ハサウェイがアムロやシャアに影響される前に機械オタクになった世界線のお話   作:陸奥九十九

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何とか書けました、結構な難産でした。
書いてて思ったんですけど、この作品ハサウェイが出てこないと異様に暗くなる。ここ最近ずっと暗かったし、リディさん出てくるとさらに重いし。

まあ、タイトルの通りやっとこさ宇宙に帰って来れました。最終決戦も近い、はず!
ちなみにこの後の展開はほぼ考えてないんだぜ。明日の私にすべてを放り投げるんだぜ。

お楽しみいただければ幸いです。


宇宙への帰還

「……早いな、もう飛ぶのか」

 

ガルダが飛行準備へ入った、それはバナージの予想よりもずっと早かった。

 

ユニコーンが鹵獲されてから約12時間、深夜の2時にトリントン襲撃の任務が始まり、その10分後にユニコーンは捉えられた。そして、バナージが目を覚ましたのが、その約15分後、ユニコーンのハッチ開放がそこから約4時間後。

 

尋問の後バナージは朝食という名のペットボトルの水とクラッカーを渡され、そして2時間前に昼食として同じものを支給された。

その時に時刻も聞いた、ちょうど昼の12時だと。

 

そこから2時間。何らかの目途が立ったのであろう。ガルダは今まさに飛ばんと動き始めた。

 

黒いユニコーンの修理は12時間で済むかもしれないが、生体認証でロックをかけたユニコーンを8時間で解放させるのは物理的に不可能だ。

いくらバナージが口頭でラプラスプログラムの座標データを伝えたとしても、ユニコーンに表示されるそのデータを確認しないことには、ビスト財団もアナハイムも大掛かりに動けないはずだ。

 

となれば、やはり行先はアナハイム本社の月。

 

トリントン基地で襲撃をかけなかったということは、ガランシェールは空中での襲撃を計画している、バナージはそう推測した。

 

地上で仕掛けても多勢に無勢。そして、宇宙へ上がればネェルアーガマ、いや、別なロンドベルが来ているかもしれない。そうなれば、いくらレウルーラが来たとしても数的不利は解消されない。そんな状況で仕掛けるのは無理……

 

いやそうか?フロンタルと親衛隊、そして先にガランシェールが宇宙に上がっていればハサウェイが仕上げたクシャトリヤと、あと多分ハサウェイが乗る何かしらのカスタム機が待っているはずだ。

 

その戦力で勝てない敵っているのか?……あ、アムロ・レイはロンドベルだ。じゃあ無理だな。

ハサウェイをして10回戦って10回負ける、それがアムロ・レイだと言ってた。そして、ロンドベルの旗艦ラー・カイラムには、そのアムロクラスが何人もいると。

 

じゃあ大気圏前の空中での襲撃で確定だ。そんな危ない橋をフロンタルさんが渡らせるはずがない。

 

あとは、ガランシェールがどう仕掛けてくるかだ。バナージは推測する。

6機の可変機と黒いユニコーン、これだけで結構な戦力だ。ガランシェールの戦力で、ユニコーンとまともに戦えるマシンはいない。いや、マリーダならばやり様はあるのだろうが、宇宙ならともかく、地上でユニコーンと正面戦闘をするのはあまりにもリスクだ。

敵を引きはがして、ガルダ内で白兵戦、いやゲリラ戦を展開するはずだ。

特にカークスの部隊はなんでもござれのスペシャルチームだとロニが誇らしげに話していたのをバナージは覚えていた。

 

ベースジャバーか何かを使って、ガルダへ突入、自分を解放させユニコーンとともに撤退、そこらへんが妥当だろうとバナージは踏んだ。

 

あとは、トリントン基地がどれほどの護衛戦力を出すのかだ。ただ、こちらはあまり期待しなくても良いかもしれない。先の作戦でシャンブロが与えた打撃はあまりにも大きかった。トリントン基地への自由落下の最中、すでに戦場が地獄の様相を呈していたことを、バナージはよく覚えていた。

 

そして、シャンブロを正面切って落とせるほどのスペシャル機がトリントンには存在しないことも。

 

ならば、やはり警戒すべきはガルダの保有戦力のみ。

そして、ガランシェールの誰かが来た際に、このガルダにオードリーが乗っている可能性があることを伝える。むしろここが最重要だ。

 

リディが吐いた言葉が全て本当だとは思わないが、もし本当にオードリーが乗っているのならば、確実に回収する必要がある。

バナージは、ダグザが取った人質作戦を想起した。

 

ああいうことを、状況によっては普通にとるのが相手だ。そして、エコーズは軍隊だったが、アナハイムもビスト財団も軍隊じゃない。もしもの時、どんな手段を取るか分からない。

 

為すべきことは決まってる。オードリーの助けになる。

 

初めて出会った時から、バナージの覚悟は決まっていた。

 

 

 

 

 

 

『ガルダの離陸確認』

「ガルダ離陸、了解。キャプテン」

「総員、第一種戦闘配置。バナージとユニコーンを救出する」

 

ガルダの離陸と共にガランシェールは動き出す。ガランシェールは偽装貨物船である。その能力が最も活きるところは、隠密行動と電撃戦。

皮肉なことだが、この状況はガランシェールが最も能力を発揮できる状況でもあった。

 

