ハサウェイがアムロやシャアに影響される前に機械オタクになった世界線のお話 作:陸奥九十九
もう少し頑張れる気がしたんだけどなあ?というか何でこんな話になったんだろうなあ?
何とも言えない出来です。本当に申し訳ない。
でもこれ以上を書ける気もしないので、よろしくお願いします。
俺の人生には、初めからケチがついていた。
親は早くにいなくなって、俺は一人で生きていくしかなかった。コロニーの中のゴミだめの、さらにその端の掃きだめで、俺はやっと呼吸ができた。
そこはいつも腐った匂いがしていた。ゴミの腐臭、排せつ物の汚臭、焼けた機械の異臭、人の腐臭。ゴミの山、ゴミの町、ゴミの城。俺の生きる場所。
生きるために何でもやった。盗みもかっぱらいも、殺しだって。今日を必死に生きて、明日に希望なんてなくて、明後日は遠い未来に見えた。
その日飯にありつくために何だってする。
小さいときは体が売れた。汚らしいじいさんが、その汚さに似合わない奇麗な服を着て、猫なで声で俺の体に金を払った。
大きくなったら暴力が売れた。ゴミだめの中の金持ちから、飯が食えるほどの大金を、殺して奪って飯を食う。
仲間なんていない。いるのは協力できる今日は殺さない奴か、出来ない今日殺す奴か。
生きることは奪うことだ。奪えないやつは死ぬしかない。掃きだめの中の小さいパイを、掃きだめの奴らで奪い合う。
時折視界の端に映るコロニーの市街が嫌いだった。届きそうなのに、届かない。行けそうなのに、決して行けない。酷く奇麗な別世界。俺とは違う別世界。
ここじゃない何処かへ行きたかった。あのコロニーの中で、奇麗に暮らせるなんて思わなかった。でも、ここじゃない何処かへ。きっと俺が行ける場所があると、そこはここよりきっとマシなところで、きっと幸せに暮らせる。そんな夢を見てた。
そんな時だ。俺がニュータイプ研究所へ送られたのは。
そこは最初いい場所だと思った。飯が食える。服が貰える。寝床がある。吹きさらしの中で凍えながら寝る必要も、腐ったような飯を必死に食う必要もない。
ここが、俺が行ける場所なんだ。あのゴミだめから、俺はマシな場所に来れたんだ。そう思った。
一緒に連れてこられた奴が大勢いて、みんな孤児だった。俺みたいな悪ガキも、そうじゃない小奇麗な奴もいて、でもみんな子供だった。
その時思った。神様ってやつは本当にいて、俺たちみたいなやつを拾い上げてくれたんだ。あんなに辛い思いをしたのは、ここ来るまでのクソみたいな前振りだったんだ。そうだよ、誰かが言ってた、不幸と幸福は代わりばんこで、きっと幸福がくるって。
そう、思ってた。
もしあのゴミだめが生き抜く必要がある地獄なら、ここは生き残る必要がある地獄だった。
人工的にニュータイプを作り出す。ニュータイプが何なのか知らなかったが、特殊な兵器を扱える部品を作る、それがこのニュータイプ研究所の目的だった。
その部品を作るために、脳を鍛えさせ、研究する。そのためには何でもする。刷り込みのような強化措置から、脳に電極を刺し薬物で脳を溶かすほどの強化措置まで。
その時初めて理解した。ここで俺たちは、人間として扱われていないのだと。大量の子供は切りの良い数字で集められていた。50人、それが俺の同期の人数だ。24ロット目。俺たちはそうして入荷した。
俺はゴミから部品になった。そして、ゴミが死ねばゴミになるように、部品は死ねば廃棄される。
必死だった。戦闘訓練も精神強化も、ほんの少しでもスコアが落ちれば一気に強化措置のレベルが跳ね上がる。昨日戦闘訓練でスコアを落とした奴は、今日何処かへ連れていかれた。何処へ連れていかれたのかもわからない。何をされているのかもわからない。
でも誰もが分かっていた。行く先がきっと更なる地獄であることを。
