ハサウェイがアムロやシャアに影響される前に機械オタクになった世界線のお話 作:陸奥九十九
設定を必死に頭の中でこねくり回しながら書いてます。着地点など見えてません。
でもとあるシーンを書きたいためにユニコーンは書かなくちゃと思っていたんです。お付き合いいただけると嬉しいです。ああ閃ハサが遠い。
全然関係ないですけどパトレイバーっぽさとか小ネタとか拾ってもらえてうれしいです。この、ネタがちゃんとわかってもらえる喜びって、良いですね(オタク感)
アナハイム・エレクトロニクスにとってアクシズ事件は予期せぬ素晴らしき実験場となった。
戦争は金になる。一年戦争以降のアナハイムは、戦争のビジネスモデル化に注力していた。ジオン公国が共和国になれども、スペースノイドとアースノイドの隔意は変わらずに存在し続け、そしてジオニックやツィマッドの技術者を吸収したアナハイムは、モビルスーツ開発において最前線を独走することとなった。
そしてアナハイムは、戦場における戦力均衡を自らの手で生み出し、両陣営に秘密裏に武器を供給し、戦争のビジネスモデル化を見事に実現した。
そして度重なる戦争によりアナハイムの保有するモビルスーツ技術は他と一線を画するほどに発展した。もはやモビルスーツ市場とは、殆どアナハイムが供給するモビルスーツのみで構成され、戦争とはアナハイムにとって儲けが出る上に技術開発が一気に進む格好の実験場となったのである。
そして先のアクシズ事件においても、凄まじい成果があった。
まずはサイコミュシステムである。ヤクド・ドーガ、アルパ・アジール、サザビー、ニューガンダムにそれぞれ装備されたサイコミュは想定以上のデータを残し、ジオニック系技術者の独壇場となっていたサイコミュシステムのデータをアナハイムでも実験込みで獲得することができた。
さらに言えば強化人間が操作するサイコミュと、ニュータイプが操作するサイコミュという、使用者ごとのデータさえも手に入った。
だが、何よりも得難いデータとなったのは、あの海のものとも山のものとも分からなかったサイコフレームである。
サイコフレームとは何か。サイコミュシステムを使用するための装置の一部であり、アクシズの技術者によって開発されたが、それがサイコミュシステムを使用するために必要であることは分かっても、具体的にどのような役割を果たしているのか、アナハイムでは解析が出来ずにいた。
それ単体でも何らかの効果があるのか、はたまたサイコミュシステムが無ければ何の役にも立たないのか、それさえも分からなかった代物である。
それが今回の戦争で、それもたまたま参加した民間人のニュータイプパイロットによって、その有用性が証明された。
さながら一年戦争に参加したアムロ・レイがニュータイプの高いパイロット適性を証明したかのように、アクシズ事件に巻き込まれたハサウェイ・ノアとクェス・パラヤが、サイコフレームの性能を検証実験してくれた。
サイコフレームは、それ単体でサイコミュシステムを再現でき、なおかつ未知なるエネルギーさえも発揮できる。
サイコミュ装備を持たないハサウェイ・ノアは生身の状態でもファンネルを操作し、クェス・パラヤもサイコフレームが近くにあるだけでジェガンの中からファンネルを操作した。
これはこれまでの理論ではありえないことだった。
それまでサイコミュシステムは、いうなれば無線操縦の延長でしかないと考えられていた。要はラジコンと同じである。コントローラーの発する電波で、受容体を持つラジコン本体を操作する。それをサイコミュという発信器を介して、脳波でもってコントロールする。高度かつ複雑なラジコンだと考えられていた。
だが、サイコフレームはそれ単独でファンネルを操作した。いや、これに関してはハサウェイ・ノアとクェス・パラヤが特殊であるとも考えられるが、それでもサイコフレームはアナハイム技術者に閃きを与えた。
そして何よりも、推進剤の切れたジェガンが謎の光によって推進力を得たあの現象である。ハサウェイ・ノアとクェス・パラヤが乗っていたジェガンは極めて標準的なものであった。特殊装備も特殊仕様もなく、アナハイムがロンドベルへ卸したままのジェガン。
