無人島での生活が始まってから、しばらく経ったある日のこと。
拠点から少し離れた場所に作られた簡易的な工房の一角で、貴虎は一つの装備を机の上に置いていた。
ゲネシスドライバー。そして、その隣に置かれているのはメロンエナジーロックシード。
どちらも、以前の戦闘でカトリーヌから奪ったものだった。 貴虎は腕を組みながら、じっくりとそれらを見つめていた。
「……」
これまで貴虎が使っていた変身ベルトは、戦極ドライバーだった。
メロンロックシードを戦極ドライバーへ装填することで、仮面ライダー斬月・メロンアームズへと変身する。
長く使い続けてきた装備だ。その性能にも不満はない。むしろ、貴虎自身が長期間にわたって戦極ドライバーとメロンアームズを使い込んできたからこそ、その性能を最大限に引き出せていた。
だが目の前にあるゲネシスドライバーは、明らかにそれとは違う。
「やはり……性能そのものはこちらの方が上か」
貴虎はゲネシスドライバーを手に取った。重量、構造、エネルギー供給の方式。専門的な知識がなければ細かな違いを理解することは難しいだろう。しかし、実際に戦ったことがある貴虎には分かる。ゲネシスドライバーは、戦極ドライバーよりも一段上の性能を持っている。そして、それ以上に気になっていることがあった。
「……生体認証がない」
貴虎は以前、戦極ドライバーについて調べたことがある。
戦極ドライバーには、生体認証機能が搭載されていた。誰が装着しても自由に使えるというわけではない。
使用者を識別し、登録された人間以外は変身する事が出来ない。それが戦極ドライバーだった。だが、ゲネシスドライバーには、その機能が存在しない。
「つまり……」
貴虎はゲネシスドライバーを腰に当てる。
「俺でも使えるということか」
試しに装着してみる。問題なくベルトが固定された。
認証を求められることもない。拒絶されることもない。貴虎は目を細めた。
「随分と大胆な設計だな」
兵器として考えるなら、誰でも使えるということには大きな利点がある。
しかし同時に、危険でもある。戦極ドライバーならば使用者が限定される。だが、ゲネシスドライバーならば奪われれば、そのまま敵に利用される可能性がある。
今、その状況が起きている。カトリーヌから奪ったゲネシスドライバーを、貴虎が使おうとしているのだから。
「……考えていても仕方がない」
貴虎はメロンエナジーロックシードを手に取った。
見慣れたメロンロックシードと似ている。だが、こちらも明らかに違う。
通常のメロンロックシードよりも、秘められたエネルギー量が多い。
性能も高い。貴虎はそれを手の中で転がしながら、以前の戦いを思い出していた。
カトリーヌが使っていたゲネシスドライバー。彼女はそれを使って仮面ライダー黒影・真へと変身していた。その戦闘能力は、決して低くなかった。むしろ装備だけを比較すれば、自分の戦極ドライバーよりも上だった。
それでも貴虎は勝った。理由は単純だった。装備の性能だけでは戦いの勝敗は決まらない。
使い手がどれだけ武器を理解しているか。どれだけ自分の身体と武器を一体化させているか。そこが重要なのだ。
「……だからこそ」
貴虎はメロンエナジーロックシードを見る。
「自分で使えばどうなるのか、確認しておく必要がある」
これは単なる興味ではない。
今後の戦いのための確認だった。カトリーヌから奪った装備を、そのまま保管しておくという選択肢もある。
しかし、それでは意味がない。使える装備ならば使う。
使えないのなら、その理由を確認する。
貴虎はそう考えていた。
「試してみるか」
ゲネシスドライバーを腰に装着する。メロンエナジーロックシードを手に持つ。
『メロンエナジー』
「変身」
『ソーダ!……メロンエナジーアームズ!』
メロンエナジーロックシードをゲネシスドライバーへ装填した。
貴虎の身体を覆うように装甲が形成される。緑色の装甲。
メロンを思わせる意匠。そして、これまでとは明らかに違う力強いエネルギー。
「斬月・真といったところか」
変身を終えた貴虎は、自分の身体を見下ろした。
拳を握る。腕を動かす。身体を捻る。そして、ゆっくりと歩き出す。
「……なるほど」
僅かに動いただけで分かる。身体が軽い。