必死で戦いを覚えた、必死で勉強をした。起きている間気の休まる瞬間などない。恐怖によって俺たちは努力し、恐怖によって俺たちは支配され、恐怖によって俺たちは部品としての精度を上げていった。
その日のカリキュラムを終え、ベッドに戻ってこれるとほっとした。今日も生き延びることができたと。ベッドで眠るときに絶望する。また明日がやってくるのだと。
「なあ、■■■■は何になりたい?」
そいつの名前は、何だっただろう?そいつは俺を何と呼んでいただろう?そうだ、俺がギュネイ・ガスになる前の記憶だ。ネオジオンのギュネイになる前、それ以前の名前を、俺はもう思い出せない。
「何になりたい?馬鹿が言ってんじゃねえよ、俺たちは強化人間だ。サイコミュ兵器のパーツになるだけだろ」
「ばっか、それじゃつまんねえだろ。そうじゃない未来さ。可能性の話だよ」
そいつは珍しい奴だった。明るさを失わないやつ。笑顔を浮かべられるやつ。強化措置は過酷で、俺たちは次第に感情を失っていく。怒ることも、泣くことも、笑うことも。
「……まあ、俺はでもここじゃない何処かへ行きたい。きっと、俺が行ける場所へ」
「どこだよ、それ?」
「知らねえよ。でも、少なくともここじゃない何処かだ」
そうだ、どこか。ここじゃない何処か。そう言って、俺はここに来たのに。
「あたしはさ、飛行機のパイロットになりたいんだ」
「飛行機の?飛ぶならモビルスーツで良いじゃねえか」
「そうじゃなくてさ、父さんが飛行機乗りだったんだよ。一年戦争で、戦闘機を操縦してたらしいんだ」
楽しそうにそう言っていたのを覚えている。ここに来たってことは、きっとその親父は一年戦争で死んだんだろうなと、そんなことは容易に想像できた。
「空を飛行機で好きなように飛ぶんだよ。きっと気持ちいいぜ」
そいつがどんな顔をしていたのか、俺はもう思い出せなかった。
そいつは俺と同じくらい優秀な奴で、同期が次々と部屋から消えていく中で、そいつはずっと残り続けた。
格闘訓練で元軍人の教官と渡り合えるほど強く、身体能力の数値も高く、刷り込みと精神強化でも理想値に近い数値を出していた。
優秀な奴だった。他に残っている同期は徐々に精神をすり減らしスコアを落としていく中で、俺と奴は成績を徐々に上げていった。
スコアが伸びれば待遇も改善される。十把一絡げの石ころが、磨かれた上等な加工品になって行くように。このまま努力すれば、少なくとも脳に電極刺されて殺されることは無いと。
その日は、ずっと嫌な気配がしていた。
ゴミだめで強盗に襲われたときもそうだった。奪うものなんか何もないのに、何かを奪うために命を奪う鬼がいた。小さいころに出会って、必死に隠れて、次の日そいつはごみになっていた。
何か恐ろしいものが来る気配。恐怖の足音は音も無く、でも気配がある。何かがあると感じていた。
その日の格闘訓練で教官が言った。
「成績優秀者の脳を深度研究する。お前らの内どちらかだ。この格闘戦での敗者を研究へ回す」
この場所に、平穏なんてない。俺たちが勝ち取れる席は、たった一つだけだった。
その後どうなったか、よく覚えていない。勝ったのか負けたのかも、それどころか、その日のカリキュラムさえも。ただ分かることは、俺は残って、あいつはいなくなった。それだけだった。
同期は、誰もいなくなっていた。
その後俺には部品としての番号が渡された。俺は部品として問題ないと判断された。
個室が与えられ、サイコミュシステムを扱うための専門のカリキュラムが始まった。
じきにこの研究所からもおさらばして、ネオジオンの特設部隊へと入隊することも決まった。俺は生き残ったのだ。でも、その実感が無かった。
俺は研究所を自由に歩ける程度の権限が与えられた。とはいっても、何を見るでもない。ただぼんやり散歩する程度の自由が与えられたということだった。
