ハサウェイがアムロやシャアに影響される前に機械オタクになった世界線のお話 作:陸奥九十九
次回以降は時を飛ばして、新キャラも登場させて、新ストーリーを始められればなと思います。
でも詳しいとこは何も決めてないぜ!だって本来の宇宙世紀からかけ離れてるからね!どうなるかは、明日の私が考えてくれるさ!
追記:
コロニーでガソリン車ってどうなんだ?とは一瞬思ったのですが、逆シャアでアムロが乗っている車から明らかにエンジン音がしたので書いてしまいました。でもあれ水素燃料車かもしれません……でもこのFCは多分ガソリン車です……設定ガバガバで申し訳ない……
翌日、ラー・カイラムはロンデニオンに無事に到着した。恐れていたネオジオンの襲撃もなく、拍子抜けするほどに航路は安全だった。
終わったんだな。その思いが強かった。
ここから始まって、ここへ戻ってきた。たった10日間の僕の宇宙体験は、異様なほど濃厚に、そして悲しみを孕んだものになってしまった。
あの時ラー・カイラムの中から見た美しいロンデニオンの街並みを、こうしてまたコロニーの外から眺める。それが、今はとても嬉しく感じられた。
ロンデニオンに着くと、戦後処理などの関係で父さんたちはまた忙しそうだった。
酷くバツの悪そうな、そして顔色が大層悪くなったアデナウアーさんが父さんたちを港で迎え、それを父さんもアムロさんも、凄まじく冷ややかな目で見下ろしていた。
本当に反省して欲しい。時代が時代ならハラキリものである。そのレベルでの失態をやらかしたのだから。
僕とクェスは、その後すぐにラー・カイラムから降りて、僕は父さんのマンションへ、クェスはホテルへの帰路に就いた。クェスが一緒に泊まろうなんて駄々をこねていたが、きっぱり断らせていただいた。
僕もクェスもラー・カイラムに乗ってなどいなかったし、勿論モビルスーツにも乗っていない。そう言うことになるらしい。
詳しいことは後から詰めて行くらしいが、まあその方が間違いなく良いだろう。あの状況とはいえ、軍規にはガッツリ反している。僕とクェスがいたことは、ロンドベルだけの秘密となるらしい。
心残りがあるとすれば、時間が無さ過ぎてあのジェガンを直しきれなかったこと。戦闘データを纏めて学習コンピューターに最適化させ、OSのアップデートをしたところで時間切れとなってしまった。
まあ、ラー・カイラムだとハード面でのデータ取りは難しかったし、恐らく専用の設備があるところで、データ取り&オーバーホールを為され、また別のパイロットに引き渡されるのだろう。
僕が初めて乗って、初めて戦って、何度も命を助けてもらって、壊してしまったモビルスーツ。別れるときに泣きそうになってしまって、しょうがないな、なんて表情をしたアムロさんに頭を撫でまわされた。
そうして、僕とクェスの戦争は幕を閉じた。
父さんやアムロさんなど、ラー・カイラムのクルーの皆さんはまだまだ仕事が落ち着くまで時間がかかりそうだが、僕とクェスは当然そんなこともなく、もっぱら暇になった。
なのでクェスと一緒に約束のロンデニオン観光をしていた。
「……カレー?」
「いや、豚汁の可能性もある気がする……」
そして、適当に入ったレストランで出てきたアジアンスープなる珍妙な料理に二人して首をかしげていた。
美味しくない、わけでは無い。好き好んで食べるかと言われれば、何とも言えない。そんなロンデニオンの町のレストランで出てきた、アジアンスープ。
その日、クェスがショッピングをしたいとのことで、ひたすら服屋さんを午前中から回っていた。クェスが夏物が欲しいと言っていたので、新作のワンピースにサンダル、薄手のシャツにスカート、都合3件の服屋さんをはしごしてクェスは大分ご満悦の様子だ。
そして僕も着せ替え人形にされた。僕は服装に関して大して興味がない。外に出るときはシャツとセットアップ、作業するときはつなぎを着て、家にいるときはスウェット、それで完結してしまうからだ。
母さんやチェーミンに荷物持ち代わりに連れられて服を見るときもあるが、自分の服にほとんど興味を持たなかった。
それがクェス的にはお気に召さなかったのか、「私が好きな分野をちゃんと好きになって」と叱られ、クェス先生プロデュースのファッションを何パターンか試され、数着の服を購入するに至った。
そしてご飯として入った店で、事件が起こったのだ。
アジアンスープ。なんてざっくりとした名前だろう。アジアにしたって東アジアから中央アジアまで東西に長く、また東南アジアはさらに別な文化だ。
そこでクェスとちょっとした勝負をしようと話したのだ。このアジアンスープのアジアはどこのアジアかと。
クェスは宇宙に上がる前はインドに、僕は日本にいた。アジアの文化もそれなりに理解がある。人口が多い順で言えば中華系、次にインド系。文化的に特殊で物珍しいで言えば日本系、韓国系、インドネシア系、といったところか。
だがここは、ヨーロッパはイギリスを参考に作られたコロニー、ロンデニオンである。ヨーロッパに近い食文化で行くなら、中央アジアの干し肉のスープなども考えられる。
意外にも話は弾んだ。僕がインドから宇宙に上がったのにカレーも食べていない、というのもあり、インドの話をクェスに聞かせてもらい、僕は日本の料理を話し、盛り上がったのだ。やはり食は偉大なのだろう。どんな食べ物が好きかでいくらでも盛り上がれる。
そして事件が起こったのである。クイズをしていたつもりが、なぜか謎解きになった。
お互いに、アジアンスープを口に運ぶ。
「……葉物野菜と根野菜と豆と、チキンの、トマト系のスープ?」
「でも酸味もあるよ?この酸味は……お酢?バルサミコ酢?」
トムヤムクン風のちょっと酸っぱいミネストローネである。ただ酸味はレモンではなくお酢である。何だこの料理?
