ハサウェイがアムロやシャアに影響される前に機械オタクになった世界線のお話 作:陸奥九十九
今回は設定会というか会議回です。めちゃめちゃ独自設定が走ります。あとキャラ名も捏造しました。
こう、受け入れて頂けると嬉しいのですが、賛否あるだろうな、とは書いてて思いました。
なので暖かい目で受け入れて頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします!
その時は、予想よりずっと早く来た。
眠っているさなかに流れたけたたましい警告音、そして戦闘配備のアナウンス。敵襲、というか、連邦が来たんだ。そう悟った。
ベッドから飛び降りノーマルスーツに着替える。
僕とバナージが鹵獲されてからまだ2日しか経っていない。ネェル・アーガマは、いやロンドベルは、それほど早期に状況を整えられたのか?
それにまだユニコーンもバナージもこの艦にいる。なら、今からユニコーンを移譲させるのか?なら、まずは格納庫へ行くべきか?
牢屋(といっても鍵もされていないし出入り自由である)から飛び出ると、そこには意外な人物がいた。
「ザウパーさん?」
「来い、貴様はこっちだ」
アンジェロさんが僕の腕を取って、格納庫とは別方向へと行く。
「え!?あの、格納庫へ行くんじゃ……」
「予定が変わった。貴様はバナージ・リンクスとは別行動だ」
「はい!?いや、そんな……」
状況がつかめずしどろもどろになると、ザウパーさんが僕の顔を両手で挟む。
「貴様には貴様のなすべきことがある、奴には奴のな。同情や感傷ですべきことを見失うな。役目を果たせ、分かるな?」
ザウパーさんは強い瞳で僕を見つめる。そしてふんと鼻を鳴らして、再び僕の腕を引っ張っていく。
「あの!」
「なんだ?」
「僕は、どこへ行くんですか?」
ザウパーさんは皮肉気に表情を歪めて、僕を笑う。ただ、そこに不思議と悪意は感じなかった。
「聞けば答えてもらえるとでも思っているのか?私は大佐ほどお前に甘くないぞ」
「え、その、すみません」
「まあいい、答えてやろう」
答えてくれるんだ。
ザウパーさんは悪ぶるけど、いつも絶妙に悪くないし、何なら割と親切だよな。
「ヴィランズミーティングさ。お前は、さながら哀れな生贄だ」
ザウパーさんがそう悪ぶって言う。
「ヴィランズミーティング?」
「行けばわかるさ、お前が何に巻き込まれているのかがな」
行きついた場所は艦接続のハッチだった。そこには既にゲートが用意されており、フロンタルさんもそこにいた。
「お待たせしました、大佐」
「いや、十分に早いさ。すまないなハサウェイ君、説明は後でさせてもらう」
そう言ってフロンタルさんがゲートをくぐり、続けとザウパーさんにゲートへ放られる。
「セルジ少尉、後は頼んだ」
「はっ。大尉もお気をつけて」
「ああ。……早く行け貴様は!」
ザウパーさんに押し込められ、ゲートを潜り抜ける。
「あの、ここは……」
「小型の高速艇だ。これで我々は月へ向かう」
「月?」
「ああ、本来ならばあと数日猶予があるはずだったが、あの無能め、伝言係さえできないのか」
ザウパーさんがそう毒づく。
「アンジェロ、あまり言ってやるな。彼も努力はしている。それが、我々の想定に届いていないだけでな」
「ならば尚更怒りを覚えます。子供のお使いレベルは熟してもらいたいものです」
フロンタルさんもフォローがフォローになっていない。誰だか知らぬが可哀想に……
いや待て、月って……
「アナハイムですか?じゃあ、行先は、フォン・ブラウン?」
そう聞くと、二人ともニヤリと笑う。
「アナハイムではある。だが、行先はグラナダだ」
「すまないなハサウェイ君。本当ならば今日にでも伝えようとは思っていたのだが、予定が狂った」
「えっと、じゃあ、僕はそもそもグラナダ行きが決まってた感じなんでしょうか?」
「君が来た時点で決まった、というのが正しいかな?我々としても、今君が我々の艦に来た、ということはイレギュラーだったのだよ」
イレギュラー、まあ確かに民間人が軍艦に、それもテロリストを自称する艦に乗るタイミングなんてないもんな。
いやそれ以前に、やっぱりフロンタルさんの背後にはアナハイムがいたのか。まあそれはそうか、シナンジュにせよクシャトリヤにしろ、アナハイム無しで製造できるとはとても思えなかった。なによりあの完成度、ありあわせのパーツで組み上げられる代物じゃない。
だったら、アナハイムが後ろにいることは確実か。
「あの、昨日マリーダさんに、バナージと一緒に地球へ行くつもりだって伝えちゃったんですけど……」
「中尉の話は私も聞いた。少し遅い時間だったからな、中尉も今日君に話すつもりだったのだろう」
「えっと、じゃあバナージも……」
「奴には先ほど私から話した。為すべきことを為す、そのため別行動だと。随分聞き分けが良かったよ」
そっか、じゃあ大丈夫か。
「あの、色々ありがとうございます」
「気にすることは無い。君に非など無いのだから」
「悪いのはこんな状況を作り出した愚か者どもと、その状況を伝えなかった無能者にある」
二人ともそんな風に言う。愚か者は、地球連邦だろうけど、この状況を伝えなかった?どういうことだ?二人は、フロンタルさんの部隊は、今の状況を知っていた?
