ハサウェイがアムロやシャアに影響される前に機械オタクになった世界線のお話 作:陸奥九十九
当初はハサウェイがロンデニオンの工場でプチモビや、その工場にあった凄いバイクで盛り上がる、なんて閑話を挟もうとしたんですが、そんな暇なかったですね。悲しい。
結構悩みながら作ったお話なので、お楽しみいただければ幸いです。
夢を見ていた。昔の夢だ。
あの時、香港で、海に落ちた時の夢。母さんとチェーミンと一緒にいて、でも大きな波が来て、僕はボートから落ちた。
海の中は冷たくて、でも温かくもあって、僕は必死にもがいた。水面でもがいて、でもまた波が来て、海の中に沈んでいく。
水面がどこにあるかもわからなくて、どこに行けばいいのかもわからなくて、息が苦しくて、恐ろしかった。
心臓の音がうるさい、体から力が抜けていく。どんどん世界が暗くなっていく。
死の気配が、そこにある。死が、僕を包もうとしている。
光を、見た。白い光、大きな光。
そうだ、きっとあそこが水面なんだ。太陽の光なんだ。あっちに行けば助かるんだ。
そして僕は、その光に手を伸ばして……
「その光に、触れてはいけないよ」
声が、聞こえた。
「その光は、危険な光なんだ。君を向こうへ連れて行ってしまう、とてもとてもひどい光なんだ。だから、決して触れてはいけないよ」
優しい声だった。力強く、芯のある、しかし柔らかさを感じさせる声。
何処かで、聞いた覚えのある声。
「ほら、手を取って。ここは海の中なんかじゃない。自分の心の膜を広げるんだ」
温かさが、広がっていく。その時にはもう、苦しくなくなっていた。
「そう、自分の世界を広げて。自分を強くもって」
暗闇の中に、光が広がっていく。緑色の、温かい光が。
「そうだ。その感覚を覚えておくんだよ」
お、にい、ちゃん?
「そうだよ、久しぶりだね」
おにいちゃん、だ。
「もう溺れちゃいけないよ。家族を悲しませたら、いやだもんね」
う、ん。
「目を覚ませば、ブライト艦長が待ってる。アムロさんも。だから、もうお帰り」
うん、かえらなきゃ、ね。
「ああ、いってらっしゃい」
「さようならハサウェイ。あの情けない人を殴ってくれてありがとう、正直、だいぶ気分がよかったよ」
「消えろ、ララァ・スンの亡霊。次は無い。その時は大尉ごと、シャア・アズナブルごと消し飛ばしてやる」
※
目を覚ますと、最近見た天井が見えた。
ラー・カイラム?どうして?僕は確か、クェスとアムロさんと一緒に……。
視線を動かすと、そこにはクェスがいた。
「……クェス?」
その声に反応して、クェスが顔を近づける。
「ハサウェイ!大丈夫?どこも痛くない?」
「あ、うん。大丈夫だけど……」
拳に感じる慣れた痛みで思い出す。
「シャア・アズナブル!」
思わずそう声が出ていた。そうだ、奴を僕は、仕留め切れなかった!
