転生したら虚だった件(勘違い)   作:奴隷貸出中

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逃走

 山城恋の言葉は正しい。

 人に戻す方法も解らぬ内に存在を公表すれば起こるのは人同士の争い。醜鬼化した人間を殺そうとする者は確実に現れるし、なんなら人に戻っても醜鬼化していた過去があれば殺しに来る者も絶対にいるだろう。

 

 理想は一切知られることなく人に戻し人の世に戻る事。そして人に戻す為に、人体実験は成る程仕方のないことだろう。

 

 山城恋の言葉は正しい。ただ助けたいと願うのは、未来を見ていないだけだ。だけど、正しさは人々を救っても人を救うとは限らない。

 

 と、なにやら外が騒がしいのに気付く。顔を上げると同時に壁をすり抜けて女が現れた。

 

「あ、あの………」

「………………」

「貴方も、人だった………のよね?」

 

 木国との会話を覚えていたらしい。その目に宿る恐怖は護に対してもそうだが、自分もいずれ人の姿を失うかもしれないことへの恐怖だろうか。

 

「お願い………貴方、強いんでしょ? 私達を、助けて!」

「…………………!」

 

 ギシリと封印具が軋む。

 先ほど取り込んだ醜鬼の妖気が漸く馴染み始め、膨れ上がった妖気は先程までの護を封印する前提の封印具を破壊していく。

 

「きゃ!?」

 

 護が封印を破壊しようとした結果、部屋に仕込まれていた制圧用の術が発動する。拘束など生ぬるく、並みの特殊個体ならそのまま押し潰す圧力が護に襲いかかり地面が陥没する。

 

「おお、おおおおおおおおお!!」

 

 その術全てが護の放つ妖気に逆に押し潰された。霊格が放つ圧倒的なエネルギーが物理的な圧力を伴う。数多の醜鬼、特殊醜鬼を取り込んだ蠱毒の王の一柱たる護が放つそれは、醜鬼を抑えるための施設にあっさり抗う。

 

「……………っ!!」

 

 封印具が完全に砕け護が立ち上がる。通常の醜鬼よりも巨大な体は、感じる威圧感で女にはさらに大きく感じられた。

 

 醜鬼に襲われた過去を思いだし震える女に伸びる手。思わず身を固めた女を肩に乗せる。

 

「ごああ!!」

 

 扉が吹き飛ぶ。制圧措置が発動した護の下へ慌てて現れた陰陽寮の職員達。護は片腕を振るうだけで吹き飛ばす。

 

 死んではいない。死なないように加減したからだ。逃走に死者を出せば、自分は兎も角彼女達の立場まで危険に晒す。

 

「す、すごい…………」

 

 護の肩でその光景にただただ感心する女。女は、これまでのことを思い出したのか美しい顔を憎悪に歪める。

 

「全部、壊して!」

「おおおおおおん!!」

 

 探査神経(ペスキス)を発動し肩の女に似た気配を探る。最短距離。すなわち直線、邪魔な壁は破壊しながら突き進む。あ、醜鬼。

 

「がゔ!」

 

 辻斬りならぬ辻食いをしながら出会った醜鬼は確実に殺していく。と、廊下で人影に出くわす。

 

「うわっ!? くそ、醜鬼が脱走してやがんのかよ!」

「ココ!」

「んぇ!? 波音(なおん)!? なんで醜鬼と!」

 

 醜鬼変異者。それもかなり幼い少女のようだ。知り合いらしき女が醜鬼の背に乗っていることに動揺している。

 

「この子は味方よ」

「味方、醜鬼が!? どうやって!」

「それは……」

 

 と、言葉に詰まる波音。護が醜鬼化の果てと勘違いしている彼女は、自分達がいずれ醜鬼になると子供相手に言えないのだろう。

 

「が、ぎゃう…………」

 

 元人でも成り立ちが違うと説明したくても護の声帯は人語を話せる形をしていない。

 

「ええと、その……美しさ! 私の美しさに魅せられて従ってくれたの!」

「がう………」

 

 何言ってんだ此奴。

 

「マジか、すげぇ!」

 

 納得するのか。

 

「外は魔都だもの。私達だけじゃ危険………って、ちょっと!?」

 

 話は後にするかと護は向きを変える。

 

「出口はあっ──」

「おお!」

 

 虚弾(バラ)

 

 虚閃(セロ)の劣化。ただし速度は20倍。壁を破壊し道を作る。

 