だからその日もぼんやり散歩していた。ここではいつも何処からか子供の悲鳴が聞こえる。甲高い、耳に残る悲鳴。そして、壁を叩くような鈍い音。
薬物投与のなれの果て。死んでも良いと、いや死ぬ寸前のデータも欲しいと。生き残ったらラッキーだし、死んでも別に気にしない。そういうレベルの研究。
この息苦しい悲鳴と打撃音にも、もう慣れてしまった。
だからその部屋の前で足が止まったのは、ほんの気まぐれだったんだ。
たまたま気になって、ふと部屋に近づいたら、自動ドアが開いて、中が見えた。
見慣れた赤毛交じりの茶髪だった。肩の長さで切りそろえた奇麗な茶髪。その髪を振り乱しながら、あいつは強化ガラスにガンガンと頭を叩きつけていた。
何度も何度も。
何度も何度も叩きつけて、叩きつけて、そして崩れ落ちた。
俺は駆け寄っていた。必死に駆け寄って、抱き起して、そして……
覚えているのは、抱き上げた体が温かかったこと。頭から流れる血は熱いほどで、粘り気のある血で、それがすぐに冷たくなっていったこと。
俺の中の何かが、ぷつんと切れたこと。
俺は気づいたのだ。俺は死なないのだと。決して死なないマシーンなのだと。
だってそうだろう?あいつが死んで、俺は生き残った。あいつはごみになって、俺は部品になった。だから、俺が死ぬわけないんだ。俺は死なないんだ。
シャア大佐の部隊に配属されたのは、そのすぐ後だった。
俺はギュネイ・ガスになった。ネオジオンのモビルスーツパイロット、ギュネイ・ガスに。
大佐の部隊はエースクラスしかいない、本当の意味での特殊部隊だった。ネオジオン総帥となるべき血を持つ人が隊長のモビルスーツ部隊、その中のサイコミュ兵器を扱えるスペシャルパイロット。それがギュネイ・ガスに与えられた役割だった。
最初は気分が良かった。ゴミだめのごみが、ネオジオンの総帥を守る兵隊になれたのだから。
ゴミだめの中で生き抜いた、あれほどの苦しいカリキュラムを乗り越えた、50人いた同期の屍を踏み越えた、俺は、決して死なないマシーンになった。
だが、俺はそこでは強いモビルスーツパイロットの一人でしかなかった。
シャア・アズナブルは、大佐は天才だ。パイロットとしての技量も、サイコミュを扱う技術も、どの分野でも俺はその領域に至れていない。あれほどの地獄を見て、それでも足りない。
必死に軍人をやって見せた。宇宙をかけて、連邦と戦って、忠誠心とやらを見せてきた。大佐も、俺が薬物投与なしにサイコミュを扱えることを評価してくれて、ニュータイプなのだと信頼してくれた。
そうだ、大佐に勝つ必要はない。大佐は特別だ。俺とは違う存在なのだから。俺はネオジオンのパイロットとして、大佐の期待に応え続ければいい。そう思ってた。
そして、アムロ・レイが現れた。
大佐と同じニュータイプ、決して勝てない存在に。
フィフス・ルナで墜とされかけ、先の出撃でも何とか生き延びた。だが、あれに勝てるイメージが、俺には浮かばない。
ヤクト・ドーガも大破寸前で、予備機を回してもらえると聞いたが、どう戦うべきか俺は悩んでいた。
その時、大佐が言ったのだ。
「ギュネイには、特別な機体を用意した。今の君に扱いきれるかは分からないが、なに、ナナイが君を調整してくれる」
地獄が、また俺の下に来た。
時間のない中での強化措置。薬物を脳にぶち込んで電極で拡張する。
脳みその中を有刺鉄線が暴れるような激痛。それをさらに薬物で鎮痛させる。
何でこうなった?どこで間違った?ふざけるなよ、禍福は糾える縄のごとくだろ?不幸があったら幸せがやって来いよ。
俺の10年は、たった一度の戦闘のために、モビルアーマーに乗るためだけに無に帰した。
この地獄は、いつ終わる?
