転生したら虚だった件(勘違い)   作:奴隷貸出中

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人を外れし者

 特異醜鬼『鬼面』改め、醜鬼転生体『護』。

 物理法則を無視した醜鬼の身体能力の秘訣たるエネルギー(以下妖気と呼称)を身体能力向上以外にも使用出来る。

 

 肉体的な変化は全ての醜鬼特異個体が戦闘に特化した姿をしているのと同じだろう。環境に合わせて進化するのだ。

 

 現在、護の姿は通常醜鬼の一回り大きい程度。元の姿より一回り縮んだ。体は白い甲殻が覆い頭部のフルフェイスを思わせる仮面のような甲殻の隙間から毛髪も見える。鬼面を被った武士のようにも見える姿となった。

 

 サイズは縮んだが、内包された妖気の量は寧ろ増えている。甲殻の硬度もかなりのもので、鹿児島に現れた熊型の醜鬼同様並みの桃の能力では傷つけられないだろう。逆に言えば、並みじゃなければその防御力を突破できる。

 

「ぎっ!?」

 

 十文字槍が腕をきり裂く。彼我の差はまだ開いていると言うのに。伸縮自在の槍は獲物を決して逃さない。

 

 振り下ろしと同時に伸び、勢いと質量が大地を割る。だが振り下ろしたことで隙が……!

 

(もう戻って!?)

 

 既に本来の槍の長さに戻った十文字槍。向けられた先は当然自分。銃弾すら見てから回避する護は当然回避を選び、選んだ瞬間には既に槍が護を貫いていた。

 

「が、は………!」

「ここまでね」

「…………!」

 

 一瞬で数キロは吹き飛ばされ流動から個体の如く硬くなった空気の壁を何枚も打ち抜いた体はボロボロだが何とか立ち上がる。

 

 そのまま一礼。礼に始まり礼に終わる。

 

「前回より動けていたわ。体躯が人に近付いたのもあるのでしょうが、覚えがいいわね」

 

 そう笑うのは風舞希(ふぶき)。護が人の魂を持つことを知る数少ない人物であり、鍛えるだけの実力を持つ。何より元人とは言え醜鬼を鍛えようとしてくれるのは彼女だけだろうと選ばれた。

 

 無論彼女は組長。本来なら休日なのだが、彼女としても後進を鍛えるのは楽しいらしい。

 

「がぅ………」

 

 しかし何時見ても馬鹿みたいな服装してるな、と護は思った。足の方はまあ動きやすさを考慮しての両側が裂けたスカート(?)として、胸元をおぴっろげた意味は?

 

 戦闘服なら防刃性能もあるだろうに、弱点を晒して。もしや攻撃を誘うためだろうか? まあ仮に狙ったとしても護程度では当てられないだろうが。

 

「それじゃあ戻りながら醜鬼を狩りましょうか」

 

 因みにここは魔都内ではあるが陰陽寮からそれなりに離れた場所だ。陰陽寮は機密も多く、組長といえども風舞希(ふぶき)も閲覧権限のない物があるかららしい。

 

「早速来たわね」

「ぐるああああ!!」

 

 人の気配に反応し地面から現れる醜鬼の群を木刀で一閃。千切れ両断された醜鬼の肉をそのまま喰らいつく。

 

 吠える醜鬼の頭蓋を踏みつけ迫る醜鬼の首を掴み別の醜鬼へと投げつける。

 

「おおおお!!」

 

 追い詰められた醜鬼達は融合し巨大醜鬼となる。大きさは30メートル。数は3体。うち2体が護の背に乗る風舞希が瞬殺。最後の1体が両腕を振り上げる。

 

 護の角の間に赤い光球が現れ、放たれた閃光が巨大醜鬼の上半身を消し飛ばした。

 

 

 

 硬化の鋼皮(イエロ)。基本的にパッシブだが、妖気を込めることで硬度の強化が可能。最大硬化時、風舞希の太陽を穿つ槍(サンセット)の3割出力を防御可能。

 

 高速移動の響転(ソニード)。体内の妖気を別のものに変換し使用しているらしく、陰陽寮の探知系能力職員にも追跡不能。

 

 他にも霊的エネルギーを固定して空中に足場を作ったり、探査回路(ペスキス)という探知能力もある。

 

 極めつけは虚閃(セロ)。エネルギーを収縮し放つそれは、並みの能力者を大きく超えた火力を持つ。火力という一点に絞れば組長クラスでも彼に並ぶ者は少ない。弱点は溜めに時間がかかることだろう。

