ハサウェイがアムロやシャアに影響される前に機械オタクになった世界線のお話   作:陸奥九十九

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ああ、やっと書けた。でも説明会です。
お楽しみいただければ嬉しいです。


作戦準備

嵐の夜だった。

街の明かりも一つとなく、ただ風が吹き荒れ、砂が舞い、話し声さえ通らぬ嵐の夜。ダカールの町は暗闇に沈み、警備のための兵さえもいない。

 

音も、光も、何もかも呑み込む闇の中で、その空を、純白のモビルスーツが飛翔した。

 

「ユニコーン投下」

「ユニコーンの状況をモニターに出せ。ラプラスプログラムを監視しろ」

 

フラストの声にジンネマンが答える。その様子を、ロニはカークスと共に間近で見ていた。

 

『こちらにも情報を共有してくれ。何かあればすぐに出る』

 

ギラズールの中で待機するマリーダが伝える。

 

 

 

ユニコーンがダカールの空を舞う。共有してあるユニコーンのモニターにさえまともな映像は映っていない。何かが見える状況ではそもそもないのだ。

フロンタルが用意したサイコモニターが無ければ、これほど近くにあってもユニコーンを捕捉することは不可能になるであろう。

 

「ユニコーン、指定座標へ到達しました」

「モニターを確認。何か情報が更新されればすぐにユニコーンを戻せ。ラプラスの時の様に、今度はシャアのダカール演説でも流されたらたまったものではない」

 

そのジンネマンの軽口にフラストも肩をすくませる。

 

ユニコーンがポイントに到達し、1分もたたずにラプラスプログラムは反応を示した。

 

「ラプラスプログラム更新されました」

「ユニコーンを呼び戻す。マリーダ、行けるな?」

『了解。マリーダ・クルス、ギラズール、出る』

 

ミノフスキー粒子濃度からして通信もきかず、また隠密作戦ゆえに信号弾も使えぬとして、ユニコーンのお迎えにマリーダが出ていった。

 

そして、ガランシェールのメインモニターには、ラプラスプログラムの次の座標データが示された。

 

「っ!これは……」

 

ブリッジにいた誰もが息を呑んだ。

 

「……カーディアス・ビストめ、俺たちに一体何を見せるつもりだ……?」

 

 

 

ラプラスプログラムは、次の座標データを示した。

 

 

 

その場所は、オーストラリア、トリントン。

 

そこは、初めてコロニーが落ちた場所であった。

 

 

 

 

 

 

「今度はトリントンか。次々と面倒な場所を指定してくれるものだ。カーディアス・ビストにかつがれているのではないかと、思いたくもなる」

 

砂漠基地に戻り、翌日の予定ミーティングにて次なる座標データがフロンタルに共有された。

 

ダカールも連邦の影響力下にあったが、その程度は知れたものでもあった。

一年戦争後は一時的にもジオンの支配下にあり、その後連邦とティターンズが拠点を置いたが、ネオジオン抗争でネオジオンが反連邦勢力を統一し再度支配、ネオジオン敗戦とともに撤退を余儀なくされたが、統一された反連邦勢力は、ジオン残党を筆頭として根強く残っていた。

 

廃れた土地、という意味ではトリントンも同じであるともいえる。

一年戦争でシドニーにコロニーが落ち、絶望的なほどの被害を被った。そしてデラーズ紛争の折にガトー率いるジオン残党に一方的に叩かれ、その後は戦略的にも戦術的にも完全に価値のない土地として、ある種流刑地的な色さえ持つようになった。

 

だが、それなり以上の戦力がある。

 

装備に関して言えば量産配備から外された過去のスペシャル機の墓場となり、カラバ、エゥーゴ、ティターンズで作られた試作機や、現地改修されたマシンが多く存在し、主力ではない強力なモビルスーツが多数存在する。

そして、パイロットに関してもそれなりのものがある。元ティターンズや、政治的に左遷された将校が多く存在し、エースクラスもそれなりにいると目される。

 

