転生したら虚だった件(勘違い)   作:奴隷貸出中

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転生

 気付いたら人間じゃなくなっていた。

 

 畜生道なのか餓鬼道なのか、醜悪な怪物となり荒野を彷徨っていた。

 

 人に近い形をしているだけの人外共の顔は全て仮面に覆われており、時折形が異なる力持つ個体がいる。つまり、なるほど…………ここは虚圏(ウェコムンド)だな!

 

 そして俺はどうやら(ホロウ)に転生したらしい。転生、でいいのだろうか? ホロウとはBLEACHという漫画に出てくる謂わば悪霊であり死んだ人間霊が変化した姿。あれ、でも俺も含めて皆、胸に穴がないような?

 

 まあいいかぁ! よろしくなぁ!

 

 なんて、ハイになったふりをしても娯楽一つないこの世界で楽しくやっていけるはずもなく、やることと言えば鍛錬ぐらいか。

 

 拾った棒切を振るう。拳を構え、打つ。

 腕立て伏せに腹筋、短距離走にランニング。同じことを繰り返して昨日出来なかったことが出来るようになる。その達成感ぐらいしか娯楽はなかった。

 

 そう思っていたある日、それを見つけた。

 

「お、おい、ここってまさか!」

「嘘だ、嘘だろ!?」

 

 人間だ。何故虚圏(ウェコムンド)に人間が? それにあの怯えよう。ここがどういう場所か理解している?

 

「あ………」

 

 騒いでいたから他のホロウに見つかった。迷い込んだ獲物を逃がす理由など突然奴等にあるはずも無くその首をへし折ろうと伸ばされる腕。

 

「…………………え」

 

 その腕を気付いたら掴んでいた。

 

「…………?」

 

 邪魔され首を傾げるホロウ。本来食い合いすら当たり前の筈のホロウだが、ここの連中は何故か殺し合いを滅多に行わない。なんなら数に対して僅かな獲物相手に奪い合いさえしてなかった。

 

 だから邪魔されると思わず呆けるホロウの顔面を殴りつける。

 

「────!?」

 

 仲間に仲間が攻撃されたことに動揺するホロウ達。隙だらけのそいつ等へ襲いかかる。

 

「しゅ、醜鬼が、殺し合って………!?」

 

 ん、しゅ、なんて? よく解らないけどさっさと逃げろよ! ここは俺が引き受ける!

 

 

 

 

「がぐ、ごぁ(こ、これはぁ)………!」

 

 漫画だぁ!

 

 男達が落としたカバンから漫画を見つけた!

 人間の血らしきものは見かけなかったし、多分逃げられたのだろう。良かった良かった。

 

 それから時折紛れ込む文明の欠片を集めるのが俺の趣味。

 

 漫画は歯抜け。飯なんか見つけた日にはごちそう。でもインスタントはハズレ。音楽プレイヤーなんかはそりゃもうお宝だ!

 

 やっぱりここ、虚圏(ウェコムンド)とは違うのだろうか? 現世のものが結構頻繁に紛れ込む。黒い服着た死神的な同胞を狩る連中も黒い服だけど着物じゃなくて軍服だしどっちかというと完現術者(フルブリンガー)みたいな多彩さだが何か特定のものを使っている様子はない。

 

「ごぐぅ、ぐぎゃごご…………」

 

 朽ちかけた祠のような場所を改造して使った我が住処。中々いい出来じゃないか!

 

 ボゴォン!!

 

「ぐぎゃああ!?」

 

 俺の住処が!?

 

 見れば巨大な一本角を持つホロウが複数のホロウを連れ何かを目指している。これまで見たことがない群れの数。

 

 それを率いる特殊個体は何かを目指している?

 

「ぐる、がああ!!」

 

 どの道俺には関係ないだろ! お前の群れの部下じゃないっての!

 

「が………?」

 

 なんだ、あれ?

 空間に空いた穴?

 

 引きずり込まれ…………。

 

 

 

 

「…………………ぎゃ?」

 

 …………………は?  

 

 穴の向こうは植物が群生し、上を見上げれば満天の星空。

 

 遠くに見えるのは村?

 

 ここは現世? マジか、ここが!? 新しい漫画とか…………あ、でも流魂街の可能性も………いやまて、どっちにしろホロウが来る理由なんて……………!!

