転生したら虚だった件(勘違い)   作:奴隷貸出中

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魔都生活の始まり

「そう………」

 

 結局、護は逃げたらしい。一部の特殊個体を連れて………との報告に、山城恋はため息を吐く。

 

 大局を見ない子供というか、仮に彼女達を逃がしてどうするというのか。手立てもなく感情に振り回されるなど、誰の飼い犬か自覚しているのだろうか?

 

「どうしますか?」

「暫くは放置でいいでしょう。醜鬼を狩ってくれるのだもの、遊撃隊のようなものよ」

 

 未だ魔防隊の人員は万全とは言えないのだ。固定された(クナド)から醜鬼が溢れぬように防ぐそれぞれの組に、突発的に出現する(クナド)から出現する醜鬼に対処する現世の人員。

 

 ここ最大の被害は護が初めて確認された月山大井沢事件だが、鹿児島の魔都災害もかなりの規模だった。どちらもここ数年の出来事。

 

 恋が総組長になり方針を決めてからは被害規模は小さくなっていくがまだまだ完全ではない。魔都の醜鬼を間引きしてくれるのならそれに越したことはない。

 

「とはいえ、時期が来たら躾け直さないといけないわね」

「…………処分はしないのですか?」

「元々人だもの。なにより桃を狙う各国のスパイなんかよりも余っ程友好的なのよ?」

 

 わざわざ殺す必要がない。そもそも護自身、恋に言い返せずにいた。大方助けを請われ、断れなかったといったところだろう。

 

 魔都での生活に限界が来れば戻ってくるだろう。人型醜鬼達が拒んだところで、護はその選択肢しかない事を理解している。

 

 陰陽寮も今回の件で猛省し待遇を改善する事を決定していた。

 

「やり方なら他にもあったでしょうに………」

「総組長は陰陽寮で何が行われていたか知っているのですか?」

「何をしているのか知っていても、何処までされているのか詳しくは知らないわ」

 

 どのような実験をしたかは陰陽寮も詳しく送ってこない。未だ人に戻す術がない事と暴走の兆候が見られないことなどは報告されているが。

 

「まあ、あの子が敵対する可能性も万に一つはあるから、一応警戒しておきなさい」

「……………はい」

 

 

 

 

 

 

 万に一つでも魔防隊と敵対するわけにはいかない。

 山城恋がいる限り勝ち目はないからだ。

 

 無論、他の醜鬼を喰らい強くなれるが一万や二万、それこそ33650喰った程度で追いつけるはずも無い。

 

 少なくとも彼女達を助けると決めた以上彼女達を戦いに行かせるなんて馬鹿な真似はさせるわけにはいかない。

 

「おお、漫画! あれ、でもタイトルも巻数もバラバラだな」

「びぼっ、だがぁあ………」

 

 たまたま紛れるものを拾って集めただけだ。しかたないだろう。

 

 現在陰陽寮に囚われていた醜鬼化した女達がいるのは護の住処。幸い醜鬼達に荒らされていないようだ。そもそも醜鬼が人の道具や食料があるだけで人もいない場所を荒らす理由もないのだが。

 

「お、パン! あ、賞味期限切れてる………今ならいけるかな?」

「やめなさい、ココ…………ほら、キノコが栽培されてるわ」

「そっちこそ食べて平気なのかよ」

「……どだお」

 

 人は食べないほうがいいだろうけど醜鬼化している彼女達はどうなのだろう。

 

「もぐ………お、結構うまい」

「……………」

 

 ココが食うと他の女達も恐る恐る食い始める。甘い果汁のような匂いのキノコ。味もいい。とはいえ一人暮らしのために用意した洞窟で数カ月放置したそれでは食料としては心許ない。

 

「それでよ、結局なんでお前、波音に味方したんだ」

「だずえで、いばれだ………」

「それだけ?」

「ああ」

「んじゃ、なんで喋れるんだよ………」

 