「え、な、なに!? 醜鬼!?」

「他の子達も………」

「全部助けるつもりか!?」

「ごぎゃう………」

 

 結界となっている石柱としめ縄を破壊する。自由になった同胞にココが駆け寄る。

 

「大丈夫か!? このまま逃げるぞ!」

「逃げ、る?」

「ああ! こんなところ、とっとと出てくぞ!」

「……………い、いや」

 

 が、相手は怯えるように首を振る。

 

「逃げて、どうなるの? こんな姿じゃ帰れない………でも、魔都には醜鬼がいるじゃない!」

「それは………だけど、このままじゃ!」

「痛いけど、でも、ここにいれば魔都より安全じゃない……」

「〜〜〜〜〜!!」

 

 まあ、そういう選択もあるだろう。時間を無駄に出来ないと判断したのか波音がココの肩を掴み首を振る。

 

「ぐるる…………」

 

 案外ここに残ることを選択する者はその後何人かいた。それでもやはりここの暮らしは相当嫌だったのか半数以上が波音達についていく。中には治療中ではあるが明らかに後に残る傷を負った者もいる。ココと呼ばれていた少女の顔が怒りに歪んでいた。

 

「ぐうう………」

「おい、何してんだよそんな本なんて!」

 

 と、道中たまたま入り込んだ資料保管庫にて護は幾つかの資料を女達に持たせる。

 

「がぁ!」

「うっ。わ、わかったよ……!」

 

 扉を破壊し醜鬼化した女達が陰陽寮から抜け出していく。人外となっただけありその速度はかなりのものだ。

 

「おおおおおおおお!!」

 

 護が吠えれば陰陽寮の護衛を命じられていた護に屈服した醜鬼達が現れる。

 

「がう、が、ぎゃあ!」

 

 醜鬼達に彼女を守るように命じ一番ちっこい子を醜鬼の背中に乗せる。他の女達も戸惑い醜鬼に乗ると醜鬼達は走り出した。

 

「って、おい! お前は!?」

 

 護はついていかず振り返る。ココが叫ぶが振り返らず再び陰陽寮の中へ飛び込む。職員を襲っていた醜鬼の首を殴る。首が吹き飛んだ。

 

「はるるる!!」

 

 派手に暴れすぎたようだ。結界を強化する機能が破砕したどこかに連動していたのか、隙をついて壊せるだけの力を持っていたのか、それなりに力を持つ特殊個体達。陰陽寮に連れ帰り研究する価値のある個体。

 

 通常の醜鬼もいるにはいるが弱った結界を破壊するだけの力はない。逃げた奴だけを処理する。

 

 突然、それだけ時間をかければ陰陽寮以外からも来るわけで…………。

 

「!!」

 

 音速を超える槍の穂先が胴を狙う。途端に防御できたのはそれがよく知る攻撃だから。

 

 妖気を込めた前腕が容易く貫かれるも十文字槍の鎌による切断はなんとか防ぐ。代わりに陰陽寮の外まで吹き飛ばされた。

 

「が、ぎゅう…………」

 

 (あずま)風舞希(ふぶき)。護が知る限り、最強の武人。最強の能力者は恋で、彼女も彼女で武術も優れているがやはり武人という枠組みで見れば彼女の方が上だろう。

 

「醜鬼の本能に飲まれ暴走したと聞いていたけど…………」

 

 彼奴等随分好き勝手言ってくれたらしい。組長にすら明かせないのか。

 

「どうしてこんな事をしたの…………()()()()()()?」

「──────!!」

 

 何をされたかと、そう聞いてきた。それはつまり、これだけ陰陽寮を破壊した護を理由なく暴れる相手ではないと判断してくれているのだ。

 

「………ゔぁ、あ……」

「…………………」

「あ、ぃ………ゔぁ、ど…………」

「────!!」

 

 なんとか絞り出せた人の言葉らしきそれに目を見開く風舞希。槍を待つ手に力がこもり、穂先が僅かに位置を変える。

 

「…………投降しなさい。死者が出ていない今なら、また何とかできる」

「…………………」

 

 組長の彼女から交渉するつもりなのだろう。陰陽寮に非があり、死者を出さず、組長の言葉に護の希少性と実用性、なるほど、確かにこれまで以上に首輪をつけられるだろうが命は保証されるだろう。

 

 恋にはまた躾をされるのだろうな。

 