アルパ・アジールで戦場を駆る。戦場は地獄じゃない。ここにいれば、少なくとも再調整を受けることは無いのだから。戦うために痛みは鎮痛されるのだから。
あとは目に見える敵を撃ち殺せばいい。有線サイコミュのメガ・アーム砲も、ファンネルも、思いのままに動く。思った通りに殺せる。
そうだ殺せばいいんだ。殺せば殺されない。俺は死なないマシーンだ。殺した数だけ命を長らえるんだ。俺は死なないんだ!
ふと、誰かが俺に近づいてきた。
誰だ?何が来た?アムロ・レイじゃない。あの恐ろしいプレッシャーを放っていない。
ふと、目の前が開けた気がした。
それは、酷く優しいオーラを放っていた。大佐のような惹きつけるオーラでも、アムロのような恐ろしいプレッシャーでもない。
羽を背負った天使のように、そのモビルスーツは現れた。
※
「クェス、外を見ないで。僕の心だけを感じて」
このオーラは、君を向こうへ連れて行ってしまう。その大きなモビルスーツを見て、そう確信した。とても悲しいプレッシャー、そして、命を燃やすことでしか得られないであろうパワー。そのマシーンは、死を象っているかのようだった。
「ハサウェイ……!」
「うん、分かってる」
時間はかけられない。艦を守るためにも、彼の命が燃え尽きる前に無力化する。
「ファンネル!」
12枚のファンネルが飛翔する。即座にファンネルはそのマシーンの四方を囲み、攻撃を開始する。だが、その包囲が完成する前に、速力でもって突破される。
「速い!」
ジェガンの推力じゃ追いつけないか?いや、彼を引き付けるんだ、そして鳥かごに入れて包囲する。ペダルを踏み込む。マシンは一気に加速する。
「ぐっ!」
Gで体が圧迫される。そうだ、これはシミュレーターでは分からなかった。
マシンが加速する、と、目の前に光の雨が降ってくる。
避けろ!!スラスターで一気にマシンの向きを変え、緊急回避を試みる。
「ぐあぁっ!」
「あうぅっ!」
クェスもうめく。こんな回避機動を続ければ、僕もクェスも、Gで体がもたない。
そうだ、アムロさんが言っていた。弾幕は雨だ、その雨は広く、その範囲外に出ることはほぼ不可能だ。でも、雨ほど密集していない、その中は意外にすり抜けられると。
よく見ろ。そして、精密にマシンをコントロールするんだ。通り抜けることができるルートは、ちゃんとある。
空を泳ぐように、頭を向けてすり抜けろ、90度体を傾けて、また戻って、塊を回りぬけて、そこから上がる!
弾幕の中を抜け切る。
同時に両肩部の砲台をファンネルで打ち抜く。破壊確認。
これで!とビームサーベルを叩きつけるが、押し返される。
「Iフィールド!?」
『……お前、良いよなあ。ニュータイプか……』
通信じゃない。これは、思念波?
『大佐とアムロ・レイと同じだ。俺とは違う、俺らとは違う。良いよなあ、羨ましいよ……』
死んでくれや。
口部のメガ粒子砲が火を噴く。それを僕は何とか避ける。
「ぐうぅ!」
『なんだぁ?お前地球生まれか……良いなあ、優しい両親に、優しい家族。……そうか、お前父親はあのブライト・ノアか。凄いなあ、エリートじゃねえか。かっこいいぜ、一年戦争の英雄様だ。お前はその子供だ』
くそくらえだ。
彼がファンネルを射出する。パワーが違うんだ、速いし大きい!
「ファンネル!」
でも手数はこっちの方が多い!