「くっ!」
不意に脳が軋む。ミミズが脳の中を這い回るような不快感が、一瞬駆け巡った。
「どうしたの?どこか痛いの!?」
「いや、大丈夫。大丈夫だよ。何でもないんだ。クェスごめん、アムロさんと父さんに会わないと」
「大丈夫だ、もう来た」
アムロさんが、そう言って部屋へ入ってくる。
「ブライトは直に来るよ。それに、状況は全て俺が話しておいた」
アムロさんがベッドへ腰かける。
「痛みはないか?どこかおかしく感じる部分も。多分、ニュータイプ能力が感応しすぎたんだ」
「ニュータイプ、能力?」
「ああ、俺やシャアに備わっている能力だ。そして恐らく、君とクェスにも備わっている」
「クェス、にも?」
「ああ。クェス、君は奴を、シャアを目にして、何かおかしな感覚を味わわなかったか?心が共鳴するような、何かが理解できたような感覚だ」
「……あった。それで怖くなって、ハサウェイに止めてもらった」
「ハサウェイに?どうやって?」
「脳の瞳を閉じろって。大きな窓に、カーテンをかけろって」
「そうか、それが功を奏したんだろう。だから引っ張られることなく戻ってこれた」
「じゃあ、僕も?」
「そうだ、そして恐らく、ハサウェイのニュータイプ能力はかなり高い。もしかしたら俺よりも。だからクェスを止められたし、そしてひどく向こう側に引っ張られた」
向こう側。そうだ、海の底の、向こう側。真っ暗闇の向こう側だ。僕はそこへ引っ張られた。
「止めてもらったんです。お兄ちゃんに」
「兄?君の?」
「いえ、僕に兄はいないんですけど、なんだか漠然とそう感じて」
「そうか、そのお兄ちゃんに感謝しなくてはな。何にせよ良かった。おかえりハサウェイ、よく戻ってきてくれた」
そう言ってアムロさんが僕の頭をなでる。クェスもそれに便乗して、僕の頭をなでる。何だろう、とても気恥ずかしい。
「それに、あの情けない男をよく殴ってくれた。大分心がスッとしたよ。惜しむらくは、奴を捕えられなかったことだが、まあ、多くを望んでもしょうがない」
その言葉に、心が少し重くなる。
「……いえ、あの時体が緩んでいたんです。頭が痛くて、目も良く見えなくて、でも、そんな状況でも拳を振るえるように鍛えてもらってたのに。すみません……」
殺すべきだった。仕留めなければならなかったのに。
「……ハサウェイ、クェスが怯えている。力を抜け。俺たちは、言葉無くとも分かってしまう」
そう言われてハッとする。クェスが泣きそうな顔をしていた。思わずクェスの手を握る。
「ごめん、その、違うんだ。その、ごめん」
言葉が出ない。口も回らない。そんなつもりはなかったのに。そんな情けない僕に対して、クェスは、僕の手を握り返した。
「大丈夫、怖くないよ」
クェスがそう笑う。ハサウェイは、時折すごく子供っぽいね。そう言って笑ってくれた。
「ハサウェイ、完璧である必要はないんだ。人間は必ずミスをする。だから悔いるな。それに、君が奴を殺さないでよかったよ。軍人でない君は、いくら相手がテロリストであろうと、殺すべきでないし、殺しちゃいけない」
アムロさんが、優し気に僕を見つめる。
「一度殺してしまうと、急に引き金が軽くなる。最初の一発は酷く重かったはずなのに、今はもうその重さを思い出すことさえできない。」
アムロさんが、自分の手を見つめる。
「格闘技をしている君ならわかるだろう。人は簡単に死ぬ、簡単に殺せる。でも殺しちゃいけない。だから武道を習うし、殺さない方法もたくさん学ぶ。それが今回良いように働いてくれた。それで良いんだ。それに」
俺も覚悟が出来ていなかった。アムロさんはそう言った。
「シャアがいた。目の前にいた。なのに、俺はすぐに腰の拳銃を抜かなかった。抜こうとしなかった。奴を目の前にして、何が何でも殺すという覚悟が無かった。意味が無いはずなのに、対話を試みてしまった。だからこれは、俺の責任なんだ」
