記録指針を頼りに次なる島へとやってきた。
ゼロ・オリジン号は穏やかな海を進みながらその島へと近づいていく。
これまでの航海では、島影が見えてくれば港や船着き場を探している。
人の暮らす島であれば、どこかに船が停泊している。港町が存在し、商船や漁船が行き交い、人々の生活がある。しかし今回は違った。
「……港が見えねえな」
舵輪を握るハヤトが、前方を見ながら呟いた。
甲板にいた孔明も望遠鏡を目に当て、周囲を確認する。
「確かに。船着き場らしきものもありません」
島はかなり大きい。
海岸線には砂浜がある場所もあれば、切り立った岩場もある。奥には鬱蒼とした森林が広がっており、そのさらに向こうには山らしきものまで見えている。だが、人間が暮らしている気配がない。
「キテレツ斎が言っていた通り、無人島みたいだな」
ハヤトがそう言った。
その言葉を聞いた悪魔将軍は、しばらく島を眺めていた。そして見聞色の覇気を広げる。島の地形。森の中を動く生物。空を飛ぶ鳥。地面を這う小さな生物。そして人の気配。
悪魔将軍の見聞色の覇気による探知が島全体へと広がっていく。
「……人はいないな」
「やはりですか」
悪魔将軍のつぶやきを聞いて孔明が望遠鏡を下ろす。
「私が感じ取れる範囲でも、人間らしき反応はありません。少なくとも、この島に我々以外の人間が暮らしている可能性は低いでしょう」
「それなら、まずは船を停められる場所を探せ」
「了解だ!」
悪魔将軍の指示を聞けばハヤトが舵を切る。
ゼロ・オリジン号は島の海岸線に沿って進み、やがて波の穏やかな場所を見つけた。
砂浜の近くには比較的深さのある海があり船を停泊させても問題はなさそうだった。錨を下ろして船を固定する。これで、ひとまず上陸の準備は整った。
「無人島……」
宗次が甲板から島を眺める。
その顔には、隠しきれない期待が浮かんでいた。
「未開の地で冒険か!面白そうだな!何があるんだろう?珍しい動物とか、珍しい植物とか、それに」
「宗次、盛り上がるのはいいがその前にやることがあるぞ」
「え?」
ワトソンが淡々と遮った。
宗次が振り返る。
「何だよ?」
「虫除けだよ」
「……虫除け?」
「ああ」
ワトソンは真剣な顔で島を見ている。
「この島にどんな虫がいるのか、まだ分かっていない。見たことのない種類がいる可能性もある。むやみに森や洞窟へ入れば、刺される、噛まれる、毒を受けるなどの危険がありまくる」
「それは……確かに」
宗次が少しだけ真面目な顔になる。
「でも、どうするんです?」
「ちょうどいいものがありますよ」
ワトソンが指差した。
砂浜から少し離れた場所。そこには大量の蟻が列を作って歩いていた。
「軍隊アリです」
「……あれを使うんですか?」
「ええ」
ワトソンは軍隊アリの群れを観察すると、必要な量だけ慎重に採取する。
「この島の虫がすべて軍隊アリを嫌うとは限りませんが、軍隊アリ由来の成分を利用すれば、危険な虫を遠ざけるための忌避剤として使える可能性がありやすぜ」
「なるほど……準備を怠って探索するよりはいい」
軍隊アリを使ってエキスを抽出。
そのエキスで危険な虫から回避するという冒険の知恵を見せたワトソンを悪魔将軍は感心する。
「こういう未開の地は何が出るかわかったもんじゃありやせんからね。出来るだけ慎重にしておかないと」
「分かりましたよ……」
宗次は少し残念そうに答えた。
その後、ワトソンは採取した軍隊アリから必要な成分を抽出し、簡単な忌避剤を作った。全員がそれを衣服や露出している部分に塗る。
「うわ……鰹節臭いな」
ハヤトが顔をしかめる。
軍隊アリのエキスが鰹節の香ばしい匂いがして、なんか嫌だなとボヤく
「我慢してくださいよ。これで少しでも危険を減らせるなら安いものなんだから」
ワトソンはそう言って、自分の腕に塗った。
鰹節の匂いがするなぁと何名かは思いながらも全員、軍隊アリから抽出したエキスを塗った。悪魔将軍を先頭に、悪魔超人軍は無人島の探索を開始した。最初に見つかったのは、人間が暮らしていた痕跡だった。
「……ここに道がありますね」
孔明が地面を見る。
森の中に、かつて人間が踏み固めたと思われる細い道が残っていた。だが、その道は途中から完全に草木に覆われている。さらに進んでいくと、崩れかけた石垣が見つかった。石造りの建物らしきものもある。
「本当に人が住んでいたんですね」
ハヤトが周囲を見る。
「かなり昔に放棄されたみたいね」
ロビンは建物の痕跡を確認し大分古いものだと感じる
「なぜ人はいなくなったの?」
カレンがどうしてと尋ねる。ロビンは周囲を見回した。
「……これね」
彼女が指差したのは建物の壁だった。巨大な爪痕が残っている。石壁そのものが抉られていた。
「これは……」
ハヤトが息を呑む。そして万が一が思い浮かび顔を青くする。