「……まあ、食べられは、するよね?」
「うん……」
酷く釈然としない。何だこのもやもや感。イギリスってこういうアジアの解釈をしているのか?それともこの店だけか?ちょっとロンデニオンが不思議な街に思えてきたぞ?
何とか昼食を終え、またショッピングにでもと出たところで、クェスの方にアデナウアーさんからの呼び出しがかかった。正確にはアデナウアーさんの秘書らしいが。
曰くこれまでの放浪期間中に出来ていなかった課題やらなにやらに関してのお説教交じりの催促のようだ。クェスは殆ど憎むような凄い形相で、その電話を切った。
クェスの気持ちが、悲しいほど理解できる。母親を放り出して愛人を囲い、家庭に居場所がなくなり飛び出した娘に、謝罪でも釈明でもなく「ちゃんと学校に行け、勉強をしろ」だなんて、明らかにどうかしていると僕でも思う。ちゃんとするなら自分からちゃんとして欲しい、すべきだ。
アクシズの一件から大分アデナウアーさんに様々疑問を抱いているけど、今回ので最早嫌悪感を抱きつつある。
クェスが堪らなくなったように僕に抱き着く。感情をどう処理すればいいか分からない。そんな感じだ。僕はクェスを抱きしめて背中をポンポンと叩く。そうすると、クェスがもっと強く僕を抱きしめる。
暫く抱きしめられると、クェスも落ち着いたのか、おずおずと離れて、僕の手を握った。
「……ねえ」
「なに?」
「ハサウェイは、どうしたらいいと思う……?」
クェスが俯きながらそう言う。スンスンと鼻を鳴らして、そこには悲しみと戸惑いが見えた。
「クェスは、どうしたいと思ってる?」
「……わからないよ……」
どうしたいか分からない、どうすればいいか分からない。だからこそ、戸惑ってる。
「正直、アデナウアーさんはちょっとどうかしてる気がする。ごめんね?クェスのお父さんなのに」
「良いよ別に、あんな人……」
「……クェスのお母さんは、どんな人?」
「……お母さんは、優しい人だった。温かくて優しくて、だから離れていったんだ……」
「お母さんのことは、好き?」
「……うん」
「じゃあ、お母さんに、いつかお母さんに自分を見てもらった時、誇れるような自分を目指すのは、どうかな?」
誇れる?そう言って、クェスが僕を見上げる。
「うん。僕は車やバイクを直すとき、10年後、20年後にこの車を見た人が『よく整備されてるな』って、そう言ってくれるような車を作りたいと思って、作業をするんだ。10年たっても、定期消耗部品さえちゃんとしてれば、壊れず、調子を崩さず、そんな車を作ろうと心がけてる」
そうだ、だからこそ手を抜けないし、気を抜けない。機会に対して真摯でありたいと、そう思ったのだ。
「だからさ、大好きなお母さんに誇れるような、そんな自分を目指せばいいんじゃないかな?好きなことに打ち込んでもいいし、勉強に打ち込んでもいいし。こんなに凄くなったよ、なれたよって、そう言えるように、今を頑張ればいい気がするよ」
「……そうかな」
「うん、僕はそう思う」
クェスが僕の腕にしがみつく。
「クェスはさ、どんな大人になりたいの?」
「……まだわかんないよ」
「そっか、じゃあ、クェスはどんなことが好き?今日一緒に服を見て回ったけど、ファッションは好きでしょ?」
「……ファッションは、好き。可愛い服も、可愛い靴も、好き」
「じゃあ、ファッションから勉強してみればいいんじゃないかな?アデナウアーさんが気にするような学校の勉強も、ファッションに結び付ければいいんだよ」
「ファッションに?」
「そう。歴史を学べばどういう風にファッションが進化したのかわかるし、図や数字から美しいデザインが見つかるかもしれない。まったく関係のない建築や芸術から、ファッションの発想を得るかもしれない。嫌で面倒くさい学校の勉強も、そう考えれば、好きにはならずとも、少しはましになるかもしれないしね」
「……じゃあ、ファッションの勉強も嫌になったら?」
「その時はまた好きなものを見つければいいさ。それに、学んだものはきっと何かの役に立つよ。全然関係なさそうな、車とモビルスーツにさえ繋がりがあったんだから」
僕がそう言うと、クェスがまた僕に抱き着いてくる。クェスの背中をまたポンポンと叩く。
「……お父さんのことは嫌いだ」