 で、醜鬼化した彼女達は? ココと波音なら、そこらの醜鬼に遅れを取らないだろう。魔都に隠れ住む事もできる筈だ。だが、魔都の危険さは護自身がよく知っている。逃げると決めたのは彼女達でも、逃がしたのは護だ。

 

「人を護ろうとした貴方は、誰よりも正しかった。その貴方が暴れるだけの何かを、陰陽寮がしていたのでしょう?」

 

 正しい、か。嬉しいことを言ってくれる。

 でも、別に自分は正しくありたいんじゃない。ただ、目の前で助けを求める誰かに手を差し伸べて護りたかっただけなのだ。

 

「……………………そう」

 

 投降する気はないと察したのか風舞希から放たれる闘気。次の瞬間、地面が砕け風舞希が護の眼の前に。

 

 金属音が響き振り下ろされた十文字槍が弾かれる。

 

「────」

 

 ここ数ヶ月、ずっと、誰よりも見てきた。故に弾けた。

 

「一撃防げた程度で油断しない」

「がぎゃ!?」

 

 グルリと回転し放たれた蹴りが醜鬼特有の仮面のような顔を砕く。

 

「まだ本気を出していない私の一撃を防げたのが、そんなに嬉しい?」

「……うぇ、じ………ねぇ………あ、だ、づおい、がら……………」

「……………そう。ならばこそ、油断しない。次は死ぬわよ」

 

 砕けた仮面の隙間から肉が剥き出しになり血が流れる。進化の過程で深緑から赤に変わった血が流れ視界の半分が赤く染まる。失明しなかったのは奇跡だ。

 

 穂先が向けられた瞬間横に飛ぶ。槍の伸縮は神速でも伸縮の意識は人間のもの。伸ばす、という意識に切り替わる僅かな瞬間を使い躱し──!!

 

 十文字槍の鎌が肩を切り裂く。伸ばすと同時にわずかに角度を変えたのだ。動きが読まれていた。

 

 固まる護に振り下ろされる槍。地面に叩きつけられ大地が割れる。地面に向かい虚弾(バラ)を打ち自らを跳ねさせ空を踏みしめる。

 

「ご、ぇんあ………し、じょ………」

 

 生憎と、護の勝利条件は撃破ではなく逃走。だからそもそもまともに戦う気などないのだ。

 

 ぶっつけ本番。頭部を流れる血が光り、ジリッと焼け付くような音を立て光の粒子となる。

 

「────!!」

 

 放たれるのは虚閃(セロ)。これまでとは比べものにならない太く巨大な光の奔流。それでいてエネルギー密度は数倍。

 

 太陽を穿つ槍(サンセット)を振るう。大地が砕けめくれ上がり、大気が歪み、圧力を伴う。

 

 元より狙いが甘い光線はそのままそれて風舞希の頭上を通り抜けた。

 

「……………いない」

 

 逃げたようだ。彼の独特の移動法は感知系の力を使っても追えない。遠見の異能を今から呼んだとしても、範囲外に逃げられるだろう。

 

「追います」

「いいえ、お待ちください」

 

 一先ず探せるだけ探そうとした風舞希を木国が止める。

 

「今回の件には陰陽寮の機密事項も関わっております」

「……………それはあの子を放置する理由になるのかしら?」

「はい。彼自身、進んで人類と敵対することはないでしょう」

「そう。やはり暴走の危険はないのね」

「少なくともその兆候は確認されていません」

「なら、何をしたの?」

「機密事項ですので」

「……………………」

 

 これ以上は無理だろう。母の古馴染みである木国だが、風舞希自身は付き合いが長いというわけでもない。だが、少なくとも国の為に行動するという信念があるとは聞いている。

 

「……………私は報告に戻ります」

 

 

 

 

 

「こ、これからどうするの?」

 

 魔都の一角。他の醜鬼達から隠れる為岩山の陰に移動した一同は波音に尋ねる。

 

 陰陽寮に囚われたままなのは確かに嫌だったが、だからといってこのままでは………。

 

「ぐぅ………?」

「ひっ!? さっきの醜鬼!?」

 

 と、現れたのは先程の醜鬼。怪我をしている。

 彼女達を護らせていた醜鬼の一体に食いつく。顔の傷は完全に癒えきらず爛れた皮膚となって再生した。

 

「だ、大丈夫だ! この醜鬼、波音の美しさにみせ……みせ? みせられてるらしいぜ!」

「ち、ぎゃう………ちぎゃう」

「ん? 違うのか……………って、今喋った!?」




現時点では仮面の下には肉しかないです。もっと食って進化しないとね!
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