流転のベグディアス:Reborn in The Cycle of Reincarnation   作:るろうに2025

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Destiny.2 テスト

「なに……これ……」

 

 私は呆然と立ち尽くすより他なかった。

 

 それまで春らしい陽気な青が広がっていた空には、真っ黒な闇と見覚えのない巨大な星が浮かんでいる。地表の街には電気が灯っておらず、建物の輪郭だけが見えている。

 

 ――私、もしかして死んだ?

 

 隕石か飛行機か何かでも落ちてきて、一瞬のうちに死んだのだろうか。それとも、地震でも起きたのだろうか。

 

 私は右頬を指でそっと摘んだ。

 

「いたっ」

 

 ちゃんと痛い。それだけじゃなく、ちゃんと五感も生きている。

 

 ならばここは。

 

「いせ……かい?」

 

 そう口にした時だった。

 

「え?えっ!?」

 

 私の後ろから聞き慣れた声が響く。沙知の声だ。

 

「これなに?映画?ドッキリ!?」

 

 沙知は窓の外の光景に焦りを隠せない様子だった。無理もない。去年の私だったら同じ反応をしていただろう。

 

 私は沙知の方を振り向いた。目と目が合う。

 

「さくら、これなに?私、寝ちゃった!?」

「いや、そんなわけ……」

 

 ――でも、そっちの方が自然だよねぇ……。

 

 そう考えていると、周りからも驚きと困惑の声が聞こえはじめた。皆が一様に窓の外に釘付けになっている。

 

「停電?」

「あの星、なに?」

「誰か先生呼んできて!」

 

 ――そうだ、先生!

 

 これだけの異常時なら、先生も気づいてるはず。この事態だって先生の方が詳しいに決まっている。

 

 私と同じことを考えたのか、一人の男子が教室前方の出口から出ようとした。

 

 すると。

 

「いってえ!なんだこれ!!」

 

 男子はまるで壁に弾かれるように床に倒れ込んだ。あからさまに痛そうに頭を抱えている。

 

藤原(ふじわら)くん!?」

「なんだよこれ、出れねえじゃん!」

 

 藤原というらしいその男子が叫び散らかす。どうやら出口には透明なバリアのようなものが貼られているみたいだった。

 

「椅子をぶつければ破れるかも……!」

 

 誰かがそう言って椅子を取りに席に向かった、その時だった。

 

 キィン……。

 

 高く不快な音が脳内に響き渡る。

 

「なんの音!?」

「なんか黒板に書いてない!?」

 

 女子の声に釣られるように、私は黒板の方に視線を送った。

 

 黒板に、光の文字が浮かび上がる。

 

 "Welcome, OBSERVERS"

 

「オブザーバー……?」

 

 英語の意味通りなら、観測者。

 

「なにそれ……観測者って誰……」

 

 沙知が私の袖をぎゅっと掴む。震えている。

 

 光の文字は続けて書き換わる。

 

 "DESTINY.1:TEST"

 

 "POPULATION : 38"

 

 私は教室中を見回した。

 

 三十八人。

 

 つまり。

 

「人数……?」

「うそでしょ……」

 

 誰かが呟く。憔悴しきった声で。

 

「テストってなんだよ!こっから出せよ!!」

 

 藤原が再び叫んだ瞬間、女子のひきつる声が室内に充満した。

 

「なにかいる……!」

「ひっ……!」

 

 そこにいたのは、魔物であった。

 

 四つ足でピンク色の、しかし人のような顔を持ち、頭から一対のツノが生えている、"魔物"としか言いようのない獣。体格が三メートルにも及ぶような獣。

 

 その獣は、私たちの方を睨んでいた。

 

「お……おい!誰かこいつを……」

 

 獣は難なく教室内へ侵入し、狼狽える藤原の右脚を口に咥えた。

 

「いっ……!」

「おい!翔介(しょうすけ)!!」

 

 藤原はなす術もないまま、脚を食い千切られた。

 

「翔介!!」

 

 別の男子の声が空を切り裂く。

 

 魔物はそのまま藤原の腕を、胸を、頭を食い散らかした。

 

 誰から見ても、藤原が死んだことは明らかだった。

 

 誰も動けなかった。

 

 頭では助けなきゃと思っているのに、足が床に縫い付けられたみたいに動かない。あの巨大な顎。血の気の引いた顔。現実感のない光景が、思考を完全に凍らせていた。

 

「きゃあーっ!!」

 

 その凍った思考を解いたのは、女子の悲鳴だった。

 

 魔物の目が室内の皆を舐めまわした時、誰もが次にするべきことを理解した。

 

「さくら!逃げよう!!」

 

 私たちは教室後ろの出口から廊下に出ようと必死になった。三十七人全員が一つの狭い空間に押し寄せ、何人かが倒れ、踏まれた。

 

「おい!早く出ろよ!」

「押すなって!!」

 

 何人かが教室から脱出した時、逃げ遅れたクラスメイトがまた一人魔物の餌食になった。それなのに、私たちは誰一人としてその生徒を気にもしなかった。

 

 ただ一人。沙知を除いて。

 

「もうやめて!!」

 

 沙知の怒りと悲しみに溢れた声が私の鼓膜を揺らす。

 

「やめてよ!!」

 

 魔物の視線が沙知に定まる。

 

「サチ!!」

 

 私は沙知を覆うように魔物の前に出た。なにか策があるわけでもなく。沙知を守る方法があるわけでもなく。

 

 私を突き動かしたもの、それは衝動と。

 

 破滅願望だった。

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