緊張感はない。ただあるのは責任感と、それを押し上げる熱量だけ。

バナージの努力を知らないものは、ガランシェールにはいない。

ミネバの力になりたいと必死に仕事をこなし、他の誰も出来ないサイコミュシステムの発展形を短期間で作り出し、自らも戦場へ赴き、そして誰よりも戦った。

 

バナージのその眩しさは、ほの暗い海の底を照らすかのようだった。

そしてその姿は、誉れ高く、誰よりもジオン軍人の崇高なる在り方を体現した、ドズル・ザビとも重なるところを感じていた。

 

もはやこれは、人質救出作戦ではない。友を助けるため、仲間を助けるための戦いだ。

誰もがそのように心に刻んでいた。

 

「マリーダ!」

 

ギラズールへ乗り込む前に、ロニはマリーダに声をかけた。マリーダはパイロット用のノーマルスーツを、そしてロニは、ノーマルスーツに白兵戦用の歩兵装備を装着し、準備を整えた様子だった。

 

「マリーダ、気を付けて」

「お前もな。バナージを頼む」

「マリーダも、あの黒いユニコーン、メガ粒子砲の直撃を受けても大きな損傷が無かった。尋常ならざる相手だと思う。言うまでもないことだろうけど、もし戦闘する場合は注意して」

「了解した。……死ぬなよ」

「当然!」

 

別れの言葉はない。だって十数分後にはまた顔を合わせるのだから。そこに感傷などない、そして心配の言葉も必要ない。

マリーダは敵モビルスーツ部隊を引きつける。ロニはベースジャバーでガルダへ侵入し、バナージとユニコーンを連れて帰る。

それ以上も以下もない。為すべきを為せ。それだけだ。

マリーダも、そしてロニも、多くを語る必要など何処になかった。

 

 

 

戦端を開いたのは、マリーダの砲撃だった。

ガルダの行く手を阻むビーム砲、それを鏑矢として、ガランシェールからギラズールが出撃する。

 

そして、その直後に可変モビルスーツ、アンクシャがガルダから飛ぶ。

サブフライトシステム無しに重力下での単独飛行が可能な高性能機である。そして空中戦においては、間違いなくギラズールを凌駕する戦闘能力を誇る。

 

空を自由に飛べる。重力下に置いて、それは何よりもアドバンテージになる。

 

だが、相対するガランシェールは、何よりマリーダ・クルスというスーパーエースは、その程度のアドバンテージ、実力でねじ伏せることができる。

 

『マリーダ!』

「こちらで3機引き受ける!ガランシェールを前へ出せ!」

 

マリーダがアンクシャへ攻撃を仕掛けるが、アンクシャはその空中戦能力でもって回避する。

そしてマリーダが凄腕であるのと同様に、敵も空中戦の玄人。重力下での空中戦闘の経験は歴戦たるマリーダをもしのぐ。

そのアンクシャ部隊をして、ガランシェールのエース機はマリーダだと即座に理解できた。一対一ではとても敵わないであろうことも。そしてその対策を、彼らは迅速に実行する。

 

「こいつら!」

 

ギラズールは、ベースジャバーなしに空中戦を行うことはできない。ならば、そのベースジャバーを破壊すればいい。

 

1機が高所を取り、1機が正面でギラズールを引きつけ、1機が下方からベースジャバーを狙撃する。着かず離れず、確実な距離を保ち、真綿で首を締めるが如くマリーダを攻撃する。

 

しかし、相手するのは他ならぬマリーダである。

 

マリーダの戦闘に、それがたとえ重力下であろうと、上下左右など存在しない。機体を180度回転させ、速力でその状態を維持させ、精密な狙撃を行うことすら、マリーダにとっては造作もない行動である。

 

玄人相手に確実に墜とせる手段であっても、マリーダ相手にはストレス攻撃程度にしかならない。

そして、多対一の戦法は、マリーダにとっても十八番である。

 

「そこ!」

 

マリーダのロングビームライフルが高所を取らんとするアンクシャを撃ち抜く。狙撃と同時にマリーダは一気に高度を上げ、高所を奪取する。

 

 

 

多対一での戦闘は、基本的に数が多い方が有利になり、そして一定数を超えた時点で、数が多い側の勝利は殆ど確定する。

 

ハサウェイがバナージへそう教えたのと同様に、マリーダもまたバナージへそのように教えた。

 

もしも、マリーダがギラズールを駆り、アンジェロ、セルジ、キュアロンの親衛隊3人と1対3の戦闘を行った場合、まず間違いなく手も足も出せずに墜とされるだろう。

相打ち覚悟で1機墜とす程度ならばやってやれないことも無いが、戦術的勝利はまず不可能だ。

 

そしてそれは、クシャトリヤを駆る時のマリーダと相対するほとんどの敵にも同様のことが当てはまる。

ファンネルによるオールレンジ攻撃は、基本的に必殺必勝の戦術であり、エースであっても避けることはほぼ不可能であり、限られたごく一部のスーパーエースのみが、その攻撃から逃れ、さらに反撃が可能になる。

それでも、そこから勝利をつかみ取るのは困難極まる。事実クシャトリヤでの戦闘でマリーダが勝てなかったパイロットは数えるほどしかいない。

 

多対一とは、その状況を作り出した時点でほぼ勝利が決まる究極の戦術の一つなのだ。

 

 

 

もっとも、その練度が足りなければ、多対一ではなく複数の一対一を何度か繰り返させるだけの何の意味も無い戦術に成り下がる。

 