それがなぜ、特殊な能力を発揮できたのか。
あのジェガンを分解、解析しても、特殊なものは何もなかった。
マシンスペックを一切損なうことなく理想値を叩き出し、その理想値を維持したパフォーマンスを実戦闘で叩き出していたという、マシンテストとしての究極を叩き出したマシンではあったが、それはハサウェイ・ノアが非凡なるパイロット技能を持っていた故なのか、それともここにもサイコフレームが関わってくるのか、それは分からずにいた。
そしてハサウェイ・ノアが手を加え、チェーン・アギとアストナージ・メドッソが調整したニューガンダムのOSに関しても多くの発見があった。
アムロ・レイは他に比較するものが無いと言えるほどのパイロットだ。
その最たるものとして、未来予知かと思えるほどの先読み能力にある。一対多の状況でも敵の位置、行動、攻撃をほぼ完全に予知し、敵が来る場所に攻撃を置く。相手は攻撃へ自ら突っ込んでいくようにさえ見える。アムロ・レイの戦闘が異常と呼ばれる所以だ。
そのためアムロ・レイの乗るモビルスーツはどれも反応速度に特化した極めてピーキーな仕様になる。そのOSはほぼワンオフであり、他のパイロットが乗ろうものなら、たとえエースクラスであってもマシンに振り回される。
そしてコンピューターでどれほど反応速度を追求しても、それにマシンが追いつけるわけではない。アクシズ事件でアムロ・レイが乗ったニューガンダムにしても、アムロ・レイの反応速度には計算上若干遅れる。それゆえにOSの仕様はこれまでの膨大な戦闘データから詰めに詰めたのだ。ほんの一瞬遅れるが、許容できる範囲の遅れ。感知できるか否かの本当に微妙なレベル。そこまで詰めることが出来ていた。
だが、回収されたニューガンダムのデータでは、反応速度に一瞬の遅れも存在していなかった。
これに開発チームは訝しんだ。計算上、どれほど最適化しても、マシンの反応速度とアムロ・レイの反応速度にはずれが生じる。そう分かっていたからだ。にもかかわらず、ニューガンダムは完全にアムロ・レイの操縦に追従できていた。
その理由は何だ?マシンそのものに何らかのアップデートでも施したのか?いやそれはあり得ない。突貫作業で作成された本機ではあるが、スペックに関しては妥協無く制作されている。未完成かつ理想の状態とは程遠い機体とはなったが、それは装備上の話であって基本となるマシンスペックやOSは完品なのだ。適当なアップデートなどできるものではない。
ではなぜ?
その答えがOSにあった。ニューガンダムのコクピットに使用されたサイコフレーム、そしてそのサイコフレームを制御するコントローラーに手が加えられていたのである。
イメージによって、またそのイメージの受容レベルによって、サイコミュの反応速度に大きな変化が生まれる。ハサウェイ・ノアがセッティングを出したフィンファンネルのコントローラーがそうだった。3段階のマップが用意され、グラデーションのように操作レベルが設定されていた。
これはその反応速度を、マシンそのものに組み込んだプログラミングであり、そのプログラミングによって、サイコミュがマシンの反応速度を向上させたのだ。
アナハイムはハサウェイ・ノアから大いなる気づきを得た。それは最早天啓にも近かった。一部技術者は、ハサウェイ・ノアは天才だ、今すぐにでもチームに加え、その知啓を存分に発揮してもらうべきだ。そうしなければ、この一分一秒が世界の損失になりかねない。そうまで言う者もいた。
これまでサイコミュシステムはサイコミュ兵器とのみ関連したものだと決めつけていた。だがそうではない。サイコミュによってモビルスーツそのものを強化できるのだ。
つまり、本当の意味でのサイコミュ兵器というものは、サイコミュをマシンそのものにシステムとして組み込んだマシンに他ならない。
そしてハサウェイ・ノアとクェス・パラヤの乗っていたジェガンを思い出す。あれほどの限界値を出せた理由に、ハサウェイ・ノアが持ち込んだサイコフレームも関係しているのではないか?
