ハサウェイがアムロやシャアに影響される前に機械オタクになった世界線のお話 作:陸奥九十九
なぜこんなことになった、当初はハサウェイが楽しくわいわい車とバイクを直すだけのゆるふわな話を書く予定だったのに、最近は必死になってユニコーン見返して設定を作り出してる。
どうしてこうなった?そもそもこの話需要あるのか?
まあ、楽しいよと言う方が居たら是非感想頂けたらと思います。
よろしくお願いします!
脳に感じる鈍痛で、バナージは目を覚ました。
見慣れたユニコーンのコクピットモジュール、見慣れた白い強化ノーマルスーツ、そしてふと見上げ視界に映ったものは、ユニコーンのモニターが映す、見慣れぬ黒いユニコーンだった。
「あぁ……?」
その黒いユニコーンの外装は酷く燻っており、さながらメガ粒子砲の直撃を受けたかのような惨憺たる有様だった。
ここはどこだ?
自分がいる場所も分からない状況ではあったが、バナージは酷く落ち着いていた。
このバナージ、トラブルに巻き込まれることに関しては玄人である。空から降ってくるオードリーを助け、コロニーを襲撃され、戦場に出て、ネオジオンに半ば誘拐され、しかしそこで働いて、地球に降りて、再び戦闘をして、また誘拐され、現状に至っているのだ。この間わずか2週間。今更誘拐ごときで怯む精神はしていない。
何があったんだっけ……そうだ、トリントンでラプラスプログラムを更新して、その後にグスタフカールとリゼルを倒して……
鈍い痛みを訴える脳にわずかに鞭を入れて記憶を掘り返す。
そうだ、リゼルを倒して、そこで……
「はああぁぁーー……」
深く息を吐く。後悔と、そして自らの詰めの甘さに恥じるため息。
マリーダに何度も言われていた。戦場では気を抜いた奴から死んでいく、だからどんな状況であっても集中を切らすな、シミュレーターをクリアすることに慣れると、戦場でも同じように状況をクリアして気を抜くぞと。
忠告を受けていたはずなのに、それを全く実行できていなかった。
そしてユニコーンのコクピットの前で、なにやら作業をしているであろう作業員、恐らくユニコーンのコクピットを解放させようとしているのだろうが、アナハイムのつなぎを着ている。それに何より、アルベルト・ビストがいる。
ああ、ビスト財団がらみか。じゃあトリントン基地の連邦軍とは直接関係は無いのか?いや、そもそもここはトリントンなのか?
そうだ、ビスト財団はどこまで知っていたんだ?ダカールから南極へ行く間に接触した人間はほぼいなかったはずだ。じゃあ、何処からか情報が漏れた?
いや、サイコフィールドを展開さえすれば、どんな状況でも簡易的なレーダーとして働く。
え?じゃあもしかしてユニコーンを捕捉できるシステムをビスト財団は保有しているのか?ユニコーンが独自に発するサイコミュパターンを追える、特殊なサイコミュレーダーが?
……いや無いか。そもそもそんな技術があればダカールの時点で捕捉されてるな。それにそんな分かりやすい技術があるならハサウェイやフロンタルさんが必ず言ってくるだろうし。
ふとそんなことを考えていると、黒いユニコーンのコクピットハッチが開くのが見える。
うわ、コクピットの外装が溶けて固着してる。あれ直すの大変そうだな。……そうだ、宇宙に残ってるハサウェイは、あのぐちゃぐちゃになったクシャトリヤちゃんと直しているのかな?OSとかは誰よりも繊細なのに、雑に扱っていい場所はとことん雑になるからな。
そうだ思い出した、フレームが曲がったプチモビの修理で、フレーム修正の課題だったのに、ここまで来たらもう元には戻らないって言って、既存のフレームぶった切って、フレームごと形を変えて凄いプチモビ作ってたな。……いや凄くはあったけど割りとあの後怒られたな。うん、凄くはあるけど凄くは無いな。
というか、ユニコーンって複数機あったんだ……いやサイコフレームの試験機だよな?なんでわざわざ複数作ってるんだ?