いや、僕の2回目の暗殺未遂時点で、僕は死んだことになってるなら、連邦はそれ以降の情報をフロンタルさんに流すのか?
連邦は、何をどこまで把握してて、何をどこまでフロンタルさんに共有してるんだ?
「すまないなハサウェイ君、今、詳細を君に説明することはできんのだよ。月に着くまでは何も聞かないで貰えると有り難い」
「……わかりました。じゃあ聞きません」
「すまないな、ありがとう」
「あの、月まで行くにしても、連邦が待ち構えているんじゃ……」
「それも問題ない、我々は今回アナハイムの管理ルートを使用する。連邦も正当な理由なく入ることは難しいし、もしそのルートで何かあっても、全てアナハイムが事故として処理してくれる」
「命を懸けても事故死扱いだ。連邦も好んで待ち構えたりなどしないさ」
すべて織り込み済み、なのか。
ならば余計に気になるのは、何故僕がここにいるのか、である。
もしフロンタルさんが僕の存在でもって連邦を脅迫するのなら、僕をわざわざアナハイムまで連れていく必要はない。あのジェガンのデータで十分のはずだからだ。
それに、民間人を武装させてテロリストとの戦闘で利用した。この事実だけでも割と割とな気がする。いくら切迫した状況と言えども、それはそれというものだろうし、なによりシナンジュとクシャトリヤにも、僕の戦闘ログはがっつり残っているのだから。
「ハサウェイ君、君の心配も分かる。だが約束しよう、君を不利にするような真似はしないし、そんな状況にはならない。それは確定してる。不安は理解できるが、安心して欲しい」
フロンタルさんが言い聞かせるようにそう言う。
その言葉にザウパーさんが面白くなさそうに鼻を鳴らす。ザウパーさん本当にフロンタルさんのこと大好きだな。
「分かり、ました。気にしないことにします。ただ、その、こんなこと言える立場じゃないとは思うんですけど、僕は、なるべく戦禍を広げたくはありませんし、その、なるべく平和であってほしいし、平和に暮らしたいです」
フロンタルさんたちにも目標があるはずだ。ジオン系のテロ組織なら、多分連邦の力を削ぐとか、ジオンの力を示すために行動するとか。
「だから、あの、なるべく平和な方法を取っていただけるなら、嬉しいなと思うんですが……」
僕がそう言うと、フロンタルさんは小さく笑い、ザウパーさんは凄く嫌そうな、苦虫を噛み潰したような表情で僕を見ていた。
「ハサウェイ君、我々としてもむやみに戦争を起こす気は無い。今回も可能な限り、平和的に解決したい、そう考えている」
「えっと、なら、嬉しいです」
「まだ夜半と言える時間だ。君は寝なさい。そこの右のドアが仮眠室になっている。グラナダまで約16時間だ。今は休みなさい。アンジェロも寝て構わんぞ」
「いえ、私はお供させていただきます」
「そうか。では、ハサウェイ君、おやすみ」
「あ、はい。おやすみなさい……」
そう言って二人は別の部屋へ飛んでいき、一人になった僕はそのままベッドに入った。
※
グラナダへの道中は本当に何もなかった。襲撃も無ければトラブルもなく、寝て起きたら月の近くにいた、という感じだった。
ただ、月に近づくと、また特殊なアプローチ方法で僕たちはグラナダへと入って行った。
それは警備の為なのか、それとも秘密を守るためなのか。
月に入る前に、僕たちが乗ってきた高速艇をアナハイムの大型貨物艦が格納し、その貨物艦は資材などを搬入するような特別な港へと入り、僕たちは月へと入った。