『大佐もそうだ。お前もそうだ。全部持ってる。何もかも持ってる。俺とは違う。なんでだろうなあ?なんで世の中ってのは、こんなんなんだろうなあ!!』
プレッシャーが増す。ずっと思念が伝わってくる。黒くて重い感情。絶望を象徴するような、強い感情。
「やめるんだ!そんな感情を放ち続ければ、心が擦り切れて死んでしまうぞ!」
『死んでしまう?何言ってるんだ?俺は死なない。俺はマシーンなんだ。決して死なないんだよ。そう決まってるんだ』
ファンネルが少しずつ撃ち墜とされていく。彼のオーラが空間を支配している。そして、相打ちじゃあこちらのファンネルだけが撃ち墜とされる。
『そうだ。みんな死んでいった。俺だけが生き残った。俺は死なない。お前を殺して、俺は生き残るんだ。そうだ、そうだよ。死んだあいつも、俺が殺したんだ。だから俺は生き残って……あいつ?あいつって、だれだ……?』
感情が流れ込んでくる。彼の悲哀が、彼の絶望が。
『そうだ、俺は、あの奇麗なところに行きたかったんだ……入れないと思ってたけど、今なら入れる……だって俺は、ネオジオンの……ネオジオンの、何だっけ?』
彼のファンネルをビームライフルで直接撃ち墜とす。オールレンジ攻撃に関しては、実力にそう差があるわけじゃない。打ち合いをしても分が悪いわけじゃない!
『そうだ……飛行機……飛行機に乗るんだ……』
確実にファンネルを墜とせ。一つ、二つ!
『そうだ……飛行機乗りに……なるんだ』
……五つ、六つ!
『あいつが……飛行機に……?、あいつって、誰だっけ?』
ラスト!これで!
『白い、ファンネル?アムロ、レイ?う、ああ、うわああぁぁぁーーーーー!!』
彼が速力で一気にファンネルを引き離す。そしてメガ粒子砲を乱射し、ファンネルが落とされていく。
彼と正面を向き合う様に、シールドを構えて吶喊する。
距離を詰めろ!コクピットは頭にあるはずだ。彼のオーラが頭から漏れ出ているのだから。頭をサーベルで切り剥がす。それで無力化できるはずだ!
メガ粒子砲を確実に避けていく。だが推力の差で距離が縮まらない。
『来るな、来るな、来るな、うわあぁぁーーーー!!』
動きが止まった!これで!
瞬間、僕は回避行動をとっていた。
「なんだ、別の敵!?」
別のモビルスーツがこちらへ攻撃してきている。そして、彼の乱射するメガ粒子砲も近づいてくる。
避けろ避けろ避けろ!
ファンネルであのモビルスーツから確実に処理する。四方から両手足を打ち抜き、無力化する。
その一瞬の意識が隙になった。
メガ粒子砲が迫る。避けられない!シールド!
ドガアァァン!!と轟音を響かせ、ジェガンが揺れる。シールドと左腕が蒸発する、が、基幹部に問題なし。
「クェス!大丈夫!?」
「うん!」
この状態での激しい戦闘は無理か!?
