次の島へ向かう航海は、今のところ順調だった。
海は穏やかで、空には雲がいくつか浮かんでいるものの、進路を邪魔するような悪天候の兆候はない。ゼロ・オリジン号の甲板では、いつものように何人かがそれぞれの仕事をしていた。
ハヤトは舵輪を握っている、孔明は望遠鏡で周囲を確認している。昆奈門は周囲を警戒している。ロビンは本を読んでいる。
「うーむ……」
私はキテレツ斎のいる部屋へと足を運んでいた。扉を開けると大量の紙が広げられていた。机の上だけではない。床にも紙が置かれ、壁には仮留めされた図面が何枚も貼られている。キテレツ斎が何かを書き続けていた。
「……」
キテレツ斎は集中している。私が入ってきたことにも気付いていないようだ。しばらく黙って、その作業を眺めることにした。バルジモアでベガパンクの研究施設を見た時にも感じたことだが、この男は一度火が付くと凄まじい。船大工として悪魔超人軍に加入したばかりで、次に建造する船についても依頼したのならば直ぐに新しい船について考え出している。
「……船の設計図は順調のようだな」
「ああ、将軍様でしたか。すみません、気づかなくて」
「随分と熱中をしていたが……邪魔をしたか?」
「いえいえ。ちょうど一段落したところです」
そう言いながら、キテレツ斎は机の上に広げていた紙を持ち上げた。
「これが、今のところ考えているファースト・ジェネラル号の設計案です」
「ほう」
キテレツ斎から私は設計図を受け取った。そこには、今乗っているゼロ・オリジン号と比べ物にならないほど豪華な船が描かれていた。船の中についてもビッチリと細かく描かれている。
「随分と細かいな」
「皆から聞いた要望を一つ一つ入れていったら、こうなってしまいましてね」
「皆の要望か……好きなのを頼めと言ったが色々と注文をつけたようだな」
「ええ、船長室は必要なのか、訓練場はどの程度の広さが欲しいのか、武器を置く場所はどこがいいのか。厨房を広くしてほしいという意見もありましたし、医務室も必要です」
「一人一部屋は確実に必要だろうな」
「それから、船の中で生活する以上、居住空間も快適にした方がいい。長旅になればなるほど、船そのものが家のようなものになりますから」
私は改めて設計図を見る。ファースト・ジェネラル号。
私が新たに手に入れる船の名前はもう決めている。どんな船になるのかについてはまだ何も決まっていなかった。それを今、キテレツ斎が少しずつ形にしている。
「新しい船はどんな海でも航海できる船です」
「どんな海もか……」
「はい」
キテレツ斎の目が輝く。
「この世界の海はなにも穏やかな海だけではありません。荒れた海、高波の多い海域、寒冷地、熱帯、さらには海王類が頻繁に出る危険海域。可能な限り、どんな環境でも航海できる船にしたいのです」
「そうか」
「悪魔超人軍がこれからどれほど長い旅をするのか、私にはまだ分かりません。ですが、せっかく自分が作るのならあらゆる海を制覇する船でなければ」
キテレツ斎は何れは自分で作り上げることになるファースト・ジェネラル号に一切の妥協はしない。
どんな所を旅しても絶対に突破することが出来る船を作ろうと様々な図案を描いている。
「だが」
私は設計図から視線を上げた。
「船の完成はまだ先だ」
船の素材は宝樹アダムと決めている。
そしてアダムを手に入れてもウォーターセブンでなければ船を作るつもりはない。
あそこでなければファースト・ジェネラル号は作ることは出来ないだろう。
「その間にも我々は旅を続ける。そして、戦いはある」
「……そうですね」
キテレツ斎は少し浮かない表情をする。
キテレツ斎は発明家であり、船大工だ。戦士ではない。バルジモアで海軍に襲撃された時も、キテレツ斎自身は戦闘に参加していない。もちろん、本人がそれを恥じているわけではない。だが、これから悪魔超人軍として旅をする以上、戦闘はしなければならない。
船大工でもあり発明家であるキテレツ斎ならばと私は以前から考えていたことを口にした。
「我々の中には、自分の武器を持っていない者もいる。もちろん、全員が武器を必要としているわけではない。だが、武器を持っていなければ万が一ということがある」