そして、高速艇から降りて貨物艦へ入り、そこから更に秘密の通路のような場所へ通された。
艦から直通でルートを通して、月の内部へと入れる秘密の通路。なんというか、偉い政治家の人やでっかい企業の偉い人の秘密の密会って本当にあるだなと、そんな気分だった。
一本道の通路は誰と会うこともなく、アナハイムの人も貨物艦にいただけで、フロンタルさんとザウパーさんは勝手知ったるといった様子でこの通路をずんずん進んでいく。
5分は移動したと思う。そして、その部屋に着いた。
部屋の前にはSP然とした黒服のお兄さんが二人立っていて、見た瞬間にわかった、凄まじく強いと。この部屋の先には、多分やんごとなき人がいるんだろう。そんな気分だった。
黒服さんにボディチェックをされ、問題ないと確認されてから、黒服さんがドアを開けた。
そこは広い会議室のような、それでいて内装が豪奢で、会談だとか会見だとかするような部屋だと思った。
そしてそこには、思わぬ人たちが待っていた。
「……え?父さんに、祖父ちゃん?」
「ハサウェイ!」
父さんが僕を抱きしめる。それを受け止めるが、疑問が脳をめぐる。
え?父さんが何で?
「ハサウェイ、心配したよ。何処も怪我はない?大丈夫かい?」
「え?あ、うん、大丈夫……」
祖父ちゃんも僕の頭をガシガシと撫で、父さんごと僕を抱きしめる。
「えっと、どういうこと?」
思わずそう呟く僕に、フロンタルさんが答える。
「すぐに教えたいところだが、もう少し待ってくれ。いや、もう役者が揃うか」
ドアが開く。何人かの足音が聞こえる。
そこには、僕でも知っている人たちが揃っていた。
「え?……え?」
父さんが礼を示すように頭を下げていた。それはそうだろう。来た人たちは僕でも知っている有名人だったのだから。
アナハイムエレクトロニクスCEO、コウエル・J・ガバナン
ネオジオン総帥、シャア・アズナブル
地球連邦政府参謀、アデナウアー・パラヤ
そして、地球連邦政府議会、元議長、アレクサンドル・ゴップ
超が付くほどの大物が、そこにはいた。
「閣下、ご機嫌麗しく」
「ああ、久しぶりだねブライト君。それにヤシマも」
「久しいなゴップ」
父さんと祖父ちゃんがそう挨拶していたが、僕は思わず頭を下げたままどうしていいか分からなくなっていた。
え、え?ゴップ議長?なんで?議長なんで?
「ハサウェイ、久しぶりだな。背が伸びたのではないか?」
「え、あ、お久しぶりです……?」
シャアが大変気安く僕に挨拶していた。あれ、なんだこれ?……なんで?
「フロンタル、君たちも良くやってくれた。よく無事にハサウェイを届けてくれた」
「こちらとしても任務を完遂出来安堵しているよ。もっとも、このようなイレギュラーには困ったものだがな」
フロンタルさんがそう言ってアデナウアーさんに視線を送る。それに居心地が悪そうにアデナウアーさんが目をそらす。
「すまないね大佐、私としても、彼にはもう少し頑張ってほしくはあるのだが……」
「いえ、過ぎたことを言いました。お忘れください」
ゴップ議長、いや、元議長か?がフロンタルさんの言葉を制し、それにすぐフロンタルさんも応じた。
「さて、時間も無いのです。挨拶もそこそこに、始めましょうか」
ガバナンCEOがそう場を仕切り、みんな席へと進んだ。僕も流れで父さんの横に座ったが、良いのか?大丈夫か?というか、マジで何だこの会合?
