鉄鉱石を発見してから、悪魔超人軍の無人島での生活は少しずつ変化していった。
島へ上陸した当初は、食料を確保しながら周囲を探索するだけだった。しかし、キテレツ斎が鉄鉱石を発見したことで、この島は単なる一時的なキャンプ地ではなくなった。山の中から鉄鉱石を掘り出し、必要な鉱石と不要な石を選別する。鉱石を運び出し、簡単な加工場所を作る。キテレツ斎が必要だと言った工具を揃え、少しずつ作業環境を整えていく。悪魔超人軍の全員が、それぞれに仕事を分担していた。
「もう少しこっちです!」
「分かった!」
「その鉱石は別にしておいてくれ。後で調べる!」
山の中ではキテレツ斎の声が響き渡る。
宗次やハヤトが鉱石を運び、貴虎は重い岩をどかして採掘場所を広げる。孔明は島の地形を調べ、昆奈門は周囲に危険な生物がいないか警戒する。ザウスは食料の確保と調理を担当し、ワトソンは薬草や昆虫などを調べていた。
無人島に上陸してからそれほど長い時間は経っていない。悪魔超人軍はこの島で生きるために必要なものを自分達の手で少しずつ作り始めていた。そんな中リグレットはある事を考えていた。
「……」
リグレットは自分の銃を手にしていた。今まで幾度となく使ってきた愛用の二丁拳銃だ。
手入れをしているから状態は悪くない。しかし、リグレットには以前から気になっていることがあった。
銃は湿気に弱い。雨に濡れれば、途端に扱いづらくなる。もちろん、手入れをすればある程度は問題なく使える。だが、銃そのものが濡れることを前提として作られているわけではない。偉大なる航路を旅する以上、雨を避けて通ることなどできない。穏やかな海を進んでいると思った次の瞬間、空から大量の雨が降ってくる。突然の嵐に巻き込まれることもある。船の上で戦闘になれば、足場だけでなく武器まで濡れる可能性がある。
「……やはり、何処かでパワーアップさせねばならないか……」
リグレットは銃を眺めながら呟いた。
この銃が弱いわけではない。彼女自身も、この銃を使って何度も敵を倒してきた。武装色の覇気を弾丸に込めれば、弾丸そのものの威力を高めることもできる。銃弾に武装色の覇気を纏わせる。それによって通常の弾丸よりも遥かに強力な一撃を放つことができる。だが、それは銃そのものの性能を向上させるものではない。銃がどれだけ古い物でも、頑丈になるわけではない。
銃身が濡れても問題なくなるわけでもない。武装色の覇気は強力だ。だが、それだけだ
リグレットは以前から新しい銃が欲しいと思ったことはある。
だが、この世界で売られている銃は見、今使っている物と大きな違いはなかった。
島へ立ち寄るたび、武器屋などを見つければ銃を確認してきた。だが何処に行っても大体同じ物だった。フリントロック式のマスケット銃。銃としては十分に使える。この世界では珍しいものでもない。しかしそれではダメだと感じている。
「このまま同じ銃を使い続けるより……作ってもらった方が早いな」
視線を向けた先には、鉱石を調べているキテレツ斎がいた。
彼ならば新しい銃を作れる。バルジモアでベガパンクの研究資料を見て、そこから様々な技術を理解し、自分なりの設計へと落とし込んでいる男だ。既にファースト・ジェネラル号の設計だけでなく、武器やロボットまで作ろうとしている。ならば、自分も頼んでみよう。
「キテレツ斎」
「はい?」
呼ばれたキテレツ斎が顔を上げる。
「ちょっと頼みたいことがある」
「何でしょう?」
「銃を作ってほしい」
キテレツ斎は一瞬だけ目を丸くした。
だが、すぐに興味深そうな顔になる。
「銃ですか」
「ああ。今使っている銃は雨に濡れたらその時点で終わりで質が悪い。これから先、海の上で戦うなら、もっと扱いやすい銃が欲しい」
「なるほど」
キテレツ斎はリグレットの銃を受け取る。
しばらく眺め、銃身を確認し、内部の構造についても考える。
「今まで使っていた銃と同じような物を作る必要はないのならばリグレットが使いやすい物にしましょう」
「……できるのか?」
「もちろん。ただ、少々時間を」
それから数日。キテレツ斎は銃の設計に取り掛かった。
普通なら一丁の銃を作るだけでもそれなりに手間がかかるものだ。しかしキテレツ斎は、一つの案だけに絞らなかった。
紙に様々な銃の形を書き、内部構造を考え、部品の材質を決める。リグレットから実際の使用感について細かく聞き出し、それを設計に反映させていく。
「銃は片手で扱える方がいいですか?」
「そうだな。できれば二丁拳銃がいい」
「わかった」
キテレツ斎は紙に二種類の銃を描いた。
一つは回転式の弾倉を持つ銃。もう一つは、弾薬を装填する仕組みを備えた自動式の拳銃。