 

「うわああああああ!?」

「しゅ、醜鬼が! ぎゃああああ!!」

「逃げろ! 逃げろぉ!」

「子供達だけでも逃がせええええ!!」

 

 響き渡る破壊音と悲鳴。立ち上る業火。香る煤と血の匂い。

 

 これまで見てきた人を襲う光景がただの児戯でしかないと理解させるだけの死が広がる。

 

「ごああ!!」

「がっ!?」

「ぐぎゃあ!!」

「え、仲間割れ!?」

「ごるる!」

 

 逃げろと手で促す。通じてくれたのか、攻撃されそうになったと思ったのかは解らない。少なくともこの場から離れてはくれる。

 

「ひ、ひぃ! 化け物、化け物ぉ!」

「ごあああ!!」

 

 子供を襲うホロウを爪で引き裂く。子供が向けてくる目は感謝ではなく恐怖。当たり前だ。分かりきって、いた事だ。

 

「ごぎゃあああ!!」

「があ、ぐああ!」

「ごおお!!」

 

 見返りはなく、感謝もない。既に人でもないのに人を助けるのは、人であったころの未練だろうか? それでもいいさ。俺は人間だ!!

 

「お母さん!!」

 

 遠くで一本角が女性を叩き伏せるのが見えた。直ぐ側には幼い子供!!

 

「……………!!」

「ガアアアアアアアア!!」

「──────」

 

 助けに行かなくては、咄嗟にそう思えた僅かな人間性をすり潰す強者の咆哮。

 

 あれの前に立てば死ぬ。邪魔すれば死ぬ。何の意味もなく殺される。

 

 意思が折れる。足が止まる。怖い。死にたくない。

 

 そうだ、戦えば死ぬ。()()、ヒーローを気取って殺される。前世のように。

 死ぬのがどれだけ痛いか知ってるだろう。

 

 誰も責めないさ。感謝なら最初からされないし………。

 

 

 

 

「お母、さん………」

 

 母を叩き潰した一本角の醜鬼は、次なる獲物としてその娘を狙う。それは醜鬼と戦うために『桃』と呼ばれる特殊な果実を食い力を得た者達ですら葬る力を持つ特異個体。子供など跡形もなく消し飛ばす拳を叩きつけ………。

 

「ぐあああ!!」

「がぁ!?」

 

 その頬を殴りつける拳。咄嗟にふるった一本角の腕が相手を吹き飛ばす。

 

「か、は……!」

「ごぐぐぐ!!」

 

 木々を圧し折りながら吹き飛んだのは醜鬼。自身の部下ではない。あんな雑魚が、自分に攻撃?

 

「ごああああ!!」

 

 一本角は今までに覚えたことのない感情に震え、周囲の醜鬼に痴れ者を殺せと命じる。

 

 グチャリグシャリと醜鬼が集う肉団子から響く咀嚼音。一本角は再び人間を皆殺しにするべく歩き出す。

 

「あ、あ………やだ、誰か。助けて………」

「……………!!」

 

 後頭部に肉塊がべチャリと当たる。

 

 振り返れば醜鬼の肉を喰らう、自らに逆らう忌々しい醜鬼の姿。べッと醜鬼の指を吐き捨てる。

 

 同族を食らったのだ。

 

 醜鬼は追い詰められると同族同士で融合し巨大化することがある。その力は当然跳ね上がる。また、醜鬼自体は行うことはないが、例えば何らかの上位種が命じ醜鬼に醜鬼を食わせることで力をつけさせることもできる。

 

 元より力を持つ特殊個体に対して、同族喰らいで力をつけた通常個体。鬼面を思わせる仮面のような顔が一本角を睨みつける。

 

「ごあああああ!!」

「があああああ!!」

 

 

 

 

 

 痛いし、怖い。

 

 拳が当たるたびに、肉体と共に心が砕けそうだ。

 

 なのに、何故まだ俺は戦っている?

 

 ずっと忌避していた同族食いまでして、見ず知らずの誰かの為に戦ってる。

 

 なにがしたいんだ俺は。ヒーローごっこは前世で懲りろよ。その果てに死んだじゃないか。苦しかった、痛かった、怖かった、寒かった、熱かった………。

 

 傷が焼かれたように熱くていたいのに、体の芯は水に浸したかのように冷たい。

 

 前世の最後で体験した、死の間際のあの感覚。

 

 怖い。逃げたい。心が折れて精神が砕けそうだ。

 

「がっ………!」

「ぁ………」

 

 さっさと逃げてしまえば良い。此奴等が優先するのは、同族よりも人間なのだから。今逃げれば、まだ生きている生き残りを殺す為に俺は見逃される。

 

「……………おね、がい………負けないで!」

「がああああああ!!」

「がああ!?」

 

 痛いし怖い。辛くて逃げたい。

 

 でも、それでも俺は、護りたいんだよ。

 護れる人になれ、そんな願いでつけられた名前。小学校でよくある、自分の名前の原点を聞こう。そんなありふれた光景から始まった子供っぽい英雄願望。でもさぁ………やっぱり、憧れたんだよ! 誰かを護れる存在に!!

