ハサウェイがアムロやシャアに影響される前に機械オタクになった世界線のお話   作:陸奥九十九

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やっと戦闘書けたー、トリントンまで異様に長かった!
さてここからどうしよう。何も考えてません。どうしようか、明日の私、頑張って考えてね!

お楽しみいただければ幸いです。


戦術的敗北

その日は新月の夜だった。

環境汚染によって空を見上げども輝く星の光は鈍く、街灯の明かりが照らす程度の明かりが、トリントンを辛うじて深い闇から守っていた。

 

哨戒の兵士らも、街灯に照らされた灯の周囲十数メートル以上は何も見えない状況であったが、そこに緊張の色は無かった。

 

ここはトリントン、捨てられた土地。

軍事的に重要な拠点でなく、かつてのように兵器開発のためにアナハイムが利用する土地でもなく、ましてや連邦が力を入れて管理するような重要な資源も無い。

 

ただあるのは、給料のために日々を過ごす兵士と、政治的に失脚した将校、あとは雑多な兵器と、その雑多な兵器を開発した将校、そんなものだ。

 

かつての美しかったシドニーを懐かしむ者も、もうここにはいない。

オペラハウスも、ハーバーブリッジも、ボンダイビーチも、すべては絶望のシドニー湾の底だ。そして、それを愛する者たちもまた。

 

それでも人は生きてゆかねばならない。

 

復興未だならず。シドニー湾近辺には、まだ手付かずの廃墟が広がっている。かつて落ちたコロニーの残骸は突き刺さったまま、もはや風化し残骸を残すだけのかつての街並みも、そのままになっている。

 

災害となったコロニー落としを過去の記憶にしないため、なんてセンチな話ではない。この地を再開発するだけのメリットがないからだ。

 

シドニー湾を抜けて、トリントン基地を抜けていけば、そこには市街が広がっている。

そこにはかつてのシドニーの賑わいを彷彿とさせるほどの街が続き、シドニーに思い入れのある者たちは、この境界を隔てて、シドニーを悼んでいる。

 

日々を生きるために必要なものは、感傷などではない。必要なのは生きる場所だ。そして、コロニー落としによって地盤から引っぺがされたグラウンドゼロに、人を乗せて、街を乗せて、平穏無事に生活できるだけの能力は残っていなかった。

 

それでも日々を生きる兵士たちはこう思うのだ。

 

あの奇麗な街を守ってやらなきゃな。シドニーの二の舞は、もうごめんだなと。

 

オーストラリア以外で生まれ、たまたまトリントンに赴任した兵士でさえそう思った。

もはや地球に、戦争の痕跡が残っていない場所などない。戦争の痕跡、虐殺の痕跡、破壊の痕跡、絶望の痕跡。一年戦争以降、いや、宇宙世紀が始まるその以前から、地球のどこかでは、必ず争いがあった。

一年戦争は、それをさらに際立たせただけだ。皆誰もが傷ついている。そして、その傷が癒える者もいれば、癒えない者もいる。そして、癒える前に、再び戦争に巻き込まれる者もいる。

 

せめて、再び戦争に巻き込まれることが無いように、そして、戦争が起これば、それをすぐに終わらせられるように。

 

それは祈りだ。兵士の誰もが日々そんなことを思っているわけでは無い。日々の生活はもっと惰性にまみれている。でも、それは心の内側に常にあるものであった。

 

平和であれ。願わくば平和がずっと続けと。生きとし生ける全てのものの、とても原始的で、とても尊い、そんな祈り。

 

 

 

しかし、祈りだけで平和が続くなど、そんな都合のいいことはあり得ない。

 

 

 

その兵士は光を見た。

シドニー湾から伸びる光。その光は眩しく、一瞬の静寂の後、空気を引き裂いてオゾン臭が訪れた。

 

ドゴオオォォーーーーーン……

 

衝撃。その一撃は格納庫をなぎ倒し、アスファルトを引きはがし、轟音と風圧でもってその兵士を吹き飛ばした。

 

