ハサウェイがアムロやシャアに影響される前に機械オタクになった世界線のお話   作:陸奥九十九

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今後の展開で結構悩みました。どうしたもんかなあ?いや、実は今でも悩んでます。
さて最終決戦です。お楽しみいただければ嬉しいです。


戦場へ

インダストリアル7は沈黙していた。

先の戦闘による甚大な被害によって、民間人は避難し、今はコロニービルダーに一部の関係者のみが残るのみとされている。

 

そして、そのコロニービルダー、メガラニカに、ラプラスの箱が隠されている。

 

バナージとハサウェイは帰ってきた。ほんの数週間前まで、なんてことない学生生活を送っていた場所に。このインダストリアル7に。

レウルーラとガランシェールは、インダストリアル7をレーダーで感知できる範囲に既に到達していた。

 

 

 

「静かすぎる。その一言に尽きるな」

「しかし、ユニコーンを回収し、宇宙に上がってからまだ4日です。我々はほぼ最短でインダストリアル7まで来れたように思います。であれば、連中を振り切ったとも考えられるのでは?」

「その可能性も勿論ある。しかしカークス少佐、ラプラスの箱は、いわば彼らの要の存在だ。そうでなければこれほど執拗にユニコーンの奪還を試みたりしないだろう。そんなものを、足が遅くて追いつけなかったなどと下手を打つものか?」

「罠だと、大佐はお考えに?」

「キャプテンも、そう感じているのではないか?」

 

連中は何処から我々を狙っている。なぜ先んじてメガラニカへ侵攻しないのか、ラプラスの箱奪取に動かないのか。その意図が読めない状況で。

沈黙するインダストリアル7は、これ以上なく危険に見えた。

 

「……待っているんじゃないでしょうか?」

「待っている、だと?何をだ?」

「僕たちが、ラプラスの箱をちゃんと入手する瞬間を。鍵であるユニコーンにここまで手間をかけさせたんです。だったら、鍵を持っていない誰かを阻む機能がある、ないしは、鍵を持たない人が来たら箱が何処かへ公開される、そう言うトラップを仕掛けててもおかしくない。そして、連中はその事態を恐れて、僕たちを待っている」

 

ハサウェイの言葉に、フロンタルが口元に手を当てる。

 

「なるほどな、その論には一理あるように思う」

「では飛び込みますか?罠の可能性は十分にありますが、箱さえ入手できれば撤退戦へ移行できます。この戦力と機動力なら、どうとでもできると考えますが」

「無意味に危険に身を晒したくはないが、今はそれが最善か……」

 

コロニービルダーへの入り口は、結局のところインダストリアル7の港だけなのだ。隠れる場所もない。

つまり、入れば確実に敵に感知される。

 

「レウルーラのレーダーで感知できない時点で、敵艦隊はそう近い場所にいるわけでは無い。敵が来る前に箱を回収し、早々に撤退する。それが出来れば最上だが……」

「難しいでしょう。我々でも感知できないほどに高度な偽装工作を敵がしているとは思えませんが、レーダーの感知距離からして……まあ、10~15分程度でしょうか?勇み足ならもう少し速くレーダー圏外からインダストリアル7まで到達できます。その状況での完全撤退は難しいかと」

「では、せめてビスト財団がバナージ君可愛さに早々に箱を渡してくれるように祈っておこう」

「バナージ・リンクス、笑顔の練習と愛嬌を振りまく用意をしておけ」

「大丈夫ですよ、バナージは結構かわいい系の顔なので、孫にお年玉くれるくらいの速度で箱もくれますって」

「待って?なんか俺の責任重くない?」

 

ハサウェイの言葉にマリーダとロニがゆっくりと、しかし何度も頷く。

 

「まあ冗談はさておき、敵は必ず来る。そして幸運なことに、敵の準備できる兵力というものが、我々はおおよそ把握できている状況だ。故にある程度の段取りが付けられる」

 

アンジェロがモニターへ敵の予想戦力を示す。

 

「予想されうる戦力は、ドゴスギア級1隻。そして、チベ級1隻。モビルスーツ部隊はおよそ5個大隊程度。そこに、先に説明した大型モビルアーマーが追加される」

「……大戦力ですな」

「数だけ見れば凄まじいものだが、所詮は宇宙世紀0100に合わせて急造された張子の虎だ。ロンドベルの練度とは比較にもならないだろう。気を抜くことはできないが、恐れるほどではない」

 

そして次なる資料をモニターへ映す。

 

「次に、ユニコーン2号機バンシィについてだ。地上においては、ロンドベルのパイロット、リディ・マーセナス少尉が乗っていたらしい。バナージ君がガルダにて確認している」

「ロンドベル、凄腕ですか?」

「実力に関しては……そうだな、中の下、といったところだ」

 

その言葉に、ジンネマンが眉をしかめる。

 

「まあ、政治が働いたのだろう。彼の実力は、連邦の新任少尉レベル、それ以上でも以下でもない。その程度だ。だが、彼のご実家は、ビスト財団とも関係近しい、連邦議会に長年席を持つマーセナス家なのだよ」

「この修羅場で、そんな程度のパイロットを再投入するものでしょうか?」

「地上においても、ユニコーン鹵獲という重要な局面で彼はわざわざ出てきた。どれほどの意図があるかは分からないが、順当に行けば今回も彼が出てくるだろうとは思う」

「能力に焦点を絞れば、警戒すべき様な実力者ではないと?」

「実力に関しては警戒の必要はない。バンシィの性能を考慮しても、脅威にはなりえないだろう。しかし、彼は警戒すべき最重要人物でもある。もしも彼を殺しでもしたら、その後の連邦議会との交渉で面倒が起こるやもしれん。そのため、バンシィは確実に鹵獲する必要がある」