アクシズ事件後、アムロ・レイとハサウェイ・ノアによってもたらされた値千金のデータは、アナハイムに更なる飛躍と英知をもたらした。
※
「さて、どうしたものか」
僕は一人うなっていた。いつものバナージとのバイトではなく、祖父ちゃんからのアルバイトの続きだった。
内容は、民間に払い下げられたモビルスーツへの、作業用としての必要十分なOSの開発である。いうなれば、あの時トミナガさんと一緒に作ったプチモビ用OSのモビルスーツ版である。
これは惑星開発のためのものであるらしい。
環境が特に過酷な火星、木星での開発に際して、プチモビでは能力不足な場面が散見されたらしい。そこで旧式のモビルスーツに目が付けられた。
一年戦争で使用されていた、ジムやザクといったモビルスーツは、現代の戦場では基本的に使用されない。現行品との性能差があり過ぎるためだ。ただ、今でも新兵の訓練であるとか、装備のテストなどには使用されることがあるらしい。状況としては、動かすには問題ないが実戦に出せるような性能ではない、とのことだ。
そこで、完全非武装の状態で、かつ荒事に使用されない状態にして、惑星開発用の重機として使用したい、と考えたらしい。
ただ、いくら旧式といえどもモビルスーツは立派な兵器である。市街地で動くだけで人をひき殺してしまうし、ユニバーサル仕様の武器を装備できるようOSをアップデートすれば現在使用されている装備をそのまま撃つこともできる。
そのため、人に危害を加えられない仕様で、かつユニバーサル仕様の武器も装備できない仕様で、プチモビ感覚で操作できるモビルスーツのOS開発、というのが祖父ちゃんのオーダーである。
うん、難易度が高い。
「どうしたものかな……」
正直最初の二つはどうってことない。人感知に関しては敵味方識別の延長で良いし、ユニバーサル仕様の武器の非装備に関してはデータの更新とそのロックで済む。
問題はプチモビ同然の操作、という点だ。
プチモビのOSがああも上手くいったのは、プチモビが小さかったことが大きいと今ならわかる。小さいゆえにバランサーも複雑でなく、小さいゆえに重量もそこそこで、小さいゆえに見通しが効いた。小ささは操縦する上で明確な利点である。
だからこそ、モビルスーツの操縦はプチモビと比べてそれなり以上に難しい。
今更に思うが、僕やクェスはそこそこ例外なのかもしれない。僕もクェスもモビルスーツの操縦は最初からそこそこできたし、アムロさんも出来ていたらしい。だからある程度そう言うものか、なんて思っていたけど、思い返せばチェーンさんはモビルスーツに乗る機会がそこそこ以上あったはずなのに技量はそれほど高くなかった。
モビルスーツパイロットの基準はアムロさんなのかもしれないけれど、やはりそれはプロのパイロットとしての基準だ。今回はそうじゃない基準が必要になる。
言うなれば、その場で操作方法を聞いて、10分程度練習して、すぐに作業に入れるような。そこまではいかなくとも、数日練習すれば問題なく使いこなせるような、そう言うレベル。
「……あ、一年戦争のモビルスーツの性能も確認しないとか」
不味い不味い、ジェガン基準で考えるところだった。何度も乗っているから感覚が変になっているけど、あればっちり最新鋭機じゃん。
基準はそこじゃなくて、約20年前の機体、ジムとザクである。しかもこのマシンはそれぞれ製造元が違う。なので制御関係も全く変わってくる。そしてコクピットの操作感も。
そのため基本の母体は共有化して、枝葉の部分で差をつけていく。そうすれば整備やエラーも共通化できるし、アップデートもある程度共有できる。
「……これ、結構大変だなやっぱり」
少なくとも1ヶ月そこらで出来る仕事ではない。祖父ちゃんに友達に手伝ってもらって良いか聞いてみようかな?あと実機も見る必要あるし、アナハイムで用意してもらえるのかな?