ぎこちなく開くコクピットから、いやに着ぶくれたノーマルスーツを着たパイロットが、転げ落ちてくるように出てきた。
その様子は息も絶え絶えといった様で、肩を貸してもらいながらなんとか立てているような状況だった。
ああ、マシンを振り回したんだな。バナージは何となくそう理解した。
ユニコーンを乗りこなそうとするとき、有り余るパワーを振り回そうとしてはいけない。マシンが行きたいと思う方へ、しなやかに緩やかに操作しないと。
バナージはNT-Dのセッティングで、初期のあたりをかなり柔らかく設定していた。初期の動きは柔らかく、踏み込んでゆくほど過激苛烈に。当初ユニコーンはパイロットのことを一切考えていない、常にゴリゴリに動くマシンマキシマムな設定だった。
無人機ならばそれでもいいが、ユニコーンはニュータイプ適性のあるパイロットが乗って、初めて性能を発揮できるスペシャル機だ。そして、そのニュータイプ適性を持つパイロットを活かす方向にセッティングを煮詰めなければ、サイコフレームの性能を活かすことができない。
インダストリアル7を出たばかりの頃のデータを、あの黒いユニコーンが使用しているのならば、ご愁傷様だという他ない。少なくともあのセッティングのせいでバナージは一度気絶している。
強化ノーマルスーツに追加したであろうオプション装備を外し、やっとヘルメットを脱ぐと、その顔は見覚えのある人のものだった。
「……リディ少尉?」
ほんの少し遠くなっていた、ネェルアーガマでの記憶。
そこでバナージはほぼほぼユニコーンのセッティングとハサウェイとの打ち合わせ、そして極秘作戦として首相官邸ラプラスへ乗り込むために、ダグザとオットーとの作戦会議で時間を使いつくしていたが、ほんの少しだけ、モビルスーツ部隊のパイロットと話す時間があった。
そうだ、オードリーとタクヤ、ミコットを、火の海になったインダストリアル7から救出したのは彼だと、バナージはタクヤからそう聞いていた。
そして、バナージがユニコーンのコクピットから出るまで、気安く接しやすかったとして、ミヒロ少尉と一緒に何度か会話をしたとも。
どういうことだ?ネェルアーガマが、ユニコーン奪還のために地球に降りている?いや、だったらネェルアーガマに収容されるはずだ。けれどここは明らかにネェルアーガマじゃない。
それに、ユニコーンのような特殊な機体を、ハサウェイをして練度が低いと称する新任少尉に渡すものなのか?
バナージはパイロットシートに背を預け、思考をめぐらせる。
ネェルアーガマにはアナハイムの幹部であるアルベルトさんが乗っていた。そして、ユニコーンの回収のために特殊部隊のダグザさんも。なのに、乗り込んだ艦は新兵の訓練艦扱いに近いネェルアーガマだった。そして、黒いユニコーンに乗っていたリディ少尉は、そんな訓練艦のパイロットをしていた。
ネェルアーガマに乗ってすぐの戦闘で、リディの戦闘を、ほんの少しだけバナージも見ていた。
特筆すべき技量は無かったように思う。もしユニコーンのようなスペシャル機を任される技量があるなら、それはハサウェイの戦闘技量をはるかに凌駕する技量を保有しているはずだ。そして、その上でさらに特筆すべきニュータイプ能力があるのだと。
ジェガンよりも高性能なリゼルで、しかしてシナンジュを撃退できなかった。失礼な言い方になるが、その程度の技量のはずだ。
なのに、そんなパイロットが、なぜユニコーンに?
