ハサウェイがアムロやシャアに影響される前に機械オタクになった世界線のお話 作:陸奥九十九
時間が一気に飛びまして、前の話から3年後のお話でございます。
ユニコーンが始まったは良いんですが、ここからの展開を何一つ考えておりません!
カーディアスが箱の解放を望むのか、フロンタルが暗躍するのかさえ決まってません!
明日の私、頑張れよ!皆様におかれましては温かい目で見守っていただければ幸いにございます。
追記:
アナハイム工専を高専と書いていました!ご指摘ありがとうございます。
工専に修正しました。
ヤシマ重工の新商品は世を席巻した。プチモビ用の全く新しいOSである。
これまでのプチモビ用OSは、どこまでもいっても安価な量産品で、安さゆえの不便さというものが隠しきれなかった。ただ、それで問題なかった側面もある。
基本は宇宙での単純作業。コロニー外壁の修繕やデブリ除去、小惑星や惑星からの資源採集など、1センチや1ミリ精度の作業など基本的に存在しないし、何より数が必要だったのだ。そのため、プチモビは正しく数打ちされたのだったのである。
ノーマルスーツを着るのだから密閉性もそこそこに、電子部品関係のみしっかりと保護して、後は壊れたら修理する、大きく破損したならば買い替える。そう言うレベルの商品だった。
しかし不便があったのもまた確かなのである。プチモビは、いわば誰もが乗れるパワードスーツでもある。簡単な操作、そこそこのサイズ感、そして比較的安価な価格設定。あと一歩、いや二歩三歩足りないが、そこを補うことが出来ればもう少し利用できる状況も増えるのに。そう言った商品だった。
宇宙においてはそのような身近さではあったが、地球においては全く異なる色を示す。
地球においてのプチモビは、大企業のみが持っている高級作業機械、といった色が強かった。宇宙ほどの生産設備がなく、また地球用のOSも存在せず、本体の購入にも、利用するためにも、それなり以上に手間がかかる。
であれば従来の方法で作業したほうが確実だし、さらに言えば人手を集めたほうが安価でもあった。
宇宙においても地球においても、プチモビは極めて限定的な方法でしか使用できないものであった。
その状況を革新したのが、このヤシマ重工の新型プチモビ用OS「HYT」である。
操作感をそのままに、より精密により柔軟に、思いのままの操作を可能にするアップデートキットである。
そう、ここで市場を席巻した理由は、従来のプチモビに専用のモジュールを追加交換するだけで、インストールさえできれば一気に操縦感が向上される、そのお手軽さにあった。
新型OSを搭載した新しいプチモビへ買い替える必要もなく、また操縦方法が複雑になったわけでもない。ヤシマ重工提携のショップへ行けば、それですべてが完了する。そのお手軽さが市場にまず受け入れられた。
そして価格である。それまでOSで性能向上を試みようものなら、プチモビ本体と変わらない価格か、場合によってはそれ以上の費用が掛かる場合もあった。であればこのままで良いかとなるユーザーが多かったのだが、この新型OSは極めて安価に提供された。
しかもアナハイム・エレクトロニクスが商品を取り扱っているものだから、頼めばすぐに商品が手に入る。ただ、その手軽さと価格の安さゆえに、発売当初はアナハイムでさえ在庫を切らす、なんていう状況さえ発生し、アナハイム運営のデパートに問い合わせが直接行ったほどだ。
そしてそれまでさして大きくなかった中古プチモビの市場というものが一気に活気づいた。
プチモビとは安く買って、使い潰して捨てるもの。ほとんどそう言う認識で使用されていた。何せ宇宙空間で使用するのだ。安かろう悪かろうで中古を買い、故障しようものなら文字通り命にかかわる。
だが、安全な場所でパワードスーツ的に使用できるようになって、その状況は一気に変わった。コロニーの市街地で、店先で、建設現場で、ありとあらゆる場面での使用が可能になったのである。需要は爆増した。
