笑って死ね   作:おぼこい創作者

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第1話 還生

 

「──────っ」

 

 目を覚ます。視界には、見慣れた日本の和室らしき景色が広がっている。

 周辺視野に映る様子から、人に囲まれているのが分かった。心地よい日差し。心地よい視線。

 どこだ? ここ。

 

「慎也。おめで───」

 

 目の前にいる成人男性が、何か穏やかな顔で告げようとした瞬間───

 

ドゴォォォォォォォォォォォォオオオオオン!!!  

 

「あぇっ?」

 

 その成人男性が、綺麗な赤い花火のように飛び散り、俺の左半身の感覚がスっと消え、何故か分からないが、そのまま左の方へドサッと倒れた。

 

「きゃぁぁぁああ!!」

 

「いっ……ひぃぃっ!! お、おとっ、おとうさまっ、しんやさまぁっ」

 

「シンッ!!! おいっ!! はや───を──────」

 

 消えゆく五感。遠のく声。ああ、そこにいるあなたたちの名前だけでも知りたかった。

 

 そう思う間も無く、俺は意識を手放した。

 

 

 

 ──────────────────

 

「ねぇ、死にたい?」

 

 え、誰? 

 

「私よ。覚えてないの?」

 

 頭に直接語りかけてます、ってこんな感じなのかな、って思うような、そんな響き方のする声が聞こえてくる。

 

「ちょっと……あんたさぁ。ふざけるなら私帰るから。折角助けに来たってのに……」

 

 え、おいちょっと待ってくれ。

 

「……なによ!」

 

 さっきはごめん、ふざけて悪かった。俺の心の声? も聞こえちゃうとは……。

 

「……はぁ。心の中で思ったことについては謝らないのね。それで?」

 

 ……本当にごめんなさい。これからは二度と言いません。思いません……。その、まず状況の説明をお願いしたく……。ココハドコデショウカ。

 

「ここは、まぁ、あの世とこの世の中間地点とでも言えばいいかしら」

 

 な、なるほど……。それで、その、あなたが先ほど言っていた……。

 

「あぁ。だから、死にたいの? 生きたいの? って聞いたの。あと、あんたほんとに私の事……」

 

 え? 

 

「いや。なんでもない……。いいから早く答えなさい! じゃないととっとと死んでもらうわよ! そこのドアの向こう行って船乗ったら直ぐあの世行きよ!」

 

 えぇ!? そ、そんなに簡単に行けるものなんですか!? ええっと……。

 

 

 俺は暫く考える。

 

 

「……」

 

 ……つまり、俺は、死んだんですか。

 

「そう、ね。あなたは死んだ。具体的に言うと、左半身を消し飛ばされて」

 

 ……。

 

 

 お互いに沈黙が続く。

 

 

 これ、生きたいって言ったら───

 

「大丈夫」

 

 

 彼女は、先程までのやり取りとはうってかわり、息を飲むような美しい姿勢で、包み込むように告げた。

 

 

「私が、あんたを絶対に生き返らせるから」

 

 

 ──────────────────

 

 深い深い沼から、体を少しずつ引き上げるように、暗く沈んでいた意識が浮上していく。

 

「……」

 

 ざぁぁっ、とノイズが最初にお出迎えしてくれたと思えば、直ぐにその環境音のようなものは静まっていく。耳が外部の刺激に慣れてくると、ぴくりと指を跳ねさせる。

 

 片方の手には心地よい布の感触。そして、もう片方の手には───

 

「っ!」

 

 反射的に、それまで接着していたように閉じていた両目を勢いよく全開すると、顔をバッと持ち上げ左手を見やる。

 

「……すぅ。……すぅ……」

 

 消し飛ばされていた筈の左からは、俺の左手をガッチリと握っている人の温かみが伝わってくる。この人、こんなに強く握りながらも俺の左半身にもたれかからないような絶妙なバランスで船を漕いでいる。