それでいて、力がある。反応速度も高い。
変身状態そのものが、戦極ドライバーを使った時よりも一段階上の領域にある。
「確かに、こちらの方が性能は高い」
だが貴虎はそれだけで満足しなかった。
「な実際に戦ってみるか」
彼が向かったのは、島の奥に広がる森林だった。
無人島に生息している生物は、どれも巨大だった。
以前、悪魔超人軍がこの島へ上陸した時から、それは分かっている。
普通の動物とは比較にならないほど大きな獣。鋼鉄のような皮膚を持つ生物。人間を簡単に捕食できるほど巨大な猛獣。この島そのものが、自然界の強者によって支配されている。
「ちょうどいい」
貴虎が森の中を進む。
するとドンッ!と地面が揺れた。
「……来たか」
木々の向こうから巨大な獣が姿を現した。
大型の肉食獣だった。通常の個体ならば、人間など一瞬で吹き飛ばしてしまうほどの巨体。その獣が貴虎を敵と認識し、唸り声を上げる。
「来い」
貴虎は腰を落とした。
獣が突進する。
巨体が木々をなぎ倒しながら迫ってくる。
しかし。貴虎は動かない。ギリギリまで引き付ける。そして。
「遅い」
身体を横へ滑らせた。獣の突進を紙一重で回避する。
そのまま懐へ入り込む。
「はっ!」
メロンエナジーアームズの固有武器、ソニックアローで斬りかかる。
スパンと巨大な獣の身体が大きく割いた。
「……力も十分だ」
獣が起き上がる。
まだ戦意を失っていない。
再び突進してくる。今度は貴虎はゲネシスドライバーに装填されているメロンエナジーロックシードを外しソニックアローに装填する。
「見せてもらうぞ、新型のベルトとやらを!」
貴虎はそういうとソニックアローの射撃用のトリガーを引いて離す。
光の矢が放たれて衝撃が森に響き渡る。巨大な獣の動きが止まった。そのまま倒れる。
「……悪くない」
貴虎は変身状態を確認しながら呟いた。戦極ドライバーとは違う。
同じ斬月であっても、身体能力そのものが底上げされている。これならば、これまで以上の戦闘力を発揮できる。
しかし。貴虎には一つ気になることがあった。
「武器は……こいつだけか」
メロンエナジーアームズで使用できる武器。ソニックアロー。
弓としても、近接武器としても使える優秀な武器だ。だが。貴虎が普段から使っているメロンアームズには、メロンディフェンダーと無双セイバーがある。特に無双セイバーは、貴虎にとって重要な武器だった。剣として使う。
場合によってはメロンディフェンダーと組み合わせる。それだけではない。長年使い続けてきたことで、貴虎の身体にはその扱いが染みついている。
「ソニックアローも悪くない」
貴虎は弓を構える。遠くの木の枝へ狙いを定める。
矢が放たれる。枝を正確に撃ち抜いた。
「むしろ優秀な武器だ……私には、もう一つの戦い方も必要だ」
貴虎は森の中を見渡した。
そこで彼は考えた。
「……ならば」
これまで戦闘で手に入れたロックシード。
それらを使ってみればいい。ゲネシスドライバーはエナジーロックシード専用の装備というわけではない。少なくとも、今までのロックシードで変身そのものは可能だ。
「試してみるか」
貴虎は装備を変更する。
まず手に取ったのは、マンゴーロックシードだった。
「マンゴーか」
戦極ドライバーでは使ったことがある。
だが、ゲネシスドライバーではどうなるのか。マンゴーロックシードをゲネシスドライバーに装填する。
「変身」
『リキッド!……マンゴーアームズ!ファイト・オブ・ハンマー!』
エネルギーが身体を包み込む。マンゴーアームズへと姿が変わった。
貴虎は身体を動かす。腕を振る。足を踏み出す。そして、マンゴーアームズの武器であるマンゴーパニッシュを握る。
「これは……」
予想以上に身体に馴染む。マンゴーアームズの重量感。
攻撃の間合い。武器を振り下ろした時の感覚。
「悪くない。このパワー系のアームズはしっくりくるな」
貴虎はそう評価した。
マンゴーアームズは、自分の戦い方に合っている。 続いて別のロックシードを試す。
『ブドウ!ロックオン!リキッド……ブドウアームズ!龍!砲!ハッ!ハッ!ハ!』
ブドウロックシード。今度はブドウアームズに変身する。軽快な装甲。
そして、銃撃を主体とした戦闘。貴虎は武器であるブドウ龍砲を構える。中距離から標的を狙う。
