9話 頭ぐるぐるパンケーキ
今自分の見ているものが信じられなくなってきた彩葉は、頭がぐるぐる混乱しながらも赤ん坊を抱く。
「で、電柱から赤ちゃんと言ったら、セミ、セミかな? わぁ軽くて抜け殻のよう」
腕に抱いたらとっても軽くて、生活が手一杯の自分でもなんとかなるような気がしたけど、いやいやこれは夢なんだと視界の再起動をしてみる。
「はい目を閉じました、また開けたらいなくなってるはず、はいどーん」
「ふぇー♡」
いないいないばあされたみたいに赤ちゃんが可愛げに喜んでいる。
「なんでぇ、スマコンは学校じゃ禁止だから持ってきてないのに……あっおーい! お忘れ物ですよ!」
電柱は役目が終わりましたとばかりに、扉を閉じてもとに戻る。頭のグルグルはより一層加速し、寝不足の頭はもう振り回されっぱなしだ。
「……電柱の子供っていい匂いするんだ。パンケーキの宅配を誰かが頼んで、それが電線で送られると赤ちゃんになる。何を言ってるんだろうね私は」
抱き直すと手のなかの幼女は、この世の全ての愛を手に入れたように嬉しそうに笑った。
10話 初めての?
「か、壁ドン初めてされた。ほらほら怖くないよベロベロ〜、あっ舐めちゃった」
舌先がうっかり赤ちゃんの額に当たると、考え込むかのように夜泣きが止まった。
「ええい今のうちに寝かしつけを調べよう。え〜子守歌子守歌子守歌……」
執拗に頭突きされるなか、顎ガードで抑えて最高にチルい曲を聴かせたら、赤ちゃんはそのままズルズルと寝落ちした。
「分かってるねキミ。目を覚ましたらヤチヨについて教えてあげよ、う……私も、もう疲れたぁ」
夢が現実かもわからないまま、得体のしれない赤んぼうと頬を寄せ合って、彩葉も40時間ぶりに眠った。
11話 マネーイズリアル
「幻覚じゃ……ないよね。あっ濡れてる! あーもー、ムリムリムリムリい!」
か弱い生命をほったらかしにできず、学園一の才媛がではどうするべきなのか最適な行動に追われる。
「私の子じゃないです〜、私の子じゃ、ないですよ〜。え〜ここまだ、夢じゃなくて?」
ベビー用品店までいって機械的に正解を選ぶ。
(100点取らないと、この子も私も死ぬんだっ)
「合計で1万3243円です」
自らの生き方を投影しながらお会計に進むと、ありえんくらい高い金額に夢から目が覚める。
(えっほんとに減ってる)
スマートフォンから銀行残高が差し引かれると彩葉は、ここがはっきりと現実なんだって午前中11時のお昼前に理解した。
12話 まだ伸びる
「まぁ今どきは何もかものスピードが速いですねぇ」
初めての子育て……と認めたくない気持ちは忙しさに忙殺され、一瞬も気が休まらずにそのまま1日が終わる。勝手にリモコンをいじってた赤ちゃんを抱きかかえて、天井を見ることもなく彩葉は眠気に誘われた。
「重っ」「いてっ」
何か声が聞こえたような気がしたけど、徹夜明けの反動は重たくて身体が睡眠を優先する。
「おぉ〜……ポチポチ、スーッとな。むむむ……? さかよりいろは、しんちょう、いつまでのびる、150せんち、ていばんこーで、ぶるべ、いえべ……」
気になる単語が聞こえるような……誰かに体を揺すられて彩葉は目を覚ます。
「ねぇねぇおなかすいた。ミルク〜」