 

 子供っぽいと笑うなら笑え! 俺はなりたい。ヒーローになりたい!

 

 だから、負けるわけにはいかないんだよ!!

 

「ごああああああ!!」

 

 被弾を無視し、全てのエネルギーを足に! 足から腰に、腰から腕に!!

 

 顔面を殴りつけると同時に内から弾ける。腕に響く感触は、しかし自身の拳の崩壊だけではない。

 

 

 

 

「ごああああああ!?」

 

 頭蓋の一部と兜を思わせる外殻が砕け、久しく味わっていなかったであろう痛みに叫ぶ一本角。

 

 忌々しそうに睨むも、倒れぬ醜鬼に睨まれ後ず去る。次の瞬間には背を向け逃げ出した。

 

 残ったのは片腕が千切れかけた醜鬼と僅かな醜鬼達。

 

「ごああああ!!」

 

 傷だらけの醜鬼の叫びにビクリと震え慌てて来た場所へ引き返す醜鬼の群。残された傷だらけの醜鬼は………

 

「ぎっ!?」

 

 背中に突き刺さる氷の槍。

 

「醜鬼発見! 村人は………ひどい被害!」

「これ以上の被害を広げさせるな!」

「……………ごあああああ!!」

 

 近くの民家を殴りつけ破片を飛ばす。砂煙を目隠しに傷だらけの醜鬼は森の奥へと消えていった。

 

 

 後に月山大井沢事件と呼ばれることになるこの事件。被害は400人という村の半数が殺される大事件。

 

 生き残った村人達の証言から人間ではなく醜鬼を襲う特殊個体の存在を確認。現場に残っていた死体から、共食いの習性があると推測される。一部の証言では村人を守っていたとの報告。共食いへの優先度が非常に高いと思われる。

 

 共食いの醜鬼………『二本角』と名付けられた特異個体。同様に、『一本角』と名付けられた群を率いていた特異個体と共にネームド認定。

 

 

 

 

「ふぅー! ふっー!」

 

 一本角の醜鬼は激痛に苦しんでいた。痛みが蘇るたびに怒りが湧く。自分より弱いあの同族。人を殺す使命を無視してこちらに攻撃する痴れ者。

 

 たかが一撃。あの後戦えば自分が勝って居たはずだ。だが、逃げてしまった。恐れてしまった。

 

「がああああああ!!」

 

 怒りのままに振るわれた拳が岩山を破壊する。圧倒的な力。特殊個体の中でも殊更狭量な一本角は、しかしそれでも満足しない。そんな気持ちは初めてだ。

 

 もっと力がいる。あの二本角を殺す為に、今度はこんな屈辱を味わわぬ為に………! あの二本角が急激に強くなったのは確か…………。

 

「……………」

 

 目的もなく蠢く同族を見て、一本角は………。

 

 

 

 不味い。

 だが、力が内から湧いてくる。それでも醜鬼は人を殺すための存在である。力をつけることよりも優先する事がある………その本能を怒りが凌駕した。

 

 

 

 

 

 俺は弱い。

 前世の経験と人の知恵から、他の仲間よりちょっと強いだけで調子に乗っていた。

 

 そして同時に確信した。同族達は明確な人類の敵だ。人を殺すことが本能。共生など不可能な程に人類の敵対者。今まで軽く考えていたが、その敵意…………殺意は予想以上。

 

 彼奴等から人を護るために力が要る。

 

──(まもる)。人を護れ……お前は強いから、誰かの為に生きろ。そうすりゃお前は、最期まで一人じゃない

 

 そんなことはなかったよ、親父。俺はきっと、ここじゃ独人で死ぬ。でも、良いんだ。俺がそうしたいと思ったんだよ。バカみたいだろ? 死んでも治らないんだぜ、馬鹿って。でも、それで今日みたいに誰かを護るために動けるんなら、俺は馬鹿が良いよ。

 

 力がいる。もう負けないために。もっと、今度こそたくさんを護れるように!

 

 その為には進化するしかない。同族を食らって下級大虚(ギリアン)中級大虚(アジューカス)、そして最上級大虚(ヴァストローデ)に!

 

 可能なら破面(アランカル)に!

 

 いやまあ、普通の人にも見えてるしホロウじゃないっぽいけどさ。それでも食えば強くなれることは確かだ。だから!!

 

 

 食い続けて、奴を殺す!!

 

 食い続けて、人を護る!!

 

 

 魔都に生まれし二匹の同族喰らい。

 

 片や神すら知らぬ化外より迷い込みし魂を宿す者。

 

 片や一日千人殺す神より与えられし使命を塗りつぶす程の自我を得たイレギュラー。

 

 齎すものは、神ですら知らない。

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