「大丈夫、僕もアデナウアーさんのこと、そんなに好きじゃないから」
そう返すと、クェスが小さく笑う。
「ねえハサウェイ」
「なに?」
「……ちょっとだけ、頑張ってみる」
「うん、応援してる」
そう言って、クェスが強く僕を抱きしめた。
※
クェスはそれから「少しだけ向き合ってみる」と言ってホテルへ帰った。丸っと午後の予定が空いたわけである。どうしようか、とも思ったのだが、あることを思い出した。
「へえ、OS自体をアップデートするキットがあるんですね。ちなみにこれって、純正ですか?」
「いーや、そういうショップがあって後付けのコンピューターがあるわけよ。ただ、純正だと足りないし、社外品だとそれはそれで問題があるし、どっちもどっちよ」
「直接コンピューターを書き換えてくれる業者とかはいないんです?」
「いるぜ?ただたっけーのよ。簡易書き換えで30万、オールでやったら天井無し。だったら不便でもありもんでどうにかするってな」
僕は一人ロンデニオンの町工場にいた。ここはプチモビの修理や販売を行っている工場で、そこで僕は宇宙用OSのプチモビをさわっていた。
以前祖父ちゃんに、改修用OSが宇宙で使っても問題ないか、全く急ぎではないが、タイミングがあれば試してみて欲しい、と言われたのを思い出したのだ。
そこで安いプチモビを購入するついでに、機材を貸してもらってOSやら宇宙でのプチモビ事情やらいろいろなことを伺っていたところだ。
「その社外のOSとか書き換えキットって、割と大手がいる感じなんですか?」
「そうさなあ、まあそこそこ大きい会社よ。ただメーカーと言える規模のところは無いな。なにせプチモビの単価がそう高くない。そこに高価なコンピューター作ってもしょうがねえからな」
「ですね。コスパというか、量産品は最後はやっぱコストですしね」
出来た。宇宙用OSの基本をそのまま、作業系統のみトミナガさんと作ったアップデート用のプログラミングに書き換えてみた。
そのOSで一度作業してもらう。
「出来ました。一回使ってみてもらっていいですか?」
「おう分かった。……感度は、悪くねえな」
「操作速度で精密操作のレベルが変わります。ゆっくり操作すれば精密に、そうじゃなければ普通に、って感じで」
「AIで動作制御してんのか?」
「機械制御です。レバーの操作速度でレベル切り替えしてるので、OS以外に変更点はないです」
「それにしちゃあ……滑らかだな。かなりスムーズだ」
「そこは結構苦心しました。地球にコンピューターのスペシャリストがいるんですけど、その人と一緒に結構頑張ったので」
「……いや、本当に良いぞ。……うん、いいな」
工場の親父さん、ハヤシさんは、僕たちのOSを気に入ってくれたようだった。
「何か違和感とかありますか?」
「いや、無いなあ。……しいて言えば、普通に動かすときに若干動きが軽すぎるかもしれない。」
「軽すぎる……もしかしたら、地球で1Gのもと作成したからかも。ちょっと調整してみます」
「いや、何か違和感がないか考えるとその位って話だ。別にこのままでも問題はない」
「いえ、とりあえずやってみます。すぐ出来ないようだったらまた考えますし」
そう言って調整に入る。おそらく操作速度に対してイニシャル出力が高すぎたんだろう。コロニーで、さらに言えば低重力下で扱うなら、確かに調整したほうがいい。1Gだった設定を0.5~0.75Gで設定し直す。
もしGセンサーがあれば、センサー値に対して自動でフィッティング可能かもしれないが、現状だと難しいか。
「どうでしょう?」
ハヤシさんがプチモビを操作する。
「……良いんじゃない?完璧よ?」
「本当です?」
「ああ、何というか、本当に良い。操作感がいいな、厚手のゴム手袋から素手になったみたいな感じだ」
その言葉にほっとする。微調整のみで、あのOSが宇宙でも共通して使用できることの証明でもある。
「なあハサウェイ、お前に売ったこのプチモビだが、どうする予定なんだ?」
「え?」
「お前地球に帰るんだろ?わざわざこれ持ち帰るのか?」
「いえ、今回はコロニーでの操作感を確認したかっただけなので、この後コロニー外縁で操縦して操作感を確認したら、父の艦にでも渡してこようかなと」
「艦?」