すまないハサウェイ、君に辛い思いをさせた。そう言ってアムロさんが僕に頭を下げる。
「やめてください!そんな、だって、お二人は、お仲間で、分かりあってもいたんでしょう?だから……」
「……そうか、君は見たんだな。俺と奴の記憶を。そう、分かりあっていた、つもりだった。だが今は違う。奴と相対し、対話し、それに気付けた。その前に。もっと早く気付くべきだったのに……」
酷く悔いるように、アムロさんが吐く。そして、とても優しい目をして、僕に言う。
「そして、ハサウェイは俺を助けてくれた。何もできなかった俺を助けてくれた。そして、クェスも助けてくれた。君が悔いることなんて何もない。もっと自分を誇れ、ハサウェイ」
ガシガシと、荒っぽくアムロさんが僕の頭をなでる。
「ハサウェイ!」
「あ、……父さん」
父さんが部屋へ駆け込んでくる。
「ブライト、ハサウェイは無事だ。だから少し落ち着け」
「だが!いや、すまない。ハサウェイ、無事なんだな?どこも痛くないな?」
「うん、大丈夫。何処も……」
痛くないよ。そう告げようとして、急に視界が歪んだ。何だ?と思ったが、痛みはない。ただ、頬に何変な感じがして、思わずそれを手の甲で拭うと、なぜか濡れていた。
「うん?何だこれ?」
そう呟いたときに、父さんもアムロさんもクェスも、酷く驚いた顔をしていた。
「大丈夫かハサウェイ!やはりどこか痛いのか!?」
「え?いや何処も……」
「ハサウェイ大丈夫!?痛いの?」
父さんが体の至る所を撫で、クェスが背中をさすってくれる。ずっと視界は歪んだままで、それが何故だか治らない。
アムロさんは、そんな僕を温かい目で見ていた。
「ブライト、ハサウェイも不安だったみたいだ。お父さんが来て安心したみたいだな。ハサウェイ、君も男の子だろ?女の子の前で、そう泣くもんじゃない」
アムロさんがそう揶揄うように言う。泣いてる?僕が?
父さんが、大丈夫だぞと上ずったような声で僕を宥める。クェスが安心したように、微笑みながら僕の背中をなでる。
それが、とても暖かかった。
※
「シャアがアクシズを!?」
「ああ、その場に居合わせた会計監査局のカムランさんからの情報だ。確実だよ」
ハサウェイの無事を確認したアムロとブライトは、状況がひどく切迫していることに気づき始めていた。
「アデナウアー・パラヤは何をしているんだ!シャアは隕石墜としをしたんだぞ!こんなこと、奴に新たな爆弾を与えたようなものじゃないか!」
「俺だって言ったさ。だが奴は、いや連邦は、シャアは戦争をやめる決心をした、そしてアクシズを売って得た金で、連邦の福祉が充実するなんてぬかす」
「アクシズを動かすための動力は?」
「アクシズ内の旧式の核パルスエンジンが動くのを確認していると」
くそっ!アムロは思わず机を叩いた。
「奴らどう動くと思う?」
「アデナウアーは、ネオジオンの武装解除を見届けるためにルナ2へ向かうと言っていた。そこにネオジオンの全艦隊がそろい踏みになると」
「連邦艦隊の装備は?」
「パレードを見届ける気分なら、一歩も二歩も出遅れる」
「全滅するな」
「だろうな。そしてルナ2の兵器はすべからく回収されるだろう」
「旧時代の核兵器か」
「それも、地球を燃やし尽くせるほどのな」
「決まりだ。アクシズへ急ごう」
※
シャアは腫れる顔に氷嚢を当て、大事を前にしたというのに自室に一人過ごしていた。
派手な技を食らったと思ったが、思ったよりずっと軽傷だった。ネオジオン国民への演説も控える状況であるが、腫れ止めと解熱剤で明日には目立たなくなるだろうし、それでもダメならリアルタイムで投影映像に加工すればいい。大したことではない。
そしてこの怪我の痛み以上に、シャアは歓喜していた。
「たしか、ハサウェイとか言ったな……」