「さて、お忙しい皆様にお集まりいただき恐縮ですが、まずはハサウェイ・ノアに状況の説明をしたいと考えます」
フロンタルさんがそのように場を仕切り、皆もそれに頷いた。
え、この面子が今から僕のために時間取るの?え、え?
「ハサウェイ君、私は最初に、我々は国際法も適用されないテロリストだといった。それは間違いではないが、見て分かる通り、我々は正しく言えばテロリストでは無いのだ」
フロンタルさんの言葉にゴップ議長やガバナンCEO、シャアが笑う。
「我々は地球連邦の一部と、そしてジオンの一部の融和派から構成された軍組織であり、どちらにも属さず、どちらからも支持される、ある種のダブルスパイ的な役割を持つのだ」
「ダブル、スパイ……?」
「そうだ。我々はジオン共和国からは強硬派の風の会というグループとして認識され、総帥閣下の掲げる融和的思想に反対の立場と認識されている。そして連邦からは、君の暗殺に関与するような、連邦が与しやすい、連邦の利益になるジオン系テロリストとして認識されている」
フロンタルさんが説明してくれるが、パッと頭に入ってこない。ただ、納得できる部分というか、理解できた部分もあった。
「だから、あんなに親切に……」
「まあ、それだけではないが、そう言う意図もある。そしてここにおられる方々は、今後の連邦への対応、ジオンへの対応に関して、様々憂慮されている方々と言っていい。例えば、君への暗殺、などという愚行を決断する者共に対して」
アデナウアーさんが厳しい顔で頷き、ゴップ議長は渋い顔をしていた。
「ただ、連邦という組織はやはり巨大でね。腐敗しているから、もうダメだ、潰してしまおうだとか、そんな軽はずみなことは勿論できない。強硬な姿勢で挑めば、彼らはより強硬な態度をとる。3年前のようにね」
ゴップ議長がそのように補足される。そして、シャアがわずかに口元を歪めていた。
「そのため内部から徐々に細胞を刷新する必要があった。ただ、正義感溢れる若者が新人議員として議会に入っても、数年で呑まれておしまいだ。そこで、少しばかりダーティに、ただ真っ当な人間を残して改革する方法を考えた。そのための、彼らというわけだ」
ゴップ議長がフロンタルさんとザウパーさんに視線を向ける。
「だから、連邦の事情にあれほど詳しかったんですね。それに、最新鋭のモビルスーツも」
僕がそう呟くと、ガバナンCEOが言う。
「アナハイムとしても、現状の連邦政府の対応には思うところがある。確かに連邦は大変なるお得意様ではあるが、むやみやたらに弾圧やら暗殺やらで硬直化してほしくは無いのだよ。無論、地球滅亡などという危機もアナハイムとしては歓迎していない」
ガバナンCEOがアデナウアーさんへ視線を向け、アデナウアーさんが俯く。
「それに君には随分とルートを開拓してもらった。今後とも昵懇にお願いしたい」
「え、僕がですか?」
「ああ。あのプチモビ用のOSだ。あれは新規市場だし今後とも確実に伸びる市場だ。ヤシマ会長にも伺ったが、あれはトミナガと君で基礎を作ったものなのだろう?しかも旧式モビルスーツ用のOSも開発中と聞く。ぜひとも良い商品を期待するよ」
「あ、その、ありがとうございます?いや、トミナガさんのことを、ご存じで?」
「ご存じも何も、モビルスーツ用のOSや学習コンピューターはトミナガが基礎を作ったのだよ。一年戦争の最中に連邦から依頼を受けてね。奴はコンピューターの天才だった。まあ、社内政治に辟易してとっとと出て行ってしまったが。彼は、まあ天才だよ」
おお、トミナガさんめっちゃ凄い人やんけ!すごいな、いや本当に凄いな。
思わずニヤニヤしてしまった。いかん、真面目な顔をせねば。
「そしてジオンも、一枚岩とは言えない状況にある」
あ、存じてます。シャアの言葉に思わず即レスしそうになったが、口をつむぐ。
「ジオンは一年戦争後、無数の派閥に分かれてしまった。ダイクン派、そしてザビ家の各派閥、ジオン共和国、その中でもタカ派とハト派、そしてネオジオン。その中には、感情論にほど近く、ジオンの誇りのため、といって戦争を起こそうとする者もいる。かつての私の様に」