「ええ、父が軍人で、今ちょうどロンデニオンに来てるんですよ。当分動けないと思うので、どこかのタイミングで渡してこようかなと」
ハヤシさんがそれに少し悩んだように言う。
「じゃあ、このお前に売ったプチモビ、俺に売ってくれねえか?値段はお前に売った価格の1.5倍でどうだ?」
「え!?いや、だったら同じ価格で構いませんよ!色々工具も場所も貸していただきましたし、今回この子で商売する気はなくて……」
「バカ、技術の安売りなんかすんじゃねえよ。金は払う。あとはお前がその価格に納得できるかどうかだろ?」
「いや、でも、なんで」
「お前のOSが気に入った。これは最高だ。これを知ったら元のポンコツOSなんかクソだ。そう思ったのよ。で、どうだ?」
「それは、勿論構いませんけど」
「よし、交渉成立だ。今後売り出すようなら、実証実験代わりにもなるかもな」
ハヤシさんがそう言う。
「あと、ボロのプチモビを纏めて買うんだろ?そっちも話し通しておくから。サイド1だけでも、表に出ないゴミ同然のプチモビのオークションもあるのよ。パーツ取り専門くらいのさ。二束三文で売りに出る、そう言うのも要る様なら纏めとくわ」
「え、その、良いんですか?」
「ま、話が本決まりになったらまた声かけてくれや。俺も良く買うし、色々話すべきところもあるだろ」
そう言ってハヤシさんがニヤリと笑う。
「あの、どうしてこんなに良くしてくれるんですか……?」
「……良くしてる気はしねえが、まあそうだな。あえて言うなら、お前の仕事への姿勢が気に入ったから、かな」
ハヤシさんが僕の背中を軽く叩く。
「こだわり過ぎず、控えめすぎず、でもやるべきことはちゃんとやる。金もしっかり払う。ガキのくせにちゃんとしてる。それにセンスもいい。そう思ったのよ」
ま、おっさんには気に入られときな、と笑う。
「そうだ、いいもん見せてやるぜ」
ハヤシさんが、工場の奥の一角に、シートをかぶせておいてある何かへ向かう。
「今どきのガキにわかるかなあ?」
そう言ってそのヴェールを剥がす。
そこにあったのはソリッドホワイトのスポーツカーだった。角の取れた角ばったデザイン、小さなボディ、ボンネットにエアインテークが開き、リトラクタブルのヘッドライトがスポーティーさをより強調していた。
「FC3S型の、RX-7……!」
「お、分かるか。いいねえ、オジサン嬉しいぜ」
ハヤシさんがそう言ってFCのルーフを軽く叩く。
「実車は初めて見ました……うわぁ、カッコイイ……!」
「だろ?FDも良いが、FCもこうして見ると良いわけよ。お前、ロータリーをさわったことは?」
「エンジンだけなら、13Bを一度組んだことがあります。実家の倉庫にあったので」
「くくっ、やっぱお前ボンボンだよなぁ。中々ねえぜ、そんな環境。で、どう思ったよ?」
「シンプルだなと。ただ、ちゃんと組もうと思ったら結構大変だなって思いました」
「そうなのよ、RE(ロータリーエンジン)はレシプロエンジンと比べりゃシンプルだが、割と奥が深い。で、どうだ?乗ってみるか?」
「良いんですか!?」
僕がそう食い気味に反応すると、ハヤシさんが嬉しそうに笑う。
「良いぜ、近所を軽くドライブする程度だが、まあ割と面白いよ」
「ぜひ!」
FCが工場地帯の道を走る。トラックを通すためか、道幅が広く、直線も長い。
ハヤシさんが踏み込む。
「おお!」
「良いだろ?REは下がないが、小径のタービンでしっかり回していけばそれなりに走るのよ」
動きが軽い。何より頭が軽い。挙動が何もかも軽やかだ。
「良いですね、スポーツカーって感じですね」
「お前、これまでどんな車乗ってきた?」
「そうですね……バイクが多いですけど、車だと、R32とか?」
「良いねえ。名車じゃねえか」
「FCとも、世代が近いですよね?」
「だな。FCが確か1985年、R32が、1989年だったかな?」
「R32とは全然動きが違いますね」
「そらそうよ。300kgくらいFCの方が軽いからな。ただ、追い込んでいくとFCはナーバスなのよ」
ちょっと試してみるか。そう言ってハヤシさんが私道のような細い道へとステアを切る。
見て分かる。ステアの入力に対して、確かにマシンはしっかり反応している。いや、動き過ぎている?