「て、敵襲ううぅぅーーーー!!」

 

その叫び声にどれほどの意味があったのかは分からない。ただ、訓練で刻まれた反復行動が、彼にその言葉を叫ばせていた。

 

ウウゥゥーーー、とサイレンが鳴り、夜を切り裂くほどの喧騒が始まる。

 

祈りで平和は生まれない。

身構えているときに、死神はやってこない。

 

 

 

 

 

 

「命中。シャンブロを上陸させる」

 

シドニー湾海底、ゼーズールの中から、ロニはシャンブロを操縦していた。

ヘルメットではなく、大型のゴーグル付きのヘッドセットを装着し、そのゴーグルに投影されたシャンブロのモニター映像を、ロニは確認していた。

 

「操作ラグはどうだ?」

「ラグなし。訓練通りよ、いけるわ」

「よし、予定通りに上陸後にビット展開、サイコフィールドを広げ、ユニコーンを捕捉しろ」

「了解。シャンブロ、上陸」

 

湾岸を削り取りながら、シャンブロが行く。

慌てたように出てくる連邦のモビルスーツがシャンブロを止めんと武器を向けるが、それは物の数にもならない。

 

ビームライフル、バズーカ、マシンガン、多種多様な攻撃が、シャンブロの展開するサイコフィールドの壁に阻まれ、その装甲に傷をつけることさえない。

 

そして、ジャブのように放つ拡散メガ粒子砲は、確実に敵を蹴散らしていく。構えるシールドも、その装甲も、もはや紙切れほどの価値しかないという様に。

 

「リフレクタービット展開」

 

始めて敵と相対し、初めて敵を殺した。しかし、ロニの心は凪いでいた。

戦場の緊張はある、そして、敵を殺したいくばくかの罪悪感も。敵を殺した、憎むべき連邦兵だ、そう理解する一方で、その作戦行動に動揺することも、高揚することも無かった。

 

ただ淡々と、ロニは作戦行動のフェーズを消化していく。

 

「海上兵力が出てきた。こちらで対処する」

「お願い、思ったより余裕がないわ。緊張してるかも」

「初陣だ、気にするな。この姉がフォローしてやる」

「それについては作戦が終わった後でバナージも巻き込んで話しましょう。大変不満があるから」

 

軽口をたたきながらも、ロニは己の消耗を感じ、そしてマリーダもその状況を理解していた。

 

乗る人間があまりにも少ないためデータとして確認されたわけでは無いが、サイコミュマシンはパイロットを消耗させる。これはマリーダの経験則だった。

ギラズールで行う戦闘と、クシャトリヤで行う戦闘での疲労度は、大げさでなく桁が違う。クシャトリヤでの5分の戦闘は、ギラズールの30分の戦闘に匹敵するかもしれない。あくまで体感であるし、ファンネルを多用する状況か否かでも変わってくるが、サイコミュマシンは乗っているだけで消耗するのだ。

 

そして、シャンブロは現在、サイコフィールドでもって完全遠隔で操縦している。任務上必然ではあったが、これは常にファンネルを操作しているようなものだ。

 

ロニにはサイコミュの適性があり、その適性値は強化せずともファンネルを操作できる程度に高いものである。それでも、初陣のパイロットがこなすには、若干の不安が残る状況でもあった。

 

10分。今回の作戦時間である。

 

上陸しトリントン基地へ向かうまでで3分、来た道を引き返して3分、敵を沿岸で引きつけるのに2分、撤退しその途中でシャンブロを自爆させるのに2分。合計10分の任務だ。

 

当初15分~20分の予定だった任務を、可能な限り短縮させて、このスケジュールになった。

 

当初はマリーダがシャンブロを操縦する案もあったが、ロニではゼーズールの操縦と潜水艦2隻の遠隔操縦、そして状況によって発生するゼーズール戦闘、この3役をこなすのは能力的に無理だとして、予定通りロニがシャンブロを操縦することになった。

 

しかし、シャンブロの戦闘の全てを、完全にロニ一人が負担するわけでは無い。

 