思考にまとまりがなく、なのにグルグルと駆け巡る。
そしてそこに、ラプラスプログラムの次の座標が示された。
「……ええ?」
バナージは無言でユニコーンの機能全てをロックした。
※
「行かせてください。今ならまだ間に合います」
戦場から帰還したロニは、一も二もなくカークスとジンネマンにそう告げた。
「……ダメだ、今行ってもただ殺されるだけだ」
「バナージがあそこにいるんです!あそこに残っている!ならば!」
「今のガランシェールに、再びトリントンへ襲撃をかけ、バナージを救出し、戻って来られるだけの戦力はない」
「しかし!」
焦りと緊張と疲労から、ロニはもはや思考が纏まらなくなっていた。無理筋を言っていることも理解している、しかし、それでもその腹立ちを抑え込むことが、ロニにはできなかった。
先のトリントン襲撃の最終段階で、ロニはシャンブロを通して、そのサイコフィールドからバナージを視ていた。
バナージが理不尽なほどのユニコーンの性能で、グスタフカールを擦りつぶし、リゼルを食い尽くすところを。そして、その後現れた黒いユニコーンに、撃退されるシーンを。
その時点でシャンブロはシドニー湾へ着水していた。そして、ロニの集中力も限界近くまで達していた。
だが、ただでは帰さない。そう決めたロニは、許される限りのエネルギーをすべてこめて、黒いユニコーンめがけてメガ粒子砲を撃ち放った。
せめて何らかの助けになれば。黒いユニコーンを撃ち墜とせるなどとは思わなかったが、バナージ回収の起点にでもなれば。その一念で最後に攻撃を放ち、残る心を引きずって、ロニは引き返し、そしてシドニー湾にてシャンブロを爆破させた。
きっと大丈夫だ、あそこには凄腕のガランシェールのパイロットが二人もいるのだから。きっとバナージを連れ帰ってくれる。そう心に信じて帰還し、言い渡された事実はこうだった。
作戦失敗。ユニコーンが敵に鹵獲された。
何を言われているか分からなかった。だって、自分たちは確実に作戦を遂行したのだ。なのに、なぜ?
思わずといった様子でジンネマンに掴みかかろうとするロニを、マリーダが止める。
「やめろ、状況が分からぬほどお前は愚かでは無いだろう」
「マリーダっ、だって、だってバナージが!」
「どうしようもない状況だった。あそこでギルボアたちがバナージの回収に時間をかけていれば、他のモビルスーツ部隊が殺到していた。そうすれば、ユニコーンはともかく、他の者たちの命は無かった」
努めて冷静に、マリーダはそう言った。けれど、ロニの肩を抑えるその手から伝わる激情を、ロニはマリーダ以上に感じ取っていた。
戦場へ行く、戦争へ行く、そこでイレギュラーが起こり、仲間を失う。
よくある不幸だ、珍しくも無い。今日まさにトリントンで死んだ連邦兵たちは、そう言う気分だろう。
そして軍人は、命令に従い、忠実に任務をこなさなければならない。たとえそれが、家族を見捨てることであっても。
「バナージはユニコーンのパイロットだ。アナハイムでさえ、あのユニコーンの生体認証を解除することが出来なかった。そして、ビスト財団は、確実にラプラスの箱の回収に動く。だから……」
だからバナージは無事だ。そう言葉を続けようとして、マリーダは言葉に詰まった。
本当にそうか?もしかしたら、もうラプラスの箱などどうでもいいと、ユニコーンを破壊するかもしれない。そうしたら、バナージは軍事機密を知るただの一般人に成り下がる。
そんな危険な存在を、果たして奴らは生かしておくのだろうか?