その日はひたすら資料を漁るだけで時間が過ぎていった。
※
気まずい瞬間というものは誰にでもあると思う。
泣いている瞬間とか、カッコつけてる瞬間とか、恥ずかしいシーンとか。
あとは友達がデートしてるときに、ミスってばったり会ってしまったときとか。
「あっ」
「あっ」
「え?」
そう、バナージが女の子と一緒にデートしていたのである。
「すううぅぅーー……大変お邪魔しました……」
「待ってハサウェイ!色々誤解がある気がする!」
バナージが僕を引き留める。
「皆まで言うな……ハサウェイ・ノアはクールに去るぜ……」
「去らないで!むしろありがたいから!大丈夫だから!」
「何が大丈夫なんだっ、僕は馬になど蹴られたくないからっ、あと今日のバイトも休んでいいから伝えておくからっ」
「そうじゃなくて!彼女、追われているんだ!」
その言葉に、思わず振り返る。
「……追われてる?」
「そう!コロニービルダーに行きたいらしいんだけど、それを追われてて。それで、一緒に行くことになったんだ」
その彼女に、目をやる。随分と身なりの整った、そして所作が奇麗な、さながらご令嬢のように見える。
「えっと、バナージの友達のハサウェイ・ノアです。はじめまして」
「……ノア?」
僕の名字に、彼女がそう反応する。
「そうなんだオードリー、君も聞いたことあるんじゃないかな?あのブライト・ノア艦長。ハサウェイはその息子さんなんだ」
「そう、……そうなのね。はじめまして、私は、オードリー・バーン」
「えっと、よろしくバーンさん。それでバナージ、コロニービルダーに?」
「そう。理由は、聞いてないんだけど」
「えっと、話したくない理由とかが?」
「……話すと、巻き込んでしまうから」
ええ?バナージに案内させてるのに?……いや、バナージが結構浮かれてる。バナージが自分から案内を申し出たのか?……これは、何だ?やはりラブの気配なのか?そう言うことなのか?ならやっぱり僕お邪魔虫じゃない?
「まあ、色々ありますよね。っていうかバナージ、今日見学あったんじゃ?」
「……まあまあ、その、あれだよ。……ね?」
「言葉も無いじゃないか。まあ良いけどさ」
単位はだいぶ足りてるし、むしろ授業潰してアルバイトを優先されることも最近あるし。
「まあ、人には人の乳酸菌で良いけど、ちなみにバーンさん聞いても良い?」
「?ええ、なにかしら?」
「後ろの人たちはお仲間です?」
指さした先には、背の高い女性と、厳しい目をした男性二人がいた。
※
「(間に合わなかったっ!)」
オードリー、ミネバ・ザビは苦い顔をした。出来ることならば追っ手を振り切り、単独でビスト財団の邸宅へたどり着きたかった。
それは他ならぬ「箱」のため。100年にわたってビスト財団を繫栄させた箱、その正体の知れぬパンドラの箱を、ビスト財団は今になって解放せんとした。
それがどんなものかは分からないし、どういった効力でもってビスト財団をここまで大きくさせたのかもわからない。だがそこには連邦政府が関わり、そしてアナハイムも関わる。尋常ならざるものであることは確かである。そしてビスト財団は、その箱をジオンへ渡すという。
今、世は安定と平穏を取り戻しつつあり、そしてそれまで見えなかった発展の未来さえも見えてきた。
連邦の独占していた搾取としての経済体制に、巨大資本が一撃を入れ、上位存在としての地球ではなく、同格同レベルの経済状況を持つ地球へと変貌を遂げつつある。
勿論実際にその体制が確立されるのは10年、いや数十年後の未来であることは予測できる。だからこそ、今やっと種を植え、芽が出始めたこの時期に、ジオンから発せられる混乱は避けたい。
いや、だからこそなのだろう。宇宙世紀0100に、ジオンは自治権を連邦へ返還させられる。シャアが剛腕を振るってネオジオンの存在感を示し、受け皿としてのジオンを世論へ流布しているが、恐らくそんなものは関係なく連邦はジオンの自治権を剝奪する。
