素な建物だった。しかし、警備だけは厳重である。
座敷牢の前には常に一人の監視役が配置されている。交代制ではあるものの、監視役が一人しかいない以上、そこから目を離すことは許されない。
「……退屈だな」
監視役の男が小さく呟く。
目の前には座敷牢。中にはキテレツ斎。逃げ道などない。だからこそ監視役に求められる仕事は、ただ見張ることだった。
「腹減った……」
監視役の男は懐から簡素な携帯食を取り出す。
普段ならばこれで我慢するが、やはりと言うべきか美味い飯にありつきたいというのが本音だろう。
「失礼します」
「んん?なんだ?」
「コレをどうぞ」
携帯食で空腹を紛らわせていれば孔明が現れた。
孔明はお椀を1つ、監視役に渡せばなんだコレは?と疑問に思っているとその中に1つのラーメンが入った
「こ、これは!?」
「相手が動かないのに待っていなければならないのはさぞや退屈でしょう。酒の一つでもと言いたいですがそれは職務放棄、この国の珍しい小麦粉を使って色々と麺料理を作ってみましたので如何でしょうか?」
「た、食べてもいいのか!?」
「ええ、勿論です……ザウス」
「様々な麺料理を用意しよう」
「じゃあ、お言葉に甘えて……まずはシンプルなうどんだ!腰がしっかりとしてて美味い!……あ、でも物足りない」
孔明とザウスによる麺料理の誘惑に監視役は見事に引っかかった。
監視役はうどんを一回啜れば食べ終えてしまう。コレでは物足りないと言えば孔明は即座にお椀に麺を入れる。うどんではない。今度は素麺だ
「今度は素麺か……うん、美味い!さっきのうどんと違ってするりと入ってくる」
「まだまだ無数に麺料理を作るが、なにかリクエストはあるか?」
「やっぱラーメンが食べたい」
「成る程。ならば無数のラーメンを用意致しましょう」
麺の誘惑に見事に乗っかっている。
孔明がお椀に麺料理を注ぐ。ザウスは物凄い速さで麺料理を作っていく。監視役の男は麺料理を食べている。
「これは……」
座敷牢で眠っていたキテレツ斎は騒いでいる声に気付いた。
監視役が麺料理を食べては美味い美味いと満足そうにしており、本来の仕事である自分の監視を怠っている。急にこんな事があるだなんてありえないと思っていると自分が眠っている布団を敷いている畳が動いた。
「!」
「静かに……お迎えに参りましたよ、キテレツ斎様」
畳の下には人が通れそうな穴があった。
雑渡昆奈門が1日かけて掘り進んだ抜け穴であり、昆奈門が顔を出せばキテレツ斎は声を上げようとする。しかしキテレツ斎に黙るようにと昆奈門は言えばキテレツ斎は昆奈門が自分を助けにやって来たのだと気付いた。
「昆奈門……」
「貴方がこのままSSGに行くなど私は見過ごせません……少々変わった面々でありますが、協力者が居ます。ここを出てバルジモアに向かいましょう」
「……すまない。昆奈門……私のために」
「貴方に命を救われたのならば私が今度は貴方の命を救う番です」
自分を脱走させたのならば、きっと昆奈門はタソガレ王国の特殊工作兵をクビになる。
それをキテレツ斎は直ぐに察した。しかし昆奈門はそれがどうしたと特殊工作兵をクビになる事を動じない。
「取りあえず、キテレツ斎様を模した人形を布団に寝かせてきますね」
「ああ……だが」
「奇天烈大百科、ですよね?……協力者がそれに気付いて全て回収しておりますよ」
自分がいなくなっても奇天烈大百科がタソガレ王国に残ってしまう。
特殊なインクを使っている為に普通の人には見えず専用の眼鏡がなければ読むことすら出来ない。しかしその存在は知れ渡っており、なにかの拍子でタソガレ王国の面々が奇天烈大百科がなんなのかについて気付いてしまったならばと危惧するキテレツ斎だが、悪魔将軍が既に奇天烈大百科について気付いており、全て回収済みな事を報告した。
「流石は昆奈門、用意周到だ」
「いえいえ、私にかかれば容易いことですよ」
心配事も杞憂に終わり、昆奈門の手引きでキテレツ斎は座敷牢から抜け出す。
監視役は麺料理を楽しんでおり、座敷牢に一向に視線を向けていない。あっという間にキテレツ斎は昆奈門と共に座敷牢から抜け出し、ゼロ・オリジン号に向かって走り出す。
「貴様がキテレツ斎だな」
「貴方は……確か、私の裁判を傍聴していた……」
ゼロ・オリジン号に辿り着けば悪魔将軍が出迎えた。
悪魔将軍は裁判を傍聴していた者の1人だとキテレツ斎はなんとなくで覚えており、キテレツ斎はゼロ・オリジン号に旗を見た。
髑髏の海賊旗こそ掲げていないが、目の前にいるのは億単位の指名手配犯。威圧感こそ感じるが、この船に乗っても問題は無いのかと言う心配は不思議とキテレツ斎には無かった。