思い出した。ハサウェイ・ノア。あのブライトの子供だ。そうだ、エゥーゴ時代に話を聞いた覚えがある。素直で、優しく、良い子だと、そんな取り留めもない話だった。
「似ているな、酷く」
若い、いや幼いとさえ称することができる年齢。自らの意思を通す強さ。そして、凄まじいほどのニュータイプの能力。
「なあアムロ?お前はその少年をこちら側に連れてきてくれたわけだ」
よく似ている、カミーユ・ビダンと。よく似ている、アムロ・レイと。
そしてその少年は、同じニュータイプ能力を持った少女と共にいた。そしてその少女も、また似ていたのだ。
少女の心、鋭すぎるほどの感応力、そして優しさと繊細さ。
よく似ている、ララァ・スンと。
シャアは笑っていた。
まるで期待していなかった映画が実は大傑作だと途中で気づいたように。
不味いとさえ感じていた料理が、ほんの少しのスパイスで劇的に美食へと変貌したかのように。
「お前には感謝しなければならないな、アムロ」
フフ、フフフ、フハハハハハハハハ……
喉を鳴らすような低い声で、シャアは笑った。
※
ハサウェイは悩んでいた。今後の状況について。
ラー・カイラムは軍艦である。民間人であるハサウェイは、たまたま乗っていたシャトルが故障し、そのシャトルの曳航のために緊急避難的にラー・カイラムに乗れたのであって、乗っていた状況こそがそもそもおかしかったのだ。
そして今は、当初の目的地であるロンデニオンに着き、本来であればここで父と同居し、そして母と妹が宇宙に上がるのを待つはずだった。
しかし父は戦場へ、母と妹もいつ宇宙に来れるとも分からない。そして何より、そう言った周辺の状況よりも、ハサウェイ自身の問題もあったのである。
特殊な装備をしながら作業をしていた。作業内容は何とデータ取りである。ではデータとは何か、それは「第4世代モビルスーツにおけるサイコミュシステムの実証実験」である。
サイコミュシステム。グリプス戦役に、先のネオジオン戦争から使われるようになった特殊兵装である。脳波コントロールによって、具体的操作なしに、思ったままに、意のままに兵器を動かす。ファンネルと呼ばれる兵器がまさにそれだ。
連邦軍はこの分野においてジオンの後塵を拝しており、ネオジオン戦争から5年余り、ようやく試作機が完成し、それがアムロさんの元に届けられた。
しかし、アムロさんの乗るモビルスーツ、ニューガンダムは、何と言おうか、本当に試作機なのだ。言葉を選ばずに言えばガワが出来ただけレベル。しかもアムロさんは、そんなモビルスーツを実戦に投入し、ぶっつけ本番で各種テストをしていたらしい。
頭がおかしいんじゃないだろうか?
分かりやすく言えば、昨日出来上がったばかりの、データ上は問題ないが確実になんかしら問題が出ると予想出来る新型エンジンで、テストなしで、耐久レースの本番で使うような行為である。
しかも壊れれば命に直結する。やっぱり頭がおかしいんじゃないだろうか?
そしてアムロさんは機体の調整にかかりっきりで、この特殊兵装にまで手が回っていなかったのである。
いやいや、ラー・カイラムには他に腕利きのパイロットも、凄腕のメカニックもいるんだし、そう言う人たちにファンネルの調整を任せればいいじゃない。そう思うだろう?誰だってそう思う。僕だってそう思う。
……動かなかったらしい。何を言っているか分からないと思うが、僕もなにを言われたか分からなかった。
曰くニュータイプ能力が足りず、アムロさん以外は動かすことさえできなかった。そのためデータも取れていない。
欠陥兵器やないかい。
もう捨てちまえよそんなもの。ミサイルでも背中に付けとけ。新しい鉄砲が出来ました!超高性能です!その代わり、人によっては引き金を引いても弾が出ないことがあります!
遊びでやってんじゃないんだよ。そう思った。
ではなぜ僕が、そんな欠陥兵器のテストをしているかって?