サイコフィールドの維持と、海中のビットの管理はマリーダが負担する。

その為、ロニはシャンブロの移動と、敵への攻撃、その二つに注力することが出来ていた。

 

 

 

 

負担としてはマリーダが大きい。しかし、マリーダは歴戦の古強者である。

 

海中戦の妙など、マリーダは知らぬ。しかし、それでもなおマリーダは連邦の海上戦力に対し、常にアドバンテージを持てていた。

 

理由は単純、サイコフィールドである。サイコフィールド内のエネルギーを持って動く存在、それらの動きが常にマリーダには感知できていた。

 

敵が領域内に入ってきた、これはモビルスーツだ、こちらは艦だ。

 

パッシブソナーもアクティブソナーも必要ない、サイコフィールドが展開されたシドニー湾は、既にマリーダのキリングレンジなのだから。

 

ロニが行動を声に出し、確認しながら、間違いのないように確実に消化していくのに対し、マリーダはそんなロニを時に励まし、時にフォローしながら、恐るべき早さで水中戦力を排除していた。

 

ユーコンの魚雷積載数は、1隻当たり52発。2隻で合計104発。

 

そして、サイコフィールド内であれば、マリーダは発射した魚雷の完全誘導さえ可能であった。

シドニー湾にいる限り、敵は逃げることさえできない。

この状況を作った時点で、水中戦でマリーダが敗北する道は存在していなかった。

 

 

 

「サイコフィールド内にユニコーンを確認!予定通りね、第三フェーズへ移行」

「了解、第三フェーズへ移行。じりじりと引け。このタイミングなら、敵はエネルギー切れかマシントラブルあたりを推測する。食いついてくるぞ」

「了解、敵格納庫を優先で潰しつつ、撤退する」

 

シャンブロが展開したサイコフィールドは頑強である。量産モビルスーツが携行する火器では貫くことはまずできないし、艦砲クラスを用いても、状況次第では完全防御が可能なほど強固である。

 

そして、それが敵に誤認させる。これほど強固なビームシールドを、ジオンは開発していたのかと。そして、これほど強化のシールドを展開させているのであれば、その消費エネルギーは並大抵ではない。長時間の戦闘など不可能だと。

 

シャンブロの意図された後退を、敵はエネルギー切れだとしっかりと誤認してくれた。

 

シャンブロの後退に合わせて、連邦機が撒き餌に飛びつく魚のように引き寄せられていく。その状況にロニは胸をなでおろした。トリントン基地の、そのモビルスーツ部隊のほぼすべてが、シャンブロへと殺到してくる。

そして、一定の距離を置きながら牽制の様に攻撃を重ねて来る。そして、その接近や攻撃を嫌がるように、拡散メガ粒子砲をリフレクタービットでさらに拡散させ、敵へ餌を撒く。

 

量産モビルスーツでもシールドならば防げる程度の攻撃、ただし、運悪くコクピットをかすめれば確実に墜とされる、それを、エネルギー不足にあえぐように、状況に苦しむように、ひたすら引き気味に撃っていく。

 

敵の接近を嫌がるように、物理クローで迫る敵機を振り払って、ロニはアピールする。接近されたくない、距離を取らなきゃ、砲撃で敵を牽制して、正面に来たらメガ粒子砲で蹴散らしてやる。

 

憐れなジオン残党が、最後の力を振り絞って用意した、時代遅れの一張羅の大型モビルアーマー。一気呵成に僻地の基地へ、最後の花火を上げようと奇襲をかけたが、やはり憐れかな残党軍。孤軍奮闘虚しく、最後はエネルギー尽きてハチの巣に。憐れなる残党軍、やはり連邦が勝つのかと。

 

ロニがそこまで意図して、さながら演技するかのように戦闘を運んだわけでは決してないが、初陣の緊張、サイコミュシステムの消耗、そして、単純に戦闘に慣れていないその様子が、そんな妄想を連邦側に想起させた。

 