そしてその需要に応えたのが、ブッホ・コンツェルンである。
ブッホが酷使され廃棄されたプチモビを回収し、自社、ないしは関連企業で修復し、ヤシマ重工の新型OSへアップデートし、アナハイムの販路で販売する。
アナハイムのセールスマンが言うのだ。「新型の発表はまだありませんが、現行型と同等性能の中古の販売も始めました。勿論価格は勉強させてもらいますし、あの新型OSも搭載しております。勿論アナハイムで販売するのですから、保証もさせていただきますよ」と。
ブッホが直し、ヤシマでアップデートし、アナハイムが売る。いずれも誰もが名を知る大企業である。中古市場はすぐにユーザーに受け入れられた。
宇宙で爆発的な成功をおさめ、そしてその流れは地球にも波及した。
宇宙で使用され、使い潰されたプチモビを、今度はまとめて地球へ輸送し、今度はヤシマ重工が自社及び関連会社で修理し、アナハイムの販路を使って販売したのだ。
こちらは宇宙よりもさらに早く普及した。
流れとしては宇宙と同じだが、地球はそもそも絶対的なプチモビの数が少なかったのだ。まずその需要に応え、そして安価な供給により安さを求めるユーザーの需要にも応え、地球のプチモビ市場は火が付いたように盛り上がった。
宇宙ではコロニー開発や修理、小惑星開発や資源回収で使用されたプチモビが、地球においては温暖化で破壊された環境保全などにも使用されるようになった。
そしてそう言った現場で働く、地球に住んでいるが低賃金労働しかできない貧困層に対し、プチモビの普及は雇用を発生させることになった。
なにせプチモビの操縦は自動車程度の難易度なのだ。何度か乗れば誰でもそれなりに動かせ、そして多く経験を積めば、その技量から高度な操縦も可能になり、仕事の幅も増える。
地球環境の保全にも一役買い、そして雇用を生み出し、経済を動かした。プチモビは生活に寄り添う普遍的な道具になったのである。
そしてこの流れをさらに後押ししたのがネオジオンだった。
宇宙は多くの人材を欲している。居場所のないもの、新天地を求めるもの、更なる飛躍を求めるものを宇宙は歓迎する。これはネオジオンからスペースノイドに向け発せられたものではなく、ネオジオンから宇宙と地球に向けて発せられたものである。
これに多くの者が驚いた。それまでのネオジオン、ひいてはシャアは、スペースノイドへの団結を呼びかけはすれど、地球圏へのアナウンスを発したことがほぼ無かったためである。そして世論として、シャアは地球を滅ぼしたい超タカ派であると思われていた。
そんなシャアが、新天地としての宇宙、居場所のないものの受け皿としての宇宙という、さながら宇宙世紀憲章に則った、アースノイドの特権階級が偽善のように発する意見を、スペースノイドでありネオジオンの総帥たるシャアがしたのである。
各サイドのコロニーの修繕、新コロニーの建設、アステロイドベルトからの資源採集、火星・木星の開発。人類のさらなる発展のため、という名目でのこのネオジオンの社会貢献に、ヤシマ重工、アナハイム・エレクトロニクス、ブッホ・コンツェルンは賛同し、協賛を行った。
衣食住に困ることなく、過酷な環境ではあるが仕事があり居場所もある、そこに惹かれた多くの者たちが、地球、宇宙関係なく居場所を求め殺到した。
そして、プチモビを扱えることが一つの基礎的な技術ともなり、さらにプチモビ市場は活性化したのである。
新型OS発表から、ここまでわずか3年の出来事であった。
※
「ハサウェイどう?エラーコードまだ出てる?」
「ちょっと待ってー……いや、大丈夫。エラーコード無し、これでスラスターの修復は完了だね」
「じゃあ次はマニピュレーターの調整か……」
「OK。ちょっと待って、準備する」