そのことに誰よりも危機感を抱いているのはシャアなどではなく、ジオンであることに意義を見出す者たち、ジオンによって利権を得る者たち、そしてジオンこそがスペースノイドを束ねるものであると狂信している者たちだ。彼らは現状に酷く焦っている。その尖兵など、シャアを否定し、今のシャアはジオニズムを冒涜した連邦の手先であるなどという。その行為が、ジオンを思ってのこととは理解できる、だが、それが現状のジオンの首を絞めるとは考え及ばない。その愚かさにもミネバは腹が立つ。
ミネバ本人はと言えば、ジオンという存在そのものに関して、手放し難くはあるが、それによって戦争を起こすことはあり得ない、そう考えている。ジオンの名に誇りを持ちさえすれど、それは父母や育ての親ハマーン、自らのために命を懸けた多くのジオン兵たちが守り誇った名だからであり、ジオンという存在そのものは、究極心の中にでも残っていればいいとさえ思っている。
そんな状況で、ビスト財団は動いた。ミネバの中には疑問の方が大きかった。なにせメリットがない。ビスト財団は繁栄の鍵を失い、ジオンは箱によって内部崩壊の鍵を得かねない。だからこそ思う、何故?と。
連邦政府の増長は目に余るものではあるが、それでもアクシズ事件以降はその存在感はアナハイムなどの巨大資本の陰に隠れつつある。
むしろここでジオンが事件を起こし、その事件を解決した連邦、などとなれば、連邦以上に打撃を受けるのはジオンとビスト財団である。
疑問は尽きない。だからこそ、ビスト財団党首、カーディアス・ビストと直接対話をしたいと考えたのだ。
だが、間に合わなかった。
「マリーダ……!」
自らが最も信頼する仲間の一人が、自分を慮って今目の前に立ちはだかっている。
「帰りましょう。ご自分のお立場をお考えになられ……」
「立場を考えればこそ、ここへ来たのです」
「無駄なことはおやめください」
マリーダは冷たく切り捨てる。だがミネバもそれに言い返す。
「いまの私たちに、箱は使いこなせません。それがどのようなものであっても、その状況を連邦に利用され、無用な争いの火種となるだけです。あなたなら分かるでしょう?」
「分かりません。私は命令に従うだけです」
「嘘。あなたに与えられた力は、本来こんなことの……」
「ご無礼を」
「あの、いくつか聞いても良いですか?」
その会話に介入したのは、この状況にまったく関係ないとも言えるハサウェイだった。だがその雰囲気が違う。先ほどまでと違って、今のハサウェイは何処か怒りを湛えている様にミネバには見えた。
そして、その介入に乗じてバナージがミネバの手を引き、場を離脱しようとする。見えてはいないはずだが、ハサウェイはそれに軽く手を振って促した。
それを阻止せんと前に出るマリーダだが、ハサウェイが前に立ちその行動を止める。
「退け少年。手荒な真似をしたくはない」
「すみません。どうしても確認しなきゃいけないことがあるので」
「残念だが、私にはない」
そう言ってマリーダはハサウェイの顎めがけてパンチを放ち……いつの間にか空を見上げていた。
「っかはっ!」
肺から空気が漏れる。マリーダは混乱していた。
「(何だ?何故私は、奴を見上げている?何故空が見える?)」
倒されたマリーダを助けるために二人の男、アレクとベッソンがハサウェイに掛かるが、その瞬間には、二人ともハサウェイの腕へ倒れていた。
「重っ!って、そりゃそうか」
ハサウェイは二人をゆっくりと地面に寝かせる。
「ぐうっ!」
マリーダは倒れたままハサウェイに蹴りかかる。ハサウェイは片手で受け止める。
「なっ!」
マリーダは驚愕する。ありえない現象を目の当たりにしている。そう思った。
強化人間として調整されたマリーダの膂力は、成人男性を優に凌駕する。今自分は加減せずに奴を蹴った、なのに、それを受け止められた。マリーダは混乱した。
「ああ、力を逃がす方向があるんですよ。確かにあなたは力持ちですけど、僕の師匠はそれ以上に怪物なので」
まあ、そんなことは良いか。ハサウェイはそう言う。マリーダは掴まれた足を振りほどこうとするが、体に力が入らないことに気づいた。足を掴まれているだけなのに、そこから力が拡散する。まったく動けない。絶対の危機に陥っていると、マリーダは気づいた。
そんなマリーダを余所に、ハサウェイはマリーダに質問する。
「お聞きしたいことですけれど、あなたは強化人間ですか?」
