キテレツ斎の工房から、完成した武器が運び出された。
工房の前に集まった仲間たちは、それぞれの手に握られた武器を興味深そうに見つめている。
私も、その武器を眺めていた。
形状だけを見れば、見覚えのあるものにそっくりだ。
キューザウェポン。キテレツ斎が新たに製作した、悪魔超人軍の仲間たちへ支給するための武器である。
ただし、これは単なる量産武器ではない。
使用者が変われば、その使い方も変わる。カレンは槍として。ワトソンはレイピアとして。そしてハヤトは。
「これ、斧すよね?」
ハヤトが両手で持っているのは、片手用のハンドアックスだった。
「ああ。お前にはそれが合っているだろう」
私は答えた。
「なんだか思っていたより普通ですね」
「そうか?」
「もっとこう……凄い武器になるのかと思ってました」
「ふん、武器の価値は見た目だけでは決まらん。お前が使いこなせるかどうかの方が重要だ」
「なるほど……」
ハヤトは納得したように頷き、ハンドアックスを握り直す。
少し振ってみる。ヒュン、と空気を切る音がした。
「……結構軽いすね」
「ハヤトの戦い方を考えて調整している。お前の場合はあくまでも空神丸に乗るまでの間の繋だ。重すぎれば操縦や移動の邪魔になる。軽すぎれば威力が落ちる。その中間を狙った」
「ありがとうございます!」
「礼を言うほどのことではない。必要だから作っただけだ」
キテレツ斎は淡々としている。 だが、その表情には満足そうなものがあった。 カレンも自分の武器を手に取っている。
「私は槍ね」
彼女は穂先を確認しながら言った。
「うん。しっくりくるわ」
人魚であるカレンは、海中での戦いを考えれば槍との相性がいい。
水中では長い武器の方が間合いを取りやすい。陸上でも、彼女自身の身体能力を考えれば十分に扱えるだろう。
「あたしゃにはこれか」
ワトソンはレイピアを手にしていた。細身の刀身を軽く振る。 ワトソンは満足そうに目を細めた。
「軽い。これなら素早く動けそうだ」
「お前は速度を活かした戦い方が向いているからな」
「ありがとうございます、将軍さん」
それぞれが自分に合った武器を手に入れた。
これまで悪魔超人軍には、固有の武器を持つ者と、そうでない者がいた。
私には地獄の断頭台をはじめとした超人としての技がある。
貴虎には斬月がある。
リグレットには炎刀・銃がある。
だが、カレンやワトソン、ハヤトには、これまでこれが自分の武器だと言えるものがなかった。
もちろん、武器がなければ戦えないというわけではない。だが、これから先に待っている海は甘くない。偉大なる航路には、これまでとは比較にならないほどの強者がいる。ならば、自分の身を守るための武器を持っておくに越したことはない。
全員が武器を手に入れた。ならば次に教えておくべきことがある。
「さて、武器を手に入れたところで、一つ話しておくことがある」
「何でしょう?」
孔明が尋ねる。
「覇気についてだ」
その言葉を聞いた瞬間、何人かの表情が変わった。覇気。この海で生きていく上で、極めて重要な力だ。
そして、悪魔超人軍の中でも、すでに無意識に使っている者はいる。だが――。
「まず確認しておく。覇気という力について、知識として知っている者は?」
手を挙げたのは1人だった。
貴虎だけ……まあ、当然と言えば当然か。私も何故かある前世の知識から覇気を学んだ。貴虎もこれまで私と長い間過ごしているから、ある程度の覇気の知識を持っている。しかし他の者たちは違う。
「オーラがあるとか威圧的とかそういう意味での覇気じゃないのよね?」
ロビンが覇気の意味について聞こうとする。
オーラがあるや威圧的等で用いられる覇気……と私が教えたい覇気は似ているが異なるものだ。
「感じ取る力という事を知っていますが、それ以外は詳しくは知りません」
孔明が言う。ハヤトも首を横に振った。
「自分も、何となく使ってるだけで実際なんなんですか、覇気って」
「私も」
カレンが続く。
ワトソンも頷いた。
「月の夜なら力が強くなることは分かっているが、それと覇気がどう関係するのかは知らないですな」
「つまり、実際に使えている者はいるが、知識として体系的に理解している者は少ないということか」
貴虎が言った。
「どうやらその様だな」
貴虎の言葉に私は頷く。
「今日は、覇気について基本から軽く説明する」
私たちは工房から少し離れた場所へ移動した。
開けた場所だ。周囲には木々があり、少し離れたところには岩場がある。実際に力を見せるには丁度いい。