……うん、動かせたんだ。なんか動かせちゃったんだ。
たまたまアムロさんにファンネルのことを聞いて、「へえ?こんな感じかな?」なんてモーションを脳内で妄想したら、そのままに動き始めてしまったんだ。
もう大慌てですよ。なにごとかありけん。忙しいはずの父さんが格納庫へすっ飛んできたんだから。
そして、悲しいことに今は大変な非常時だった。借りられるなら猫の手も借りたい状況で、超多忙なエースオブエースにしか動かせなかった特殊兵装を、ちゃんと動かせる暇なキッズがいた。しかもただのキッズじゃなくて、艦長の息子だった。
誰かが言った。……ハサウェイならバレても何とかなるくない?と。
そして、今ココ!である。
言うまでもないが、父さんは酷く葛藤していた。自分の子供だから、というのだけでなく、明確に軍規に反しているし、何よりこれからラー・カイラムは戦場へ向かう。生きて帰れる保証もない。そんなところに、軍の、しかも兵器の都合で子供を招集し仕事をさせる。そんなことは許されることではない。
だが、ガンダムの調整が終わらなければ、戦争に勝てる確率が下がることも、また事実。
子供を犠牲にリスクを下げるか、リスクを取って子供を助けるか。最悪の二択だった。
ただ、僕の中で決めていたことがあった。
「父さん、僕やるよ」
そう伝えると父さんは、酷く怒った。
何を言っているのか分かっているのか、死ぬかもしれないんだぞ。俺だけでなく、ハサウェイまで死んだら、残されたミライとチェーミンはどうなる、と。
父さんが母さんのことを名前で呼ぶところを初めて見た。多分、それほどのことだったのだ。
「僕は、最後は家族と一緒にいたい。せめて近くにいたい。嫌だよ僕、ロンデニオンに電報でも届いて、父さんが戦死したなんて知るのは。それを知って、どんな顔して地球に帰ればいいのさ?どんな顔してみんなに伝えればいいのさ?」
「それにさ、父さんをひとりきりにするのも、家族のだれも父さんの傍にいられないのも、僕、何かやだよ」
そう言うと、父さんは受け入れてくれた。父さんが泣くところを初めて見た。父さんに抱きしめられて、抱きしめ返すと、大きいと思っていた背中が、ちゃんと抱きしめられるほどの大きさだと、その時初めて知ることができた。
モニターの数値を見ながら、宙に浮くファンネルに命令を加えていく。
展開、戻れ、展開、戻れ。
その命令に従い、ファンネルがガションガションと駆動する。真っ黒な宇宙を背景に、白いファンネルが良く見える。黒く塗らないんだろうか?目立つくね?
4基のファンネルが編隊飛行をするように整然と動く。が、時折その動きが乱れる。すぐに原因は分かった。反応が機敏すぎる。
セッティングの出ていない車でもよくあるのだ。運動性能を高めようとして、意のままに動くカミソリのような鋭さを求めて、結果として敏感過ぎて怖くて乗れない、なんて現象が。1ミリのステア操作、1ミリのアクセル操作に対して、動き過ぎる、開き過ぎる。
ただ、そんな車も乗っていて楽しくはある。「こんな車、俺にしか乗りこなせないぜ!」という楽しさ。でも、タイムで見ると絶妙に遅い。常に修正舵を入れているからだ。
適度なダルさと、追い込んだ時の鋭さ。それが出れば最高だろう。ただ、それが難しい。
しかもこのファンネルに関して言えば、思った瞬間に動くのだ。操作が無い分よりピーキーである。
具体例を挙げよう。
以前テスト中に、小さな隕石が飛んできたのである。よくあることだ。艦にぶつかるような距離でもなかったのだが、ぶつかるかも?「怖いな」と一瞬思った。その瞬間に、ファンネルはビームを放っていた。そしてそのビームは、正確に小隕石を打ち抜いたのだ。
思考どころか、ほんの少しの感情にさえレスポンスしてしまう。
僕に与えられた仕事は、そんなファンネルのセッティング出しだった。
そしてそんな僕は、特殊な装備を2つ携えていた。
一つ目は左腰にくくってあるT字型の金属片。サイコフレームである。アムロさんが貸してくれた。実戦でもこれを腰につけ、感応力を高め操作する。より実戦に近い状況でセッティングを出してほしいと。
二つ目は何か?そう、それは、今もノーマルスーツを着て、僕の背中に引っ付いているクェスである。
話は少しさかのぼる。
アデナウアーさんが仕事でルナ2に行くとのことで、クェスもそれに同行する予定だったのだが、クェスがそれに「イヤッ!」と絶対の拒否を入れたのである。
ロンデニオンの観光さえまだできてない、それにルナ2に行って私がすることもない。友達だっていないんだから。仕事が終われば平和になるんでしょう?だったらロンデニオンにいても大丈夫じゃない!