「集中は持ちそうか?」

「大丈夫、持たせるわ。それに、サイコフィールド、結構肩代わりしてくれてるでしょ?お姉ちゃんとしては、妹に頼りきりじゃ面目が立たないもの」

 

顎から伝う汗をぬぐいながら、疲れをにじませる声でロニは茶目っ気たっぷりにそう言う。その様子にマリーダも微笑を浮かべる。

 

「敵部隊もかなり食いついてきている。正面の敵をメガ粒子砲で薙ぎ払え。その後一気に後退、敵も食いついてくるだろう。気張れよ、あと一息だ」

「了解!」

 

任務はフロンタルの想定通りに運び、そして想定通りに、トリントンのモビルスーツ部隊はシャンブロに陽動されていた。マリーダが分析する通りに、任務は順調に推移していた。

 

 

 

マリーダたちにミスはなかった。ただ、想定外の敵が現れるのも、また戦争の常道であった。

 

「っ!ユニコーンに接近する敵影有り!数は、3!」

「なにっ」

 

もしミスがあったとすれば、予定された行動を、予定通りにできていることに疑問を抱かなかったことだろう。

 

 

 

 

 

 

バナージがそれに気付けたのは偶然だった。

嫌な予感がする、そしてその予感に、ユニコーンが無意識レベルで反応した。

 

「なっ!」

 

ユニコーンが、シールドを構える。シールドに撃ちこまれたビームは、Iフィールドでもその威力を吸収しきれず、ユニコーンを後退させた。

 

『バナージ!?』

「敵襲です!こっちに来ました!」

 

叫ぶギルボアの声に返答するバナージだったが、ユニコーンが捕らえた敵影に、思わず声が漏れていた。

 

「グスタフ、カール……!」

 

それはアナハイムのアルバイトで見た、連邦の最新鋭機。ジェガンをさらに高性能に発展させ、大型ジェネレーター、追加装甲、そして追加装備。トップエースに受領される予定の、ハイエンドモデル。

その性能に、ハサウェイと共に驚いた記憶がある。このマシンは、ガンダムに匹敵する性能だと。

 

 

 

そんなハイエンドモデルが、2機。

一機は大型のビームライフル、いや、ビームランチャーを装備した遠距離仕様。もう一機は、左肩部にのみ装備される物理盾を両肩に装備し、腰に大型ビームサーベルであろう装備を携えた、近距離仕様。

 

「ギルボアさん、ガンダムクラスが2機……」

 

通信を入れようとして、その場から退く。

 

空!?と面食らうバナージを余所に、ユニコーンは迫りくる3機目の敵影をモニターに映していた。

 

「リゼル!」

 

しかしその機影は、バナージがネェルアーガマで見たものと少し違った。ネェルアーガマにいたリゼルよりも、シルエットが大きい、その原因は背負っているユニットが大きく、また、装備するビームライフルが大型であったからに他ならない。

リゼル・ディフェンサー。単独での戦闘飛行が可能な可変機を、さらに高火力、高機動に振った仕様のマシンであった。

 

「ギルボアさん!グスタフカールが2機、リゼルが1機です!アイバンさんと一緒に遠距離仕様のグスタフカールをお願いします!」

『残りはどうする!』

「敵の狙いはユニコーンです!ひきつけます!」

 

グスタフカールが迫る。速い!バナージはそう驚愕するが、反応できる。

 

大型ビームサーベルで迫るグスタフカールをビームトンファーでいなす、その瞬間に、リゼルが空からユニコーンを狙撃する。

 

鍔迫り合いのまま回避しようとするが、横に回るユニコーンをグスタフカールがシールドで押し出し、距離を取った瞬間にコクピットに蹴りを入れようとする。

 

後退することでユニコーンはそれを回避するが、後退と同時にグスタフカールはバルカンで、リゼルはライフルでユニコーンを撃つ。

 

完璧な連携。そして、ユニコーン封じのような高火力と高機動力。予定された襲撃かの様に、グスタフカールとリゼルはユニコーンと相対していた。

 

