ハサウェイがアムロやシャアに影響される前に機械オタクになった世界線のお話   作:陸奥九十九

3 / 43
ブライトさんとミライさんとチェーミンを登場させました。みんな口調が分からない!あとチェーミンの性格も!
生暖かい目で見てやってください。


ブライト・ノアは良いパパでありたい

ブライト・ノアには苦い経験がある。軍人、そして戦艦の艦長という職種故、サラリーマンのように毎日家に帰ることができないゆえに味わった、苦い経験。東にジオン残党あれば行って悪事を働かぬよう掃討し、西に反乱勢力興れば行って連邦の力を見せしめ、とにもかくにも暇が無いのである。しかしやっと仕事にひと段落付き、家に帰って玄関で息子にこういわれたのだ。

「いらっしゃいませ?」

 

ブライトは膝から崩れ落ちた。ハサウェイ当時3歳の時である。その当時デラーズフリートやらティターンズの発足やら、確かに忙しかった。家に帰ることができなかった。そして父の仕事の状況など、当時3歳の息子にはあずかり知らぬことである。

でもさあ……。そう思わずにはいられなかった。

 

それからというもの、可能な限り家に帰ることができるよう仕事の片をつけよう、とは常日頃思っているものだが、実行できた回数は片手で数えるほどしかない。

妻のミライは分かってはくれている。一年戦争で苦楽を共にした戦友でもある妻は、今の情勢がどれほど危うく、どこで天秤が傾くか分からないことも。

 

ブライトは仕事に誇りを持っている。連邦軍人、また弱冠32歳にしてロンドベル隊の司令という立場を。ただそれはそれとして、家族人としても良くありたいというのは二児の父として当然の感情であった。

 

土産として甘味は持った。ハサウェイは12歳で、いよいよジュニアハイに上がる年だし、チェーミンは10歳で学校ではお姉さんになる年頃だ。話題は十分。もしやハサウェイは生意気盛りに軍人という職、いや戦闘職そのものに興味を持つ年頃かもしれない。そんな話題になったら父の威厳たっぷりに様々な話題を提供できる!

先のネオジオン戦争以来、戦線の再構築やら暴動の制圧やら連邦宇宙軍そのもの再建やら本当に忙しかった。だがその分話題は無限にある。ウィットに富んだ父親の華麗なトーク術のお披露目の機会やもしれぬ。

この約1年半ぶりの帰宅、初動を失敗することなどありえない!

 

「ただいま!今帰ったぞ。」

「ブライト!おかえりなさい。お疲れでしょう?ご飯もできてますけど、シャワーが先の方がいいかしら?」

「いや、ご飯が出来ているなら先にしよう。せっかくの夕飯が冷めてしまってはもったいない。ハサウェイとチェーミンは?」

「チェーミンは部屋でしょうけど、あの子ったら、せっかくお父さんが帰ってきたというのに」

「いや、チェーミンももう10才だろう?そういうお年頃さ。ハサウェイは?」

「ハサウェイは、きっと物置ですよ」

「物置?何か探し物でも?」

「いえ、うちの実家の物置なんです。父さんやお祖父さんが集めていたガラクタを置いてある大きな倉庫。最近そこに通い詰めているんですよ」

「そう、なのか。何か面白いものでも?」

 

ジャケットを脱ぎながらダイニングに腰掛ける。キッチンからは和食の良い香りがする。

 

「何もありませんよ。少なくとも私には。古い車とかバイクとか、そんなものしかないのに」

「ああ、ハサウェイもそういったものに惹かれる年齢なんだろう。男という奴は、機械やら兵器やらに心惹かれるものさ。ほら、アムロだってそうだっただろう?」

「そういうものですかね、男の子って」

「そういうものさ」

 

「あ、パパ。おかえりなさい」

「ああチェーミン。ただいま。久しぶりだな」

「そう?先週くらいにビデオ通話したから、あんまりそんな気しないな。ママ、お兄ちゃんは?」

「夕飯には戻ってくるように言ったのに。あの子ったら」

 