だが、そんな僻地において命をかけて戦うのかと言われれば、些か以上に疑問は残るわけではあるが。

 

 

 

「如何しましょう?ダカールのような天候からくる隠密作戦はまず不可と思いますが」

『グランドゼロの近辺は遮蔽物がまずない。トリントン基地自体が僻地でもあるし、ダカールの二番煎じは確かに難しいな』

「2部隊に分けて陽動をかけますか?陽動に気をひかせ、上空からユニコーンを投下し、ラプラスプログラムを更新させるというのは?」

『それが現実的かな?あとは何処に陽動をかけるか、そしてどの規模での陽動をかけるかだな。ガランシェールで出来る範囲では、どちらも大規模には難しい』

 

ガランシェールの保有するモビルスーツは4機。その内1機がユニコーンの為、陽動で使える機体は最大で3機。そして、そのすべてがギラズールの為、陽動は空からの急襲以外選択肢がない。

 

有視界戦闘を強いることができる夜に空中から急襲、連邦軍の注意を引き付けて、シドニー湾方向へ撤退開始。ガランシェールはポイントにてユニコーンを投下後、シドニー湾沖で待機、ミノフスキー粒子を散布してギラズールを回収。敵機を振り切って空中にてユニコーンを回収。

 

何もかも上手くいくことを前提になるが、最も現実的な作戦はそんなものだった。

 

だが、所詮はギラズールだ。敵に囲まれた瞬間にハチの巣にされる。敵がこの程度で翻弄されてくれるなら良いが、最悪の場合ティターンズに選ばれた元エリートの大エースが複数機出てくる可能性もある。

 

その場合、陽動もままならず一方的に墜とされるだろう。

 

状況は、それなり以上に切迫している。少なくともジンネマンはそう考えた。

 

 

 

『カークス少佐、ハマーンの遺産は完成したと聞いたが、状況を教えていただけるかな?』

「……シャンブロ、ですな」

 

シャンブロ?ジンネマンはそう口に出していた。

 

『ネオジオン抗争の折にハマーンにより齎され、そしてアクシズ事件前後に開発されたサイコフレームによって完成の目途が立った、拠点制圧用の水陸両用の大型モビルアーマーだよ』

「……マシンそのものは完成しました。ただ、お恥ずかしい話ですが、あれの動作は酷く不安定なのです。サイコフレームに感応できるものがロニ少尉だけなのもあり、このような隠密作戦で陽動が出来るとは……」

『カークス少佐、君の言いたいことは理解できる。だが、状況はなお厳しい。使える札を厳選できる状況にないのだ』

「しかし……」

『無論、不安定な兵器を不安定な状態で運用するつもりはない。そして幸いなことに、ガランシェールにはニュータイプ能力を持つものが2人いて、そして、我々の元にサイコミュのスペシャリストもいる』

「サイコミュの、スペシャリスト?」

『君たちを無意味に危険にさらすつもりはない。小戦力での作戦遂行も、不確定戦力での作戦遂行も、どちらとも。後ほどシャンブロの現状のデータを共有してくれ。その上で戦力を確定させよう』

 

 

 

 

 

 

バナージは地球に降りて以降、空き時間の多くをシミュレーターにあてていた。理由は単純で、自分の能力不足を痛いほど感じていたためだ。

 

これまでの戦闘において、ユニコーンはどの状況でも圧倒的な性能を誇っていたはずなのに、タクティカルアドバンテージを取れたことはほぼ無かった。

インダストリアル7を出た時の刹那的な戦闘においてクシャトリヤをコロニーから押し出すことはできたが、その後の戦闘では、シナンジュとクシャトリヤに翻弄され、ハサウェイの助けが無ければ間違いなく撃墜される状況に陥った。そしてその後ユニコーンの暴走でハサウェイへ襲い掛かってしまった。

