ハサウェイがアムロやシャアに影響される前に機械オタクになった世界線のお話 作:陸奥九十九
……本当に申し訳ない。今回もつなぎ回なんだ。
楽しいんで頂ければ嬉しいです。
シドニーの海は、混沌の様相を呈していた。
コロニーの残骸、建物や車だったであろうシドニーの生活の残骸、そして度重なる戦闘で朽ち果てていったモビルスーツの残骸、艦の残骸、潜水艦の残骸。
地獄という場所が本当にあるのならば、きっとここはそのひとつだ。カークスはそう思った。
シドニー湾はクレーター状に繰りぬかれ、海流も波も、行き場を失い荒れ狂っている。そこに天候や気圧の条件も加わると、海は荒れる。そして荒れた海は、海に沈んでいった残骸を掘り返し、海底は地形を変えてゆく。
ここがかつてリゾート地だったなどと、誰が思うのだろう。
海は濁り切り、ヘドロや機械油がたゆたい、もはや生物の住めるような場所ではなくなっている。クレーターの規模が大きく、金属系の残骸が湾に集中したことによって、海の汚染はシドニー湾近海までで収まったとも聞く。それで、これか。
浅瀬はまだいい。表面上は海の様子も落ち着き、魚だって泳いでいる。実際デラーズフリートの連中は廃漁村で漁師として潜伏していたと聞く。野生生物のたくましさを感じる。こんな状況になってもなお、生きてゆける者もいる。
だが、海底近くをさまよえば、それがどれほど表面的なことかと思い知る。
北アフリカの海も汚染がひどくなったと聞いてきたが、これほどでは無かった。何度も訓練で潜水した海は、確かに戦争の痕跡があったが、朽ちていった艦が魚や藻の住処になっていたし、一年戦争前後で漁獲量は落ちていたが、その後は例年通りの漁獲量に戻っていった。
だが、ここはそうでは無いのだろう。
「ポイント到達、ビット射出します」
「…ああ、ビット射出せよ」
射出、の声と共に、サイコフレームを搭載した水中用ビットが射出される。
これはバナージが急遽作成したものだった。シャンブロのリフレクタービットをベースにサイコフレームを搭載し、小型かつ簡易的なサイコミュコントローラーまで搭載した特別仕様だ。感応性能と連動性能に指向性を振り、かつ海底に埋もれないようにセンサーも搭載されている。
基地に余っていたモビルスーツ用のセンサーと小型電池を日曜大工よろしくササっと手を加えて、バナージはこの水中用ビットの試作機を作り上げた。
さすがに水圧の耐久値計算などは専門のメカマンに頼っていたが、それ以外はすべてバナージが作り上げたものだった。
射出されたビットは、リフレクタービットが宙に止まるように、同様にスクリューを回転させ設定された深度を維持する。
「ビット反応、確認始め」
「確認始め」
そして海中に放出されたビットは、サイコフレームによって反応の有無が確認できるようになっている。このシステムはシャンブロの改良型OSを設計したハサウェイの考案であったが、バナージがさらに手を加え、目に見えぬサイコフレームの網を作り出していた。
ビットは、自分以外の他の全てのビットと感応するように再設計された。
そしてその数をコンピューターに認識させ続け、もしいずれかのビットの反応が途絶えるようなら、他のビットとの感応反応を用いて、サイコフレームの感応範囲の網を再設定させる。
そしてその再設定も、ゼーズールのサイコミュコントローラーからリアルタイムで更新可能な設定にしたという。
これにより常に円滑な遠隔操作が理論的には可能になった。
「反応確認しました」
「よし、次なるポイントへ向かえ」
「了解」
シドニー湾の海底付近は混沌を様している。しかし、だからこそカークスは潜水艦での行動が自由に出来ていた。
連邦の艦が海上にて巡回を行っているし、海中も潜水艦が巡回をしているが、海底付近までわざわざ降りてくる艦は、この3日で1隻とて無かった。
海流に乗って静音航行を厳守し、時折荒れる波におびえながらも、必死に敵影に警戒するが、そんな必要もないほどに任務は順調に進んでいた。
当初は連邦の怠慢かと思いもしたが、いやそれもあるのだろうが、それ以上に海底環境が魔窟過ぎるのだ。昨日と今日で地形が変われば、さらに言えば半日で地形が変われば、どれほどの警戒が出来よう。
もしわれわれが連邦の立場で、この海域で厳重警戒するとして、どこまで何を見やればいいのか、そう考えた時、カークスはこの海域での海中戦の難しさを感じ取った。
そして、それが現状有利に働いていることも。