 

 

彼らは、初めからユニコーンを狙っていたのだ。

 

連邦は、一枚岩ではない。

フロンタルがダカールでコンタクトを取った連邦高官は、ゴップの息がかかったものだった。曰く真面目、曰く有能、しかして弱腰。蕭何と言えるほど有能ではないが、それでも優秀な官僚だと。そして、連邦の腐敗が無ければ、間違いなく中央参謀本部に勤めていた人材だとも。

 

アクシズ事件以前、ロンドベルに物資と最新鋭機を渡すためにジョン・バウアーのもとで働いていたが、ロンドベルの戦力増強を嫌った一部の連邦政府高官によって、半ば懲罰人事の様にダカールに飛ばされ、今なおダカールに勤めている男だった。

もっとも、本人にまったく出世欲がないため、そのことを惜しんでいるわけでもないのだが。

 

そしてゴップの要請に彼は応えた。ガルダの手配も彼が行ったものであるし、フロンタルがゴップと繋がっていることも知り、多くを融通した。ゴップ閣下が動いている状況ならば、間違いなく動くべき。自らを寄生虫などと揶揄するゴップの本質を、彼は理解していたから。

 

連邦のため働くとは、宇宙に住む全人類のため働くことである。その奇麗ごとのような大義名分を、彼は自分が行える範囲で実行していた。

 

汚職に手を染めることなく、虐殺のような治安警備に手を貸すことなく、むしろそれらを清浄化させ、かつてネオジオンによって統治されたダカールを、そのダカール中枢に忍び込んでいた反連邦勢力を、表面的にも一掃したのである。

 

しかし、それを気に食わないと思う者もいる。

 

アフリカで生まれ、アフリカで育ち、ネオジオン抗争でも生き残ることができた現地の連邦職員にとって、彼はただの外様の邪魔ものだった。そして、自分たちのシノギが減ったとも。良くも悪くもそれまでダカールにいた政府職員は、酸いも甘いも飲み込める者たちだった。そして、清廉潔白な者たちは先のネオジオン抗争の折に排除されてしまった。

 

だからこそ、ダカールの連邦職員にとって、彼は目の上のたんこぶのような存在だった。

 

そこに、マーサ・ビスト・カーバインは手を伸ばした。

 

彼女は極めて優秀なネゴシエーターでもあった。手法は常にイニシアチブを取り、相手の弱みを握り、最後にほんの少し譲歩して美味しいところをかっさらうという、ヤクザ顔負けのホットリーディングであったが。

 

地球とコロニー、そして月において、アナハイムの息が掛かっていない場所は存在しない。

 

彼女はありとあらゆる場所に目と耳を用意していた。

彼女が声をかければロンドベルを招集することもできるし、ゼネラルレビルを手配することも可能だ。

そしてそれらの駒を動かすための、情報収集も。

 

彼女はその優秀な目と耳でもって、アフリカにおそらくユニコーンが下りたであろうことを確認していた。ネェルアーガマにいたアルベルトの情報もそうだが、その他の情報も駆使して。

 

そして、突発的に使用されることになった、極秘任務扱いのガルダにあたりを付けた。

その後は、説明するまでもない。

 

 

 

ユニコーンは強力だ。そして、それに乗るパイロットが、あのカーディアス・ビストが幼少期に強化学習を施した、疑似的な強化人間、バナージ・リンクスであるならば、手札は切ってしかるべきだと考えた。

 

その結果が、グスタフカール2機と、リゼルの配備だった。

 

そして、マーサ・ビスト・カーバインの予想はズバリ的中したわけである。

 

 

 

迫りくるグスタフカールを前にして、そしてこれ以上ないヒット&アウェイで翻弄してくるリゼルを前にして、しかしバナージは落ち着いていた。

 

確かに強敵だ。グスタフカールの性能はギラズールさえ凌駕するものだし、重力下に置いてユニコーンは自由飛行することができない。常に制空権をリゼルにとられ、しかも敵パイロットは間違いなくエースクラスだ。