クェスの断固たる決意を感じたのか、アデナウアーさんは一人ルナ2へ、そしてクェスはロンデニオンに残る、はずだった。
クェスにはちょっとした特権がある。正しい名称は覚えていないが「この子の親は連邦ですごい権力を持った人です。ちょっとした特別な施設には入ってもお咎めなしですよ」的な特権だ。地球連邦って怖い。そんな特権を、クェスはラー・カイラムに使用した。
ラー・カイラムはこれから戦場へ行く。生きて帰るつもりではあるが、その保証はない。けれど、クェスは断固として乗艦を望んだ。
僕は酷く反対した。そんなバカなことは無いと。
そんな僕の反対を宥めたのは、アムロさんと父さんだった。
アムロさんは、「高いニュータイプ能力を持つものは多い方がいい。ハサウェイの仕事にも役立つ」と実利を唱えた。僕は酷く怒った。この小さな女の子を、そんな理由で危険に巻き込むな、と。でも、そんな僕の怒りに対して、父さんは言った。
「お前が私に言った言葉を、そのまま彼女とお前に当てはめてみろ。それが、何よりの答えだ」と。
ハッとしたけど、納得できなかった。だってこんなに小さくてか弱い女の子なんだ。それも、これから戦いに行くのはあのシャアなんだ。会わせたくないし、近寄らせたくもない。
僕の苦悩が伝わってか、クェスが僕の手を握った。そして言った。
「友達が死ぬかもしれないのに、それをただ見送るだけなんて嫌だ」
泣きそうな眼をこらえて、強い意志をこめて、クェスはそう言った。
僕は、僕も泣きそうになりながら、それを受け取った。
「どうなの?調整って」
「反応が機敏すぎるから、その塩梅の調整だね。暫定版は、そろそろできるよ」
引っ付き虫になったクェスがそう聞いてくる。最近のクェスは引っ付くのが好きらしく、大体何処でも引っ付いてくる。それは別に良いのだが、それを見てニヤニヤといやらしい笑みを浮かべるアムロさんはちょっと嫌いかもしれない。
調整のために、3パターンのマップを用意した。
1つ目は反応をかなり抑えたバージョン。このマップでは明確に行動を伝えないとファンネルは動かない。
2つ目はそこそこ抑えたバージョン。少しのイメージにも反応してくれて、学習コンピューターとの相乗効果も生まれれば、痒い所に手が届く動きをしてくれるかもしれない。
3つ目はほぼ抑え無し。怖い!どうしよう!なんて感情には反応しないが、動作をイメージしようとした瞬間に行動を始める。アソビ無し、だるさ無し、常にカミソリの切れ味を出すモード。これを使うと脳が恐ろしいほど疲れる。
設定をアムロさんとチェーンさんとアストナージさんに共有し、後はアムロさんのフィードバックを待つばかりだ。
何とか間に合った。その安堵感が押し寄せる。
ラー・カイラムがロンデニオンを出港して既に2日。戦場が近づいている気配がした。
読了ありがとうございました。
結局ハサウェイとクェスは戦場へ赴くこととなりました。その後はどうなるか、何も考えてません。明日の私に期待してください。
誤字報告ありがとうございます。しかも今回は「ここ、設定おかしくないですか?」という指摘も頂きました。ちゃんとしろよ私!
感想と高評価もありがとうございます!とても嬉しいです。特に頂いた感想は何度も読み返してニヤニヤしてます!
引き続き感想や高評価など頂けるととても嬉しいです!