 

(それにしても、こういうの拘る子なのね)

 

 全部に漢字と読み仮名。スペイン語が好きなのだろうか? 辞書は渡してないのに英語ではなくスペイン語。わざわざ単語を覚えていたと思うと、少しかわいい。

 

(どうにか人に戻れればいいのだけど…………)

 

 その場合戦う力こそ失ってしまうだろうが、彼を捕らえた時の戦いを見るにむしろ戦う力がない方が避難してくれて安全かもしれない。

 

 

 

「が、ぎゃう………」

「はい。新しい漫画よ」

 

 正直風舞希には漫画はよく解らない。娘の麻衣亜に尋ねてみるも彼女はゲーム派なので、とりあえずゲームの『こみからいず』なる物を買ってみたのだが。

 

「がう、が、ぎ!」

 

 喜んでくれているみたいで何よりだ。

 

 

 

 風舞希がいない日は他の醜鬼の支配。

 力で屈服させると命令を聞くようになる。一部を陰陽寮の護衛に、一部に武器の使い方を教えろとの事だが。

 

 今回は凶暴でそのどちらも不可能な個体の処理。襲いかかってくる特異個体の醜鬼を叩き伏せ、その肉を食らう。

 

「がるる!」

「ごあああ!!」

「ばるばるる!!」

 

 共食いの味を知っている特異個体。護が殺すまでもなく殺された醜鬼の肉を喰らう。まさしくその場は蠱毒の坩堝。

 

 強い醜鬼が生き残り、より強くなる。残るは2体。

 

「はあぁ………」

「………っ!」

 

 口元を醜鬼の血で染める護に睨まれた醜鬼は後ず去る。爪が異様に発達したその醜鬼は上半身よりも長い爪を合わせる。レモン絞るやつみたいだ、という感想を抱く護。当然、絞るのはレモンではない。ドリルのように回転しながら突っ込んでくる。

 

「があ!!」

 

 それを踵落としで地面に叩きつける。ドリルの一部が欠けながらも地面に潜る醜鬼。

 

 どこから飛び出してきてもいいように周囲を警戒すれば、結界の外の地面が盛り上がり背を向け走り出した。

 

「……………がぎゃ!?」

 

 逃げられないように張られていた結界を破る程度には力をつけたらしい。地上の結界と地中の結界は別だ。地上の結界は健在。追おうとした護は結界に弾かれる。

 

 悲鳴が聞こえてくる。今はまだ逃げることを優先しているが、何時人を襲うか。

 

「がる、ああああ!!」

 

 虚閃(セロ)!!

 

 紅の閃光が結界を吹き飛ばす。加減はしたので部屋の一部が吹き飛ぶだけで済んだ。

 護は直ぐ様モグラ醜鬼の妖気を追い掛ける。

 

「………………はぐ、がつ」

 

 他の醜鬼の封印部屋を襲ったらしい。それなりの数を食って力を付けている。膨大なエネルギーが爪に溜まる。

 

「じゃああああ!!」

「!!」

 

 斬撃が飛ぶ。壁も柱もきり裂く高い攻撃力は護の鋼皮(イエロ)すら傷を付ける。流石、共喰い個体。だが護よりも歴が短い。

 

 再び放とうと両手を持ち上げた瞬間接近し腕を押さえる。その勢いのまま壁を破壊しながら押し倒し首の肉を食いちぎる。

 

「…………!!」

 

 ゴボゴボと口から血を吐き出すモグラ醜鬼の頭部を踏みつける。

 

「ひっ!」

「があ………?」

 

 不意に聞こえた悲鳴に視線を向ける。そこにいたのは人間………いや、醜鬼? 頭に複数の角が生えた女。黒い肌は褐色なんてものではなく、明らかに人間のものではない。ない、が。その顔は、その表情は間違いなく人間。

 

 醜鬼同様に石柱としめ縄による結界の中に閉じ込められている。

 

「しゅ、醜鬼………! なんで、こんな場所に………!」

「ぼおおお!!」

 

 と、モグラ醜鬼が女に襲いかかり護がその背を貫き背骨を引きずり出す。

 

「………………」

「ひっ! こ、こないで!」

「……………………?」

 

 人の言葉。醜鬼の気配とは別の何かを持っている。これは、桃? 反応は人のそれ。と………

 

「逃亡した醜鬼の討伐、ありがとうございます。今後このようなことがないよう、結界の強度をあげておきます」

「………………」

 

 陰陽寮寮長木国和歌子が現る。その姿に怯える女。

 

