流転のベグディアス:Reborn in The Cycle of Reincarnation 作:るろうに2025
私は、死に場所を探している。
去年の夏。某競技場にて。
県大会のエースという肩書きと皆の期待を背負った私は、いつものように位置に並んだ。
ピストル音が鳴り、クラウチングスタートを成功させる。
加速し、あっという間に最高速に乗る。
流す、景色が、流れる。
瞬間、痛みが膝に走る。
鈍さ、違和感。
速度が、落ちる。ゴールが、遠のく。
十四秒.五。突きつけられた数字は、残酷なものであった。
私は、泣いた。更衣室で、ワンワンと。
後日、私は病院で『離断性骨軟骨炎』と診断された。
全治、九ヶ月。成長期の私にとっては、致命的な長さだった。
―――――
私は、死に場所を探している。
――見つけた。
得体の知れない魔物を目の前に、私の中に恐怖と、微かな期待が湧く。
「さくらっ!!」
沙知の声が耳をつんざく。
私は振り返らなかった。
振り返ったら、生きたくなるから。
逃げたくなるから。
それだけは、嫌だった。
魔物の息が、肌に触れる。何かが腐ったような酷い臭いがする。
驚くほど近いのに、驚くほど静かだ。
「こ……」
私は言葉を捻り出す。
「来いよ」
魔物が低いうねり声をあげ、鋭利な顎が私の胸に振り下ろされる。
「……っ」
衝撃は、来なかった。
代わりに来たもの。それは、白い空間だった。
教室から色が消え、白に満たされている。
沙知も、出口に押し寄せるクラスメイトも、黒板も。
全てが白く、静止している。
まるで、さっきみたいに。
「私、今度こそ……」
――死ねたのかな……?
そう口にしようとした時、どこからか拍手が聞こえた。拍手は次第に近づく。だが、その主はどこにもいない。
「だれ……?」
「合格だ」
男性とも女性とも言えない、不思議な声が私の脳内に響く。不快な痒さが頭に走る。
「……は?」
「キミは、確かにオブザーバーだ」
――オブザーバー。黒板に現れた文字と、同じ言葉。
「これはテストさ。キミには力を受け入れる"器"がある」
「テスト?テストって何!?」
「世界の存続をかけた、観測実験さ」
意味が分からない。分からないのに、何故か話がスッと入ってくる。
「キミには武器を与える。力を与える。これを受け取るといい」
声と共に、私の右腕が光り輝く。
「くっ……」
閉じた目を再び開けると、腕にはデバイスが嵌められていた。私のスマホにも似た、白いデバイス。
「キミの愛用しているスマートフォンとかいう機械を少し弄らせてもらった。その武器で生きるもよし、死ぬもよし。全ては運命次第さ」
「待って!あなたは誰なの!?」
私は叫んだ。声の主がどうしても知りたかった。
「ボクは、キミたちと同じ。世界の観測者だ」
刹那、意識が現実へと戻る。眼前に魔物がいる。
私は反射的に右腕を魔物の前にかざした。
すると、デバイスから緑色の眩い光が流れ出した。光は円になり、魔物の顎を弾き返した。
「これは……盾?」
緑色の光はまるで盾のような形をしていた。
魔物はまるで驚いたようにこちらを見ている。出方を伺っているようだ。
「ならば!」
私は右腕を高く振り上げた。緑はみるみるうちに形を変えた。円から、直線へ。
盾から、剣へ。
魔物はそれを視線に収めるなり、私に飛びかかってきた。
「うおおおおおおお!!!」
私の腕が魔物へと振り下ろされる。光の刃は魔物の顔を二分するように、抵抗もなくスッと通り抜けた。
空間が避ける音が、一拍遅れて聞こえ、そして魔物の顔が大きく割れた。紫色の血が流れ、机や椅子を汚す。
魔物は絶命した。
「お……終わった……?」
沙知の口から言葉がこぼれる。
私がゆっくり振り向くと、沙知は怯えていた。
恐怖に震える目。得体の知れない何かを見つめる目。
「サチ……」
キィン……。
高い音が脳に響く。さっきも聞いた音だ。
私は黒板に目をやる。光の文字が書き換わっている。
"DESTINY.1:CLEAR"
"POPULATION:36"
それと同時に、魔物の身体と血、そして殺されたクラスメイトがサラサラと砂のように分解され、消えた。何事もなかったかのように。
「二人死んだから……」
二人死んだから、三十六人。
――もし、私が力を手にしていなかったら、もっと……。
私は教室内を見渡した。ほぼ全員が私のことを見つめている。
敬意と、畏怖の目で。