20年近く地球で生き、地球を知り、そしてかつて破壊した地球の環境に助けられる。
なんて皮肉だろうな。カークスは思わず眉をしかめた。
※
トリントンまでの道のりは長いものとなる。
当然だが、地球を約半周することになる。これがガランシェールのみであれば1日足らずで着く道のりだが、そこに潜水艦とシャンブロが同道するのだ。
いくらユーコンとシャンブロの足が速いとはいえ、海中での移動速度はそれでも30ノット程度。瞬間的に40ノットオーバーを出すことは可能だが、常時その速度を維持するのは難しい。
単純計算で、ダカールからケープタウンまで約1万キロ、ケープタウンからトリントンまで約1.5万キロ、合計約2.5万キロの道のりを30ノット≒約56km/hで休まずに移動したとしても、移動だけで約19日かかる計算になる。
そこで、移動はガルダを使用することとなった。
北アフリカの物資補給用に連邦軍が使用しているガルダを裏取引して貸してもらい、シャンブロ、そしてユーコンまで搭載、先んじて南極の秘密基地へ移動、最終調整を済ませ、トリントンへの攻撃準備をすることとなった。
カークスが作戦の第一段階として水中用ビットを海底に設置する最中、陽動の要となるシャンブロの調整は、思いのほか難航していた。
「……ダメ、反応が鈍い」
「ユーコンもだ。もっと反応速度を上げろ」
南極についてから、約2日、バナージは遠隔操縦用のOSを必死に詰めてはいるが、その性能の向上は大きく見られなかった。いや、むしろ悪化しているともいえる。
ハサウェイが設計した時点でのOSの操作ラグは、約0.5秒。大型モビルアーマーの操縦ラグとしては、まあ許容できるかというレベルだった。ただ、シャンブロはリフレクタービットを利用しての拡散砲も使用する。しかも敵をひきつけての陽動だ、張子の虎と敵にばれては元も子もない。
問題なく戦闘が出来、かつ敵のヘイトをコントロールできるレベルでの戦闘を行うためには、ラグ約0.3秒、そこが分水嶺だとロニとマリーダは考えた。
そこからバナージにとっての地獄が始まった。
ユーコンとシャンブロを海上に待機させ、ロニとマリーダはゼーズールから、サイコフレーム搭載ビットを介して操作を行う。
だが、これが上手くいかなかった。
「どうして反応速度が上下するんだ……?サイコフレームの共振が状況によって変化する?いや、だったらユニコーンの反応速度だって変わるはずだ、でもそうはなってない。周辺の環境で伝達が遅れるのか?ありえない。サイコフレームの共振はサイコフィールドの展開だ。関係するのはあくまでもニュータイプ能力の多寡であって、プラズマでセンサーが壊れるような宙域でもサイコミュは問題なく使用できていた。なら感応波の受容レベルをもっと鋭敏にすればいいのか?いや、それでさっきむしろ反応速度は落ちただろ。……なら、サイコミュコントローラーそのものが信号をキャッチできていない?」
バナージは、ハサウェイの組んだOSを読み解けずにいた。
ハサウェイは言っていた。仕上げはバナージがやった方がいいものが出来上がると。それはすなわち、いつも通りベーシックまでしか作っていないという話だ。ここから枝を伸ばさせる必要がある。しかも慣れない地上の環境で。だからこそ、この基礎となるOSをバナージは隅から隅まで読み解いた。
その上で、何か所か手を加え、試作第一弾が完成した。
だが、結果は散々なものだった。
反応速度の向上はほぼ無し。枝葉を伸ばしたつもりのOSは単純に処理の負荷になり、発展性が完全に間違っていたことだけ理解した。
だからこそ、元のOSを改めて読み解いたわけであるが、、しかして何か大きな発見は無かった。
これまでハサウェイが基礎を組み、バナージが展開させたOSは数あれど、その多くがモビルスーツの基礎的なOSばかりだった。機体で言えばジムIIIとジェガン、最近はグスタフカールというジェガンの発展機もあったが、多くは基礎を伸ばした優等生のモビルスーツだった。
そしてサイコミュ搭載モビルスーツも当然無かった。バナージが初めて触ったサイコミュマシンはユニコーンだ。そして、クシャトリヤのOSはほぼさわっていない。というより、さわれるほどの時間が無かった。
当然の話ではあるが、サイコミュシステムはゴリゴリの軍事機密である。アナハイムのアルバイトでもさわることは無いし、ましてや工専の授業で取り扱うことも無い。
つまり、バナージは初めて触る課題を、読み解き学習しながら、その発展形を見つける必要があった。