「確かにそうですが……」
「キテレツ斎、悪魔超人軍が己の武器を持たない者に支給する武器を作れ」
リグレットは銃を持っている。貴虎は戦極ドライバーで斬月に変身する。孔明はウェザリアの天候科学兵器で戦う。ザウスは人間専用の包丁を持っている。宗次は良業物の刀を持っている。ロビンにはハナハナの実の能力がある。
だが、ハヤトとカレンとワトソンは武器を持っていない。
これから戦闘能力以外で優秀な者が仲間になる可能性は高いが、私の冒険を続けていく上では何れは名のある海賊達との真っ向からの戦闘は避けては通れない。故に自前の武器が無い者達に支給する武器を作ってほしい。
「武器ですか……そこらの島で手に入る刀や銃ではダメなのですか?」
「それも悪くはない。しかし、武器のパーツを組み替えることで剣、斧、鎌、槍、レイピア、銃とまるで十徳ナイフの様に使い分ける事が出来る武器が欲しい。こういう感じにだな」
私は1枚の紙を手に取りイメージしている武器を描いていく。
組み合わせ次第で様々な武器に変化する十徳ナイフの様な武器、何処かで見たかと思えば宇宙戦隊キュウレンジャーのキューザウェポンそっくりだった。
「なるほど……これは面白いですね」
キューザウェポンの設計図を見せれば様々な武器に変形する機能を見て面白いとキテレツ斎は頷いた。
作ることは出来ないという否定はしない。キテレツ斎にとってキューザウェポンは作る事が可能な武器なのだろう。
「実は、武器についても少し考えていたんです」
「ほう?」
「ファースト・ジェネラル号を作ることを考えていると、船に積む装備についても考える必要がありますから。それに……」
キテレツ斎は少しだけ苦笑した。
「私は船大工としては、これからまだまだ成長していく必要があります」
キテレツ斎は今の今までからくり技師だった。
様々な発明品を作っていて中には潜水艦等もあるにはあったが、船大工かと聞かれれば話は別であり、船大工としてのキテレツ斎はまだまだこれから成長していく。キテレツ斎の言葉に、私は黙って耳を傾ける。
「だから、船については勉強して経験を積んで、もっと良い船を作れるようになりたいと思っています」
からくり技師、いや、科学者としての向上心をキテレツ斎は見せる。
しかしキテレツ斎は直ぐに困った表情に切り替わった。
「ですが……戦う者としては、そうはいかない」
「……」
「私は既に肉体の全盛期は過ぎた初老の男。今から身体を鍛えても、皆のように戦うことは出来ない」
キテレツ斎は、自分の腕を見る。
からくり技師としてある程度の筋肉はついていて、ペンだこの様な物もあるが戦士として修行をした後は一切残っていない。キテレツ斎はあくまでも船大工やからくり技師であり戦士ではない。
「貴虎や将軍様のような戦うのは私には難しいでしょう」
「ならばどうするつもりだ?」
「こちらを」
肉体は全盛期を過ぎていて戦うことが不得手。
鍛えても底が直ぐに見えるとキテレツ斎は分かっていたがキテレツ斎はそこで終わらなかった。
「何もできないままなのは私の性に合いません。これをご覧ください」
「ほう?」
キテレツ斎が一枚の紙を差し出した。そこにはロボットの絵が描かれていた。
「ロボットだな」
「はい……肉体を鍛えても戦うことが不得手ならばロボットに搭乗して戦おうと思っているのです」
戦うのが苦手なキテレツ斎がどういう風に戦うか、それは自分でロボットを作ってそれに乗って戦うことだ。
発明家であるキテレツ斎ならではの戦い方だなとロボットの図面や他のロボットのデザインやどの様にして戦うのかの説明文等を見る。
「バルジモアでベガパンクの研究所で見た資料から連想したな」
「ええ……運動能力を上げる薬等も作ろうと思えば作れますがやはり、私はロボットに乗って戦いたいと」
奇天烈大百科に載っていた発明品が一部流用されてはいるものの、完全に戦う為の兵器だった。
キテレツ斎は兵器を作りたくはないから座敷牢での終身刑を受け入れたが、悪魔超人軍の1人になったからには戦うことが出来ないといけないと考えている。
