25話 葛藤
今日も早起きできて何よりなのだが、もう学校が始まるわ家にはでかい生き物がいるわで彩葉は落ち着く暇もない。
「ねぇねぇ、彩葉がいっつも見てるこの人誰? 好きなの?」
その質問、いつか誰かがしてくれたらなと待ち焦がれてた。でも今は死ぬほど忙しいし、これはひとことふたことコメントが欲しいだけで、深掘りするための質問じゃないと自制する。
「月見(るなみ)ヤチヨっていうAIライバー、推し、分身もできて、歌って踊れて八千歳って設定」
「ぶぇ〜、おもろ〜」
素質があるな。1歩目が好意的なのは有り難く、もしかしたら得体の知れない宇宙人とも分かり合えるのでは? って気が湧いてくる。
「……最初はそんなね、何言ってるんだかって入る人が多いんだけど、ヤチヨはね、いつも居てくれて、それがどんなに心の支えになるかファン同士の空気も良くて、切り抜きも色々あるから見てみたり、当時流行ったショートとか歌ってみたとか、そういうコンテンツが無限にあってね……」
「うんうんそうなんだ〜、なんかすっごく面白そう!」
(ダメ! 私この子のことがいい子に見えてきちゃう……!)
26話 日々の体力作りから
「んじゃ行ってきます」
「え〜! やだやだぁ! 一緒いて!」
玄関まで走って引き止めてくるけど、もう背丈が変わらなくなって面倒見るようなデカさじゃない。
「ムリ、学校休めない。あんたと関わったのは私の責任だけど、元に戻すから月へ帰って。どうやって帰るの?」
「彩葉……これから毎日、腕立て伏せ100回、腹筋100回、スクワット100回、ランニング10キロを、やれって言うの?」
そんなこと無理だよね? って訴えてくるけど、全然不可能なことだと思えない。
「そこそこきついけど……それで月に帰れるんなら。やっぱりみんなそれくらい頑張ってるよね」
「彩葉はこれがどんなに過酷か分かってないよ! 月までの38万キロを甘く見てるよ!」
27話 ほんとにやった
「分かった、ランニングは危ないから家から出ないでね。筋トレしたらごはんはそこ、パンケーキ」
「わぁっ♡ もっ、もっ、コッコッコッ! うぇ〜、クソまじい」
失礼さに関してはしばいたろかお前案件だが、味に関してはコストの限界まで切り詰めているので反論を認める。
「おいしさが欲しいならよその子になりなさーい、んじゃ行ってきます」
もう時間がないので彩葉は出かけると、残された美少女は不満気に口を尖らせる。
「ぶ〜、食べきって認めさせてやる……! こんなの速攻終わらせちゃうんだから! いち、に! ………さーん!」
28話 学校の彩葉さん
完璧にピアノを弾いて先生に褒められる彩葉。
(安らぐ〜。しかしあいつ、家で大人しくしてるといいが……スマホで防犯機能とか、もっとよく調べとけばよかったな。見守りアプリもな〜……)
自身も親の監視から抜け出した身である。日中進路希望に太鼓判まで貰うが、気になることが多くて集中できない。
「このままのペースを維持できるなら、全く夢じゃないよ」
「はい、気を抜かずやっていきます(あ〜スマホが見れない〜、学校では完璧な優等生だからスマホ見る時間も限られる〜)」
授業の合間はロカとマミと一緒にいるから、ヤチヨのSNSをチェックするのも難しい。
「殺人級の睡魔がさ〜」
「彩葉はまた3時間しか寝てないの? 無理しちゃダメだよ」
「あはは、無理なんてしてないよぉ(今日のライブだけは絶対に外せない、スマホ〜。告知は来てないか〜、チケット〜、日付間違えてないかアラームのセットはバッチリか〜)」
そんな様子をおくびにも出さず学校を終えても、家に帰るまでは完璧をやり抜くのだ。
(今日はヤチヨと何を話せばいいんだろう、全部聞いてもらいたいけどそんな時間はない。変なやつだと思われたくないし、ありきたりな、ううんでもつまらない奴とも思われたくないし、ど〜しよ〜! まずちゃんと話せるんだろうか、いつも末席からはしゃぎ倒してるのが知られてたら恥ずか死ぬ! あ……そういえばあいつ大丈夫かな)
「彩葉おいで〜」
少し上の空だった彩葉は、友人の会話を少し聞き逃してしまう。
「えっ、何だっけ?」
「彩葉ってこういうとこが不安なんだよね〜」