次なる戦闘ではハサウェイと分断され、3機のギラズールに常に出鼻をくじかれ、戦闘と言える戦闘もできず鹵獲された。

歯がゆかった。ユニコーンという特機に乗っていながら、ほとんどハサウェイの助けになっていなかった現実に。オードリーを助けたいと言って、それを手伝ってくれると言ってくれたハサウェイに、頼り切っている現実に。

 

ハサウェイは言っていた。数的有利は、どんな状況でも、どんな機体であっても、一定のレベルを超えると絶対に対処できないと。

ユニコーンがギラズールをはるかに凌駕する性能であったとしても、1対3ではそもそも逃げることさえ難しい。そんな状況で墜とされていないのだから大金星だと。

 

実際に戦ってみて、その言葉に慰めや嘘はないように思った。常にペースを相手に握られ、呼吸を乱され、1対1の状況を作り出すことはほぼ不可能な状態で、消耗戦を強いられる、そのストレス。あとから分かったことだが、その3機すべてがエース級で、しかもユニコーンを完封するための戦術さえ用意されていた。なるほど、こんな状況で勝利をもぎ取るのは、ほぼほぼ不可能だろう。バナージもそう思った。

 

 

 

では、ハサウェイはどうなのだ?

 

ユニコーンどころか、ギラズールにさえ劣る性能のジェガンで、いったいどれほどの敵と戦っていたのだ?レウルーラに鹵獲された後、ジェガンのログを見せてもらった。

そして愕然とした。

ハサウェイは、ジェガンでシナンジュと4枚羽、クシャトリヤの相手をしていたのだ。言うなれば、ジェガンでユニコーンクラスを2機相手取っていた。しかも片方はサイコミュ持ちだ。瞬間的な敵対数は1対2どころではない。1対5や1対10さえありうる。

そんな2機を相手に、ハサウェイは互角以上の戦いを繰り広げていた。出力で劣り、速力で劣り、火力で劣り、数でも劣る状況で、何もかもを駆使して有利を得ていた。

 

情けなくなった。無力な自分が。これほど必死に戦って、自分を助けてくれるハサウェイに対して、自分が出来たことがあまりにも僅か過ぎる現状に。

 

どうしてアルバイトの時にシミュレーターを必死にやりこまなかったのだろう。ハサウェイの方が操縦に慣れているから、操縦が上手いから、自分はメカの方に集中すればいいと楽な方を選んだ。

どうしてもっと敵の動きを予想しなかったのだろう。ダグザさんをラプラスにおろして、その後すぐに、ギラズールを連れてハサウェイの元へ飛んで行けば、乱戦状態を作り出して相互援護ができる状況を作れたかもしれないのに。

どうしてギラズールの動きをもっと先読みしようとしなかったのだろう。翻弄される現状にいっぱいいっぱいになって、思考を単純化させて速力と火力に頼り過ぎていた。凄まじく対策された状況だったが、相手はこちらを墜とす気は無かった。殺す気は無かった。だったらその手加減を逆手にとって、逃げの一手を打っても良かったのに。

 

 

 

後悔と反省が無限に湧いてくる。そして、本当の戦争、殺し合いならばあり得ない、幸運なる次の機会が恵まれた。なら、せめて出来ることは全てしよう。いや、しなくてはならない。

オードリーの助けになるために、そして、この訳の分からない宝探しを早急に終わらせるために、力を貸してくれたハサウェイに報いるために、生き残るための力がいる。

 

シミュレーターが、宇宙での戦闘を鮮明に再現してくれる。

迫りくる3機のギラズールに、必死になってくらいつく。悠長にレベルアップできる時間なんてない。だから今は、荒療治でもクリアできないレベルに食らいつく。

そしてユニコーンに戦闘データを反映させ、マシンからパイロットの能力不足を補わせる。

 

一昨日は5分足らずで墜とされていたのに、昨日は5分持った。そして今日は1機墜とせた。

 

レベルを上げろ。為すべきことはそれだけだ。バナージは必死にユニコーンを体になじませていった。

 

 

 

「おーい、バナージ!キャプテンが呼んでるぞ!」

「あ、はーい!」

 

フラストにそう呼ばれ、バナージは仕事を切り上げた。

何だろう?作戦が決まったのかな?いや、なら自分だけ呼ばずに全体ブリーフィングになるか?