アクシズ事件から3年がたった。もう3年がたったとも言えるし、まだ3年しかたっていないとも言える。
正直、変わったといえば変わった気がするし、そうじゃないといえばそうじゃない気もする。劇的な何かはなく、戦争や紛争なども、少なくとも僕の知る限りでは無かった。それは嬉しく思った。
僕の取り巻く世界はまあまあ変わった。
僕は今、新サイド4のフロンティアコロニーで学生をしている。祖父ちゃんとトミナガさんが、もし本格的に整備関係の勉強をするなら、せっかくだし宇宙で勉強してみない?と紹介してくれたのだ。
宇宙であればプチモビやモビルスーツがそこら中にあるし、地球以上に実習が充実しているから学べるものも多いし、地球よりも学習環境が整っている、とのことだった。
車やバイクと離れるのは思うところがあったが、内燃機関車は既にメインストリームから大きく外れている。今はBEVが主流になり、内燃機関車もその多くが水素燃料車だ。ガソリン車を水素燃料車に仕様変更することも可能だが、それもやはり主流の技術ではない。
そして、この3年で急激にプチモビがメインストリームに躍り出た。
それまで宇宙でしか使用されていなかったプチモビが急に地球でも流行りだして、工専でもプチモビの整備に力が入り始めている。
祖父ちゃんがプチモビでだいぶ儲けたと言って家族みんなで寿司を食べに行ったのも記憶に新しい。多分僕とトミナガさんで組んだあのOSも少しは関係しているのだろう。嬉しい限りだ。
そんなわけで、プチモビやモビルスーツの整備、その運用について学ぶために、僕は宇宙に出たというわけだ。
「OK、準備できたよ」
「どこからやっていこうか?」
「エラーコードは出てないけど、操作と実機との間でラグが出てるって話でしょ?」
「だね。多分メカ的な問題はないと思うけど、どうする?OS側で調整できるかな?」
「行けるでしょ。指示書どれだっけ?」
ちなみに今こうしてうんうん唸りながら修理しているモビルスーツは、別に工専の課題ではない。トミナガさんが紹介してくれたアナハイムでのアルバイトである。
聞けばトミナガさんは元々アナハイムの人らしく、モビルスーツのOSなどに関係した仕事をしていたらしい。今はアナハイムから離れて車関係で仕事をしているが、その時の伝手で宇宙でのアルバイトを紹介してくれたのだ。
仕事内容は、モビルスーツの修理及びOSの最適化である。
運ばれてくるモビルスーツは連邦の新人パイロットのものであり、まっさらな新品の機体や、初期化した機体を、学習コンピューターの記録から要望に合わせてOSを更新し、学習コンピューターの最適化についてデータ収集をするのが目的らしい。
工専ではあまりさわれない完品のモビルスーツをさわれるし、比較的得意なOS関係で経験も積める。あと給料が良い。そんな理由で個人的にも望むべきところなアルバイトだったのだ。
「えーっと……反応が遅く、こちらの操縦とラグがあって、特に射撃兵装を使用する際に顕著に感じられる。これ反応速度は?」
「反応速度は……あれ?だいぶ遅く設定されてる。何だこれ?」
疑問に感じモニターを覗き込む。
「……本当だ。あれ?でも格闘戦やら高速機動でラグいとかの意見無いよね?」
「……無いね」
「え?じゃあこののっぺりした反応速度で乗ってて、特に問題は感じないけど射撃だけは気になるってこと?何それ?」
「さあ?一回乗ってみる?」
「その方がいいかも。ちょっとこのまま乗ってみるね」
そう言ってコクピットへ乗り込む。
こういうところが宇宙ならではだと思う。何か気になればすぐにコロニーの外に出て、マシンテストができる。しかも限界挙動まで簡単に出せるだけのスペースがある。広大な宇宙様様である。
『モニタリングの準備できたよ。発進どうぞ』
「テスト飛行出ます。ハサウェイ・ノア、ジェガン、発進します」
発進の瞬間から気付く。マシンが重い。