 一定の感覚で上下する頭は、何故かずっと見ていられた。

 

「……いや、そうじゃなくて。俺の左半身が、ある……?」

 

 強く握り締めるその手に応えるように、自分も力を少し入れてみると、柔らかな肉の感触が伝わってくる。

 

 今度は、右手で服の隙間から肌を触り、ペタペタと左胸や左腕を触ってみたりする。

 

「……うん、ちゃんとある。痛くもないな」

 

 そのまま、しばらくの間ぷにぷにと左半身の肉をつねったりしていると、頭の中に声が鳴り響く。

 

『……もう確認は済んだでしょ。即刻その手を止めて、所定の位置に戻しなさい。じゃないと今度こそ死んでもらうから』

 

 低く、殺気を押し殺したような声に、ビクッと体を跳ねさせて、右手の動きを止める。

 

『ねぇ、もう一度言うわよ? は、や、く、その手を所定の位置に戻しなさい!!!』

 

「はいっ!!!!」

 

 シュッ、バッ、と手を服から引き抜き、廊下に立たされる生徒のように、気をつけの姿勢で太ももの横に手を付ける。

 

『……。はぁ。その調子だと、何とかなったみたいね』

 

「え、え? あの、えぇ?」

 

『けど、頭の中はまだ整理が付いてないみたいね。あと、数分前のことも覚えてないみたいだし?』

 

 彼女? の言葉を聞いて、ハッと思い出す。

 そうだ、この声はさっき夢の中で会った───

 

「お、覚えてますよ!! 先程夢の中で……」

 

『ん、その通りよ。さっきぶりね』

 

 イマジナリー彼女? が髪をサッと靡かせ頷く姿が脳裏に浮かぶ。

 

『それで、何か聞きたいことがあれば答えるけど。頭の方の整理も手伝うわよ』

 

「……えーと、聞きたいことが多すぎて……」

 

『それもそうね。じゃあ、1から順に説明するわよ。まず、あなたの左半身についてだけど───』

 

 彼女は簡単に、時系列順に説明をしてくれた。

 

 1.俺の左半身は何者かによって吹き飛ばされた。

 2.彼女が左半身を治してくれた。

 3.それにより、彼女と俺が同化した。

 4.その結果、彼女の心臓と俺の脳が身体に同居している状態になり、こんなことになっている。

 

「え!? なにそれ、どっどどどういうことですか? 漫画かアニメの話してます? これ」

 

『漫画でもアニメでも無いわよ。サラッと受け止めなさい。事実を』

 

「そんなこと言われても……」

 

 つまり、なんだ。逆に漫画やアニメの解釈を素直に持ち込めばめっちゃ分かりやすい理解を得られるわけだが、つまりあれか? 

 同化により彼女と俺の魂的なものが融合して、今頭の中に声が聞こえてるってことなのか? 

 

『そういうことよ。話が早くて助かるわ』

 

 んーっ、頭の中でも喋れるんかい! 

 

『えぇ、筒抜けよ』

 

 

 ははっ。

 

 

 なんていうか、この展開を踏まえた上でこんなやり取りをしていることに、思わず笑ってしまった。こんなのコメディじゃないか。

 

『なに腑抜けたこと言ってんのよ。とりあえず、状況はこれで理解できたかしら?』

 

 あ、あぁ。なんとか。

 

『それは何より……。それで……』

 

 ……ん? 

 

 

 妙に長いというか、重い沈黙が続く。なんだろう、これ以上に何か重い事実を言い渡されるのだろうか。これ以上ってなんだよ。これ以上があってたまるか。

 

 

『……あんた、その……』

 

 は、はい……? なんでしょうか……。

 

 

 ビクビクしながら言葉を待っていると、まるで、何か勇気を必要とする言葉を発するかのようなテンションで問うてくる。

 

 

『ほんとに、覚えてない、の……?』

 

 な、なにがでしょう……? 

 

『今までの、ことを』




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