 

疑問を感じながらもジンネマンが待つというブリッジへ行くと、そこにはジンネマン、カークス、マリーダ、ロニ、そしてモニターにフロンタルとアンジェロが映っていた。

 

「来たか」

「あ、すみません、お待たせしてしまって」

『いや、こちらこそ仕事中にすまない。バナージ君、察しているとも思うが、次のラプラスプログラムの座標に関してだ。トリントンへユニコーンを誘導するにあたり、様々準備が必要になった。その手伝いを君にしてもらいたい』

「手伝い、ですか?」

 

バナージは困惑しながらそう聞いた。

 

『次なる座標となったトリントンは、ダカールと違い、事情を現地関係者に説明しての隠密作戦がほぼ不可能となった。そのため、まず間違いなく現地の連邦軍との衝突が起きる。その衝突を最小規模に抑え、被害を最小限に抑えるために、作戦を用意した』

 

アンジェロが引き継ぐように説明する。

 

『作戦はこうだ。シドニー湾から大型モビルアーマー「シャンブロ」でもってトリントン基地へ陽動を行い、現地連邦部隊をシドニー湾へおびき寄せる。敵をひきつけシャンブロは遅滞戦闘へ移行。その間に上空で待機中のガランシェールよりユニコーンをポイントへ投下。ラプラスプログラムを更新、更新を確認次第ユニコーンは即時撤退。ユニコーンの護衛にはギラズールを2機付ける。ユニコーンをガランシェールへ収容後、部隊は南極基地へ撤退する』

 

ざっとこんなものだ、とアンジェロは言葉を切った。

 

「ちょっと、待ってください。じゃあ、陽動のモビルアーマーはどうなるんです?」

『敵部隊を十分におびき寄せたのち、可能であれば衝撃を与え撤退。不可の場合は自爆、ないしは撃墜だ。無用な証拠を残さないためにも、投降はない』

「それって、誰かが死ぬ前提の作戦ってことですか!?そんなの……」

『話を最後まで聞け。なぜお前をここに呼んだか、よく考えろ』

 

アンジェロは悪態をつくようにしてそう言い、フロンタルがそれに続けた。

 

『バナージ君、我々とて、片道切符で仲間を戦場へ送り出すなどと言う蛮行はしない。それは軍人として、そして人間として当然の道理だ』

 

モニターにシャンブロの図面が表示される。

 

『陽動を務める大型モビルアーマー、シャンブロは、水陸両用機で、当初複数人で操縦することが考えられていた。しかし、サイコフレームによって、その大部分を思考制御でもって完結できるように制御が簡略化されたのだ。踏み込んで言えば、サイコフレームが脳波を受けとりさえすれば、パイロットがわざわざマシンに乗り続ける必要もない』

 

フロンタルが鷹揚に、言い聞かせるように言葉を切る。

 

『つまり、陽動後の爆破は無人機状態でもって行う。その無人機をコントロールする、サイコミュコントローラーの調整に関して、君の力を借りたい、というわけだ』

 

その言葉に呼吸を落ち着かせ、早とちりを恥じるようにバナージが顔を俯かせた。

 

「ですが大佐、それほど高度な制御をおこなえるコントローラーはとても準備が……」

『ロニ少尉の懸念も分かる。メインパイロットの君は、シャンブロの欠点も良く知ってのことだろう。だが、サイコミュシステム、いや、サイコフレームの技術に関しては、宇宙の方が幾分か技術が進んでいる。そして、運よく我々の元に、サイコミュのスペシャリストがいてね。彼がいなければ、そしてサイコミュを利用できるニュータイプ能力者が複数人いなければ、この作戦はそもそも実現しなかっただろう』