スラスター出力に問題なし、各関節の稼働も問題なし、OSにも特段エラーなどなし。ならやはり、この設定がそもそもおかしい。
操作からしてラグがある。もったりのっぺり動くのだ。機敏さがない。
「だいぶレスポンス悪い。操作に対してマシンが追いついてこない感じ。でもマシンそのものに異常はなし。全体のレスポンス上げてみよっか?」
『だね。一回テストマニューバ試して、そこから合わせていこうか?』
「了解。テスト始めます」
僕はペダルを底まで踏み込んだ。
全天周囲モニターに仮想のモビルスーツが浮かぶ。同じジェガンである。
その逃げ回るジェガンに対し、きちんと追いつけるようであれば問題なし。もし追いつけないようなら、マシンかパイロットか、そのどちらかに問題あり。そんなテストプログラムである。
このテスト、割と難しいのである。本来であれば連邦やアナハイムのテストパイロットがテストしてくれればいいのであるが、このアルバイトにおいてそんな高度技能を持った存在は常設されていないのである。
かと言ってマシンだけ要求値に設定し直してオールOK、なんてわけにもいかない。だったらその人が所属する艦や基地のメカニックがすぐに再設定できる内容だからである。
要望は確かにあるが、その要望通りにしても完璧なわけでは無い。アナハイムとして、マシンのスペックをカタログ値まで確実に保証し、それ以上を状況によっては設定する。そんなレベルをお願いしたいとバイト初日に言われたのを覚えている。
これは確かにアルバイトであるが、このアルバイトからアナハイムに正規採用された先輩方も数多くいる。言うなればインターン的な色もある仕事なのだ。
だからこそ思う存分にやる。
というか僕程度の実力では思う存分やらなければ要求値を出すこともできない。
もう3年も前のことだが今でも鮮明に覚えている。アムロさんが言っていたのだ。「俺は確かにエースだが、ロンドベルのパイロットは誰もが自分と同程度の実力を持っている。ロンドベル以外でも、俺がかつていた部隊には俺レベルのエースが必ずいた。だから連邦のパイロットの基準は俺で良い」と。
このアルバイトについて、毎日のようにシミュレーターに乗っているが、アムロさんのその領域には全く達していない。3年前よりは成長したが、それでもアムロさん換算で0.75アムロさん程度だ。
要求値のクリアギリギリレベル。そんなものだと思う。だからこそ必死でやる。
目の前のジェガンが逃げる。必死に追うが、やはりレスポンスが遅い。反応が遅れる。
「データ取れてる?」
「取れてるよ。苦戦してるね」
「とにかくレスポンスが酷い。このラグをどんどん修正していきたい」
「了解。データは取ってるから、攻め立てて」
「OK」
必死になってジェガンを振り回す。持ち得る限りの引き出しをフル活用して、ロバのようなジェガンのポテンシャルを引き出す。
やはりコンピューターは面白い。
スペシャルなパーツを何一つ使用していないこのジェガンは、かつてクェスと一緒にシャアと戦った時のものと大きく変わりはない。それどころか、3年分のアップデートがあるのだから、性能は向上しているはずである。
なのに、これほど息苦しい。
どんなに優れたハードがあっても、ソフトがダメならその強みを生かすことはできない。宝物のようなマシンを生かすためには、宝物のようなコンピューターが必要になる。
このジェガンに、良くあてはまる。おそらく機敏な挙動を嫌ったパイロットが、必死に大人しい方向へ制御を振った結果、こんなOSが出来上がったのだろう。それが悪いとは思わない。セッティングとはその人に合わせたものが正解であるし、これだけが正しい、なんてものでもない。
でも、これではジェガンの性能を活かせない。
このパイロットは基本的に大人しいマシンを望んでいる。けれど、ここぞという鉄火場においては機敏かつ柔軟な操作を望んでいる。
「出せるかな……」