極めて単刀直入に、ハサウェイは言った。
「……なぜ、私が強化人間だと」
「昔、あなたと似た気配の人に戦場で会ったことがあります。憎しみと悲しみを抱えた人に」
「……それは、私と似た顔の女だったのか?」
「いいえ、男性です。あなたと顔の造形は似ていないです。ただ、気配がとても似ていました」
「……お前はニュータイプか?」
「そうだと言われたことはあります。でも自分ではよくわかりません。」
「……確かに私は強化人間だ。聞きたいことはそれだけか?」
「いいえ、もう一つ。あなたは、……アクシズ事件以降に強化された人ですか?もしそうなら、僕はとある人をぶん殴ってやらなきゃいけなくなる。申し訳ないとは思ってます。教えていただけませんか?」
ハサウェイは、辛そうな目を細めてマリーダにそう聞く。
まるで友人の不義を見つけてしまったかのような、大切な約束を破られたと知ったかのような悲しそうな瞳だ。マリーダはそう思った。完全に優位を取っている状況で、この少年は本当に申し訳ないと感じて、それでも確認しなくてはならないと、自分に相対したのだと、マリーダはそう感じた。
「……いや、私はネオ・ジオン戦争で強化された。アクシズ事件には参加していないし、ネオ・ジオン戦争以降に強化措置もされていない」
マリーダがそう言うと、ハサウェイはマリーダの足を離し、大きく息を吐いた。
「そう、でしたか……。いや、本当に申し訳ない。手間を掛けさせてしまって」
「アクシズ事件で、何かあったのか?」
マリーダはそう聞いていた。言った後にマリーダ自身も驚いた。この少年は自分たちの行動を阻害した、いわば敵で、解放されたのならば倒すべきなのに。
「アクシズ事件で、その、ネオジオンの偉い人に会ったんですよ。その時に、僕が出会った強化人間の方のことも話して。もうこんなことが起きないようにって。それで貴方に逢ったものですから、その、思わず」
「感情に流され過ぎだ。そんなことでは身を亡ぼすぞ」
「……はい、仰る通りで……」
ハサウェイは痛いところを突かれたと、言われたままに頭を下げた。それがマリーダには少しおかしく見えた。
「あの二人は?」
「軽く顎を撃ったので、10分くらいで目は覚ますと思います」
「そうか」
姫様を追わねば、だが、この二人をこのままにしておくわけにもいかない。
「お前、名前は?」
「あ、ハサウェイです。ハサウェイ・ノア」
「そうか。私はマリーダ・クルスだ。お前にはしてやられたよ」
そう言いながら、マリーダはハサウェイに笑みを向けていた。
「もう行け。私はこの二人を見てやらねばならん」
「あ、手伝いますよ」
「お前が倒した二人をお前が見守るのか?面倒ごとになる。気にせず行け」
「えっと、それじゃあ。あ!あの二人ですけど、コロニービルダーに向かったみたいです」
「……なぜそれを私に言う?」
「だって、あの子の敵じゃないんでしょう?行き違いがあると思ったので。ちゃんと話を聞いてあげてくださいね。それじゃあ」
そう言ってハサウェイは去っていった。それをマリーダは何と無しに見送っていた。してやられたのに、怒りは無かった。それがマリーダには理解できなかったが、不思議と不快では無かった。
「マスター、すみません。姫様をロストしました。ただ、姫様はコロニービルダーへ向かったようです」
その報告の声が軽かったのは、姫様の場所にあてが付いたからだと、マリーダは思った。
読了ありがとうございます。徐々に文字数が増えていく……良い傾向なのか?これは。
オードリーとマリーダさん登場です!次回は恐らく、インダストリアルセブンの襲撃かな?
こう、書けば書くほど連邦は連邦で酷いし、ジオンはジオンで酷いし、アナハイムはアナハイムで酷くて、何とも言えない気持ちになります。
まあ、ガンダムってそう言う作品か……
いつも誤字報告ありがとうございます。大変助かります。
そして感想と高評価もありがとうございます。感想で言われて、「ああ、そう言えばそんな設定もあったな……」「え?なにそれ知らない……」ってなることの多さよ。
そんなガンダムにわかが書いてる作品ですが、楽しんでいただければ嬉しいです。
引き続き感想、高評価、よろしくお願いします!