 

モニターに新たに作戦内容が表示される。

 

『サイコフレームは、通信の中継地的な役割もこなしてくれる。例えば宇宙にいる我々が脳波コントロールで地球のサイコミュマシンを動かそうとしても、その脳波は届かずに終わるが、一定間隔で中継地となるサイコフレームを準備すれば、極端な話、宇宙からシャンブロを動かすことさえ可能だと分かった』

 

シドニー湾を中心とした地図に、ポイントが示される。

 

『作戦の第一段階として、カークス少佐の潜水艦部隊が指定のポイントへサイコフレームを搭載したビットの投下を行う。シドニー湾の近海は、落下したコロニーの破片などの金属が埋め尽くされている。発見されることはまず無いだろう』

 

カークスが頷く。

 

『ポイントへビット投下完了後、潜水艦部隊は撤退。その後サイコミュコントローラーを搭載し、水中攻撃用のファンネルとして簡易改修。シャンブロと共に作戦ポイントへ隠密に移動。シャンブロは、ロニ少尉と、マリーダ中尉に操作してもらう。』

 

ロニとマリーダが頷く。

 

『シャンブロはサイコフレームを簡易搭載したゼーズールを背負い戦闘地点へ、マリーダ中尉とロニ少尉、両名はゼーズールへ搭乗、シャンブロをゼーズールよりコントロールし、敵部隊を陽動。ロニ少尉がシャンブロの操縦、マリーダ中尉がシャンブロの装備を含む、サイコミュを搭載した潜水艦の操作をしてもらう。ファンネル使いのマリーダ中尉ならば、問題ないと考えた。そしてユニコーンのラプラスプログラム更新の後、ゼーズールは撤退、同時にシャンブロを敵部隊へ突撃させ爆破。これでもって作戦を完了とする』

 

その説明の旨に、しかしロニは些か訝しげであった。

 

「しかし大佐、重ねてになりますが、サイコフレームの総量はともかくとして、やはりそれほど高度なサイコミュコントローラーは作成できておりません。それに、私とマリーダ中尉と言えども、それほどのマシン制御は……」

『少なくとも現状の装備では不可能だろう。そこで、彼に準備してもらった』

 

彼?とロニが聞き返す前に、モニターにとあるプログラムが表示された。

 

その場にいる誰もがぽかんと呆けたような反応をしたが、バナージだけは即座に理解した。

 

「これ、クシャトリヤに搭載されてたサイコミュコントローラーの……」

『そう、ファンネルの制御技術を、さらに大型改修し、今回の作戦用にOSを作成してもらった』

 

ハサウェイだ。この大胆にして精緻、そして美しささえ感じるプログラミングは、ハサウェイのものだ。バナージは瞬時に理解した。

 

そして、その内容の複雑さも。

 

『我々も宇宙で簡易的にこのOSのテストをした。エースパイロットがするような複雑な操縦は難しいが、基本的な操作は問題なくできると確認している。だが、やはり突貫で作成しただけあって足りない部分も様々あるし、なによりサイコミュの操作感は千差万別だ。宇宙で細かく詰めて、地上では運用できなかった、などとなっては本末転倒だ』

 

バナージは脳内でPCを叩いていた。このOSにどのように枝付けをすればいいのか。そして、どうすれば過不足なくマシンを動かせるようになるかを。

 

『そこでバナージ君。君の力を借りたい。君の能力を、このOSの作成者はこれ以上なく評価し、君の技術とセンスで仕上げたほうが良いものが出来上がるだろうと言っていた。任務遂行のためにも、ロニ少尉とマリーダ中尉の為にも、力を貸してほしい』

「……やります。やって見せます」

 

一瞬間のおいた返答であったが、それは答えに逡巡したものではない。バナージは脳内で自分に話しかけているようだった。出来るよな?やり通せるよな?と。

 

それを、フロンタルは理解していた。フロンタルは穏やかに笑みを浮かべる。

 