「湯野殿も、お騒がせして申し訳ありません。部屋を変えましょう。こちらへ」

「あ、いや……もう、家に返して!」

「…………………」

 

 無言で近付こうとする職員達の前に立つ護。低く唸れば職員達は怯え湯野と呼ばれた女は困惑し、木国はこうなる事を予想していたのか慌てた様子はない。

 

「彼女の部屋を移します。護殿も、どうぞ部屋にお戻りを」

「ごるああ!!」

「………………」

 

 警告のために吠える護。木国が何かをつぶやいた瞬間床が光り、護が地面に押さえつけられる。

 

「…………!?」

 

 陰陽寮を管理する桃の力だろう。誰でも使える結界符など、個々の特殊能力とは異なる桃由来のエネルギーを使う術。醜鬼を管理、研究する施設。護が先に殺しただけで、暴れる醜鬼を抑える仕掛けは当然ある。

 

「彼女は貴方と同じ元人間です。彼女を人に戻す方法は未だ見つからず、治療方法は研究中なのです」

「……………ごるる」

「どうか、人類のためにご理解を」

 

 ゾッと護の体から溢れ出る妖気が術に干渉する。バチバチと火花が散り、身体がゆっくり起き上がっていく。

 

「………………醜鬼化したのは彼女だけではありません。この陰陽寮に、数人居ます。貴方が暴れれば、ここも無事では済まないでしょう」

「──────!!」

 

 が、その言葉に動きを止める。護一人なら、なるほど確かにここを破壊して女を連れて逃げる程度簡単だ。その場合、陰陽寮は吹き飛ぶだろう。醜鬼の暴走に備えているであろう職員は兎も角、他の醜鬼諸共吹き飛ばすことになるだろうが。

 

 妖気が霧散し再び床に押さえつけられる護。職員達が無数の封印具を持ってくる。入念に仕掛けられた陰陽寮の機能と追加されていく封印具。

 

 動けなくなった護は陰陽寮のさらに深部へと運ばれた。

 

 

 

 魔都の桃は食べた雌に異能を与える。だが桃は現世に持ち帰られて食される。魔都で食うと、時折人間が醜鬼化するのだ。魔都災害に巻き込まれ魔都に迷い込んだ人間が稀に醜鬼から逃れるために桃を食い、醜鬼化する。

 

 陰陽寮は彼女達を保護………いや、言葉を飾らずに言えば『隔離』していた。

 

「まあ、知られたら暴れるだろうなとは思っていたけど……」

 

 恋は護に昨晩の女について話す。

 

「でも、じゃあどうしろと? 桃を食べれば醜鬼になる可能性がある。それは魔都内だけだと説明しても、納得しない者達は出るわ」

 

 事実、桃を『得体が知れない』『ありのままでいたい』と拒む者達もいる。そんな者達が醜鬼化を知れば起こるのは能力者に対する魔女狩り。

 

「この現象は確認されたばかり。彼女達が何時迄も人の意思を保つとは限らない。それは貴方も同じだけどね」

 

 家に返すのは無理として、家族にあわせるのも、やはり無理だ。引き取らせろと言う者達が現れ、断れば広められるかもしれない。それを握り潰す程度は出来るが余計な手間だ。

 

「ごぎゃ、ぐるおお!!」

 

 だとしても、扱いをもう少し人道的にする事も出来るはずだ。それこそ護のように協力者として。

 

「人型醜鬼の存在を公に出来るわけないでしょ? 隊員の中に、必ず善意で彼女達と家族を会わせようとする者が出る。貴方のようにね」

「ぐうう…………」

「善意だからこそ、黙っておく事は彼女達の罪悪感となって心を傷つける。背負うのは私だけでいいわ」

「…………………」

 

 その言葉に偽りは感じなかった。

 だが、彼女は怯えていた。

 

「醜鬼化はそもそも確認が少なく研究も進んでいない。陰陽寮も手探りなのよ。納得はできないでしょうけど、仕方がないことよ」

 

 そもそも醜鬼化自体稀な現象。被検体自体が少なく、まだまだ謎も多い。なんなら原因もあくまで予想という現状だ。

 

「私は非道であっても非情になるつもりはないわ。醜鬼化の治療方法が見つかれば彼女達は家族のもとに返すし、可能な限りの謝礼もする」

 

 無論必要なら非情にもなれるのだろうが…………。

 

「元一般人の貴方に理解しろとは言わないわ。でも、飼い主の手を噛む飼い犬は躾け直すからそのつもりで………ね?」

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