「コレを返す……内容を少し読ませてもらった。貴様は世紀の発明家だな」
悪魔将軍はキテレツ斎に奇天烈大百科を全て返した。
一部の内容を悪魔将軍は頭に入れたがどれもこれも凄まじいもので、悪魔将軍はキテレツ斎の事を偉大な発明家と褒める。
「お言葉ですが、その結果がこの始末なので笑えませんよ……あの料理人達は貴方の船の方でしょうか?」
「ああ……座敷牢でまともな食事をしていないと聞いている。コロッケを買ってきたが食うか?」
「これはこれは、ありがとうございます。コロッケは私の好物なんです」
悪魔将軍はこの島に立ち寄った際に食べた肉屋兼惣菜屋が作っていたポークポテトのコロッケを買っていた。
キテレツ斎は座敷牢に閉じ込められている間は質素な食事だった為にポークポテトのコロッケを見て喜んでおりパクリと一口食べれば美味い!と満足そうな表情をしている。
「はぁ……あそこで終わろうと思っていたが、人生なにがあるか分かったものじゃないな……」
数日間まともな食事をしていなかったからのジューシーなコロッケが体に染みてホロリと涙を流すキテレツ斎。
あのまま座敷牢で人生を終わらせようと考えていたが、地獄に仏とはまさにこのことだなとポークポテトのコロッケを噛み締めている。
「ふぅ……ごちそうさま!」
「おや、もう終わりですか?」
「いやいや、一口とは言え200杯も食べたんだから腹はもうパンパンだよ」
一方の孔明達は監視役に無限の麺を食べさせる事を終えた。
まだまだ麺は残っているが、監視役の男は200杯も食べたから腹はパンパンだと言って手を合わせてごちそうさまでしたと満足そうにしている。
「ふむ、もう少し食べると思っていたのだがな……お前の次に来る監視役は何時ぐらいに?」
「数時間後だよ……そいつは麺料理が好物じゃないから数十杯ぐらいで終わるって……いや〜満足満足……」
料理を振る舞っていたザウスはもう少し食べると予測していたが少し拍子抜けになる。
ついでだと監視役が何時ぐらいに交代するのかについて聞けば、数時間後には監視役が交代するというのが分かった。それはつまり、今から数時間以内にこのタソガレ王国から抜け出さなければ監視役の人間がキテレツ斎が脱獄をしたという事に気付く。
「中々に良い食いっぷりだった……作る側としては久々に気持ちよく作れた」
「いやいや、こんなに麺料理を腹いっぱい食ったのははじめてだよ……」
「それでは失礼しますね」
孔明とザウスは道具を片付け、ゼロ・オリジン号に急いで戻る。
自分達が戻ればゼロ・オリジン号は直ぐにバルジモアに向かって出発する事になっており、2人は急いでゼロ・オリジン号に戻った。
「ここはこうした方がいい」
「なにをしているのです?」
急いでゼロ・オリジン号に戻れば船出の準備、ではなくキテレツ斎が船を改造していた。
直ぐに船を出航させるつもりだったのでキテレツ斎が船に色々と改造をしようとしていたので思わず孔明が何をしているのかを聞いた。
「ああ、いやなに、次の目的地は砕氷船じゃなきゃ上陸が出来ないからね……この船は所々が傷んでいるし、少し修復と砕氷船に改造をと」
なにをしているのかについてキテレツ斎が答える。
次の目的地、それはバルジモアだがバルジモアは冬島であり砕氷船が無ければまともに上陸出来ない。キテレツ斎はゼロ・オリジン号を少しだけ改造を施しており、それは直ぐに終わった……
「た、大変だぁ!!キテレツ斎が逃げたぞ!」
「む、長居をし過ぎてしまった様だ」
「だから改造とか修理は後にした方がいいって言ったじゃないっすか!」
キテレツ斎が船の修理と改造に時間を使っていた為に座敷牢から脱獄をした事がバレた。
長居をしすぎてしまったなと反省するキテレツ斎だが、ハヤトは船を弄くるのは後回しにした方がいいと言っていたことを主張する。しかしそれを主張したところでなにも変わらない。畳んであった帆を張って錨を抜いてロープを船着き場から外し、ハヤトは舵輪を握った。
「っしゃあ!テメエ等!今からバルジモアに行くぞ!!」
「お、おぉ……彼はハンドルを握ると性格が変わるんだね……」
「まぁ、そういうところだ……永久指針はある。未来国バルジモアに向かうぞ」
舵輪を握った事で変貌したハヤトを見てキテレツ斎は少し戸惑うが、ハンドルを握れば性格が変わるタイプなのだなとキテレツ斎は直ぐに分かる。悪魔将軍は軽く流し手に持っている永久指針を見て次の行き先を示した。
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