「人間がつけた傷ではありませんね」
孔明が爪痕に近づく。
さらに周囲を見ると、別の建物にも同じような爪痕があった。壊された家。壊された柵。巨大な足跡。
そして人間が使っていたと思われる道具が無残に破壊されている。
「どうやら、この島の人間は猛獣との生存競争に負けたみたいね」
「生存競争すか?」
「ええ」
ハヤトの問いかけにロビンは頷いた。
「人間が暮らしていた痕跡は確かにあるわ。けど、それ以上に野生生物によって荒らされた跡が多すぎる。しかも、単純に災害で滅びたわけではなさそうです」
巨大な爪痕。食い荒らされた建物。森へと続く巨大な足跡。猛獣が暴れたとしか言いようがない。
「人間がこの島で暮らしていた。島の生物たちが強すぎた。そして人間が島から全滅した……偉大なる航路の無人島でら割とありふれて見る光景ね」
ロビンは過去に見たことがある記録を思い出しながらも答えた。
悪魔将軍は周囲を見渡す。
「ここは本当の意味での無人島ということか」
「そう考えていいわ。この島には人間はいない。けれど、人間以外の生物は多くいるわ」
「……なるほど」
宗次の目が輝いた。
ギラギラと闘争心を漲らせており笑みを浮かび上げている。
「つまり、強い奴がいるってことですね!」
「宗次、そういう話じゃないわよ」
「分かってますって!」
ロビンの言いたいことは別にあるが、違う解釈をした宗次は笑った。
ここには冒険のロマンや強い猛獣が居る。自分を鍛えるには最適な場所だなと感じている。
このやり取りを見て、何人かが苦笑した。だが、彼らが島を探索していくにつれて、この島がただの無人島ではないことが少しずつ明らかになっていった。森の奥には、巨大な獣の足跡がいくつもある。木々には獣が身体を擦りつけた跡があり、中には幹そのものがへし折られているものまであった。
「……大きいですな」
ワトソンが足跡を測る。ワトソンが寝転ぶことが出来るぐらいには巨大な足跡だった。
「これほどの大きさの動物が複数いるとなると、かなり危険ですぜ」
「しかし、食料には困らないかもしれんな」
ザウスが突然言った。
「何か見つけたのか?」
悪魔将軍が尋ねる。
「ああ」
ザウスはそういうと森に入った。十数分後には森の中から戻ってきた。手には果実がある。
「食べられる果物だ。こちらの野草も食用に出来る。それから薬草として使える物……なによりも」
ザウスは少し離れた場所を指差した。
そこにはゼロ・オリジン号の半分ほどの大きさの巨大なマンモスがいた
「食用に適した動物もいる」
「パォーン!!」
マンモスが居ると言えばマンモスは悪魔超人軍に気付いた。
マンモスは敵だと思ったのかそれとも餌だと思ったのか、どちらかは分からないものの悪魔超人軍に向かって突撃してくる。
リグレットは銃を取り出した。マンモスに向かって銃弾を撃った
「っち……硬いな」
マンモスの皮膚は鋼鉄の様に硬かった。
リグレットの愛用の銃の弾ではマンモスを傷つけることが出来ない。
「ひぃいい!こっちに来ます!」
「ザウスさん、マンモスって何処を仕留めればいいですか?」
リグレットの銃弾を軽く弾いたのでハヤトは悲鳴をあげる。
この島の猛獣が屈強な証であるが、宗次は怯えずマンモスは何処から仕留めれば無駄なく食べる事が出来るかについて聞いた。
「先ずは厄介な牙をへし折れ。象牙は芸術品としては一級品だが料理には向いていない」
「了解です」
宗次はザウスからのアドバイスを聞けば刀を抜いた。
目にも止まらない速さでマンモスの牙を斬り倒せばマンモスは悲鳴を上げる。
「マンモスの足は絶品だからな……ちょうど縦に真っ二つにしてみろ」
「わかりました」
ザウスのアドバイスを聞いた宗次は刀を鞘に戻した。
何時でも居合切りが出来る構えを取り深呼吸をし……ジャキンと音が鳴った。
「瞬天殺」
別に難しいことなんてなにもしていない。
飛ぶ斬撃の一種であるが宗次は武装色の覇気を込めるだけでなく、脱力からの一点集中による飛ぶ斬撃での居合切りでマンモスを蹴散らした。
「これで暫くは肉には困らんな……私は下処理をしておく。お前達は探検を続けておけ」
マンモスは縦に真っ二つに割れた。
この肉は食べられるが下処理を雑にしてしまえば美味しく食べる事が出来ないのだとザウスは料理用の包丁を取り出して解体を始める。
記録指針は次の島を示している。島へ上陸した時点で次の島へ行けるとは限らない。
記録指針が次の島の記録を完了するまでには時間が必要だ。今回は無人島。町も商店も海軍基地もない。誰かに情報を聞くことも出来ない。
「次の島の記録がいつ溜まるのか分かりませんね」
孔明が記録指針を見ながら困った顔をする。
前の島までとは事情が違う。どれだけこの島に滞在すればいいのかが分からない。悪魔将軍は記録指針を見る。