 

状況は不利だ。数的にも、火力的にも。隠密作戦にビームマグナムは不要と置いてきたし、火器はシールド下のビームガトリング、それに頭部バルカン程度である。

 

だが、バナージには比較できる対象がいた。

 

親衛隊の三人の連携程怖くない。それに、シナンジュとクシャトリヤに迫られた時ほど苛烈じゃない。

 

バナージにとって、パイロットの基準はハサウェイだ。そして、ガランシェールに乗ってからは、宇宙で手も足も出なかったスーパーエースクラスとのシミュレーターをやりこんでいた。

 

どれほど追いかけても、ふとした呼吸の瞬間にその存在を見失い、超長距離からも容赦なくビームを当てて来て、近接を迫れば搦手によって制圧されるシナンジュ。

 

息をする間もなく容赦のないオールレンジ攻撃でこちらを墜としにかかり、怯めば距離を詰められビームサーベルで、中途半端な距離ではメガ粒子砲で撃ち墜としに来るクシャトリヤ。

 

常にこちらの呼吸を乱し、動きを封じ、ストレスを与え、手足をむしられるかのように確実に墜としに来る、アンジェロをリーダーとした親衛隊。

 

そして、そんなスーパーエースクラスを、カスタムしただけの量産機で、当たり前のように蹴散らしていった、ハサウェイ。

 

 

 

このグスタフカールは確かに強い。リゼルも速い。連携も上手い。

 

けれど、怖くはない。

 

バルカンで牽制してくるグスタフカールに、その牽制を無視して突っ込む。シールドを構え、視線を切り、ビームトンファーを突き刺す。

 

グスタフカールも予想していたのか、肩の物理盾でビームトンファーをいなす。

 

しかし、バナージは止まらない。胸と胸をぶつけ合う様に、バーニアを吹かして、グスタフカールを抱きかかえながら推力で押し出す。

 

ユニコーンは、モビルスーツサイズの、モビルスーツの取り回しで操作が可能な、モビルアーマーである。これはハサウェイが言った言葉だ。推力、火力、出力、そのすべてが、ユニコーンは規範のモビルスーツから逸脱している。

 

だからこそ、搦手など必要ない。

 

押し倒し、引きずり回し、食い破る。乱暴に見える戦い方の、乱暴な部分を合理的に整える。残るのは、パワーを十全に生かした、ユニコーンに適した戦い方になるはずだ。

 

技術で劣るバナージは、ユニコーンをそのように考えた。

 

押し出されるグスタフカールは、どれほどバーニアを吹かしても、どれほどスラスターで逃げようとしても、逃げられない。

 

格納庫を突き破り、コンクリートの壁を突き破り、それでもユニコーンは止まらない。グスタフカールは逃げられない。

 

ぶつかる衝撃でグスタフカールのシールドが根元のアームから千切れる。分厚い鉄筋コンクリートの、それを鉄板で覆った頑強なモビルスーツ格納庫の扉で、ユニコーンは一瞬引っ掛かり、その瞬間に右こぶしをグスタフカールのコクピットへ叩きこむ。

 

一発、二発。

 

衝撃でパイロットが意識を失ったのか、崩れ落ちるグスタフカール。それを見逃さず、ビームトンファーで四肢を切断する。

 

ぐるり、とユニコーンが振り返る。

 

ユニコーンが、その視界にリゼルを捉える。

 

「次」

 

空を飛行するリゼルに、一直線でユニコーンが迫る。リゼルは慌てたように高度を上げるが、ユニコーンが迫ってくる。

 

高度をさらに上げ、リゼルは必死にマニューバでユニコーンをかく乱する。

 

バナージはそのマニューバを追おうかと一瞬思考し、取りやめ、スラスターを全閉し自由落下を始める。

 

その一瞬、リゼルはユニコーンを突き放したのかと振り返った。

 

欲しかったのはこの距離だ。ユニコーンがビームガトリングを構える。

戦闘機を撃ち墜とすのなら、いつだって有効なのは弾幕だ。数の暴力は、いつだって正しい。いつだって勝利を導いてくれる。

 