 風舞希相手になんとか絞り出したありがとうの言葉と違い、今はそこそこ話せる。これは醜鬼特有の仮面のような硬い顔面の一部が砕け頬肉が少し自由に動くようになったからだろう。

 

 仮面は普通に顔なので、その下に本当の口があるというわけではなく口元大怪我したみたいになってるが。

 

 まあ唇部分と牙は別なので、その部分さえ治せば食事は可能だ。

 

「ぐぢ、うごく………」

「いや、そうじゃなくて………」

「ココ………」

 

 ちゃんとした理由を聞きたそうなココに対して波音が不安そうに肩を掴む。

 

「おで、にんげん……だっだ」

「え………」

 

 その言葉に場の空気が固まる。なぜなら彼女達は全員が元人で、人型醜鬼となったからだ。

 

 

 

 特殊個体といえども完全な醜鬼の姿をした護を見て最初に予想するのは、当然自分達の未来だ。

 

「じゃあ、あたし達も何時か……………」

「ちぎゃう」 

 

 と、 首を横に振り爪で地面に絵を描く。

 トイレとかでよく見る女性のマーク。矢印を書き角の生えた女性マークにしてココ達を指さす。

 

 次に男性マークを描いて✕を書き、矢印を2つ。間に炎のようなマークを描いて角の生えた大きな生き物のマーク。

 

「えっと…………」

「死んで生まれ変わったら醜鬼になったあ!?」

 

 困惑する女達の中でココが真っ先に理解したので首を縦に振り肯定する。

 

「それって……今まで魔防隊が殺してきた醜鬼も……?」

「おで、どくべづ………」

 

 少なくとも元人間と思える行動をしている醜鬼は自分以外に見たことがない。そもそも自分の前世では醜鬼だの魔都だのは存在しないし世界すら違う可能性もある。

 

「そ、そう………」

 

 とはいえ、やはり不安を植え付けてしまったらしい。醜鬼たる自分が守ったのもあるのだろう。

 

「なあ、ところで………()()なんとかならないか?」

「…………?」

 

 と、不意にココが両手首を見せてくる。何やら梵字のような物が書かれている。

 

「あたしが暴れるからってつけられた。これあると、力でねえんだよ」

 

 呪いの一種か。仮にも元人である事を配慮されていた護や波音と違い身体に直接刻まれる辺り、相当な暴れっぷりだったのだろう。

 

「あ、それ………私、なんとか出来ると思う」

 

 と、一人の女が手を挙げる。

 

「…………えい!」

 

 集中し、ココに手を向ける。妖気とは別の力………桃の精気が走りココを包むと腕の文字が消えた。

 

「私の力、呪いが解けるみたいで……」

「ごぎゃう…………」

 

 桃の力か。醜鬼の気配とは別に桃の力。集中して探査神経(ペスキス)で彼女達を見れば2つのエネルギーが混ざり合うことなく体内に存在していた。

 

「すごぇ! なあ、これ、醜鬼化を消せるんじゃ!」

「! や、やってみる!!」

 

 今度は先程より集中する。練られた桃の精気が体外で渦巻く。意識の集中のためか胸の前で手を合わせてから指を2本立てココに向ける。

 

 ココの全身を光が包む。

 

「んっ………」

 

 体内に力が流れ込んでいるのか、或いは抜かれているのか擽ったそうに身を捩るココ。光がボウンと弾けそこに立つのは茶髪の人間の少女。

 

「もど──!!」

 

 喜んだのもまさに束の間。皮膚の殆どが再び黒く染まり髪の色は抜け落ち左の額に角が生える。

 

「…………一瞬だけかよ」

「はっ、はぁ…………ご、ごめん」

「いいよ。気にすんなって………」

 

 そう言って笑うココだったが無理して笑っているのは見てわかるほどだ。

 

「それによ、呪い解く力で一次的に戻るってことは、能力強化とかもっとつよい呪い解除の能力者見つければ、戻れる可能性が出来たって事だろ!」

 