「覇気には三種類ある」
私は仲間たちを見ながら説明を始めた。
「武装色の覇気。見聞色の覇気。そして覇王色の覇気だ」
「三種類……」
ハヤトが呟く。
「ただし、今日はまず武装色と見聞色から説明する」
私は右手を前へ出した。
「武装色の覇気とは、自分の身体や武器などに覇気を纏わせる力だ。イメージとしては見えない鎧を着るイメージをすればいい」
私は腕に力を込める。黒い色が右腕を覆った。
「これが武装色だ」
「
おお……」
ハヤトが目を見開く。
「実際に見ると凄いですね」
「見た目だけの問題ではない」
私は拳を握る。
「武装色によって攻撃力と防御力を高めることができる。そして、能力者の実体を捉えることもできる。悪魔の実で無敵と言われる自然系の悪魔の実の能力者も実体を捉えられる。そして更にその先がある。ロビン」
「なにかしら?」
「ハナハナの実の能力を使ってみてくれ」
「分かったわ」
ロビンは腕を交差させた私の周囲にロビンの腕が生えた。
いつ見ても不思議な能力だ。だが、能力には弱点がある。
「このようにな」
私は咲いた腕の一本を掴んだ。武装色の覇気を流し込む。
「――っ」
ロビンの表情が変わる。
生えた腕が力を失い、すぐに消えた。
「……なるほど」
ロビンは自分の腕を見つめた。
「過剰な覇気を流し込めば能力を無力化できるのね」
「正確には、能力そのものを完全に無効化するわけではない。だが、能力によって生み出された身体の一部にも武装色の影響を及ぼすことができる」
ロビンが考え込む。
「つまり、私の場合は特に注意が必要ということですね」
「そのレベルの覇気使いは早々に居ない。覇気使いを警戒しなければならないのは自然系の悪魔の実の能力者だ」
ハナハナの実は非常に強力な能力だ。だが、能力で生み出した部位は、本人の身体と繋がっている。
それゆえに、武装色を使える相手との戦いではリスクもある。
覇気使いを警戒しなければならないのは自然系の悪魔の実の能力者、覇気を用いれば自然系の悪魔の実の能力者の肉体の実体を捉える事が出来る。前半の海で無双していたが後半の海で覇気使いと遭遇して敗北する自然系の悪魔の実の能力者はそれなりにいる。
「能力を使うなという話ではない。弱点を理解した上で使え。能力を知り、相手の能力を知り、その上で戦い方を考える。それが重要だ」
「分かったわ」
「そして、武装色は武器にも使える」
私は近くにあった木の棒を拾った。
それに武装色を纏わせる。黒く染まった棒を岩へ向かって振り下ろした。轟音、岩の表面が大きく砕けた。
「武器そのものを強化できる」
カレンが自分の槍を見る。
「なら、この槍にも?」
「ああ」
「私のレイピアも?」
ワトソンが尋ねる。
「もちろんだ」
ハヤトもハンドアックスを見つめる。
「じゃあ、僕のこれにも……」
「使えるようになればな」
「……頑張ります」
全員の目が変わった。自分の武器を強くする力。それが分かれば、武器を持つ意味もさらに大きくなる。
「ただし、覇気は武装色だけではない。もう一つ、重要なのが見聞色の覇気だ」
私は目を閉じた。周囲の音を聞く。
風。木々の葉。仲間たちの呼吸。
昆奈門が少し離れた場所に立っている。私は目を開けた。
「見聞色の覇気は、相手の気配を感じ取る力だ」
私は背を向けた。
「見えない相手でも、その存在を感じ取ることができる」
昆奈門が静かに移動する。
木の陰へ隠れた。
「さらに――」
私はそちらを見ずに指を向けた。
「そこだ」
「……正解です」
昆奈門が姿を現した。
「目で見なくても分かるにですね」
「見えなくても、そこに何かがあると感じ取れる例えば、敵が煙幕を使った場合。目だけでは何も見えなくなる。しかし見聞色を鍛えていれば、煙の向こうにいる敵の位置を感じ取れる」
私は近くに置かれていた石を一つ拾った。
「そして、見聞色にはそれだけではない」
石を私の手の中で握る。
「目で追いつけないほど速い相手を捉えることもできる」
「速度に対応できる……?」
ハヤトが尋ねる。
「完全に速度を無視できるわけではない。しかし、目だけに頼るよりも早く相手の動きを察知できる」
私はハヤトを見る。
「お前のように、操縦で速度を扱う者にとっては特に重要になるだろう」
「僕に?」
「ああ……そしてお前は操縦中に無意識の内に見聞色の覇気を使っている。空神丸は高速飛行ができる。ならば、その速度に対応できる相手とも戦うことになる。ハヤトだけではない、何名かは意識しておらず無意識に覇気を使っている」