『そう言ってもらえると助かる。改めて言うまでもないが、この任務はラプラスプログラムの更新のための作戦だ。陽動の為に戦闘行動を行うが、それによる消耗は可能な限り軽微に済ませたい。その点を理解して欲しい』

 

それがロニへ向けた言葉だとカークスもジンネマンも理解していた。だが、ダカールの時と違い、ロニは酷く落ち着いていた。そして、マリーダはそんな様子のロニにやれやれといった風に笑みを浮かべていた。

 

『任務完了後は、南極の秘密基地へ向かってくれ。アクシズ事件前に総帥閣下が利用していた施設だ。十分な補給物資が用意されている。トリントンの次の座標によって、その次の行動を決めよう』

 

何か疑問は?とフロンタルが問うが、迷いを抱くものは誰もいなかった。

 

『では、よろしく頼む』

 

為すべきことは決まった。

 

 

 

 

 

 

「……壮観ですな」

「アフリカ戦線はどこまで行っても補給との戦いだ。そして、陸路にはやはり限界がある。砂漠がアフリカのイメージやもしれぬが、海もやはりアフリカだよ」

 

ジンネマンとカークスは、北アフリカ沿岸の秘密基地へと拠点を移動させた。それはシャンブロの準備の為でもあるし、その作戦の前段階としての、海底へのサイコフレーム投下の準備の為でもある。

 

岸壁でもって空からの視線を遮り、岩に隠れるようにそれらは並んでいた。

潜水艦ユーコンU801が2隻、そして、それに劣らず巨大なモビルアーマー、シャンブロ。

 

「キャプテンは、一年戦争はアフリカにいたと聞いたが」

「ええ、アフリカで捕虜になりました。ひどい扱いを受けたものですが、その後何とか宇宙へ帰りました」

「そうか、まあ、地上で苦なく生きたジオン軍人はいないか」

 

シャンブロは一部外装も剥がされ、至る所にケーブルが接続され、そのケーブルが集合する先には、大型のPCと、それに難しい表情で向き合うバナージとマリーダ、そしてロニがいた。

 

「ロニ少尉は、地球でお生まれに?」

「ああ、一年戦争が終結してすぐの頃だ。次なる機会をうかがって地球で活動していた我々に、彼女は希望を呼んでくれた」

「……やはり、子供は宝ですな」

「キャプテンは?」

 

カークスの問いに、ジンネマンは首を振った。

 

「今は、マリーダだけです」

「……そうか。すまない、詰まらぬことを聞いた」

「いえ、もう全て終わったことですから」

「そうか……」

 

誰も搭乗していないシャンブロが、ゆっくりと動き出す。腕を持ち上げて、ゆっくりと下ろした。それに周囲の者はおお!と声を上げたが、それを為した3人は渋い顔を浮かべていた。

 

「私は、ずっと迷っていた。マハディ大佐が亡くなった後からずっと、彼女をどうすべきなのかを」

「……彼女は、自ら望んで軍へ?」

「……どうなのだろうな……いや、恐らく選択肢などなかった。ロニはどこまで行ってもマハディ・ガーベイ大佐の娘で、我々にとっては変わりのない旗頭だった。ロニは自分の意思でパイロットへの道を選んだが、それ以外の道があったかと言えば……」

「……彼女は、後悔を口に?」

「いや、ロニはずっとひた向きだった。訓練にも、そして戦闘にも。だが……」

 

カークスはそれ以上言葉を出せなかった。

 

「ガランシェールが地上へ降りてきて、ロニは戦いに急ぐようだった。それは、ダカールのブリーフィングでもそうだったように」

 

ジンネマンはただその言葉を聞いていた。

 

「だが、その後に雰囲気が変わった。ユニコーンから、マリーダ中尉と、バナージ君と共に降りた時からだ。目を腫らして、何事かと思ったが、マリーダ中尉もバナージ君も同じようだった。そしてそれから、あの焦燥感がロニから消えたように思う」