「FCはコーナリングマシンだ何だというけどよ、まあオーバーステアのセッティングなのよ。マシンの方向がそもそも」
「……追い込むと、割とケツが流れる?」
「流れるねえ。で、怖くなってパワーバンドを外すとREだから進まねえわけよ。乗ってる感はあるが、速く走らせようとすると結構気を遣う。まあアンダーパワーの古臭えスポーツカーさ」
そう言いながら、フルカウンターでハヤシさんがコーナーを抜けていく。
「でも、REならパワーは出ますよね?」
「出るなあ。この13Bでも300-400馬力くらいは普通にな。でも壊れるぜえ?R32のRBなら400馬力なんてライトチューンの範疇だが、13Bじゃフルチューンよ。それにREは耐久力ないしな」
「実際、ハヤシさんはそう言う仕様も?」
「あるぜ。それこそブーストアップの300馬力から、ぺリとタービン交換で600馬力の仕様までな」
広い産業道路まで戻り、ハヤシさんはペースを落とす。
「REは触る場所が少ないわけよ。レシプロエンジンみたいに、バルブもピストンもコンロッドも無いからな。ハウジング、ローター、エキセントリックシャフト、しかも手を加えられるのはペリフェラルポートだけだ。単純だよな?」
低回転域のREがうなるような音を上げながらマシンを進める。
「そこが良いとも言えるし、そこが悪いとも言える。で、ペリの加工にしてもやっぱいい塩梅があるわけよ。やり過ぎず、でもちゃんと削る。そう言う塩梅が」
お前は、その塩梅が取れてるように見えたわけさ。ハヤシさんがそう言う。
「今日お前がうちに来て、OSをさわって2時間、調整で30分。その程度の付き合いだけどよ、なんとなくお前のことは分かった。お前の仕事ぶりも」
ギアを1速落とすと、REの排気音が変わり、やる気にさせる。
「だからさ。お前も、分かるだろ?」
「……はい。ありがとうございます」
僕は照れながらそう答えた。
※
僕がシャトルでロンデニオンを出たのは、その1週間後だった。
クェスは、ほんの少し前に進めたような気がする、そう言っていた。
結局ラー・カイラムのメンバーは忙しくてそう時間が取れず、僕とクェスがこっそりとラー・カイラムに乗り込み、食堂でお疲れ様会を開いてお茶を濁すこととなった。
ただ、父さんとアムロさんが、次に休みを取るときは一緒に地球に降りる。その時は母さんやチェーミンも一緒にお祝いをしよう、と言ってくれた。
そうしたら、クェスも時間を見つけて日本へ来るとも。
出会いがあり、別れがあった。そして戦場も知った。宇宙には半月もいなかったが、僕の人生においてこれ以上なく強烈な経験になったことは確かである。
クェスはアデナウアーさんの都合もあり、しばらくはロンデニオンにいるらしい。そして、最近はドレスやスーツが気になっているとも言っていた。クェスもやはり、前に進んでいる。
シャトルから、3度目となるロンデニオンを見る。美しい場所だ、やはりそう思った。
シャアがこれから何をするのか、地球がどう変わっていくのか、それはまだ分からない。だが、この美しいコロニーと、あの時アクシズの上から見下ろした美しい地球と、そのすべてが良い方向へ向かうことを、僕は願った。
読了ありがとうございました!
何が何やらでしたが、とりあえず逆シャアを走り抜けられてよかったです。
閃ハサの悲劇を回避するために始めた本作ですが、閃ハサまでが長い!今が0093で、閃ハサが0105なので、あと12年も作中時間で走る必要があるのか……
いつも誤字報告ありがとうございます。何故私はこんなにも誤字するのか……
そして感想と高評価もありがとうございます!本作を楽しんでいただけてるようでとても嬉しいです!
引き続き感想、高評価頂けると嬉しいです。