いや、出すんだ。そう言う夢のような操作感を。絶賛されるセッティングを。
逃げるジェガンを必死で追い、そして最後は回りこまれて背後から撃たれた。撃墜アラームがコクピットに鳴り響き、テストは終了した。
「どう?データ取れた?」
『完璧。ハード側に問題なさそうだし、OSに絞ってセッティング出していこっか』
「だね。とりあえず帰りまーす」
※
「お疲れ様」
「おつかれー。やっぱり反応が酷い。僕の操作に合わせてラグなしでセッティング出していこう」
「え?それだとクイックすぎるんじゃない?」
「多分ね。だからそこからバイワイヤのレスポンスの良いところ探していこう。というかここから一部分だけレスポンス上げてもジェガンの性能がまるで活かせないし」
「追い込んでいったとき、戦闘時だけクイックにするようなイメージ?」
「理想はそんな感じかも。でも、出来るかなあ?」
「行けるでしょ?そういう方向ならやり様はあるし」
力強い返答に笑顔がこぼれる。こういう時に頼りがいのある仲間がいるとだいぶ気が楽になる。
この頼りがいのある仲間、バナージとの出会いは、そう大したものじゃない。同じクラスで、たまたま班分け同じで、比較的話すことがあった。その程度だ。
ただなんとなく気が合ったのだ。呼吸というか間というか、一緒にいてやけに居心地が良かった。
正直な話、僕は工専で浮いていた。地球出身者なんて僕以外いなかったし、早々にアナハイムでのアルバイトが決まってクラスの皆と交流する時間をアルバイトに割いたのも関係していると思う。
話せば返答してくれるし、何か嫌がらせがあったわけじゃない。ただ、ちゃんと一枚隔たりがあった。お前は違う奴だよなと言う、そんな無意識の隔たり。
僕としても、それが酷く嫌なわけでもなく、まあそうだよな、そういう意識はあるものだよなと、積極的にその壁を取り払おうとはしなかった。
ただ、バナージには、そう言う壁が無かった。
普通に話し、普通に接して、普通に過ごす。バナージはそうしてくれて、それが個人的に居心地が良かった理由なのかもしれない。
そして彼がバイトを探しているというので、このアルバイトを紹介したわけだ。
バナージだったら一緒にいて過ごしやすい、というとても個人的な問題もあったが、バナージは、分かっている奴だなと、そう思ったのもある。
祖父ちゃんやトミナガさん、ハヤシさんと同じような、機械をちゃんとわかっている感じ。僕と近い視座で、ただ違う視点を持って機械と接している。そう思った。
アルバイト先の上司にそのことを話すと、最初は少し懐疑的だったが、その後しっかりOKをくれた。
しかもその話がアナハイムを通じて工専へ伝わったのか、このアルバイトでの実績を単位に数えても良い、なんて話まで出てきた。
僕としてもバナージとしても願ったり叶ったりである。
普段の授業はもちろん大切だが、工専以上の実習をアルバイト先で経験でき、しかもそれが単位にもなる。何よりもお金が出る。
僕とバナージは工専が終わるとアルバイトへ直行し、アルバイトが終わると一緒にご飯を食べて解散する、なんていうのがルーティーンになった。
バナージには、両親がいないらしい。母親は早くに亡くなり、父親はいるらしいし金銭的な援助をしてくれているらしいが、会った覚えはないし記憶にほとんど残っていないと。
会いに来ないというのはそう言うことで、なら俺も積極的に会わなくても良いか、というか会ってもしょうがない。バナージはそう言っていた。だからこそ独り立ちするにあたって、お金も技術も必要で、このアルバイトは渡りに船だったと。
そう言うものなのか、と思った。同情も憐憫もなかった。それをバナージが望んでいるとも思えなかった。
積極的に話す話題ではないけれど、隠すようなことでも避けるような話題でもない。ちょっとは気にしてるけど、それはたまに頭によぎる程度のもの。そんな感じだった。