「だから……」
絞れど絞れど、言葉は出ない。
そしてその苦しみを、何とか押し殺してロニを励まそうとする献身を、その場にいた誰もが感じ取っていた。
ロニは、言葉も出なかった。
後悔だけが胸に残る。
もしも、もっと長時間シャンブロを稼働させることができたのなら。ユニコーンに敵影が迫った時点で、さらにトリントン基地へ攻め入り、そしてユニコーンの支援が出来たのなら。
どれも不可能だとすぐに理解できる。10分以上のシャンブロの遠隔操縦は今のロニには不可能だった。そしてシャンブロをさらにトリントン基地の内部へと進行させれば、サイコフィールドから外れ遠隔操縦自体が不可能になる。
口に残るのは苦みばかりだった。
自分は比較的安全な後方から戦うだけで、傷ひとつとして負うことは無かった。
なのに、バナージは敵地にて必死に戦闘を行い、その果てに敵に捕まった。
押し黙る二人の肩をジンネマンが叩く。
疲れただろう、今は休めと。そう言い残して、ジンネマンとカークスはフロンタルへの報告の為にその場を去った。
「……ゥぅうあああアアァァーーー!!」
ガン!と、ロニが壁を殴る。
それで何かが晴れるわけじゃない。けれども、何かに当たらずには、そこに立ち続けることもできなかった。
※
バナージは、独房で一人ベッドに寝ころんでいた。
バナージの鹵獲から4時間後、ユニコーンのハッチは解放され、バナージはその身柄を拘束された。
もしもの時は、すべてを話せ。そして、ネオジオンに脅されてトリントンへ降りた。戦闘中は無我夢中で何が起こったか分からなかったと言え。連中は軍人でさえないヤクザ同然の連中だ、最悪殺されかねない。ジンネマンはバナージにそう伝えていた。
そしてその予想は残念ながら的中していた。彼らは連邦ともアナハイムとも名乗らずに、一人は酷く高圧的に、そしてもう一人は嫌になるような猫なで声で、バナージに様々に迫った。尋問、とはこういうものなのか?少なくとも、レウルーラで受けたあの尋問は、もっと紳士的で穏やかだったのに。
バナージは従順に尋問に応じた。もっとも、何が何だかわからずに、といった様子で応えると、連中はそれを信じて、すぐにバナージは独房へと解放された。
心のシャッターを下ろす。バナージがマリーダから教わった尋問への対応だった。表向きはとても従順に、しかし、心に膜を作る。その膜は、ニュータイプならではの能力でもある。ほら、こうだと。マリーダはそんな術を教えてくれた。心を壊さないために、自分を俯瞰するための方法だと。
バナージは一つのアバターを作っていた。友のためにネェルアーガマにて必死に戦ったが、奮戦虚しくネオジオンに鹵獲され、脅されながら仕方なくユニコーンに乗り、ラプラスプログラムを更新していたのだと。
オットーとダグザが、なぜあの作戦会議にアルベルトを呼んでいなかったのが今になって理解できた。
彼らは最初から疑っていた、いや、知っていたのかもしれない。アナハイムとビスト財団がここまで強硬で非道な方法を取るのだと。だからこそ、民間人を巻き込んでの作戦に、どんなことをしでかすか分からないアルベルトは、たとえどれほど有益な情報を持っていたとしても懐に入れたくなかった。
嫌になる。そう思った。
バナージは父カーディアスのことを詳しくは知らない。朧げな幼少の記憶と、オードリーと共にほんの少しだけ話した記憶、そして、最後の記憶。
何を思って箱の解放を望んだのか、それは理解しているつもりだ。
人の可能性を示す。そのために、箱を開放するのだと。
その結果が、現状のこれか。父を肯定したい気持ちと、なぜこんなことをと苦悩する気持ち、二つの心がバナージの中にあった。
「はあぁ……」
低い天井を見上げながら、重いため息をつく。
けれど、信じると決めた。そこに変わりはない。
地球に降りてから、バナージは一度ハサウェイと話をした。
ジンネマンとフロンタルが同席する状況で、ガランシェールのブリッジで、ほんの短い通信だった。
今は話せないことが結構あるけど、僕はフロンタルさんを信じることにした。
それがハサウェイの言葉だった。
5分程度の通信で、最初の方は地球に降りてからの身の上話などをして、ダカールに行くことを話したら、酷く羨ましがって。ダカールはラリーの聖地で、ホンダのアフリカツインは当時のパリダカを勝つために作られたマシンで、と斜めの方向へ話が吹っ飛びそうになっていたのだが。