「そこ!」

 

マリーダの放つビームを、アンクシャはかろうじて回避するが、可変機の推力をもってしても、彼らはギラズールへ戦術的優位を取れずにいた。

 

距離を詰めようとすれば頭を押さえつけられ、挟撃しようにもタイミングを潰され、何より高所を全く奪えずにいた。

 

彼らは間違いなく空中戦の玄人であった。連携のレベルも高く、単機で準エースレベル、そして連携でもってエースレベルの戦闘力を保持している。

 

だが、マリーダに勝つためには、最低でも親衛隊レベルの、エースクラス3人以上の連携攻撃、ないしは、フロンタルやハサウェイレベルのスーパーエースの実力者が必須になる。

 

1対2となったこの状況で、マリーダが負ける可能性は万に一つとさえなかった。

 

 

 

そして、それが分からぬほど敵も愚かでは無かった。

 

「なに!?」

 

マリーダは直感に任せてその場から回避する。その瞬間に、ビームがそれまでいた空間を撃ち抜く。これはビームライフルの威力じゃない、ビームスナイパーの貫通力だ。

 

そして、背後から迫る悪寒に、マリーダは左腕部に装着したシールドを咄嗟に叩きつけた。

 

そこに見えたのは、異形のモビルスーツ。マニピュレーターではない大型のマシンアームと、大型スラスターを肩部に備えた、恐らく格闘戦を主眼に置いたマシン。

 

「なるほど、こう来るかっ」

 

そのマシンの名はバイアランカスタム。その大型スラスターに見合った推力で一気にマリーダから距離を取り、ここまで飛んできたであろうベースジャバーに着地する。

 

そして、こちらの攻撃が届かない絶妙な距離に構える、大型のビームスナイパーを構えたマシン、ジムスナイパーIIがこちらを狙っている。

 

遊撃のアンクシャが2機、近接戦のバイアランが1機、狙撃戦のジムスナイパーが1機。

 

 

 

基本的に、ある一定のレベルを超えると、多対一は絶対に勝てなくなる。

マリーダにとってのその一定のレベルの分水嶺が、しかし確実に迫りつつあった。

 

 

 

 

 

 

ロニをはじめとするカークスの部隊は、ガルダへの接舷に成功していた。

そして、乗り込むと同時に銃弾の雨あられに行く手を遮られていた。

 

だが、そこに一切の焦りも無ければ動揺も無い。カークスがハンドサインを送り、乗り込んだ全員が別方向へと散開する。

 

ガルダは超大型の輸送機でスペシャルな艦であることは間違いないが、その特殊性ゆえに生産数はそう多くない。そして、内部構造に大きな変更もまた存在しない。

一度は自分たちも利用した艦だ。何処に何があるのかなどわかっている。

 

そして、一年戦争を生き抜いた歴戦の猛者たるカークスは当然ではあるが、一番若輩のロニでさえ、その白兵戦能力は目を見張るものがあった。

 

 

 

アフリカの砂漠で戦うということは、まず大前提として生存能力が高くなければ話にならない。

気温40度を超え、50度近い熱射の中、必要とあらば行軍を断行する。そして一昼夜を歩きぬき、その上で戦闘を行う。無論一切のパフォーマンスを崩さずに。

ロニたちは、常に戦力が劣った状態で、それでも連邦の正規軍に勝利するために、言ってしまえば常軌を逸した個人能力が前提として求められたのだ。

 

白兵戦においては単独で一個小隊を壊滅可能な武力、ゲリラ戦において単独で一個中隊を足止めしうる軍事力、たった一人になっても任務を達成しうる作戦遂行能力。

それらを前提として、ジオン残党軍北アフリカ戦線は戦力を整えていた。

 

そして、それはロニも同様である。

 

彼女は10歳に満たない時から軍事訓練に参加していた。そう、ロニが復讐の炎を初めて心に宿した時からである。

少年兵、マハディ・ガーベイの娘でありながら、ロニはその待遇にて厳しい訓練を当然のようにこなしていた。そして訓練教官はすぐにその才能を目撃した。

 

その才能とは、暗殺者の才能。

 

ロニの才能を語る関係者の誰もが口にする話がある。

それは、歴戦の護衛チームで屋敷を包囲し、要人役のカークスを守り、そんな中でどのような暗殺行動をとるか、そんな戦闘訓練をした際だった。

 

攻略不可能な状況を用意した。カークスをはじめとした将校たちはそのように前提を話した。

これは要人警護のための訓練でもあり、その警護状況に穴が無いかを確認するための訓練でもある。だから全力で、奇策さえ用いてぜひとも攻略して欲しいと。

 

つまるところ攻略されるとは誰も思っていなかったのだ。嫌味でも何でもなく、これはレクリエーションのようなものだとも。だが、そう言った攻略困難な状況を経験しておけば、実戦での状況選択に役に立つ。

そんな経験値をためるための、敗北を前提とした訓練だった。

 

地上でジオンに合流した、元地球連邦の特殊部隊出身の凄腕でさえ、この状況をクリアすることはできなかった。

 

 

 

後にその訓練で死亡判定を渡されたカークスは語る。

部屋の外の騒がしさを感じていた。足音や声が騒がしくなり、誰かが頑張っているな、などと思っていた。その騒がしさが収まらぬまま、しかし状況終了のアナウンスも無く、カークスは何事かと考えていた。