「今のところは、白兵戦を目的にした侍型のロボット、戦王丸を……と言いたいのですがね」
「なにか問題でもあるのか?」
「ええ、まぁ……単純に戦王丸を作る素材が無いのです……ベガパンクが残した設計図等を参考にしているので、ベガパンクが当時作れなかった理由、素材が無いという壁にぶち当たっています」
キテレツ斎は少し残念そうにしながら5枚の紙を見せる。
5枚ともロボットのデザイン画だが、魔神英雄伝ワタルの龍王丸、邪虎丸、空王丸、戦王丸、幻王丸そのものだった。
「型落ちの物には出来ないのか?」
「戦王丸、幻王丸、空王丸は品質を落とした型落ちのロボットとして作ることは出来ます。ですが、龍王丸と邪虎丸だけは型落ち品は作れません」
「ふむ……」
龍王丸と邪虎丸以外の型落ち品は作れるという事は戦神丸、幻神丸、空神丸の事だろう。
キテレツ斎としては五体のロボットを作りたいが、どうしても素材という壁にぶち当たってしまう。しかし私からすれば3つのロボットを現段階の技術で作ることが可能というのは朗報だった。
「キテレツ斎よ、支給する武器と型落ちのロボットの設計図に取り掛かれ」
「ロボットは3体ですが」
「なにもお前だけが操縦するわけではない。ハヤトの奴も操縦する」
ハヤトの奴は自分がハンドルを握っていなければまともに戦うことが出来ないと落ち込んでいた。
ロボットに乗ればひ弱なハヤトでなく覇気溢れるハヤトに切り替わる。バルジモアでベガパンクが残した設計図等を見たかったのはハヤトの様な者にロボットをと考えていた。結果的にはキテレツ斎がベガパンクが残した設計図等を見てロボットをイメージし、複数のデザインを作り上げている。
見た目が魔神英雄伝ワタルに出てくるロボットだが、そこは今更なこと。
「なるほど、ハヤトもか……ならば戦王丸、幻王丸、空王丸の型落ち品、戦神丸、幻神丸、空神丸を作るとしますか……ふむ」
「どうした?」
「ロボットや武器を作るとなれば、一旦何処か地に足をつけておかなければならないと思いましてね」
キテレツ斎は設計図等を見て今すぐにあっという間に作れるものではないのだと直ぐに理解する。
今までは記録指針の記録が溜まったのならば次の島に向かうという事を優先していたが、何処かで一旦立ち止まらなければならない。
私の冒険の終わりは決まっている。だが、私の冒険は直ぐに終わるわけではない。
ゆっくりと時間を使う。その時間で修行等をしなければならない。
六式は超人的な運動能力が必須で全員が覚えれるかと聞かれれば怪しいだろう。
しかし冒険をこのまま続けていくのならば修行をする。武装色の覇気や見聞色の覇気の特訓を……まだまだこの船には足りないものが多すぎる。
「……一度、腰を据えて準備する必要があるな」
今までは島へ着けば事件が起こり、事件を解決すれば次の島へ向かう。そんな旅が続いていた。それが悪いとは言わない。だが、これから先は違う。悪魔超人軍がより強くなるために。そして、より遠くまで旅をするために。武器、ロボット、船の研究、サポートアイテム、覇気を使いこなせるようになる修行。それらをまとめて確保できる場所が必要だ。
「確か次の島は……何もないらしいですよ」
「なにも無い?」
「ええ、正確に言えば嘗て人が住んでいましたがその島に住んでいる生物達に負けて文明が滅んだそうです」
何処かに地に足をつける場所はないのかと考えていればキテレツ斎は次の島に関する情報を教えてくれる。
今までは人が居る島であったが次なる島は無人島、嘗て人が住んでいたが強靭な野生の猛獣達との生存競争に敗れた島……
「次の島に辿り着き次第、考えるか」
その無人島がどの様な島なのか、サバイバルに適している島であれば修行をする。
文明があったという事は人が住めるものが数々あった……ならば鉄鉱石等もあり、ロボットや武器等を作れる。
優先順位としては修行が第一でなく、鉱石等を集めてキテレツ斎に色々と発明品を作らせること。ロボットや武器、そしてキテレツ斎の日常を豊かにする発明品があれば、冒険はより上手く進むだろう。