ビームガトリングが戦闘と共に夜空を照らす。当たってたまるかと、リゼルは回避機動に移行するが、その瞬間にユニコーンが飛翔する。

 

ユニコーンの推力は、可変機のリゼルさえも凌駕する。ドッグファイトで戦うのなら高機動なリゼルに勝算はあるが、バナージはそんな高度な戦術を実行する気はさらさらなかった。

 

高度を取って撃ち下ろせ。戦いは、高い場所の取り合いだ。

 

宇宙にいる間は理解できなかった概念だった。無重力空間に、高度の概念は無いのだから。だが、ここは地球で、バナージは既に地球での戦闘に順応できていた。

 

ユニコーンがビームガトリングを撃ち下ろす。リゼルも必死に回避マニューバを取るが、ことこの状況で言えば、高度な回避マニューバも無用の長物に過ぎなかった。

 

バナージは、紛れもないニュータイプである。そしてその才能は幼いころから認められ、カーディアス・ビストは、その才能を見込み強化学習さえ行った。

 

バナージの戦闘IQはそう高くない。そして戦闘技量も。同じ性能の機体で戦えば、バナージはハサウェイに及ばないし、フロンタルにも、マリーダにも及ばない。

 

だが、サイコフレームとニュータイプ能力によって、数瞬先の未来を予測することはできる。

 

ビームガトリングがリゼルの行く先に置かれる。そして、およそ敵の先に射線を置けば、弾幕とは必ず当たるようにできている。

 

リゼルのディフェンサーユニットに、弾が命中する。推進剤が漏れ出て、羽根が小規模に誘爆し、リゼルがバランスを崩す。

しかし相手もエースクラスである。即座に誘爆した羽根をパージし、モビルスーツ形態へ移行、そこに一切の迷いはなかった。

体に沁みついた行動。訓練によって肉体に記憶された、当然の動作。

 

だが、その一瞬は、モビルアーマー・ユニコーンガンダムが迫るのに十分すぎる一瞬だった。

 

モビルスーツ形態に変形した瞬間、既にユニコーンは正面にいた。

 

息をのむ間もなく、リゼルはユニコーンに押さえつけられ、メインカメラを破壊され、推力そのまま、地面へと叩きつけられた。

 

そして、グスタフカール同様、四肢をビームトンファーで切断する。

 

 

 

「はあ……」

 

 

 

バナージは、息をついた。

 

その行為を咎めることなど、誰ができるだろうか?

バナージは、半月前までただの学生だった。幼少期の頃に訓練を受けていようが、彼は兵士でも無ければ戦士でも無い。彼はただの学生で、ほんの少しだけモビルスーツの操縦が出来るだけの少年だった。

 

故に、戦場において残心なく呼吸を切った。敵を倒したと、そう思ってしまった。

 

 

 

通信が効かなくなっていたこと、レーダーが完全に死んでいたこと、ミノフスキー粒子散布状態にあることを、バナージは戦闘中の興奮で全く感知できていなかった。

 

 

 

バナージは見た。その黒いモビルスーツを。黄金色に輝く、サイコフレームの妖しき光を。

 

「ユニコーン?」

 

そこで、バナージは意識を失った。

 




読了ありがとうございました!
これまでバナージが比較的不遇だったから、バナージの活躍描写書きたい!と思ってたのに、また絶妙に不遇だ。なぜこうなった。

宇宙に上がるシーンは考えてるんですけど、その間の設定を一切考えてません。どうしよう?結構困ってます。まあ、明日の私が何とかしてくれるはず。

いつも誤字報告ありがとうございます!私は必ず誤字をする。温かい目で見てやってください、ヘヘッ

そして感想と高評価もありがとうございます。あまりいいことでは無いのかもしれませんが、感想をいただくために書いているところさえあります。この承認欲求モンスターめ!

引き続き感想、高評価いただけると嬉しいです!
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