「しばらくここに滞在することになるだろう」
「しばらくすか!?」
ハヤトは驚きながらも尋ねる。
「次の島へ向かえるようになるまでは分からない。ならばここがキャンプ地になるだろう」
その言葉を聞き、全員が顔を見合わせた。
短期間で終わるかもしれない。数日かもしれない。場合によっては、もっと長くなる可能性もある。何時次の島に向かうことが出来るかが分からない。コレが意外と精神的に来る。
「ちゃんと拠点を作った方がいいですね」
この島に暫くは滞在しなければならないのならばとキテレツ斎が言った。
「船の中だけで生活する必要もないでしょう」
「それは後だ。まずは身の安全を確認する……妙なものが出て毒に侵されるなどが一番危険だ」
悪魔超人軍は全員で島の探索を続けた。
「将軍!」
貴虎の声が聞こえた。何か見つけた様で貴虎が手招きする。
貴虎についていった先にそれはあった。森を抜けた先。岩場の間から白い湯気が立ち上っている。
「温泉だ!」
天然の温泉だった。
程良い熱気を出しており、貴虎が手を入れればちょうどいい頃合いの温度だった。カレンが温泉の成分を分析すれば人体に悪影響を及ばさない美肌の湯である事が判明する
「ふむ……温泉、この島の地熱から生まれている物か」
キテレツ斎は温泉が何処から出ているのかを考えた。
温泉がなんなのかでなく温泉の発生源等を考察しており、温泉が湧き出ているところから少しした所を歩く。
キテレツ斎は周囲の岩石を調べ始めた。温泉の周辺には、火山活動によって形成されたと思われる岩石もあった。地面を掘り返してみる。
「……これは」
キテレツ斎が目を輝かせた。
「どうした?」
なにかを見つけたのだろうがなにを見つけたのだ?とリグレットが聞けばキテレツ斎は石を見せる。
「鉱石です」
「鉱石?」
「ええ」
キテレツ斎は土を払う。
「鉄鉱石があります」
その一言で、悪魔将軍は察した。
この島には豊富な食べ物だけでなく優れた鉱石などもある。それがあるということはと悪魔将軍は考える。
キテレツ斎は興奮した様子で周囲を見渡す。
「鉄鉱石がある。これなら金属部品を作れます。加工設備を整えれば武器も作れる。ロボットのフレームや内部部品にも利用できます!さらに調査すれば、他の鉱物が見つかるかもしれません。銅、石炭、その他の素材……何が眠っているか分かりませんよ!」
「落ち着け、キテレツ斎」
普段の穏やかな表情から一転して、完全に発明家の顔になっている。
キテレツ斎はここでならばと様々な物を連想する。
「将軍様から頼まれていた武器!そして戦神丸、幻神丸、空神丸!作りましょう!」
この島には材料がある。この島には人目もない。何より、次の島へ行くまで滞在する必要がある
条件が揃っていた。悪魔将軍は腕を組みどうすべきかを考える。
「まずは鉱山の規模を調べます。その後、採掘場所を決める。加工設備を作り、必要な工具を用意して」
「待て」
頭の中で作業工程を考えているキテレツ斎を悪魔将軍が止める。
「ここは悪魔超人軍全員で使う島だ。ならば、全員で準備をする……お前1人だけで作らせるわけにはいかん。ロボット等の開発となれば最早工業の世界でお前が如何に天才であろうとも限界がある」
「……ええ、そうですね。うっかりしていました」
武器を作る。設備を作る。食料を確保する。島を調べる。拠点を作る。それらもまた、これから先の冒険に必要な力になる
悪魔超人軍総出でロボットや武器を作るという事になり、悪魔超人軍の面々は顔を見る。少しの間は海賊としての冒険等でなく工業に勤しまなければならない。悪魔超人軍の面々は手伝いますよと意思を示す。
まずは生活基盤。次に採掘と加工設備。その後に武器。そしてロボット。
さらに余裕が出来れば、船や生活を豊かにする発明品。
「この島に滞在している間に、可能な限り準備を整える」
悪魔将軍は宣言した。
「次の島へ向かう時には、今よりも強く、今よりも便利になった悪魔超人軍で出航する」
こうして、無人島での滞在が始まった。これまでの悪魔超人軍の旅とは違う。事件を解決するためでもない。誰かを助けるためでもない。目の前にいる敵を倒すためでもない。ただひたすらに、これから先の冒険に備えるための時間。島を探索し、食料を確保する。鉱石を採掘する。必要な設備を作る。武器を作る。ロボットを作る。
仲間が増え、技術が増え、知識が増え、そして時間を使って組織そのものが強くなっていく。その最初の場所が、この無人島だった。
「さて……まずは鉄鉱石の採掘場所を決めましょう!」
キテレツ斎の声が、山の中に響き渡る。
「皆、手伝ってくれ!」
「了解です!」
宗次が元気よく返事をする。
「任せてください!」
ハヤトも続く。
こうして悪魔超人軍は、未知の猛獣が支配する無人島で生活を始めることになった。