「……」
撃つ。
木の幹に命中する。続けて撃つ。今度は別の標的へ。命中。
「これも悪くない」
接近戦を得意とする貴虎だが、状況によっては遠距離攻撃も必要になる。
ブドウアームズも十分に使える。
「これも、しっくりくる……次はこいつか」
『イチゴ!』
『ロックオン!リキッド!……イチゴアームズ!シュシュっとスパーク!』
イチゴロックシードを装填しイチゴアームズに変身する。
小型の武器を使い、素早く動く。貴虎は森の中を走った。木々の間を縫う。方向を変える。足を止めずに攻撃する。
「……これも使える……だが見た目は……しっくりとこないな」
動きが軽い。狭い場所でも戦える。
大型の敵だけではなく、小型で素早い敵にも対応できる。しかしイチゴアームズは可愛らしい見た目なのでどうにも違和感を感じる。
「残りはこいつか」
そして、残ったロックシードを確認する。
メロンロックシード。貴虎が長年使ってきたロックシード。これだけは別格だった。
「メロンか」
貴虎は手に取った。
戦極ドライバーとメロンロックシード。この二つを用いて変身する斬月・メロンアームズ。
それは貴虎自身の戦いそのものと言ってもいい。これまで何度も使ってきた。何度も戦った。何度も敗北し、それでも鍛錬を重ねてきた。だからこそゲネシスドライバーで使った場合、どうなるのか。貴虎は興味を抱いた。
「……試してみるか」
ゲネシスドライバーにメロンロックシードを装填する。
『メロン!』
「変身」
『ロックオン!リキッド!……メロンアームズ!天下御免!』
「……」
貴虎は自分の姿を確認した。
斬月に似た見慣れた装甲。斬月に似た見慣れた姿。
「違うな」
何かが違う。
身体そのものは、確かに強化されている。
ゲネシスドライバーの性能によって、戦極ドライバー使用時よりも高い力を引き出せている。しかし。武器を確認して、貴虎は眉を寄せた。
「……メロンディフェンダーはある」
メロンを模した盾。いつものメロンディフェンダー。
問題なく装備されている。だが。
「無双セイバーがない」
腰を見る。そこには何もない。手を伸ばしても、当然ながら剣は存在しない。
「……そういうことか」
貴虎は理解した。
ゲネシスドライバーによってメロンロックシードを使った場合、メロンアームズそのものは再現される。
しかし。戦極ドライバーで変身した時に付随していた装備まで、完全に同じになるわけではない。メロンディフェンダーは存在する。だが、無双セイバーは存在しない。
「武器構成が違う……」
貴虎はメロンディフェンダーを手に取る。
盾としての性能は問題ない。むしろゲネシスドライバーの影響で、装甲そのものの性能は高くなっている。
「これだけでは、私の戦い方には足りない」
貴虎にとって、無双セイバーは単なる武器ではない。
長年使い込んできた相棒の一つ。剣と盾を組み合わせた戦闘。
その両方を使うことで、貴虎は斬月・メロンアームズを完成させていた。無双セイバーがない。それだけで、戦い方が大きく変わる。
「……」
貴虎はしばらく考え込んだ。
もちろん、ソニックアローを使うメロンエナジーアームズならば問題ない。
ゲネシスドライバーそのものの性能も高い。マンゴーも使える。ブドウも使える。イチゴも使える。それぞれに、それぞれの強みがある。ならば。
「当面は……ゲネシスドライバーを使うか」
貴虎は変身を解除した。ゲネシスドライバーを外す。そして、もう一度それを見つめる。
戦極ドライバーは使わなくなるが長年使ってきた装備を手放すつもりはない。戦極ドライバーには戦極ドライバーの利点がある。そして何より。貴虎自身が完全に使いこなしている。
「だが、こちらも使えるようにしておく価値はある」
ゲネシスドライバーとメロンエナジーロックシードで変身する斬月・真。
これらは明らかに強力な装備だ。せっかく手に入れたのだから、使わない理由はない。
「ベルトの出力が上ならば、暫くはコイツでいくか」
貴虎は再びメロンロックシードを手に取った。
メロンアームズには変身しても、何時もの様に戦うことは出来ない。武器をこれから変えなければならない。貴虎は暫くは斬月でなく斬月・真として戦うことを決意した。