これは、さながら溺れながら泳ぎ方を見つけて、速く泳ぐ方法を見つけるようなものである。
ハサウェイは、紛れもない天才だった。少なくともコンピューター関係に関して言えば、現代モビルスーツの学習コンピューターの基礎を作った大天才、コウ・トミナガをして天才と言わしめるほどの才能がある。
そして、持ち前のニュータイプ能力でもってその才能を開花させ、ファンネルの制御OS、そして、インテンション・オートマチック技術の基礎を開発し、その上で学習コンピューターの改良にさえ成功している。もっともそれは、ハサウェイ本人もあずかり知らぬことではあるが。
3日。ハサウェイがファンネルの基礎OSを作り上げ、そしてインテンション・オートマチック技術を開発するのにかかった日数である。そしてこれには、ニューガンダムのセットアップも含まれる。
現代モビルスーツのハイエンド機の基礎を、ハサウェイはロンデニオンからアクシズへ向かう道すがら、しかも、あくまでニューガンダムのフィッティングの延長線上で作り出した。
1年と6か月。ハサウェイが3日で作り出したOSを、アナハイムの技術者が完全に解読するまでにかかった期間である。
バナージは優秀なメカニックである。基本に忠実で、ミスをせず、そしてイメージができる。そのマシンやシステムが発展していくべき先、こうあるべきというイメージ。
だが、それを実現させるための技術は、まだ足りていなかった。
そしてその事実を、誰よりもバナージは理解していた。
OSのラグを解消するために、既に2日消費している。カークスがユーコンでの任務を終えて帰還するまで、予定ではあと5日。足踏みしている時間は、もう無くなっていた。
「現状の問題は脳波をキャッチできていないこと。もしくは脳波そのものが届いていない状況にあること。どこかで水が漏れているんだ。それがホースの亀裂なのか、継ぎ目の漏水なのか、蛇口の問題なのか……」
いや、この足踏みはもうやった。分かることは、このスケールで問題を見つけようとしても、今の技術力では発見できないということだ。
「なら、スケールを大きくすればいい」
視点を変えろ。
「通っているかどうかわからないホースを使うんじゃない、確実に穴の開いていないホースを用意すればいい。水が流れているか分からないのなら、確実に水が流れるようにすればいい」
そうだ、初心に帰れ。お前が最初に触ったサイコミュマシンは、何だ?
ユニコーンだろ。
「シャンブロ、ゼーズール、そして展開されるすべてのビットのサイコフレームを使ってサイコフィールドを形成、サイコフィールド内ですべての情報伝達を完結させればいい。今のOSを基礎の基礎に打ち換えて、薄く広いサイコフィールドを展開させるための発展形OSを作成し搭載させる」
シャンブロだから出来ること。きっと通常のモビルスーツではキャパシティ的に間違いなく不可能だった。簡略化され、サイコフレームによってパイロット一人で制御できるようになったOSを、先祖返りさせるように肥大化させ、キャパを使いつくす。
そして、それだけのキャパシティが、シャンブロには元々用意されている。
「領域を広げて、その領域内ですべてを完結させる。海底に打たれたポイントからしてシドニー湾からトリントン基地までサイコフィールドを展開できる。そして上陸後にリフレクタービットを展開させれば、トリントン基地への強襲までは問題なく完結できる」
ハサウェイのように奇麗に式を解こうとするな。そんな技術は現状ない。
不格好でいい。確率問題をしらみつぶしで解くように、遠大で、雑で、それでも問題を解ければいい。
「さあ、かかるぞ」
為すべきを為せ。
※
ロニにとって、ガランシェールが地球に降りてからの日々は酷く新鮮なものだった。
これまでの人生で、果たしてこんな時間があっただろうか?任務で戦闘へ向かうというのに、その準備がとても楽しかったのだ。
階級は違えど、年の近いマリーダと、どうすれば戦闘が上手くいくかを議論し合い、時にシミュレーターで戦闘をして、ご飯を食べて、そしてまた明日と言って眠る。
弟のような、友達のような、どこかマリーダより気安く、ほんの少しナイーブなバナージと、シャンブロのセッティングで意見を出し合い、マリーダと一緒にダメ出しをして、それをどんどん改善していき、想定をはるかに上回るレベルのOSを準備してくれた。
思えば、年の近い誰かと一緒にいることなんて、これまでほとんどなかったな、とロニは思った。