その時、ロニが窓を突き破ってエントリーを果たし、自分諸共模擬手りゅう弾を爆発させ、自分を暗殺せしめた。

 

 

 

当然だが、自爆攻撃は危険に過ぎるし、ロニは酷く怒られた。

だが、大人然とした表情を取り繕ってロニを叱る一方で、その場にいた誰もが戦慄した。この才能は、開花させて良いものなのか?と。

 

カークスは聞いた。なぜあんな危険な手段を取ったのかと。ロニは答えた。命を捨てれば命を取れるからと。任務達成のために、他の手段は考えられなかったからと。

 

戦慄した。そして哀れにも思った。この幼く愛らしい幼子が、当然のように自爆テロ同然の作戦を考案し、そして実行した事実が。

 

 

 

その後、結局年齢的な問題、体格的な問題からロニは基礎訓練へ戻され、そしてニュータイプ適性からパイロットへ転科することになるのだが。

 

ニュータイプとは、広大な宇宙環境に適応するため認識能力が広がった新人類だと言われていたが、ロニは厳しい砂漠の環境にて、幼く弱いその身を守るために、その適性を開花させた。

 

そして、その弱さを補い、連邦兵を殺すために、ロニは限定的だが絶対的な空間把握能力と先読み能力を手に入れていた。

 

 

 

ガルダの通路を、ロニは止まることなく走る。アサルトライフルを腰に構え、ひたすらに走る。

死角に隠れる伏兵も、後ろから現れる敵も、これほど狭い空間であれば、ロニが見逃すことはあり得ない。

 

腰だめで敵を撃つ。当たる。振り返り、止まることなく円運動の最中に敵を撃つ。当たる。

 

閉鎖空間の遭遇戦で、かつ銃撃戦だ。ならばニュータイプ能力で敵の位置をほぼ先読みできるロニに負けの目はない。

 

緊張を切らすな、だが焦るな。呼吸を乱さず、常に一定のペースで脳に酸素を供給し続けろ。

 

「どこだ、バナージ」

 

無意識に声が出る。だが、その感応はすぐに来た。

 

「こっち」

 

ロニは自らの思考がクリアになっていくことを感じていた。

いる、バナージはこの先だ。

 

声が聞こえる、バナージの声が。ああ分かってる、扉の向こうに二人だろ?

 

走る勢いのまま、ロニはライフルからショットガンへ持ち替え、そのままロック機構へ弾丸を叩きこむ。

 

フラッシュバンだ。目を閉じて耳をふさいで、口を開けろ。

 

ドアを打ち破ると同時にフラッシュバンを投げ入れると、ぐおっ!と呻くような声が聞こえる。ロニは即座に部屋へ突入し、地面にうずくまる兵士に弾丸を撃ち込んだ。

 

「お待たせ、バナージ」

「あ、はい。お疲れ様です……?」

 

少し呆然とするバナージを余所に、牢の鍵を壊すから離れるようにとロニが促す。ロニは角度をつけ、バナージに当たらないように、牢の鍵をショットガンで破壊する。

 

おずおずと出てくると、バナージは思わず聞いた。

 

「あの、この人たちは……」

 

何処か緊張した様子のバナージに、ロニは得心がいった。

ああそうだ、バナージは民間人の学生だった。モビルスーツでの戦闘は経験していても、生身でのドンパチなんてこれが初めてか。

 

「大丈夫、死んではないわ。強化ゴムと特殊なプラスチックの弾頭よ。衝撃で相手を昏倒させる仕様のね。一応、相手がアナハイムのお偉いさんの可能性もあるし」

 

な、なるほど、とおずおずとバナージが頷く。そんな年相応の様子に、ロニは微笑む。

 

「さあ行きましょう。いくらマリーダでも、さすがに多勢に無勢よ。さっさと逃げるにこしたことは……」

「あの、オードリー、じゃなくて、この艦に、ネオジオンのミネバ姫が乗っているかもしれないんです!」

「……何ですって?それは本当なの?」

「分かりません。ただ、あの黒いユニコーンのパイロットが来て、ミネバ姫はこの艦に乗っていて、彼女を利用するつもりだって」

「そんなことが……分かった、突入隊で艦内を捜索してみる。でも、まずはユニコーンの解放よ。先に格納庫へ行きましょう」

「はい!」

 

格納庫へ走りながら、ロニは信号を送る。それは旧ジオン公国軍の通信暗号だった。

 

バナージ確保。ガルダに、ミネバ姫、捕虜の可能性あり。捜索されたし。

 

要人を連れるならば、貴賓室か、それともオペレーションルーム近くか。どちらとも今回の捜索範囲内じゃない。

いや、ここまで大仰にことが起これば、わざわざガルダを維持して宇宙へ上げず、シャトルで脱出を図るか?