ミライがそういうとほぼ同時に、玄関がガチャリと開く。

 

「ただいまー」

もったりとした声に少し疲れをにじませて、ハサウェイがリビングに入ってくる。

 

「おかえりハサウェイ。ただいま」

「ああ、おかえり父さん」

「ハサウェイ、帰ってくるのが遅いわよ」

「ごめん、ちょっと作業が込み入っちゃって」

「もう、早く手を洗ってらっしゃい。せっかくお父さんが帰ってきたんですから」

 

 

 

「ハサウェイ、最近は母さんの実家に通っているのか?」

「んー、通っているというか、遊んでる?感じかな?」

「母さんが、最近のハサウェイは実家の物置に通っていると」

「物置か!確かに。言い得て妙だね。あれはでっかい物置だ」

「何か面白いものでもあったか?」

「そう、だね。今は古い機械とかを祖父ちゃんと一緒にいじってるよ」

 

ブライトに電流奔る。機械いじりを、お義父さんと一緒に楽しんでいる!?いやそれは、普通実の父親とすべきものじゃないか!?休日に工作を楽しんだり、そういう子供時分の楽しい思い出じゃないか!?

確かにブライトは久しく帰ってこれぬ状況ではあった。しかしそれを差し引いても、息子と楽しく遊ぶ休日のパパポジションが陥落しかねないこの状況に、得も言えぬ焦燥を抱いた。

 

「そ、そうなのか。何をお義父さんと一緒にいじっているんだ?」

「最近はもっぱらポルシェだね。ポルシェのセッティング出しとかしてるよ」

「そ、そうなのか……ん、ポルシェ?ポルシェって、あの自動車のか?」

「どの自動車のかはわからないけど、まあ自動車だね。最近直したんだけど、スポーツカーのセッティングってよくわからなくて」

「え!お兄ちゃん車直せるの?」

「チェーミンが思ってる最近の車じゃなくて、西暦時代の古ーいガソリンの車だよ。だから、コンピューターとかが今どきのより単純なんだ」

「ふーん、なんで直してるの?」

「祖父ちゃんが乗りたいからじゃない?最近はほぼ毎日祖父ちゃんとポルシェいじってるもん。祖父ちゃん暇なのかな?」

 

再びブライトに電流奔る。毎日のように?二人で?車いじりを楽しんでいる?ち、父親の座が、今父親の座が祖父によって脅かされそうとしているのか!?これは一体……!?

 

「い、いやあ、お義父さんも色々気にかけてくれているんだろう。ありがたい限りだ…」

「そうかなあ?単純に祖父ちゃんも遊び相手が欲しかっただけな気もする」

「そうね、父さんはそういう子供っぽいところあるから」

「ねえ」

「母さんも言ってたわ、最近の父さんは随分はしゃいでるって」

「へえ、お祖父ちゃんってそんな風なの?私、あんまり印象無かったけど?」

「そうらしいわ。そういう意味では、ハサウェイはお祖父ちゃん似なのかもね?」

「え?どこが?」

「最近のハサウェイ、随分楽しそうよ?自分で気づかない?」

 

そうかなあ?そうですよ、とハサウェイとミライが楽し気に、チェーミンも、そうなんだあ、と少し驚いたように言う。

ブライトの背筋に、ひんやりと冷たい感覚が奔る。

これは、どうなのだ?ハサウェイが楽しそうなのは勿論伝わってくる。それはとても嬉しい。そしてそんなハサウェイを見てミライも楽しそうだ。勿論嬉しい。チェーミンも年頃と思っていたが、ハサウェイとも変わらず仲が良さそうで素晴らしく嬉しい。

ならばなんだ?この、絶妙に家庭での居場所のなさを感じるお父さん感は!