「リボルバーと自動拳銃です……コレならば問題無く雨の中でも湿度が高かろうが使える。リグレットなら使いこなせるはず」
キテレツ斎はそう言った。
「片方は確実性と威力を重視し、もう片方は連続した射撃への対応を重視する。状況に応じて使い分けることができます」
「なるほど……これは悪くはない。コレを作ってくれ」
それから少し時間が経った。
悪魔超人軍が鉱石を掘り、拠点を整備していく中で、キテレツ斎もまた工房に籠もって作業を続けた。そしてある日。
「リグレット、完成したぞ」
そう言ってキテレツ斎が差し出したものを見て、リグレットは食い気味で見る。
二丁の銃。一つは無骨ながらも美しくまとまったリボルバー。もう一つは、細身で扱いやすそうな自動拳銃だった。
「これが……私の新しい銃か……」
「ああ。どちらも雨や湿気に対して従来の銃より強く、海上での使用も想定している。もちろん完全に手入れ不要というわけではないが、今までの銃より遥かに高性能な物だと自負している」
リグレットは二丁を受け取った。手に持った瞬間、不思議な感覚があった。
重すぎない。軽すぎもしない。握った時に自然と手に収まる。
「……」
リグレットは無言で銃を構えた。
「試してきても構わないか?」
「もちろん」
キテレツ斎が頷く。リグレットは二丁拳銃を持って森へ向かった。
しばらく歩いたところで、森の奥から巨大な音が響いた。
「……あれは」
木々が揺れる。次の瞬間。巨大なワニが森から姿を現した。
普通のワニとは比べ物にならない大きさだった。この島の生物は凶暴でデカい。身体そのものが巨大で、口を開けば人間など簡単に丸呑みにできそうだった。
「ちょうどいい」
リグレットは二丁の銃を構えた。
ワニが地面を蹴って突進してくる。リグレットは慌てない。狙いを定める。右手のリボルバー。左手の自動拳銃。
「……」
銃声が響いた。一発、二発、三発。リグレットは後退しながら正確に射撃を続ける。
ワニの巨体が銃弾を受けて揺れる。リグレットは武装色の覇気を弾丸に纏わせていない。それでも銃弾がワニの分厚い皮膚を貫き、巨大な身体が大きく傾く。
「これなら……!」
リグレットは笑みを浮かべた。
銃を握る。狙う。撃つ。これまで使ってきた銃とは違う。まるで自分の身体の一部のように扱える。ワニが最後の力を振り絞って突進してきた。リグレットは横へ飛び退く。そのまま身体を回転させながら二丁の銃を構えた。
「そこ!」
最後の一撃。巨大なワニが地面に倒れた。
しばらく動かない。リグレットは警戒しながら近づき、完全に仕留めたことを確認する。
「……」
二丁の銃を見つめる。そして、ぽつりと呟いた。
「すごくしっくりくるな」
今まで使っていた銃とは違う。
銃を握る。狙いを定める。撃つ。その一連の動作が自然だった。
「私の手に馴染んでる……」
リグレットは二丁の銃を見ながら呟く。
「これなら、もっと多くの敵とも戦えそうだ」
彼女は仕留めた巨大なワニを持ち帰ることにした。
もちろん、一人で持ち上げるのは簡単ではなかったが、悪魔超人軍の仲間達に手伝ってもらいながら拠点まで運んでいく。
「ほぉ……これは食べ応えがありそうだな」
「夕食にできるか?」
「もちろんだ」
ザウスとのやり取りを横でしながら、リグレットはキテレツ斎のところへ向かった。
「ありがとう。流石はキテレツ斎だ」
「どういたしまして」
「この銃はかなり使いやすい。今まで使っていた銃より性能そのものも遥かに優れている」
「それならよかった……ただ」
「ただ?」
「この銃はまだ完成していない」
「……なに?」
リグレットは二丁の銃を見た。どこにも不具合はない。
使ってみても問題はなかった。雨や湿気への対策もされている。威力も十分。取り回しも良い。
「どこが未完成なんだ?」
リグレットが尋ねると、キテレツ斎は困ったような顔をした。
「名前だよ」
「名前?」
「ああ。この銃の性能面では、現時点で問題は無い。むしろ私が想定していた以上に上手く仕上がっている。しかし……この銃には、まだ名前がない」
「……」
「武器というものは使う人間にとって単なる道具ではない。長く使う物ならば、それに相応しい名前があった方がいい。特にこの銃はリグレット専用に作った物だ。だから、名前まで決めて完成としたいのだが……」
「思いつかないのか?」
「ああ、恥ずかしい話な」
キテレツ斎は苦笑する。
「いくつか考えたのだが、どうもしっくりこなくて」
「銃に名前を付ける……」
リグレットは二丁の銃を眺めた。
名前など考えたこともなかった。今まで使っていた銃には、特別な名前などなかった。
銃は銃。撃つための道具。それ以上でも、それ以下でもない。
そう思っていた。だが、目の前の二丁の銃は違う。キテレツ斎が、自分のために作ってくれた。