 

答えは分からない。だが、それを考えても仕方がない。

まあ、格納庫へ行けば答え合わせができる。鬼が出るか、蛇が出るか。ミネバ姫を救出できなかった場合、そして救出が可能な場合、どちらにしてもリスクは大きい。覚悟を決めろ。

 

 

 

格納庫へ着くと、そこはすでに修羅場と化していた。

発砲音がそこかしこから聞こえる。となれば、撃ち合っているのはガランシェールとこのガルダに乗っている兵士だろう。つまり、兵士がここで銃撃戦を広げなくてはならない理由がある。

このガルダの大切なお客様が、この付近にいるという証明でもある。

 

ロニは通常通信を開く。

 

「こちらフォックス04。格納庫で銃撃戦。敵の兵士が多い、お客さんはこちらかもしれない。援護されたし」

 

ロニはノーマルスーツに上から着用していた防弾ベストを脱ぎ、バナージへ渡す。

 

「良いバナージ?ここから射線を切りつつ、ユニコーンへ向かう。焦らず、身をかがめて、遅れずについてきて」

 

ロニの言葉にバナージは頷き、ロニとバナージは走り出す。走ると同時に銃弾が近くをかすめる。なるほど、良い腕だ。兵隊と言うよりSPだな。護衛に特化した動きをする。これは、まあ確定だな。

 

走っては射線を切り、また走っては射線を切る。

 

そして気付く。なるほど、殺る気が感じられない。出て来たら撃つし、当てられるなら当てるつもりだが、それ以上に護衛優先といった風だ。よほどのお偉いさんが乗っているのか?それとも、ここにミネバ姫が?

 

ユニコーンの足元まで、あと2アクション。そして、ガルダ内で活動していた他のメンバーも格納庫へ来てくれた。

 

「バナージ、次のアクションで一気にユニコーンの足元まで行きます。足元に辿りついたら即座にかかと側へ隠れて。いいわね?」

 

頷くバナージに、ロニも頷く。

 

「カウント、3、2、1、ゴー!」

 

合図ととも飛び出す。そして射線に相対するようにロニは撃つ。

銃撃戦において、護衛役の一番もどかしい部分は、護衛対象によって動ける範囲が絞られるということだ。そしてよっぽどの人間を護衛しているのか、敵は亀のように動かず、ポイントを一切変えていなかった。

 

だったら、やり様はいくらでもある。

そして、閉鎖空間での射撃ならば、相手がどれほど凄腕だろうと、ニュータイプ能力に優れたロニは、その一歩先を行ける。

 

射撃戦を制し、ユニコーンの足元までついたところで、ロニは言いようの無い悪寒に襲われた。

 

「ロニさん伏せて!」

 

悪寒に襲われるのとほぼ同時に、バナージがロニを押し倒す。

そして、黒いユニコーンが、ユニコーンごとバナージたちを押しつぶさんと迫る。

 

行きます。ロニはバナージのその声を聞いた。

尻もちをつくようにガルダの壁面に押しつぶされたユニコーンだが、そのおかげでコクピットはすぐそこに来ていた。

 

バナージが何か操作をする以前に、ユニコーンはコクピットハッチを開いていた。動きながらもほんの一瞬バナージは面食らうが、気にせずにコクピットへ飛び込む。

 

黒いユニコーンは、メインカメラと肩部を掴んでユニコーンを押しつぶそうと迫る。だが、その程度の力押しで壊れるほどユニコーンが安い作りをしていない事実を、バナージは誰よりも知っている。

 

だが、この状態ではスラスターを吹かすことも、大仰に動くこともできない。どちらともロニを押しつぶす可能性があるためだ。

 

『バナージぃ……お前が、お前さえいなければ!!』

 

通信から響く声を一切無視して、バナージはハサウェイと共に仕込んでいた、ちょっとした仕掛けを思い出していた。

 

 

 

小技ばかり磨いてもしょうがないけど、達人同士の立ち合いとかだと、そう言った小技がここぞという場面で光るときがあるんだよね。ちょっとしたギミックが、ここぞという場面で自分を助ける。別にそれは戦闘だけじゃなくて、何でも良いんだけどさ。

 

そう言ってユニコーンに一緒に仕込んだ、ちょっとした小技。

 

 

 

バナージは右手首からワイヤーアンカーを射出した。

 

『なに!?』

 

ただのワイヤー射出機構で、それ以上のギミックはない。だが、それだけできればあとは十分でもあった。右腕部を細かく操作し、バナージは黒いユニコーンに巧妙にワイヤーを絡ませる。

 

そして、絡まるワイヤーを嫌ってか、黒いユニコーンは後ろへ下がる。勿論、バナージとユニコーンを連れて。

 

絶対に足を動かすな。ロニさんの位置を常に確認しろ。

 

重心がスタンディングへ移った時点で、バナージはゆっくりと動き始める。

 

このワイヤーに、モビルスーツをつるすほどの強度はない。だが、関節の動きを阻害する程度には張力の強いものを選択してある。例えユニコーンの出力をもってしても、簡単に引きちぎることは難しい。

 

「外に出ます!離れてください!!」

 

そう告げて、ユニコーンは黒いユニコーンを連れてガルダから飛び立つ。

 

もみあいになりながら2機のユニコーンは自由落下する。そして、バナージは黒いユニコーンをワイヤーで拘束しながら、その動きを潰す。

 

『バナージイイィィーー!!』

「リディ少尉、落ち着いてください!ここで争うことに意味はありません!」

 

聞こえてないか。いや、まずい!

 

バナージは即座にワイヤーを切断し、距離を取る。黒いユニコーンが、妖しい光が漏れ出る。

 

「ガルダにオードリーがいるんでしょう!?正気ですか!?」

 

NT-Dが発するサイコフィールドは、シャンブロのそれとは比較にならない。ましてやユニコーン2機のサイコフレームが共鳴し合い、そのサイコフィールドをぶつけ合うような事態になれば、輸送機程度なら簡単に吹き飛ばしてしまう。

 

ビームトンファーを振りかざす黒いユニコーンに、バナージはそれを抑え込もうと対応する。

 

まずい、推進剤が残り少ない。ここで戦闘できるだけの余裕は、無い。

 

どうする?どうすればこの場を切り抜けられる?