話題だ。そう、話題の転換が必要なのだ。

 

「そ、そうだハサウェイ。アムロおじさんを覚えているか?」

「え?えーっと、昔香港で会ったパイロットの?」

「ああ、そのアムロだ。彼も子供のころから機械いじりが好きだったみたいでね、経緯は色々あったが、今は連邦でモビルスーツの設計や、そのテストパイロットも務めている。もしかしたら、ハサウェイの将来の進路として、そんな道もありかもしれないな」

 

完璧だ!ブライトはそう心の中で拳を高々と上げた。

進路相談、頼れる父の背中、包容力!そうだ、こういった姿で子供からの尊敬を勝ち取るのだ!

 

「モビルスーツかあ。想像もつかないなあ。でっかすぎて」

「アムロも最初からモビルスーツを触れるわけでは無かったよ。ただ、自分で乗っているうちに、直したい箇所がいろいろ見つかるそうだ。反応が悪いとか、逆に反応が良すぎる、とかな」

「ああ、それは、ちょっとわかるかも。そこは車も同じところがあるね」

「得てして物事というものは、多くのものと繋がっているものだ。だから何か打ち込めるものがある、というのは良いことだ。何よりそれが、ハサウェイにとって楽しいものであるならね、私は嬉しく感じるよ」

「そうね。ハサウェイ、最近とても楽しそうよ。大変だなんだと言っても、ずっと笑顔ですもの。学校の話題なんか全然出さないくせに、父さんとのことは色々話してくれるものね?」

「いや、そう?」

「そうですよ」

「確かに、お兄ちゃん最近おしゃべりかも?」

「それちょっと悪口じゃない?」

 

ちーがーう!とチェーミンが不服そうに返す。

ああ、これだ。これだよ。求めていたのはこういう団らんなのだ。選ばれたのは温かい家族の一ページでした。ブライトは深めに呼吸する。

沁みる。家族の温かさが心に沁み入る。仕事は別に嫌いじゃない。業務過多だし終わりはないし、何よりハードだがそんなことはわかっている。分かっていてやっているのだ。ただ、時折思う。この終わりなき憎しみの連鎖に、いったいいつまで付き合わねばならぬのだろう?と。

ハマーン率いるネオジオンは崩壊し、一旦の平和は訪れた。しかし、ジオン残党の動きはまた活発になってきているし、何より連邦上層部の動きもひどくきな臭い。何よりも最近のロンドベルの出撃回数の多さだ。

何かが再び起きようとしている。それもろくでもないことが。

だからこそ、こうして戦うべき理由と、帰るべき場所を感じたかったのかもしれない。

 

「ハサウェイ、ジュニアハイにもなれば、職場体験なんかもあるだろう?その時に、一度ちゃんとお義父さんの会社を訪問してみてもいいかもな。あとは、モビルスーツ系の企業なども」

「え?いやいや、機械いじりを仕事にしようとかは、全然考えてないけど」

「そんなに直接結びつけるわけじゃないが、最新の機械や、高度な工業製品も、実は小さく単純な部品の集合体でしかないものだ。古い車もそれはそれでいいが、たまには新しいものを見てみるのも良いと思うぞ。何か自分の中で発見があるかもしれない。いろいろなものを見るのは、決して悪いことではない」

「そうかな…そうかも」

「そうとも。それに父さんが今の職業に進路を決めたのも15歳の時だ。今のハサウェイより、少しお兄さんの時くらいなものだ。まあ、士官学校は少し毛色が違うかもしれないが。早くからやりたいことが見つかると、学校での意識もまた変わるものさ」

「そっかあ、うん、そうだね」

「ああ、教科書を覚える勉強も大事だが、そうじゃない勉強もある。それが分かると、勉強も楽しくなるものだ」

 