最後に、まだ分からないこともあるけれど、フロンタルさんは信じていい人だと、ハサウェイはそう言った。
バナージには、ネオジオンも連邦も、アナハイムもビスト財団も、そしてラプラスの箱も、正直言って何が何だかよく分からない。それによって何が起きるのかも。連邦の支配体制も、ジオンの再興も、冷たい言い方をすればバナージにとってどうでもいい話だった。
願うことはとても身近なこと、オードリーの力になりたい、彼女の望み、戦争を止める、その助けになりたい。
何をどうすれば戦争が止まるのか、それは分からない。
けれど、誰よりも優しいハサウェイが、そして誰よりも見る目のあるハサウェイが、フロンタルを信じるといった。
そしてバナージにとっても、フロンタル、そしてジンネマンたちは、尊敬できる人物だと思えた。
ならば信じよう。父の託した道行が、一体どこへつながるのか。その続く道が、フロンタルが、ジンネマンが、ハサウェイが、そしてオードリーが求める道へ続くと信じて。
そして、バナージは直感していた。ここでの独房生活は、そう長く続くものではないと。
カツカツ、と足音が聞こえる。その足音に、バナージはベッドから身を起こした。
そこにいたのは、金髪を短く切りそろえた、見覚えのある連邦軍人。
「……リディ少尉」
「……バナージ」
こんな目の人だっただろうか?これほど冷たい目で、誰かを見下ろす人だっただろうか?バナージは何よりもそんな感情を抱いた。
「どうして、ここに?少尉はネェルアーガマのパイロットじゃ……」
「ミネバは、このガルダに乗っている」
は?と思わず声に出ていた。
「オードリーが?地球に降りているんですか?どうして……」
「彼女はミネバ・ザビだ。そして、彼女には為すべきことがある。果たすべき責務が」
虚ろな目をしたリディが、冷たく機械的に言葉を吐く。
「彼女はザビ家だ。ジオンの遺児だ。そんな彼女と、連邦政府議会のマーセナス家の嫡男である俺が結ばれれば、この宇宙の、長く続くスペースノイドとアースノイドの戦争も、止めることができる」
「……何を言ってるんですか?」
いや、そんなに単純な話じゃないだろ?それに、今どき政略結婚での戦争回避なんて、あり得るのか?西暦時代の中世じゃないんだぞ?
「リディ少尉、落ち着いてください。オードリーは……」
「彼女はミネバ・ザビだ!オードリーなんて名前じゃない!」
ここにいて、ここにいない。この現象にバナージは覚えがあった。マシンに呑まれている。サイコフレームの共振に引き寄せられると、行ってはいけない場所まで行ってしまうかのような、そこへ引きずられていくかのような、そんな感覚。
リディにニュータイプ適性があるのかどうかは知らない、だが、適性のないものが、あのサイコミュマシンに呑まれたら、どうなるか予想もつかない。
「リディ少尉、落ち着いてください。あなたは……」
「そうだ、戦争を止めるんだ。俺が戦争を、そうでなきゃ、死んだハサウェイ・ノアに報いることが……」
「え、ハサウェイは死んでませんよ?」
あ、と思った時には、既に口から言葉が出ていた。
ぐるり、とリディの視線がバナージを捉える。その目には恐怖と怯懦が滲んでいた。
リディはその後何も言わず、足早にバナージの独房から去っていった。
「……大丈夫、じゃないよな」
大丈夫だったらあんな状態にはなっていないか。バナージはそう自問自答した。
だが、収穫もあった。
リディの言葉を信じるのなら、オードリーはこのガルダに乗っている。ガルダだ、ネェルアーガマの様な戦艦ではなく、大型の輸送機である。
となれば、戦力としてはそう大きいものじゃない。ユニコーンが保管されているモビルスーツデッキにしても、黒いユニコーンの他に推定可変機のモビルスーツが6機程度。
恐らくユニコーンを収容したままアナハイム本社、月のフォン・ブラウンへ行き、そこでユニコーンを解析し、ラプラスの箱を手に入れるための段取りを整えるのだろう。
そして、電撃戦的に状況を解消するためには、アナハイムとしてもビスト財団としても、ロンドベルを利用することは難しかった、そんなあたりか?