だからバナージとは将来の話をよくするようになった。
工専の他の皆のような、卒業したらどうせアナハイムに就職するんだ、みたいなものではなく、もう少し具体的に。整備なのか、開発なのか、製造なのか、今楽しいのはOS関係だけど、それを活かせる部門はどうだろう?なんて。
「え、これだと微妙じゃない?」
「え?どこら辺が?」
「処理は早いけどシンプル過ぎて拡張性が少ないって。ここで基礎を作って、そこから色を出させていくなら、もっと枝を付けられるようにした方が良くない?こんな感じでさ」
「……確かに!」
「そこまでシンプルに出来るハサの技量は凄いけどね。少なくとも俺はできないと思う」
「いやあ、コスト内で出来るなら別にこんなに絞る必要もないんだけど、癖で」
「癖?」
「昔プチモビと、あとちょっとしたところでOSをさわる機会があって、その時にシンプルに処理を早くって方向で作るのが多かったから。完全に手癖だね」
「良いと思うけどね。それはそれで」
バナージには僕とは違うセンスがあると思う。
基礎に忠実に、しっかりとした基準があるという強み。そして状況に合わせてその基準をしっかり合わせられるし、合わせた基準に応じて作るものをガラッと変えられる多様性。
たくさんの可能性を見つけて、それを活かすことができる才能。バナージにしかない才能。
鬼のようなハイクオリティを常に出すトミナガさんとも、シンプルばかりを追い求める僕とも違う、バナージの強み。
一度バナージとも車をいじってみたいなあ。軽量シンプルな4気筒車でも、ハイパワー高性能なV8でもいい、どんな車をさわってもバナージは面白い車を作ってくれそうだ。
……いや、ヤシマ重工でコンピューター関連のお仕事ってないのかな?プチモビのOS開発があるんじゃないか?あと火星や木星の開発に旧式のモビルスーツを使う計画があるなんて祖父ちゃん言ってたし、モビルスーツのOS開発とかでも仕事はあるんじゃないか?
そうすればバナージを地球に呼べたりするものか……?やめよう、捕らぬ狸の皮算用すぎる。祖父ちゃんに聞くだけ聞いて、バナージが興味持つようなら話してみるか。
「……いったんこれで良いんじゃない?」
「……うん、良さげだね。テスト行ってみるかな?」
「よし、じゃあよろしく」
OSの暫定仕様が完成し、再び飛ぶ。
今度は問題ない。仮想目標のジェガンにちゃんと追いつけてる。
扱いやすい中低速はそれなりにダルに、高速領域ではちゃんとクイックに。振り回してもマシンが何処かへ吹っ飛んでいくような過激さはない。
比較的安定性重視で、追い込んだ時だけちゃんとラグなく付いてくる感じ。
「良いんじゃない?」
思わずそう笑みがこぼれる。
さっきまでのひたすら背中を取られる鈍さはなく、ちゃんと仮想ジェガンを追い回せている。
ロックオンし、射撃。問題なく命中。
そしてブースト、近接距離まで近づきサーベルを振るう。
中近距離、どちらとも問題なく動いてくれる。
「OKだね。これならジェガンらしさを出せてるし、過激すぎず操縦しやすいと思う」
『了解。今のデータで最終版ね。おつかれハサウェイ』
「おつかれ、じゃあ戻るね」
宇宙世紀0096、僕の世界は、意外にも平和に過ぎているように感じていた。
読了ありがとうございました!
次回からユニコーンの日に入るはずです。予定です。
ただ人の可能性結構示されてる気がするけど、カーディアスはやっぱり箱の解放を望むのかな?宇宙世紀0100にジオンの解体があるけど、それ関係でやっぱりみんな動くのかな?
お察しの通り何もかもが未定です。だからこそ昨日投稿できませんでした。
明日の私、頑張れよ!
いつも誤字報告ありがとうございます。本当に私は誤字が多い。生暖かい目で見てやってください。
そして感想と高評価ありがとうございます!とても嬉しいです!
引き続き感想、高評価頂けると嬉しいです。よろしくお願いします!