今までの戦いとは違う。
巨大な獣、海兵、海賊、そして、これから先に出会う強者たち。
今までは速度そのものが武器になっていた。しかし、それだけでは足りなくなる。
「敵が速いなら、それ以上の速度を出せばいいという単純な話ではない。相手がこちらの視界から消えるほど速ければ、目だけでは対応できない。だからこそ見聞色が必要になる」
私は少し間を置いた。
「そして逆も同じだ。見聞色だけに頼って、攻撃そのものが弱ければ意味がない」
武装色と見聞色。攻撃と防御。感知と対応。どちらも重要だ。
「二つを偏りなく鍛えろ」
私は全員を見渡した。
「武装色だけを鍛えても駄目だ。見聞色だけを鍛えても駄目だ。どちらも使えるようになってこそ、この先の海で戦える」
「私の場合、見聞色はかなり重要そうですな」
「ああ。お前は速度を活かす戦い方をする。相手の動きを読む力は必須になる」
カレンも槍を握る。
「武装色は、私の場合かなり重要ね」
「槍を強化すれば、攻撃の幅も広がる」
ハヤトも頷く。
「空神丸の武装にも使えるんですよね?」
「貴様は既に無意識で空神丸に覇気を纏わせている」
「なら、使いこなせるようにならないと」
ハヤトの言葉を聞いて私は頷いた。
皆が覇気の重要性を理解し始めている。
「……一ついいか?」
貴虎が口を開いた。
「なんだ?」
「覇気について説明するなら、覇王色については説明しなくていいのか?」
その言葉に、私は黙った。
覇王色。三種類ある覇気の中でも、特に特殊な力。
誰もが使えるものではない。生まれつきの資質が必要になる。
「……そうだな」
私は仲間たちを見る
。
「確かに説明しておくべきか……」
私は一歩前へ出た。
「覇王色については言葉で説明するより、実際に体験した方が早い」
「体験……?」
カレンが首を傾げる
。
「今から少しだけ見せる」
私は全員を見る。
そして力を解放した。
空気が震えた。大地そのものが重くなったような感覚。私を中心として、凄まじい圧力が周囲へ広がっていく。
「っ!?」
ハヤトの身体が硬直する。リグレットは拳を強く握る。
カレンも目を見開いた。ワトソンは歯を食いしばり、孔明は思わず片膝をつく。
ロビンも表情を強張らせた。昆奈門でさえ、顔から余裕が消えている。
貴虎だけは、歯を食いしばりながら立っていた。
私は全力ではない。だが、そこそこ本気で放った。こいつらを傷つけるつもりはない。それでも、覇王色とはこういう力だ。
強い意志。強者としての存在。それそのものを相手へ叩きつける。
「……これが」
ワトソンが息を整えながら呟く。
「覇王色……」
「ああ」
私は覇気を収めた。途端に空気が軽くなる。
ハヤトが大きく息を吐いた。
「な、なんだったんですか……今の……」
「これが覇王色の覇気だ。武装色や見聞色とは違い、誰でも鍛えれば使えるというものではない。生まれ持った資質が必要になる」
「つまり……」
孔明が言う。
「努力だけでは身につけられない力なのですね」
「そういうことだ……今のところ私とハンドルを握った時のハヤトにしか使えない代物だ」
私は頷き覇王色の覇気について軽く説明をした。
「だから、お前たち全員が使えるようになる必要はない。そもそも、使える者の方が少ない」
ロビンが尋ねる。
「じゃあ、覇王色を持たない者は弱いってことなの?」
「違う」
私は即答した。
「覇王色があるから強いのではない。強い者の中に、覇王色を持つ者がいるというだけだ」
重要なのはそこだ。覇王色を持っていなくても、武装色と見聞色を極めれば十分に強くなれる。
逆に覇王色を持っていても、それだけで強者になれるわけではない。覇気は偏りなく鍛える事で様々な事をすることが出来る。逆に偏りがある様に鍛えてしまえば出来る事に制限が生まれてしまう。
「覚えておけ。覇気は才能だけで決まるものではない。使い方を知り、鍛え、戦いの中で磨いていくものだ」
「つまり、俺たちが今やるべきなのは、武装色と見聞色を鍛えることか」
「その通りだ。そして、覇王色を持っている者がいるなら、それも鍛える」
私は全員を見渡したこれから先、悪魔超人軍は今まで以上に強い者たちと戦うことになる
この海の先には、まだ見ぬ怪物たちがいる。世界政府。海軍。海賊。そして、この世界そのものに名を刻むほどの強者たち。今の私たちがどれだけ強くなったとしても、それで終わりではない。
