転生したら虚だった件(勘違い) 作:奴隷貸出中
護は転生した後相応の経験は積んだつもりだ。
食われかけたこともあったし敗走したこともある。それでも生き残り力を付けてきて、前回だって個体性能では自分が大きく上回っていた。
だから、ちょっと慢心していた。
「ほら、お〜〜〜〜手♡」
目の前の存在は規格外。魔防隊……恐らくは護廷十三隊的な組織であろう集団の一員と戦ったことはある。殺さぬようにして自分が勝ってきた。組長……隊長クラスは
どうやら自分はまだまだ思い上がっていたらしい。圧倒的なんて言葉すら生温い。生物として存在の格が違う。
彼女は間違いなくこの世界における更木剣八とか山本元柳斎重國とか、その辺りの存在だ。
げは、と血を吐きながらギョロリと恋を睨む。
彼女は確かに強いが
「がああああ!!」
「………!」
振るった爪を躱される。敵対行動だが、問題はないだろう。向こうだってまさか大人しく蹴られ従うとは思ってもいないはず。
要するに実力か服従を示せということだ。そして、実力も見せずただ服従する相手に容赦してくれる相手かどうかなど護には分からない。
「飼い主に爪を向けるなんて、悪い子ね。ペットの躾にまず必要なのは、甘やかすことじゃないのよ。そのあたり勘違いする飼い主が、飼えないと身勝手に捨てるの。安心して、私はちゃんと面倒を見るから」
「おおおお!!」
地面を踏み砕き両腕を振り上げる。振り下ろされた剛腕が大地を砕く。空を飛んで回避した恋はその力にへぇ、と感嘆する。
大型醜鬼程度の体躯でありながら秘めた力は融合した超大型すら凌ぐ。おまけに先程付けた傷も癒えている。
そう言えば溶かされた箇所も放置している内に自然治癒していたと報告されていた。
超速再生。特異能力………ではなく特異個体が持つ特性の一つが隔絶しているのだろう。
「躾の途中で加減を間違えても大丈夫そうね」
片足を持ち上げる恋。その姿を見て体を固める護。
恋の足が振り抜かれると同時に放たれる衝撃波。放たれると同時に横に跳び回避するも範囲が広すぎる。片足が持っていかれた。即座に再生。同時に眼前に迫る足………を、回避。迫る腕を肉を抉りながら流し投げる。ピタリと恋の身体が不自然に空中で止まり、回転蹴りが腹にめり込む。
ごは、と血を吐きながらも耐えたのを見て恋は拳をほどき貫手を放つ。肉が抉られ、護は慌てて距離を取った。
傷を癒しながら体勢を整える。
近接戦はまだマシだ。超速再生に物を言わせ被弾しながら迫るのが一番可能性が高い。あの衝撃波による全身への負傷を避けるべき。
「!!」
片足が上がると同時に急速接近。霊気の起こりもなく瞬間移動の如き高速移動に恋の目が僅かに見開かれ、振り抜かれる前に軸足を蹴ろうとしたが次の瞬間周囲が霧に覆われた。
「……………?」
浮遊感。地面が消えた。
当然落下し、地面に着く前に霧を抜けた。
「がぎゃ!?」
この高さ、叩きつけられれば桃の力か同族以外に殺す方法のない醜鬼でも衝撃で暫く動けなくなる。
体勢を整え着地して………と、着地するのに都合のいい地形を探している護の視界の中に手を振る恋の姿が。
「────!!」
迫りくる衝撃波、それなりの距離があるからか貫通力より範囲を強化した衝撃波が迫る。翼のない護には避ける術はない。
被弾すれば大ダメージを避けられない衝撃波に悪足掻きのように四肢をバタつかせる鬼面。無駄な行為だが、仕方のないことだと恋は思う。
嵐を前に大人しくしているだけの動物などいないのだ。
「………あら?」
だが、鬼面は何もない空中で跳ねた。今の動き、飛行じゃない。何かを蹴った。足を動かす速度を上げ大気を蹴る程度ならする必要はないが恋でも出来る。だが、今のは違う。
「異能?」
元人間とはいえ肉体的には完全な醜鬼が? でも本人も困惑しているように見える。
「いいわね。芸が多い子は好きよ」
飛行で接近し拳を放つ。再び空中を蹴り回避する鬼面。跳ねたのは一度だけで、恋は飛行している。直ぐ様裏拳が鬼の仮面のような醜鬼の顔を砕きながら吹き飛ばし、鬼面は空中を踏みしめ勢いを殺していく。
(空気の固定………いえ、違うわね………)
大気を操る能力を持っている者は知っている。あれとは根本的に違う。もっと概念的な何かを踏みしめている。
「があ!」
再び高速移動。これもその能力の応用だろうか?