 

ロニは、マリーダとバナージと共にモニターの前でうんうんと様々悩んでいるようだった。だが、その表情には笑みも窺える。

 

「怒りは、中々長く続かないものだ。我々には大義があった。棄民たるスペースノイドの、その誇りと名誉を回復させ、傲慢なる地球連邦と対等なる立場を得ると。それは今でも変わっていない、だが、なかなか難しい。何に対しても本当に、そう思うよ」

 

カークスの様は、どこか後悔しているようだった。

 

「……私も、一年戦争後に宇宙へ戻って、絶望しました。そして怒った。その怒りを晴らすべく、戦いに身を投じ続けた。恨みの多寡はあれ、戦争に身を投じたものは誰しも持つものだと考えます。そして、それを晴らさなくては、前へ進むことも難しい」

「……キャプテンは、晴らすことができたと?」

「大佐のおかげです。少なくとも区切りをつけることはできた。大佐には感謝してもしきれません」

「……そうか、フロンタル大佐は、キャプテンにとって信じるに足る人物だと」

「ええ。そして、なにより人命を尊重する方です。隠密作戦と電撃戦が我々の主戦場でしたが、無理や無茶はあれど、無謀なものはなかった。一年戦争の時よりも、だいぶ楽をさせてもらっています」

 

ジンネマンの言葉に、カークスは思わず笑っていた。ジンネマンも茶目っ気たっぷりにそう言った後、カークスにつられるように笑った。

 

ひとしきり笑って、カークスは再びロニを見つめた。

 

「……マハディ大佐のおかげで、アフリカにはジオン残党が生きるだけの状況が整っている。フロント企業も、今や業績を伸ばし、軍の維持程度はできるようになった。だからこそ、フロンタル大佐は我々に声をかけ、機会を与えてくださったようにも感じる」

 

玉砕覚悟で挑む作戦ではなく、未来へつなげるための作戦。そして、終わりのない復讐に、区切りをつけるための作戦。

 

「フロンタル大佐が、とあるデータをくれたよ。アフリカ戦線で行われた戦闘の、連邦軍関連の作戦データだった。一年戦争のものから、ティターンズ関連のもの、そしてネオジオン抗争のもの。何処のどいつが、どんな非道なことをしたのかまで」

 

肩をすくめるカークスに、ジンネマンは得心がいったように頷いた。

 

「皆死んでいた。マハディ大佐や、奥様を殺した連中も、ジオンと関係ない民間人を焼いた連中も。そして仰った。君たちはどうする?と」

 

お厳しい方だ。そう皮肉気に言おうとして、いや、とかぶりを振った。お優しいから、こうなるのかなと。

その様子を、ジンネマンは懐かしむように笑った。そして、カークスも笑った。

 

「キャプテン、我々もフロンタル大佐についていくよ。20年近く地上で戦い続けた、20年近く、どうすべきか迷い続けた。だが、ロニの未来をこれ以上潰したくない。フロンタル大佐なら、我々に道を示してくれる、そう思えた」

 

ロニが笑っている。そうだ、ロニはあんな笑顔で笑うんだ。子供のころから、屈託なく笑う子だった。どうして忘れていたんだろう。どうして、もっと早く気付けなかったのだろう。

 

いや、まだ遅くない。そして、フロンタル大佐ならば、我々の閉塞していた未来を拓いてくださる。

 

そして、私も変わるのだ。ロニの為に、私たちの娘の為に、為すべきことを為し、未来を拓く。それが、マハディ大佐に遺された我々が、遺されたロニに為すべきことなのだから。

 

「忙しくなるな」

 

水面を照らし反射する太陽の光が、眩しく光っていた。

 




読了ありがとうございました!やっと書けてほっとしてます。

誤字報告ありがとうございます。大変助かります。
そして感想、高評価もありがとうございます。大変励みになります。

引き続き感想、高評価いただけると嬉しいです。
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