私の周りには、いつも父の忠臣たちがいた。マハディ・ガーベイ大佐の娘、そのフィルターが必ず通る。軍に入る以前は、姫様とまで呼ばれることがあった。
それが嫌だったわけじゃない。父のことは尊敬していたし、その父を敬う偉丈夫な軍人たちのことも尊敬していた。でも、どこまで行っても気安い関係というものはなかったし、そんなものを私も求めなかった。
恨みを晴らすのだと、その恨みを晴らす装置なのだと自分を定義して、注がれる怨念や絶望を受け止め、連邦と戦うことこそが自らの運命なのだと、そう定めたのはいつだっただろう。
誰に請われるまでもなく、私は私をマシンのように扱っていた。
そして、それを求められてもいた。
だからこそ、マリーダとバナージは私に安らぎをくれた。
軽口をたたいて、じゃれ合って、喧嘩し合って、笑い合って。
命を懸けて戦闘を起こす、その前準備をしているというのに、どこか緊張感はなかった。
シャンブロの反応が鈍いぞとバナージにダメ出しをして、目を血走らせながら、若干笑ってPCにプログラムを打ち込むバナージに恐れおののきながら。
大型モビルアーマーの扱いや水中戦の心得があまりないマリーダに戦闘を教えながら、そしてゼーズールからシャンブロの操縦を行う特異性と、ゼーズールの操作とファンネル化したユーコンの操作を同時に行うマリーダに戦慄しながら、
まるで学校へ通うかのように、時間が過ぎ去っていく。
こんな時間がずっと続けばいいと思った。
バナージは守りたい人がいて、この戦いに身を投じたのもその人の為という。
バナージの親友で、マリーダとも交友のある少年がいて、本当に気持ちのいい人だという。
会ってみたいな、純粋にそう思った。
バナージの居たインダストリアル7に、その友人の少年と一緒に行った大衆レストランがあって、そこのハンバーグステーキなる料理が絶品だという。
マリーダは、実はアイスクリームが好きで、あまり食べる機会はないが、食べる機会があれば必ず頼むのだという。
そう言ったら、バナージが、インダストリアル7に美味しいお店があると言って。今度みんなで食べに行こう、なんて言って。
ああ、楽しいなと。そう思った。
楽しくて、嬉しくて、時折泣きそうになって。そうすると、何も言わずにマリーダが肩を抱き寄せていた。その時決まって、小さい子供を見るように、しょうがないなと言わんばかりの顔をして。
バナージは気を利かせたかのように飲み物を持ってきて。
友達とはこういうものか、そう思った。
クラブスポーツに注力するように、目標に向かって皆で力を合わせて、準備して、努力して。
戦争をしに行くというのに、それはアフリカでの戦闘と変わらないというのに、どこか陰鬱さがなく、そう、恨みや嫉みというものが感じられなかった。
連邦を殺せ、あの破廉恥漢どもに鉛弾を叩き込め、ネオジオン万歳。
そんなおどろおどろしさはなく、誰もが任務に真摯だった。
シドニー湾から急襲、トリントン基地へ攻撃を叩きこんだら即座に転進、シドニー湾まで後退し敵をひきつける。
ユニコーンの行動が完了し次第海上へ後退、ユニコーン回収後にシャンブロは自爆。ゼーズールはシドニー湾から南極基地へ撤退。
そうか、軍とは本来こういうものなのか。純粋にそう思った。
この整然さと比べれば、確かにジオン残党軍はテロリストなのかもしれない。
連邦は嫌いだ。それは今でも変わらない。でも、無策で挑んで、玉砕覚悟で挑めば勝てるような相手でも当然ない。だから残党軍は誰もが悪態をついた。
現状のままでは勝てない、そう分かっていたから。
そうか、これは勝てる戦いなのか。
そうだ、フロンタル大佐が立てた作戦、我々が準備したシャンブロ、そして、バナージが最後に整えたサイコミュシステム。
全てが確実に仕事をすれば、ユニコーンのラプラスプログラムの更新はでき、人的損失無く任務を達成できる、はずだ。
何故だろう。アフリカにいた頃、私はあれほどその時を待ち、その時が来るのを願っていた。
だが今は、その時が来ることを怖がっている。
あの頃は、準備などどうだっていい。戦場へ、戦争へ、命を捧げる機会を、そう願っていたのに。
今は、この準備の時間が永遠に続けばいいのに、なんて思っている。
そうだ、私はこれから戦争へ行くのだ。
負ければすべてを失う。お父様の遺産、そしてバナージとマリーダと共に作り上げた、このシャンブロも。任務が失敗すれば、これほど時間をかけたのに、シャンブロは無用の長物だったことになる。
いや、本当にそれか?私が恐れていることは、そんなことか?