シャアは後悔を何処か滲ませたように言った。
「その中でもジオン共和国は、いや、モナハン・バハロは、今強硬な手段を用いようとしている。ジオンの自治権返還の為だろう。私の後継、いや、真のジオンの体現者としてフロンタル大佐を担ぎ上げ、地球を排し、月とコロニーでもって独自の経済圏を築く構想を考えた。確か、サイド共栄圏、とか言っていたな」
サイド共栄圏、その言葉に、その場にいる皆はつまらなそうな顔をしていた。
「もっとも、その共栄圏でもって、スペースノイドの長をジオンと示し、自らの権力の拡大を目論んでいるようだが。まあその程度の小物だ。ただ、そのためにミネバ様を巻き込み、そしてフロンタル大佐を用意した。そのような愚行を、見逃すわけにはいかん」
シャアは厳しい口調でもって言い切った。
用意した、その言葉に引っかかりを覚えたが、直感もした。多分、そう言うことなんだろう。マリーダさんや彼の様に、フロンタルさんも強化されたのだ。推測でしかないし、聞く気も無いが、そうなのだろうと感じてしまった。
「地球においても、連邦の傲慢さはやはり感じる。連邦は不法移民者の強制退去としてコロニーへの流刑を始めたが、やり方が酷く強引だ。その一方で、コロニーの権力者や政府高官の家族に対して、地球への移住権の許可を大々的に始めている。今の連邦のダブルスタンダードだが、これが進めば地球圏は衰退し始める。ヤシマとしてもアナハイムとしても、そんなことは望んでいない」
祖父ちゃんがそう言い、ゴップ議長やガバナンCEOもそれに頷いた。
「そのために様々策をめぐらせていたのだが、本当に計算違いがあってね」
祖父ちゃんがそう続ける。
「ハサウェイへの暗殺計画、こんな馬鹿な真似をするとは本当に予測できなかったんだ。そしてその馬鹿どもが、これほどまで積極的に動くともね。いや、短期的にクリアできそうな目標だったからこそ、積極的だったのかもしれないが。ハサウェイ、本当にすまない。酷く迷惑をかけたし、怖い思いをさせてしまった」
祖父ちゃんが、そう言って頭を下げた。
「ちょ、やめてよっ。祖父ちゃんのせいじゃないし、それに僕も無事だし!」
「私からも、すまなかった。もう少し上手く動ければ、君に火の粉が降りかかることも無かっただろう」
「ええ!?」
アデナウアーさんも僕に頭を下げる。
それに困惑した僕に、ゴップ議長が声をかける。
「彼も彼で、君に感謝しているようだよ。それは娘さんのことでもある」
「えっと、クェスの?」
僕がそう聞くと、アデナウアーさんが呟くように話し始めた。
「君と出会ってから、クェスはとても勤勉になった。それまで私がどれほど言っても、何とも言わずに拒否していたあの子が、よく話すようになったんだ。私のすることの何が嫌なのか、どうして家にいたくないのか、そう言ったことを話すようになってくれた」
懺悔の様に、アデナウアーさんは僕に言う。
「言われるまで気づかず、また感じることもできなかった。そして、クェスにその成長をもたらしたのは、他ならぬ君だろう。時折クェスは私に、ほんの少しだけ話をしてくれるようになった。その時には必ず君の名前が出てくる」
「……クェスが話すようになったのは、クェス自身の成長です。僕はきっかけだったかもしれませんが、成長できたのはクェスの努力のおかげです。だから、クェスを褒めてあげてください」
僕の言葉に、アデナウアーさんがまた俯く。
その姿を見てか、ゴップ議長が言う。
「私は今、連邦政府議会議長を退き、公式にはただの一般人だ。だが、状況が状況でね、時折こうしてOBとして仕事をすることもある。その時の窓口として、彼に働いてもらっている」
「……私は3年前のアクシズ事件で失脚し、参謀次長の座も追われた。その時に閣下が私を拾ってくださった。今は閣下のため、そして地球と宇宙のために仕事をしようとしている。そして、私個人の感情としても、君への危機は見過ごせなかったんだ」