『……あれ?……俺、何してるんだっけ?……ああ、そうだ。俺はギュネイ・ガスで、ギュネイ・ガスになって……』
彼のオーラが、一気にしぼんでいく。
そんな!そう思った瞬間、彼はビームライフルで打ち抜かれた。
「……え?」
遠くに、ジェガンが見えた。あのジェガンが撃ったのだなと、それだけは理解できた。
※
「よう」
彼が、そこにいた。
「お前、名前は?」
「……ハサウェイです。ハサウェイ・ノア」
「ハサウェイか。なんか悪いな。いろいろ手間かけさせちまってよ」
見たことのない場所だった。どこかのスペースコロニーの、そのどこか。
「良い場所だろ。って言っても、俺も来るのは初めてだけどさ」
「ここは……」
「行きたかった場所かな?いや、それも違うかもな」
白い壁に家が立ち並び、風情を感じさせる街並みだった。
「気にするなよ?戦場で戦って、隙を見せたマヌケがおっ死んだ。それだけだからよ」
その家の屋上の柵に肘をかけて、彼は街並みを眺め、僕はそんな彼を見ていた。
「あと、あんまり相手に寄り添うなよ。敵の俺にあんなに心を近づけると、戻ってこれなくなっちまうからよ」
後輩にアドバイスをするような気楽さで、彼は言う。
「……すみません」
「……何がだ?」
「……あなたを、助けられなかった」
彼を見ていられず、僕は俯く。すると足元に、影が近づいてきた。
「おら」
彼が僕の額を小突く
「うぬぼれてんじゃねえよ。戦場にいる敵を助ける馬鹿がいるか。俺はお前らの敵で、俺はお前に助けて欲しいなんざ言っちゃいねえ。勝手に同情して、勝手に泣いてんな」
そう言って、彼が笑う。
「それに、多分持たなかったさ。アルパは俺には乗れない機体だった。それを強化措置で何とか乗れるようにされたが、まあ無理してたしな。生きて戻っても死んでたろうぜ」
だから本当に気にすんな。そう言って、彼はまた街を眺める。
「うん、やっぱりいい景色だ」
彼は大きく深呼吸をする。
「俺の人生、ヤなことばっかだったよ。あのゴミだめも、研究所も、大佐のとこはちょっとはマシかと思ったが、最後がこれじゃあ一番クソかもな」
彼が振り返る。
「でもまあ、お前に会えたのはちょっと良かった。それで全部がチャラにはならねえけどよ、馬鹿みたいに優しいお前に最後に会えて、良かったよ」
彼が飛び切りの笑顔でそう言う。
「じゃあなハサウェイ。馬鹿みたいに優しいクソガキ。あの子と一緒に、長生きしろよ」
※
ふと、目が覚めた。
目の前には大破したアルパ・アジールが見え、僕はジェガンのコクピットの中にいた。
彼は死んだ。それだけは理解できた。
「う、ああ……!」
考えるな、止まるな、敵がいるかもしれないんだ。早く行け。飛べ。アムロさんの下へ。アクシズへ。
「ハサウェイ……」
クェスが僕の肩を撫でる。その手を、僕は握り返した。
「行こう」
僕は飛び立った。
※
「馬鹿なガキだったなあ……」
敵に同情するかね普通。戦場で、しかもモビルアーマーに乗った敵を。
「いや、軍人じゃねえんだろうな。それにしてもなあ……」
「いいじゃねえか、ああいう奴がいるって知れて。世の中捨てたもんじゃねえってさ」
ま、あたしたちは出会えなかったけどな。
「……なんだ、待ってたのかよ?」
「いやあ、先に行ったらお前泣くかもな、って思ってぇ」
「誰が泣くかよ、お前こそ、寂しかったんでちゅかぁ?」
くつくつと笑う。俺も、あいつも。
「で?ここがお前が行くべき場所なの?」
「さあな。でも、ガキの頃ここが奇麗で嫌いだったよ。きっといけない場所だって思ってさ」
「でも、こうして来たわけだ」
「なあ。なんでだろうねえ」
「でもいい場所じゃない?奇麗でさ」
「端っこの方はゴミだめだけどな」
「どこもそんなもんだろ?まるっきりきれいな場所なんて、この世のどこにもありゃしないさ」
天国だって、端っこの方は埃が溜まってるよ。
そう言って、また二人で笑った。
「じゃあ、行こうか」
「おう、お前のご自慢の飛行機とやらに乗せてくれよ」
「ああ、最高に気持ちが良いぜ。お前の乗ったモビルスーツとは大違いよ」
「たりめえだ。じゃなきゃ面白くないしよ」
空に飛行機が舞う。どこまでもどこまでも。空に飛行機が舞う。
……はい、読了ありがとうございました。
賛否ある気がします。とてもある気がします。いや否の方が多い気がします。
様々な意見をお聞かせいただければと思います。
誤字報告ありがとうございます。大変助かります。
感想と高評価などありがとうございます。引き続き応援いただけますと幸いです。
明日の私!この状況をちゃんと建て直せよ!!