違う。
私は、マリーダやバナージを失うことを恐れている。こんなに楽しかった時間が、煙のように霧散してしまう可能性に恐れている。
いつか叶うかもしれない、バナージとマリーダと、みんなで一緒にレストランへ行く機会が、その未来が無くなってしまう可能性を、恐れている。
「っはは……」
漏れ出た声が、あまりにも寒々しく、ロニはその事実にさえ驚いていた。
戦争だ。戦争をするんだ。私が望んだ戦争だ。
なのに、その戦争を、私は何よりも恐れている。
「っはあぁ……」
とうの昔に渡ったと思っていたルビコン川が、今、目の前にやってきた。
荒れる呼吸を飼い慣らし、ロニは深く深呼吸をする。南極基地は、空調が効いているのに空気が冷たい。冷たい空気が肺を満たし、それがロニを落ち着かせた。
「……どうした?眠れないのか」
「……マリーダ……」
休憩所でひとり佇むロニに、マリーダが声をかけた。
「怖くなっているのよ。おかしいでしょ?」
空元気を振り絞るロニを見て、マリーダはため息をつく。
ロニの腰かけるソファに押し掛けるように座り、マリーダはロニの頭を肩に寄せた。
「……なによ」
「戦闘は初めてか?」
「……ええ」
「なら、その緊張は普通のものだ。生きるか死ぬかの場に出るんだ。誰だって恐ろしくなる」
「……でも、私は望んでいたわ。戦場へ出ることを。戦争へ行くことを。なのに、いざその時が来れば、怖くなった」
「……私もそうだったよ。戦うために生み出されたのに、戦場が恐ろしかった。生きて帰れて、心底ほっとした。部隊柄、新兵というものとは縁遠かったが、こういうものなのかな?」
マリーダはニヤリと笑みを浮かべる。それに、ロニは少し眉をしかめて、すぐに表情を崩し、くつくつと笑った。マリーダもその笑みにつられて笑う。
「姉妹がいれば、こういう感じなのかな?」
「そうだな、私も姉はたくさんいたが、妹はあまりいなかったからな。新鮮だよ」
「え?マリーダが姉なの?」
「は?どう考えても私が姉だろう?」
「いやいやいや、私、マリーダ、バナージの順でしょ?どう考えても」
「私、ロニ、バナージの順だろ?お前に姉を感じたことは無い」
いやいやいやいや、と二人とも妹を押し付け合う。そして、ふと我に返って、また二人とも笑う。
「……明日、なのね」
「……そうだな」
「あれ?マリーダ緊張してる?」
「それはお前だろう?心配するな、戦闘中はこの頼もしい姉が常に後ろにいる。怖くなったら声をかけていいぞ?」
「複座式コクピットの前後入れ替えてもらおうかしら?」
「ほう?姉の頼もしい背中を常に見ていたいか。ならば仕方ないな」
「ああ、マリーダの背中でモニターが見えなくなりそうだから私が前の方がいいわね」
「まあ、姉の背中は大きいものだからな」
「無駄に背が高いだけでしょ?ただでさえ狭いコクピットなんだから、小さくなってなさい」
軽口をたたき合いながらも、それが酷く心地よかった。そして、あれほど恐ろしかった何かは、いつの間にか霧散していた。
「……それじゃ、お休み。また明日」
「……ああ、また明日。よく眠れ」
戦場の恐ろしさは変わらない。けれど、乗り越えるんだ。それが、戦うもののさだめならば。
ロニの足取りは、ほんの少し軽くなっていた。
読了ありがとうございました!
次回!トリントン基地襲撃!の、予定です!
誤字報告ありがとうございます。私は必ず誤字をする。多分読み返しが足りないんでしょう。許してください。
そしていつも感想、高評価ありがとうございます。
引き続き感想、高評価、よろしくお願いいたします。
この醜き承認欲求モンスターの為に、皆さまの感想を頂戴したく存じます。