決まった…。ブライトは心の中で万雷の拍手を浴びていた。頼れる父の進路相談。完璧だ。今私は、理想の父親の理想の頼れるムーブを完璧に実行できた。

家を空ける期間は長いが、しかし帰ってくると良い父親。普段は会えないが、しかし会えないからこそ、会えた時にはしっかりと慕われる、頼られる、素敵な父親。

手に入れた、私は今この世の全てを手に入れたのだ。勝ったな風呂入ってくる。

 

「ええー、楽しい勉強なんてないよー」

「そう?チェーミン料理好きじゃん?あとおしゃれも。休みの日は母さんといっしょにお菓子作ってるし」

「え?うん」

「あれも勉強じゃない?別に筆記試験で点取るわけじゃないけど、美味しく作れるかどうかって。そのためにレシピとか見るでしょ?」

「そりゃ、失敗したらもったいないし」

「失敗しないように色々見なきゃって、それも勉強でしょ?父さんが言ってるのって、そういうことじゃないかな?」

 

知らんけど、とハサウェイが何と無しに呟く。

その時、ブライトに電流が奔る(本日3回目)。ハサウェイが、めっちゃお兄ちゃんしてる!!かわいい!!

妹の疑問を、相手に寄り添って分かりやすくかみ砕いて、しっかり解消してあげてる!ヤダうちの子可愛すぎる。

 

「チェーミンも料理とか勉強してさ、母さんといっしょにお店とかやっても良いんじゃない?美味しい家庭料理とスイーツで。流行りそうじゃない?」

「お店って、話が飛躍してない?」

「僕だって同じよ?子供の機械いじりの域を出てないもん。でもほら、そういうのもありじゃない?って、父さんは言ってるんでしょ?」

 

ねえ?とハサウェイがブライトに視線を向ける。

ナイスパスすぎるぞハサウェイ!どんぴしゃりのスルーパス!お前は稀代のファンタジスタか!!

 

「そうだな、まずは何が楽しいか、父さんはそれを見つけて欲しいんだ。別に今すぐに何になりたいかを決める必要なんてないさ。ただ、チェーミンが今料理が楽しいと思っているのであれば、その楽しいをもっと経験してみる。そういうのも、父さんはとても良いと思う」

「そうね、それこそチェーミン、私とチェーミンでレストランでも開いて、将来退役したお父さんの再就職先を作ってあげてもいいかもね?その時はお父さんにしっかりお料理を教えてあげなきゃ」

 

ねえブライト?とミライが微笑む。

おお、私は見えた、行きつくべきところが……。そうか、そうだったのか……人類とは……宇宙とは……今なら全てが手に取る様にわかるぞ…こんなにも簡単なことだったんだ。

この戦争に果てはなくとも、私には行きつくべきところがある。退役し、家族とともにレストランで働いて、そうだ、私も何か料理を覚えないとな。ハンバーガーなんてどうだ?手軽に食べられて、私の作ったハンバーガーを急いで食べながら、ハサウェイが仕事に行ったりして……。

ブライトの幸福な未来予想図が脳内で完成する。この間僅か0.1秒。

 

「そうだな、その時は私も料理を覚えなくちゃな。チェーミンに色々教わろう」

「もう!だから全然想像できないって!」

「いいのよチェーミン、でもほら、そんな将来も楽しそうでしょう?将来の夢なんて、楽しそうな未来を想像するくらいで良いのよ」

 

そうだ、楽しそうな未来を想像する、いい言葉だ。そんな未来のために、今を生き抜けばいい。ブライトはそう思った。

帰ってこれて良かった、本当に。この手の中にある幸福を、改めて感じることができて。

 

「じゃあ明日は、せっかくだからチェーミンと一緒に、ミライに料理を教えてもらおうかな?」

 

戦う理由など、それだけで十分なのだから。

 




読了ありがとうございます。短かったかな?書いているときは楽しいけど、読み返すとボリュームが少ないような……会話シーンは難しい。
感想など頂けると励みになりますので、お願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。