「今までの戦い方が通用しない相手とも出会うだろう。その時に知らなかったでは遅い。だから今のうちに覚えておけ。武器も、覇気も、使いこなして初めて力になる。持っているだけでは意味がない」
私は新しく支給された武器を見る。
槍。
レイピア。
ハンドアックス。
それぞれの武器を使いこなすためにも、覇気を鍛える必要がある。
「この島にいる間、それぞれ自分の武器を鍛えろ。そして武装色と見聞色も鍛えろ」
こうして、私たちの訓練が始まった。
朝は身体を鍛える。その後、それぞれの武器を使った訓練。
そして覇気。武装色を使える者は、武器へ纏わせる練習をする。見聞色を使える者は、目を閉じて周囲の気配を感じ取る。
最初は上手くいかない。
当然だ。覇気というものは、頭で理解しただけで使いこなせるものではない。
何度も失敗する。武装色が途中で途切れる。見聞色で感じ取ろうとしても、雑念に邪魔される。
だが、それでも皆は続けた。私は時折訓練を見ながら助言する。貴虎も自分の経験を伝えていた。
リグレットは炎刀・銃を使った射撃と武装色と見聞色の訓練を続ける。ワトソンは速度を活かすために見聞色を重点的に鍛える。
カレンは槍を振るいながら武装色を纏わせる。
ハヤトはハンドアックスの扱いだけではなく、空神丸の操縦訓練も続けた。ロビンも、自分の能力と覇気の関係を考えながら訓練していた。ザウスは既に覇気をある程度まで使いこなせており、六式も全て会得していた。
私が教えられることには限界がある。だが、知識を与えることはできる。
あとは本人たち次第だ。そうして1ヶ月が過ぎた。島に滞在している間、私たちは様々なことを行った。工房ではキテレツ斎が機械の改良を続けている。戦神丸と空神丸も少しずつ調整され、幻神丸もいつでも出撃できる状態に整えられていた。
鉱山では鉄鉱石の採掘が続いている。孔明は島の地形を調べ、記録を残している。ワトソンは植物や薬草を調べ、昆奈門は周囲の警戒を続けていた。私たちはこの島で、多くのものを得た。
そしてある日。孔明が記録指針を確認していた。
「将軍」
「どうした?」
「記録が溜まりました」
私は記録指針を見る。
針は、次の島を示していた。
「そうか」
ついに出発の時が来た。
この島を離れる。
とはいえ、すぐに出発するわけではない。
「最後に食料を確保しておけ」
ザウスの言葉を聞いて一同は頷いた。
「次の島がどんな場所か分かりませんから、保存食も多めに作ってく……狩ってこい」
「ああ」
私たちは島の奥へ向かった。
これまで何度も狩りをしてきた場所だ。巨大な獣が姿を現す。
「来たか」
私は拳を握る。
だが今回は私が前に出る必要はない
「行きますよ!」
宗次が刀を抜いて駆ける。
カレンが槍を突き出す。ワトソンが横から回り込む。
三人の攻撃が巨大な獣へ集中した。
獣が倒れる。
「よし!」
ハヤトが拳を握る。
私は小さく呟いた。
「一ヶ月ではこの程度か」
その日の狩りで、私たちは大量の食料を確保した。
肉は保存用に加工し、干し肉や燻製にする。野菜や果物も可能な限り集める。
ザウスが保存方法を指示し、皆で作業を進めた。
夕方。船へ荷物を積み込む。鉄鉱石。食料。水。薬品。工房で作られた部品。その他、この島で得た様々なもの。
最後に私は島を振り返った。
半年前。ここへ来た時は、ただの無人島だった。
だが今では違う。工房があり、採掘場があり、皆が過ごした場所がある。ここで鍛えたものも多い。
戦神丸。幻神丸。空神丸。新しい武器。そして覇気。それぞれがこの島で得たものを胸に、次へ進む。
「出発は明日だ」
私は仲間たちに告げた。
「今日はしっかり休め」
「はい!」
ハヤトが答える。
皆がそれぞれの場所へ戻っていく。私はしばらく甲板に立っていた。
海を眺める。次の島に何が待っているのかは分からない。
敵がいるのか。新しい仲間がいるのか。
あるいは、これまでとはまったく違う出来事が起きるのか。
それは行ってみなければ分からない。だが、それでいい。旅とはそういうものだ。
翌朝。太陽が昇る。最後の荷物を積み終えた。船員たちがそれぞれの持ち場につく。孔明が記録指針を確認する。
「進路、問題ありません」
「よし」
私は前方を見る。
「これより悪魔超人軍は次なる島に向けて出航だ」
船が動き出す。
島が少しずつ遠ざかっていく。
誰もいない島。悪魔超人軍は半年間場所。
やがて、その姿は水平線の向こうへ消えていく。
私は前を向いた。 次の島へ。そして、その先へ。
誰に聞かせるでもなく、私は呟いた悪魔超人軍の旅は、まだ始まったばかりなのだから。