 

必死に状況の打開策を考えるが、手札が少なすぎる。思考は巡れど、回答がない。万事休すか。

 

 

 

その時、バナージはその光を感じた。

 

 

 

「……ハサウェイ?」

 

 

 

 

 

 

マリーダはすでに満身創痍と言って差し支えないほどに消耗していた。

ギラズールが被弾したわけでも、ベースジャバーを失ったわけでもない。しかし、既に相手はタクティカルアドバンテージを手にし、その上で硬直状態を作りだしていた。

 

その理由はただ一つ。マリーダの消耗を待つためである。

どれほど相手が超人鉄人の類であっても、推進剤には限りがある。そして、多対一は、一側が常に敵を警戒しなくてはならないが、多側は負担を分散できるのだ。

 

マリーダは強化人間であり、その耐久値は並の軍人では比較にならないものがある。しかし、短時間に高負荷の戦闘を重ねれば、当然だが精神は消耗する。

 

既に戦闘を開始して10分を超えた。モビルスーツに損耗がない時点で驚嘆すべきことだが、それでも、限界というものは迫っていた。

 

「ふぅー、ふぅー」

 

細かく息を吐く。マリーダも理解していた。このままでは墜とされると。

 

ガルダからユニコーンともう1機が落ちていくのは確認した。ロニたちは作戦を成功させたのだろう。ガランシェールはじきに撤退行動へ移るはずだ。

 

そのためにも、この4機の継戦能力を削がなければならない。

 

「ふぅー……、ふうぅぅーーー……」

 

大きく息を吐き、呼吸を整える。

 

 

 

マリーダは仕掛けた。

 

マリーダが動き出すと同時に、敵は狙撃を開始する。マリーダの動きを阻害するための射撃、ベースジャバーを撃ち抜くための狙撃、そしてギラズールを墜とすための狙撃。

 

もうそれは見た。

 

スクリューの様にマシンを180度回転させながら、マリーダは狙撃を回避し、アンクシャにビームを叩き込む。

 

まずは1機。

 

しかし、それと同時に左のシールドにビームスナイパーを受ける。付属するシュツルム・ファウストを誘爆する前にパージし、なおも前へ。

 

ここ。

 

墜ちたアンクシャのフォローの為にポジションを変えようとしたもう1機のアンクシャに、ビームホークを投げ当て、動きが止まった瞬間にライフルで撃ち抜く。

 

ふたつ。

 

だが、その瞬間にスナイパーにベースジャバーを撃たれる。

 

しまった、いや、まだだ。

 

直撃じゃない、まだ飛べる。被弾したベースジャバーのまま、ジムスナイパーへ迫る。ここまで来たらこちらの距離だ。

 

来い、来い、来い、今!

 

牽制の様に放たれるビームを避け、ジムスナイパーを撃ち抜き、そのまま蹴り飛ばしベースジャバーを奪い取る。

 

これで……

 

回頭し、残るバイアランへ迫ろうとした。

 

だが、バイアランはすぐ目の前にいた。

 

 

 

思考時間が引き延ばされる。視界の色彩が、徐々に消失していく。

 

 

 

バイアランのビームサーベルが迫る。だが、回避するだけの余裕はない。

 

 

 

どうする、どこで受ける?いや、これほど思考しているのに、操作が追いつかない。

 

 

 

バイアランのビームサーベルが迫る。もう、すぐそこまで。

 

 

どうする、いや、何ができる?そう自らに問いかけても、答えは出ない。

 

 

 

ああ、これが……

 

 

 

死を直感する。時は止まったかのように鈍く、しかし迫りくる。

 

 

死が迫る。

 

 

 

しかしその瞬間、バイアランは両腕を切断されて、そのまま墜ちていった。

 

ドガアアァァーーーン!

 

重量物がぶつかり合った時の、激しい衝突音。そこに見えたのは、見慣れた機体であった。

 

「クシャ、トリヤ……?」

 

大型の追加ブースターに、バインダーに取り付けられた見慣れぬ装備などあったが、それは紛れもなく自分の愛機、クシャトリヤであった。

 

クシャトリヤは止まることなく飛んでいった。そして、よく知る気配を、マリーダはクシャトリヤから感じていた。

 

「ああ、お前か、ハサウェイ」

 

通信も無く、サインもない。だが、自然とそう感じた。

安堵からか、マリーダは微笑んでいた。

 

『マリーダ!状況が片付いた。この空域から離脱するぞ!早く戻ってこい!』

 

フラストの通信に、ハッと我に返り、了解、と短く返し、マリーダはガランシェールへ進路を切った。

 

 

 

 

 

 

ビームシールドって、知ってる?

 

いやいや、ビームと言えばライフルかサーベル、皆さんそう思うでしょう?

いや、僕もそうでした。ガバナンさんに聞いたときは驚いたものだった。え!?ビームシールドってもう実用化されてるんですか!?と。

 

ビームシールドは、Iフィールドと違って物理的な盾としても使用が可能なエネルギーシールドなのだが、サーベルやライフルと違って複雑な形状を盾として維持する必要があり、その実用化は未だ遠いものとされていた。

 

そう、アナハイム以外ではね!