何にしても、今は待て。ここで騒いでも状況は解決しない。
このバナージ、誘拐はされ慣れているのだ。今更独房に入れられた程度では恐怖も無い。とにかく今は待て。そして、その時を待て。キャプテンが、ガランシェールの皆が助けに来る、その時を。
ガルダが飛んでいる様子はない。であれば、まだトリントンにいるはずだ。戦力が多い地上で仕掛けるか、危険が大きいが空に飛んでから仕掛けるか。それは分からない。
機を待て、そして敏と動け。為すべきを為す、すべきことはそれだけだ。
※
ハサウェイとバナージがネオジオンを撃退してから、オットー艦長とダグザ中佐、そしてハサウェイとバナージが、4人でブリーフィングする光景がよく見られた。
それについて説明は無かった。だが、格納庫の片隅で、学生も巻き込んで、彼が乗ってきたジェガンを改修し、必死になってユニコーンのセッティングを出している姿を見るようになった。
何か作戦があるのだろう、そんな予想は簡単に立てられた。
正規のモビルスーツ部隊をブリーフィングから排して、民間人の、それも学生をパイロットに起用しての、特殊作戦。
あのガンダムタイプのモビルスーツ、ユニコーンがすべての問題の原因であることは何となく想像できた。
俺も連邦宇宙軍のパイロットだ、いくらでも使ってくれ、必ず役に立つ、戦って見せる。
そんな勇ましい言葉は出なかった。出せなかった。
だって、手も足も出なかったのだから。先の戦闘、たまたま相手が時間稼ぎに付き合ってくれただけだと、否が応でも理解できた。
ユニコーンさえ鹵獲できれば、後はどうでもいいと考えていたのだろう。だが、そこにハサウェイというイレギュラーが現れた。
一瞬の接敵で一機を行動不能にし、一切のアソビなく射撃を当て推定リーダー機の戦闘能力を奪った。
そんなイレギュラーが現れ、味方を連れて帰る必要が出来た。にもかかわらず、俺のような雑魚が突っかかってこようとした。それが気に食わなかった。そんな風なプレッシャーを感じた。
あそこで挑んで、果たして俺は勝てただろうか?
実力差は身に染みた。そして恐れた。
スペシャル機でもサイコミュ搭載機でもない、恐らくネオジオンの量産機であのレベルだ。もし、もしもシナンジュと相対することになったら、ノーム隊長の様に食い下がることさえ難しく、一瞬で墜とされるだろう。そんな未来が容易に想像出来た。
なのに言えるだろうか?俺は役に立つ、俺も使ってくれなどと。
ネェルアーガマのモビルスーツ部隊が呼ばれない理由は、嫌と言うほど理解できた。
にもかかわらず、腹立ちと不満はずっとそこに居続けた。それが自分へ向けたものなのか、艦長やダグザ中佐へ向けたものなのか、敵へ向けたものなのか、それとも彼らへ向けたものなのか、それさえも理解できなかった。
作戦の時は来た。
隠密作戦だ。ユニコーンを先行させ、ハサウェイの駆るジェガンとエコーズがそのフォロー、ネェルアーガマのモビルスーツ部隊は強襲に備え艦外で戦闘待機。
ユニコーンの首相官邸ラプラス到達とほぼ同時に、戦闘は始まった。
ネェルアーガマに2機の敵が迫る。
凄まじい練度だった。熟練のパイロットかくあるべしといったような、老練で狡猾で、簡単に墜とせるような敵でないことだけは理解できた。
必死に戦った。ノーム隊長を失い、戦力が半減したモビルスーツ部隊でも、そこは多勢に無勢、そして敵も、一歩引いた状態で戦闘を展開していた。
あくまでもストレス攻撃、ユニコーンへの援護をさせないための遅滞戦闘といった状態で、戦闘は硬直した。
何とか敵を一機、ネェルアーガマから引きはがすように、ウェーブライダー形態での一撃離脱戦法を試した。戦場を広く使い、ネェルアーガマの弾幕を活かして。艦から距離を取った状態からの高速戦闘。
そしてそんな中、リゼルのカメラは捉えた。鬼神の如き、異常極まるハサウェイの戦闘を。
リゼルをもってしても太刀打ちできないほど、性能の離れたシナンジュ、そして4枚羽を相手に、カスタムジェガン如きで互角以上に戦闘を進める、その苛烈なさまを。
そこで、なぜそう行動しようと決断したのかは分からない。
ただ、行くべきだと、そう思ったのだ。
彼を援護すると、敵のエース機が墜ちれば、状況は変わると。
艦を援護しながらも、艦に張り付く敵へ狙撃をしながらも、彼の元へ、彼の援護へ。
必死だった。なにせ距離が離れすぎている。艦からハサウェイを捕捉することはできないし、リゼルが戦闘状況で超望遠で意図して視認させなければ見えないほどに距離があったのだ。
そしてさらに距離が離れるエコーズとユニコーンは当然視認できない。
前へ、前へ、前へ!