とはいえ、実際の瞬間移動ではなくただ速く動くだけなら対処など幾らでも出来る。
移動中の腹を殴りつけ鬼面自身の速度を恋の拳の威力に足す。轟音とともに周囲の雲が吹き飛び深緑の血を吐く鬼面の後頭部に足を添え、下方に向かい飛行。魔都の小山の一つが砕け散った。
「解ったかしら? これがご主人様の力………」
足で倒れた鬼面をひっくり返し微笑む恋。と、その瞬間、鬼面の角に尋常ならざるエネルギーが収束する。角の間に赤黒い光球が生み出される。
「………!!」
咄嗟に鬼面が首を横に向け、角の間に生み出された光球内部のエネルギーが解き放たれる。山の一部が消し飛んだ。
「ぐぅ…………」
文字通り全てを出し切ったのかそのまま気絶する鬼面。
最後の一撃といい、空中移動といい、どうにもこの醜鬼、自分の性能を理解していなかったようだ。おそらく最初は単純に習得しておらず、手にしてからはそもそも使うような相手がいなかった。
追い詰められ本能的に使ったといったところか。
「あの程度問題はないけど、ご主人様に向けなかったのは褒めてあげる」
傷の治りが遅い………というか止まってる。力を使い切ったのだろう。取り敢えずすり潰した醜鬼でも飲ませておこう。その前に陰陽寮に送り届けなければ。
「やり過ぎでございます、山城殿」
「ごめんなさい。修繕費は出すわ」
「ここにいるのは鬼面………護殿だけではございません。怯えてしまいます」
と、陰陽寮寮長
「いいじゃない、醜鬼なんて怯えさせておく程度が丁度いいわ」
「醜鬼のみならず、『彼女達』もおります」
「……………ああ。そうね」
その言葉に笑みを消す恋。
「改めて、悪かったわ。この子、再生力が落ちてるから不要な醜鬼でも食べさせてあげて」
「かしこまりました」
「…………がぎょう!」
護は目を覚ました。また醜鬼を閉じ込める結界の中だ。
口の中が不味い。醜鬼の肉でも食わされたか。おかげで傷は癒えているが。その後解析系の能力を持つらしい職員に観察された。
元々体内に溢れていたエネルギーが量は変わらず安定しているらしい。
(…………普段身体強化に使ってたぶんを、今回は明確に方向性をつけて使ったからな)
無我夢中だったが覚えている。足場の形成、高速移動、そして光線。特殊能力………というよりは、あれは身体強化や超速再生の際に無意識に使用していたエネルギーの有効活用。他の醜鬼にも覚えさせようと思えば出来るかもしれない。理解するだけの知能があればだが。
「あら、起きたのね」
「がぅ!?」
山城恋が現れた!
結局手も足も出なかった。通そうとした意地すら叩き潰された。
「昨日十分躾けたと思うけど、あれで足りたかしら? 少なくとも、従うという選択肢を選ぶ事に躊躇する必要はないわよね?」
そう言って片手を差し出す恋。
「はい。お、手」
「……………………………!! 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!! がう」
数秒の葛藤の後、その手に己の手を重ねる。恋はニコリと笑う。彼女の親友が見れば『玩具を見つけた時の顔だ』と震えることだろう。震えちゃうのだ。
「昨日の件でわかったけど、あなたは自分の力を使い熟せてないわね。闇雲に振るうだけ………私の猟犬なら、まずその体たらくを直しなさい」
「がう……」
「あなたがどういう存在か知る相手は少ないほうがいいから、用意できる相手も限られているけど、偶になら相手してくれるそうよ」
「がぐ?」
恋を見つめながら首を傾げる。お前が鍛えるんじゃないのか、という意味だろう。
「ごめんなさいね、ご主人様は忙しいの」
「が、ぎゃう」
ならわざわざ来なきゃいいのに。
「それから、貴方には力の制御と併用してこの陰陽寮に捕獲してある醜鬼の統率をお願いするわ。戦力に出来るなら、それに越したことはないもの」
「ぐぎゃう………」
「それじゃあ、暇ができたら会いに来てあげる。それまではあなたの有用性を示しておきなさい」
そう言って去っていく恋の背中を見送る護。
ここには自分以外の醜鬼がいるらしい。自分みたいに知能があるのだろうか? それとも、研究のために捕らえているだけ?
(…………そう言えば昨日の言葉、何か引っかかるんだよな。なんだっけ?)
暫く考えて答えが出なかったので、護は考えるのをやめ欠伸をして眠りについた。
次回、とうとうヒロイン登場予定!後ついでに師匠も出来るよ。今の主人公、スペックで暴れてるだけだからね