「あの、どうしてですか?クェスのことはあるかもしれませんが、それだけじゃ……」
僕の言葉を遮るように、アデナウアーさんが言う。
「私は無能者だが、恩知らずではないんだ。私を拾ってくださった閣下への恩義、クェスを助けてくれた君への恩義、それらに報いたいと、今は考えている。アクシズ事件は反省してもしきれんが、それでも私は務めを果たす、そう決めたんだ」
その言葉にゴップ議長は満足したようにうなずいた。
「まあ、話としてはそんなところだ。連邦政府への窓口はアデナウアー君が、地球の窓口はヤシマが、アナハイムの窓口はガバナンCEOが、ジオンへの窓口はシャア総帥が、それぞれ担当する。そして独自行動権を持つロンドベルには、宇宙と地球それぞれに仕事をしてもらうことになる」
その言葉に、父さんが背筋をさらに伸ばす。
「さしあたっての問題として、今回である程度まで膿を出したい。そして、奇しくもハサウェイ君の存在がその呼び水となった」
「……連邦内の、連邦の権威のみを信奉する連中、ですね」
父さんが苦々しげにそう言う。
「ああ。そしてそれはエコーズという特殊部隊にまで及び、さらに特殊な例であるが、ロンドベルにまで及んだ」
「……面目次第もございません」
「さてハサウェイ君、君に問題だ」
「え!?あ、はい!」
「今回の焦点となる、ラプラスの箱。その恩恵を一番受け取ったのは、誰だと思う?」
ゴップ議長がにんまりとした笑顔で僕を見る。
「えっと、ビスト財団、でしょうか?」
「うん、正解だ。じゃあ、次に恩恵を受けたのは?」
「次、ですか?」
「ああ、ヒントは、そうだな、ラプラス事件」
ラプラス事件、って、宇宙世紀0001の?何だ?宇宙世紀最初のテロ事件で、最初の議長さんが暗殺されて、そして、次の議長は別派閥の……
「……マーセナス家、ですか?」
「その通りだ。大正解だよ」
ゴップ議長の声に安堵するとともに、脳裏にとある人物の名前が浮かんだ。
「マーセナスって、ネェル・アーガマのリディ・マーセナス少尉?」
「凄いね、知り合いだったのかい?」
「いえ、モビルスーツ隊の人と話す時間はほぼ無かったんですけど、名前は憶えてて。あれ?じゃあ、今の連邦議会の、ローナン・マーセナス議員って……」
「そう、彼の御父上だ。そしてマーセナス家はラプラス事件において重大な秘密があり、それを今のビスト家の重鎮、マーサ・ビスト・カーバインとの繋がりになった」
「マーサ・ビスト・カーバイン。……カーバイン?」
「そう、そこに今度はアナハイムが関わってくる」
ガバナンCEOがそう話す。
「言ってはなんだが、アナハイムは巨大だ。私は数年前まで、元会長メラニー・ヒュー・カーバインの権力が大きく、社内情勢さえ全容を把握するのが難しかった。そして、今こうしてグラナダに来ていただいたわけだが、そのことをフォン・ブラウンは知らないし、反対に、グラナダはフォン・ブラウンの情勢や全容を把握できていない。拠点ごとに別会社、それほどアナハイムは巨大で、分かり辛い」
シャアや祖父ちゃんが笑う。
「皆がそれぞれに長の自覚を持ち、そして権力闘争をはじめ、今のアナハイムに混乱をもたらした。そして、アナハイムの中でも重役を取るビスト家は、ラプラスの箱でもってその存在感を示した。だが、いささかやり過ぎたともいえる。アナハイムは既にラプラスの箱など必要としていないし、そんなもの無くとも連邦に対して対等な立場を築いている。にもかかわらず、ビスト家のため自分のため、アナハイムを私物化し、ビスト家に権力を持たせ、その上連邦軍の差配にさえ口を出すようになった。かつてがどうであったかは知らないし、知ったことではないが、最早あの女帝気取りは、無用の長物どころか害悪にさえなった。だからこそ、我々としても動こうと考えたわけだ」
ガバナンCEOがそう言い、そして僕を見る。
「何より、将来有望なエンジニアの、しかも子供を、どさくさに紛れて殺そうなどと、そしてそれを黙認するなど、最早人の道ではない。まあ、そんな御託も様々あるが、単純に気に入らなかったんだ。だから君を助けることに賛成した。それだけだよ」