まあ、実際のところはアナハイムと別企業の合作らしいのだが。

 

そして物理盾としても利用できるとは言ったが、未だ実用的とは言い難いものでもあった。

 

なにせ凄まじくエネルギーを食うのだ。ジェガンやギラズールへの搭載はとてもじゃないが不可能だろう。モビルアーマーか、もしくは戦艦クラスか、それにしたって現状では使用用途が限られるわけなのだが。

 

ではどんな用途で使用するか。そう、今回は大気圏突破である。

それまでモビルスーツでの大気圏突入はそれなりに危険性があった。バリュートやフライングアーマー、もしくはウェイブライダー形態での大気圏突入などもあったが、落下中は無防備であるし、損傷次第では爆散の危険性もある。

そこでビームシールドである。大気圏の熱を非物理のシールドで受け、機体は冷却機能のみで完結させる。そして、推力如何によっては地球から宇宙への大気圏突破も可能である。

ビームシールドはこう使う!という実用例が出来ればいいのだが。

 

「ビームシールド発生装置確認。ジェネレーター出力問題なし。推力確認。システムオールグリーン。行けます」

『よし、クシャトリヤ発進準備』

「クシャトリヤ、発進準備」

『ガランシェールは戦闘状況にある。小戦力でことを起こさざるを得なかったようだ、ユニコーンを拾ってそのまま上がってこい。それで状況は終わる』

「了解です。クシャトリヤ、出ます」

 

クシャトリヤは大気圏突破仕様に改修すべく、中々奇抜な見た目になっていた。

 

地上では不要とファンネルは全て取り外され、4枚のバインダーの内2枚はビームシールドの為の追加ジェネレーター、もう2枚はもしもの為のミサイルを搭載し、4枚のバインダー全てにビームシールド発生装置が取り付けられた。

そしてビームシールドの為にバインダーのメガ粒子砲は使用できなくなっている。

 

そして地上からの大気圏突破のために、ロケットブースターが腰部と背部に増設された。

こちらは使い捨ての仕様である。重力圏突破のための第二宇宙速度までは出せるらしいのだ、理論値的には。

……実証はブースター単独ではされているらしいけど、実際にモビルスーツに取り付けての検証は今回初だって、怖いね。

 

 

 

……マリーダさんクシャトリヤ勝手に改造したこと怒らないと良いなあ。いや、仕方なかった。そう仕方なかった。

だってクシャトリヤの他に換装出来るモビルスーツなかったし、もしもの時のフォローは必要だろうし、そう、これは仕方のないことだったんだ。

 

……でも勝手に愛機で作って遊ぼうしてたら怒るよなあ……うん、もし怒られることがあったらちゃんと謝ろう。バナージを道連れにして。ご飯のおごりで許してもらおう、費用はバナージと折半で。

 

 

 

クシャトリヤはすぐに地球の重力圏へ突入する。

 

「ビームシールド展開、冷却装置起動」

 

あとはシステムがほぼ自動でやってくれる。しかもガランシェールの位置情報をレウルーラが電波通信でリアルタイム更新してくれるから、それとシステムを連携させて誤差修正までやってくれる。

 

大気圏へ突入しているが、マシンは何ら影響を受けていないかのようだった。

大型シャトル並みの安定感、とまではいかないが、それに近しいレベルで安定している。

 

「おお、もう地球か」

 

あっという間に大気圏を超えてしまった、技術の進歩ってすごい。

 

「さあ、急げ」

 

クシャトリヤを加速させ戦闘空域へ飛ぶ。大気圏を超えたあたりで、遠くにビームの光が見えていた。

 

音速を優に超えて、クシャトリヤは飛翔する。こういう限界付近にあってなお、クシャトリヤは安定しているし、どこか余裕さえ感じる。クシャトリヤ、良い機体だ。

ジェガンを悪し様に言うつもりは全くないが、それでもジェガンとは比較にならないほどスペック的に優れたマシンである。

まあクシャトリヤ1機作るのに対してジェガン10機以上作れるらしいしね。比べても仕方が無いのではあるが。

 

「……ん?」

 

ギラズールが多対一の戦闘を展開してる。いや、攻め込んでる。

 

「っ!まずい」

 

クシャトリヤをさらに加速させる。ギラズールの元へ。後ろからマシンアームのモビルスーツが迫っている。

 

「って、マリーダさんじゃん!」

 

識別信号で気づく。マリーダさんを追い詰めるとか、やはり連邦軍って魔境だな。

そこかしこに、名もなき撃墜王たちが跋扈する。それが連邦軍なのだろう。やはり軍人の母数が多ければ、その上澄みにはとてつもない怪物たちが浮き上がるのだろうな。アムロさんみたいな。

 

地球連邦の層の厚さに恐怖しつつ、マシンアームのモビルスーツの両肩を切断する。腰と足にサブスラスターもついてるだろうし、死にはしないはずだ。

 

マリーダさんをそのまま通り過ぎる。……いや、ユニコーンの回収が急務だし、レウルーラに早く帰らないとだし。……別に怒られるのが怖くて声かけてないわけじゃないですからね?

 

よし、言い訳完了。

 

 

 

ユニコーンは、あそこか。

バナージの気配は本当に分かりやすい。ユニコーンに乗っているせいだろうか、どこにいるかよくわかる。

 

「……ん?何だあれ?」

 

黒い、ユニコーン?