自分がこれからの旅で使う。雨の日も晴れの日も船の上でも陸地でも敵と戦う時も仲間を守る時もこの二丁を使うことになる。
「……名前か」
「なにか浮かんだか?」
「いや……いきなり言われてもな」
リグレットは二丁の銃を手に取った。
「だが、考えてみる」
それからしばらくの間、リグレットは二丁の銃を使い続けた。
新しい銃の性能を確認するためだった。何度も射撃を行い、構えを変え、二丁を持ち替える。
リボルバーと自動拳銃。性質の違う二つの銃を使い分けながら、リグレットは自分に最も合った戦い方を探していった。
その中で、キテレツ斎が仕込んだ特殊な機構についても説明を受けた。
「この銃には、もう一つ仕掛けがあります」
「仕掛け?」
「はい」
「ええ。二丁の銃を特定の形で構え、内部の機構を連動させることで周囲の空気や塵を固定化させて見えない刃を生成し、丸腰だと油断して不用意に近付いてきた相手を空気と炎の刃で切り裂く奥義、その名も断罪炎刀」
リグレットは興味深そうに二丁の銃を見る。
「断罪炎刀……」
リグレットがその言葉を繰り返す。
銃から放たれる弾丸と炎&空気の刃。武装色の覇気。
それらを組み合わせて、一気に敵を撃ち抜くための技。キテレツ斎はまだ細かな調整が必要だと言っていたが、その技の存在を聞いた瞬間、リグレットの中で何かが繋がった。
「炎刀」
「え?」
「名前だ」
リグレットは二丁の銃を見つめた。
「炎刀・銃、この銃の名前は炎刀・銃だ」
「炎刀・銃……」
「ああ」
リグレットは二丁を手にする。
「普通の弾だけでなく炎の弾丸をも出して相手を切り裂く攻撃が出来る。ならば、炎刀と呼ぶに相応しくそして銃でもある。だから、炎刀・銃だ」
キテレツ斎はしばらく黙っていた。
そして、やがて笑った。
「……いい名前ですね。では、その銃の名前は炎刀・銃。これにて完成だ」
「そうか」
銃の名前が正式に決まった。それによりこれでこの2丁の拳銃は本当の意味で完成した。
「炎刀・銃」
リグレットは新たなる愛銃の名前を口にする。
たったそれだけのことなのに、不思議と以前の銃とは違う物に感じられた。
単なる武器ではない。これから先、自分と共に旅をする相棒。
リグレットは二丁の銃を大切そうにしまった。
その日の夕方。
「今日は豪勢だな!」
悪魔超人軍の拠点に、ザウスの声が響いた。
夕食の時間だった。テーブルの上には、パンに挟まれた巨大な肉。その横には野菜が添えられている。
焼かれた肉から香ばしい匂いが漂っていた。ハンバーガーだ。。
「これ、何の肉ですか?」
ハヤトが尋ねる。
「リグレットが仕留めたワニだ」
「ワニすか!?」
ハヤトが目を見開いた。
「そうだ下処理をして、臭みを抜いてからひき肉にしてハンバーガーにしてみた」
「へえ……」
宗次が興味津々でハンバーガーを見る。
「食べていいですか?」
「もちろんだ」
「いただきます!」
宗次が豪快にかぶりつく。
「うまい!」
続いてハヤトも恐る恐る口にする。
「……あ、本当だ美味しい!」
「ワニの肉としては極上の物でハンバーガーがぴったしだ」
ザウスが満足そうに笑った。
貴虎やワトソンもハンバーガーを食べ、思い思いに感想を述べる。少し離れた場所では、リグレットが自分の新しい銃を眺めていた。
「炎刀・銃……」
これから先、この島で何日過ごすことになるのかは分からない。
この島でどれだけ武器を作るのかも分からない。それでも一つだけ確かなことがある。悪魔超人軍は、少しずつ変わっている。船を作るための技術。戦うための武器。新たに先を進む為の力。そして、それらを生み出すための工房。
リグレットは新しい二丁の銃を見つめる。今まで使ってきた銃を手放すことには、少しだけ寂しさもあった。
しかし、それ以上に楽しみだった。これから先、この炎刀・銃と共にどんな敵と戦うことになるのか。どんな島へ行くことになるのか。どれほど強い海賊と戦うことになるのか。
「……楽しみだな」
リグレットは小さく笑った。
その横では、宗次が五個目のハンバーガーを食べようとしてザウスに止められている。
「お前は食べ過ぎだ」
「まだ食べられますよ!」
「そういう問題ではない!」
騒がしい食卓。
それを見ながら、リグレットは炎刀・銃を大切にしまった。無人島での生活は始まったばかりだった。これから武器が増える。ロボットも作られる。鉱石を加工する設備も整っていく。そしていつか、この島で作られた技術が悪魔超人軍の冒険を支えることになる。
その最初の一歩として生まれたのが、リグレットの二丁の銃だった。
炎刀・銃。
悪魔超人軍が長い冒険の中で手にする、新たな武器の一つであり後に銃の世界で最上級大業物として見られる最高峰の銃だった。