ガバナンCEOがそう言ってウインクする。何だこの人、超カッコイイ。
「マーセナス家のご子息が、ミネバ殿下を連れて地球に降りた。先のフロンタル部隊への襲撃の折にね。何をするつもりなのかは分からないが、まあ何もできないだろう。そしてミネバ殿下を、恐らくマーサ・ビスト・カーバインが捕らえる。ミネバ殿下を返してほしければ箱を返せ、といった具合かな?」
「ガランシェールが地球に降りています。恐らくその状況を連中も把握しているでしょう。殿下と併せて、ユニコーンを回収したいと考えるやもしれません」
「それらの対処を、ロンドベルに頼みたい。ユニコーンのラプラスプログラムを進め、箱を開放しても良し。ミネバ殿下を保護し、先に宇宙に上げるも良し。差配は任せるよ」
「了解しました」
「そしてフロンタル君には、宇宙に上がるであろうゼネラルレビルの対処をお願いしたい。そちらもマーサ・ビスト・カーバインが声をかけているだろう。全滅、はさせない方がいいかな。まあ任せるよ」
「了解しました」
他には何かあるかな?とゴップ議長が確認したところで、僕は思わず手を上げた。
「あの、直接関係ないと思うんですけど、良いですか?」
「ああ、何だろう?」
「あの、僕を撃ったリゼルって、リディ少尉なんでしょうか?」
その言葉に、皆が少し固まる。あれ、聞いちゃいけない感じの奴か、これ?
「……リディ少尉であることは間違いないが、その動機は不明だ。もしかしたらマーセナス家から彼に接触がありハサウェイに危害を加えようとしたのかもわからないが、ただ状況が分からない。もしかしたら、ハサウェイを助けようとして、結果危機に陥れたのかもしれない。そこに関して、何もかもが不明なんだ」
父さんが辛そうな声で言う。思わず父さんの背中を撫でる。
「ごめん、気になるといえば気になるけど、そんなに真相を究明したいわけでもないんだ。ほら、普通に生きてるし。すみません、変な空気にしちゃって」
そう謝る僕に、父さんが言う。
「……今は分からないが、必ずすべてを究明する。そして、ちゃんと彼には罰を受けてもらう。例えその気がなかったとしても、フレンドリーファイヤは処罰対象だ。だから、少しだけ待ってくれ」
「ブライト、ハサウェイが戸惑っている。それらはすべてが終わった後にだ。それに、機会はこれからいくらでもある、そうだろう?」
「……ああ、そうだな。為すべきことを為さねばな」
シャアと父さんがそう言葉を交わす。あれ、これ結構大事か?
「では、これで会議はお開きだ。次に会う時は、皆良い報告を持ち寄れると祈って」
ゴップ議長がそう〆て、会議は終わった。
※
その後ゴップさん(さん呼びで良いと言われた)やガバナンさん(こちらもさん呼びで良いと言われた)とちょっとお話をして、祖父ちゃんに今度は父さんと一緒に地球に帰ってこいと言われ、アデナウアーさんとちょこっと話して、僕はフロンタルさんとザウパーさんと一緒にグラナダを出た。
酷く濃い時間だった。そして、様々あることは分かったが、何とも捉えきれていない自分もいた。
正直大変疲れた。なんかもう、疲れた。
ただ、何も終わっていないのだ。ここから始まるのだし、ここからが大仕事なのだとも分かってる。
バナージはラプラスプログラムを進め、僕は僕で宇宙で仕事をする。
そしてすべてが終われば、多分また日常が戻ってくる。
ただ、その道程があまりにも見えづらくて、辟易している自分がいた。
読了ありがとうございました!
設定の、抜けはあるかな!?あるかもね?ある気がするな、気になるよ!
はい、フロンタルの捏造設定をがっつりねじ込みました。そしてゴップ大将の名前も勝手に考えました。
こう、あれなんです。どうしてもフロンタルを悪役にしたくなかったのと、連邦もまだ捨てたもんじゃないぜムーヴをしたくなりました。受け入れて頂けると嬉しいです。
いつも誤字報告ありがとうございます。
そして感想、高評価もありがとうございます!とても嬉しいです!
引き続き感想、高評価いただけると嬉しいです。