……ああ、あれが2番機のバンシィか。本当にユニコーンを複数機作ってたんだ。

……やっぱアナハイムってちょっと頭おかしいんじゃないだろうか?

 

それにしても、バナージの動きが鈍い。いや、意図して動いていないのか?

ああ、推進剤が無いのか。そりゃそうか、鹵獲された後だ。逃がさないために推進剤抜くくらいはするよね。

 

じゃあ、さっさと助けてあげないと。

 

ユニコーンがバンシィを縛るワイヤーを切断して距離を取った。

すると、バンシィから凄まじいプレッシャーが漏れ出す。

 

「マジか!」

 

NT-Dをここで使うのか。サイコフィールドの威力を知らないのか?ガルダ位吹き飛ぶぞ。

誰かは知らないけど、ちょっとだけ痛い目見てくれ。

 

音速を超える速度のまま、ビームシールドを展開する。

非物理盾の一番の長所は、攻撃によって発生する衝撃を、基本的に無視できるところにあると思う。

 

キックやパンチでは関節に負担がかかり、速度如何によっては自壊もやむなしだが、ビームシールドは違う。

衝撃の全てを、相手に押し付けることができる。

 

しかも相手はNT-Dを発動したユニコーンだ。どうあがいたって死ぬことは無い。

 

だからこそ、思い切り。

 

「ビームシールドは、こう使う!」

 

衝撃、はないが、轟音が鳴る。轟音と共にバンシィは吹き飛ばされ、そのまま落下していった。

あ、大丈夫かな?マシン的には問題無いだろうけど、中のパイロットは……。

よし!まあメカ的に大丈夫なら落下制御が働くでしょう!とりあえず、ヨシ!

 

 

 

「お待たせ、待った?」

 

機知を効かせて、キザったらしくそう言った。

するとバナージも茶目っ気たっぷりにこう返す。

 

『いいや、時間ぴったりだよ』

 

どちらともなく、笑いが零れた。何故だろう、たった数日ぶりのはずなのに、酷く懐かしく、そして久しぶりの再会のような気がした。

 

落下しかかるユニコーンを支えて、バインダーで固定する。

 

「久しぶりバナージ、元気してた?」

『元気だよ。ハサウェイこそ、寂しくなかった?』

「寂しくは……ちょっとあったかも?まあ、全部吹き飛んだけどさ」

『あはは、なら良かった。というか、何その機体?凄いことになってるけど……』

「凄いでしょ?最新の特殊装備で、単独で重力圏の突破ができる仕様だよ?理論上は」

『最後の補足が怖いな。えっと、これから宇宙に上がるの?』

「そう、とりあえずユニコーンを宇宙にあげちゃえば、あとのことは宇宙に上がってからどうにかなるって。そうだ、バナージノーマルスーツ着てる?」

『いや、急いでて着てないけど』

「おおマジか、ノーマルスーツ自体はユニコーンの中にある?」

『えっと……あ、あった!大丈夫!』

「じゃあ、急いで着てて。システムチェックしてるから」

 

そう言って通常のスラスターでクシャトリヤを飛行させる。そして、バナージがノーマルスーツを着終わると同時に、加速に入る。

じゃ、行きましょか。そういってロケットブースターに火を入れる。

 

うおっ、凄い加速感。

ロケットブースターはその性質上、徐々にその速度を上げていく。

だが、装着されたブースターが大型すぎて、初期加速の時点で優に音速を超えていく。

 

「ビームシールド展開」

 

シートに体が押さえつけられるほどのG。この加速感は経験したことが無い。

 

「冷却装置、起動」

 

ロケットブースターはさらに加速していく。速度計がその値を示す。9.8km/s、10.5km/s、まだまだ加速は止まらない。

 

そして、速度計がその値を示す。11.2km/s。クシャトリヤとユニコーンは重力を振り切って、空の彼方へと飛翔する。

 

「うぁ……」

『ぐぅ……』

 

うめき声ともとれぬ声が漏れる。バナージも僕も加速Gにはそれなりに慣れていると思ったけれど、これは段違いだ。

 

空が色を変えてゆく。徐々にその色を暗く落とし、水色が青色へ、青色が藍色へ、宇宙が近づいてくる。

 

高度400kmを超えたあたりで、空の色は宇宙の色と同化し始める。マシンはまだ加速を続ける。そして、高度500kmを超えて、600km、700km、高度計はどんどん数値を上げてゆく。

 

景色が移り変わる。落下してゆくときは地上の風景が近づいていった。今は、地球が徐々に大地から星へと変わっていく。

 

そして、僕らは宇宙へと飛び出した。

 

ロケットブースターはパージされ、地球の重力から解放された。

 

「すご……」

 

見慣れたはずの宇宙から見下ろした地球が、どうしてか信じられないほど美しく見えた。

 




読了ありがとうございました!きりの良いところまで行こうと思ったら思ったより話が長くなったザウルス。

はい、ハサウェイの一人称視点が凄く書きやすくて楽でした。こいつひとりだけテンションが違い過ぎる気がするけど、まあ良いよね。

本当に疲れた。地上編が書いてて一番大変だった気がします。

誤字報告ありがとうございます。私は必ず誤字するので、温かく見て頂ければ嬉しいです。

そして感想と高評価もありがとうございます!本当に嬉しいです。元気をもらってます。いつもありがとうございます。

引き続き感想、高評価いただけると嬉しいです。
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