位置を取る必要がある。敵を一方的に撃てる位置を、彼を助けられる位置を。
そして、位置が来た。
超望遠でも間近には捉えられない距離、だがここしかない。豆粒の如きシナンジュを何とかとらえ、そして、トリガーを押した。
それとほぼ同時にけたたましく鳴るロックオン警告。反射的にマシンを起こし、回避運動へ移っていた。
そして、見えた。
爆発するジェガンと、それを回収していくシナンジュを。
「え?」
何故ジェガンがやられている?何故……?
その思考を深める間もなく、警告音が鳴り響く。ネェルアーガマに張り付いていた機体が、艦から離れ、こちらを攻撃しながら戦域を離脱していく。
その直後に、帰還命令が出された。戦闘は終わったと。
結果は語るまでも無かった。未帰還2。ユニコーンと、そしてジェガン。彼らは、帰ってこなかった。
失意に沈むネェルアーガマを余所に、何度もあの光景を反芻していた。
俺は、何をした?ハサウェイを助けたのか?それとも……
あの爆発はなんだった?シナンジュがジェガンを焼き殺したのか?
それとも、俺が撃ち墜としたのか?
全身を、言いようの無い悪寒が走る。そして必死に否定する。そんなはずないと。
そこからは必死だった。ネェルアーガマが増援を伴ったユニコーンの奪還作戦に気力を振り絞る中、俺も必死にブリーフィングとシミュレーターに打ち込んだ。
そうだ、状況を解決させるんだ。この状況を何とかして。
そう思いいたってからは早かった。
ミネバを連れて、マーセナス家へ。父、ローナン・マーセナスの、連邦中央議会の力を頼って。
そうすれば、このバカげた宝探しを、地球連邦という立場から覆せるかもしれない。
そして、次なる戦闘の折に、俺はミネバを連れて地球へ飛んだ。すべてを覆すために、そして、彼に報いるために。そして願わくば、彼のようになるために。
※
「壮観だな。急ごしらえにしては、いい出来じゃないのか?」
「ですね。個人的にも、まあいいよくできたかな、なんて思います。なんせ大気圏の単独突破ですから」
「無理はするなよ。行った先で壊しでもしたら帰って来れなくなる」
「そこが結構不安ですよね。タイミングと、後は敵がどう出るか、ですかね?」
「まあなるようになるだろう。お前にはそれだけの腕がある」
「あはは、嬉しいです。頑張ってみますね」
読了ありがとうございました。
なんか、リディが出てくると話が暗くなる。あとリディのキャラの掘り下げが全然分からない。ロニさんはあんなにすんなりできたのに…
くそ!ハサウェイとバナージが峠をバイクで走る話が書きたい!ハサウェイはGSXで、バナージは、なんか白いバイクに乗せるんだ!そう言う話を僕は書きたいんだ!だからユニコーン編書いてるのに!!
ああ、シリアス展開が長くて狂いそうです。でも大丈夫、そろそろハサウェイが出てくるはずだから、……でてくる、よね?
いつも誤字報告ありがとうございます。
そして感想と高評価もありがとうございます。感想頂けるのが本当に嬉しいです。
でもリディの掘り下げが上手くできてないし、設定も多分穴があるので戦々恐々です。温かい目で見てください……
引き続き感想、高評価よろしくお願いします。