 確かにそういう事になる。

 ココの言葉に顔を見合わせる女達の顔には、今度は希望が宿っていた。

 

「でも、それまでは魔都に隠れてなきゃ駄目だよね?」

 

 現世における醜鬼の探知がどの程度かは不明。少なくとも魔都の奥の方が魔防隊には発見されないだろう。

 

 もっとも醜鬼という危険はあるが。

 

「があ……」

「ん? なんだよ。陰陽寮から持ってきた本?」

「これって…………魔防隊の寮に使われてる結界の資料?」

「わかんのか?」

「うん。私、魔防隊目指してたから………う、でも習った範囲より上だ。ううん、頑張る! 結界を張れるようになれば安全な拠点を作れるはずだもん!」

 

 まさにその為に持ってきた資料だ。残念ながら護は専門知識がかけらもないが理解出来る者がいてくれたのは幸先がいい。

 

「あ、おい。どこ行くんだよ」

 

 洞窟から出ていこうとする護をココが慌てて追いかける。

 

「めじ………」

「飯? ああ、そっか。必要だもんな。あたしもついてくぜ!」

 

 と、護の背中に乗るココ。正直危険はあるが、彼女はこの中でもそこそこ強い。通常の醜鬼は勿論特殊個体相手にもそうそう遅れを取らないだろう。

 

「で、何持ってくんだ? キノコ?」

「にぐ」

「肉!? 肉があんのか、よっしゃー!!」

 

 すごく嬉しそう。

 

 

 

 ココを背に乗せながら護はふと思う。

 そもそも醜鬼は食事が必要なのだろうか。自分は生前の感覚でキノコなんかを食ってたし一本角との戦いの後は醜鬼の肉を喰うようになったが、他の醜鬼が飯を喰ってるところを見たことがない。

 

 そもそもこの荒野で飯に出来そうな物は少なく、明らかに醜鬼の数を支えられるわけがない。

 

(魔都で桃を食うと醜鬼化する………)

 

 魔都の瘴気が関係しているとのことだが、桃による肉体の変化に瘴気まで巻き込んでしまったのだろうか?

 

 つまり魔都は虚圏(ウェコムンド)で小型の(ホロウ)が息をするだけで生きていける霊子があるのと同じく、醜鬼を満たすエネルギーがあるのだろう。

 

 繁殖能力もなさそうな醜鬼が尽きないことを考えれば、そもそもそのエネルギーが固まり醜鬼になるのかもしれない。

 

 つまり醜鬼も文字通りの意味でこの世界の一部。だから体外のエネルギーを利用して足場を作ったり出来るのだろう。

 

(この感覚と操作を拡張していけば………)

 

 チャドや石田が虚圏(ウェコムンド)で強化されたのと同じ理屈で強くなれるかもしれない。世界に満ちるエネルギーへの干渉を可能とすれば自分で(クナド)を開けるようになるかもしれない。そうなれば物資の補給も………金ねえや。

 

「なあなあ、肉ってどんな肉〜? 牛肉? 豚? 鶏? あ、まさかワニとか!?」

「ご、ごぉんがいは………ぐま」

「熊! 熊いんの!? 何処何処!?」

「あぞご……」

 

 護が指さした方向を見れば熊…………のような醜鬼がいた。

 

「!! ホニャアアアアア!!」

 

 護達………というよりは半分は人間のココに気付いて威嚇するように吠える熊型の特殊醜鬼。

 

「………………醜鬼じゃん!!」

「あ、だいまえ………」

 

 魔都に醜鬼以外の生き物がいるわけないじゃん。




ココって朱々に握られても投げられても踏まれてもピンピンするほど硬い熊を力で屈服させたあたり、身体能力は人型醜鬼最強の可能性もあるよね。近接戦の組長も威力には驚いてたし。
身体能力任せの所あるからそこを改善すれば目茶苦茶強くなりそう
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