「しかし、この修羅場でそのようなことは……」

「そのためにも、バンシィはアンジェロが対応する。そのための専用装備さえも準備させてな。酷く面倒をかけるが、パイロット各位にはバンシィを墜とさないことだけ留意していただきたい。よろしく頼む」

 

フロンタルの言葉に、ジンネマンもカークスも仕方が無いかと納得する。

 

「次の警戒事項だが、敵のドゴスギア級、もしくはチベ級のどちらかに、ミネバ殿下、マーサ・ビスト・カーバイン、もしくはビスト財団かアナハイムの重役が乗り込んでいる可能性がある。そのため、バンシィ同様、艦隊撃沈も不可だ。もし狙撃が可能な状況なら私やカークス少佐が遠距離からの無力化を試みるが、混戦状況になればそれも難しくなろう。それに、モビルアーマーの対処もある。こちらも留意してくれ」

「できないことだらけですな、面倒な戦場だ」

「そう言うなカークス少佐。我々はいやしくもゴップ閣下、そしてシャア総帥の密命を受け戦う気高き革命戦士なのだ。ここはひとつ、気取っていかねばな」

 

演劇さながらの気取った口調のフロンタルに、思わずカークスも笑みをこぼす。そうだ、今の我々には大義がある。それも、連邦とジオンのトップからくるような大義が。

その事実は先にも理解していたはずなのに、こうして言われると信じられないほど馬鹿げた話に聞こえ、思わずカークスは噴き出していた。

 

「さて、最後にモビルアーマーだ。連中はこれを、ネオジオングと呼称しているらしい」

「……随分な名ですな」

「大層な名前だが、それに見合った性能は確かにある」

 

ネオジオングの予想性能が表示される。

 

「先に説明した内容と大きくは変わらないが、ネオジオングには詳細不明のサイコミュ装備が搭載されている。そのため、ギラズールでの処理は恐らく不可能だろう。状況次第だが、ネオジオングは基本的には私とバナージ君、ハサウェイ君と、状況次第ではアンジェロもここに加え、制圧に入る。間違いなく大規模戦闘になると予想できる。巻き込まれないように注意してくれ」

「大佐、マリーダはよろしいので?確実に制圧するためには、兵力はいくらあっても……」

「マリーダ中尉には敵モビルスーツ部隊掃討に注力して欲しい。状況的には多勢に無勢だ。クシャトリヤならば、敵の殲滅にも向いている。ガランシェールはマリーダ中尉のフォローを頼む」

「了解しました」

 

アンジェロが次なる資料を映す。

 

「最後に作戦の進行に関してだ。フェーズ1として、私とバナージ君でメガラニカへ乗り込む」

「大佐も、でありますか?」

「可能性としては低いが、既に敵機がメガラニカ内部に潜伏している可能性もある。その場合、ユニコーンの援護、それに脱出の際に同程度の速度を出せるマシンが必要になる」

 

それに、とフロンタルが補足する。

 

「ビスト家がどういった腹積もりでこの状況を引き起こしたか、私は聞く必要がある。シャア総帥らへの報告もそうだが、なぜこの事態が起こったのかを」

 

それが、部隊を率いるものの責任でもあるのだから。フロンタルはそう続けた。

 

「メガラニカへ突入後、恐らく敵部隊が殺到する。15分以内にメガラニカから出るつもりだが、もし出てこないようであれば、内部に潜む敵か、もしくはビスト財団に暗殺された可能性がある。その場合は白兵戦の用意をしてレウルーラごとメガラニカへ突入。箱を回収し、その時点から撤退戦へ移行。撤退戦に際しては、先の不殺の前提条件はすべて無視していい」

 

フロンタルは、この戦争は酷く個人的な感情から始まったのではないか?と考えていた。

 

利益を求めたわけでも、恨みを晴らすわけでもない。理由を付けられないほど小さな、個人的な感情。

ユニコーンと言う鍵に、あれほど面倒なプログラムを組み込み、当初ジンネマンにその鍵を渡すときでさえ、ジオンの再興などに執着するものに箱は開かれない、などと挑発めいた発言をしたと言う。

 

連邦へ何らかの恨みを晴らすためにジオンを利用したわけでもない。

ジオンへ箱の存在をちらつかせて、それを連邦へリークし、自作自演でもって連邦の中でのビスト財団の存在を大きくしようとしたわけでもない。

 

何もかもが中途半端で、何もかもに手間がかかり過ぎている。

 

だからこそ、そうまでして、そうまでしなければ判断が付けられないような、抽象的な価値基準をビスト財団は設けているのかもしれない。箱を渡すに値する、彼らがそう信じられるような、酷く曖昧かつ主観的な価値基準を。

 

「撤退後はスウィートウォーターへ進路を取ってくれ。ネオジオンの勢力圏内まで撤退できれば、あとはシャア総帥が諸君らを保護してくれる」

 

だから信用ならない。ここまで来て、気に入らないという理由からくる箱の譲渡の拒否、最悪の場合、我々の殺害さえビスト財団は目論む可能性がある。フロンタルはそう感じていた。

 

そして、ここまで手間をかけたセレモニーが崩壊したと悟った時、それを仕組んだ愉快犯は、一体どんな自暴自棄に陥るのか、フロンタルには想像もつかなかった。

 

「作戦の説明は以上だ。何か疑問点は?」

 

反応を示したものはいなかった。

 

「では最後に、バナージ君」

「っ、はい」

「ラプラスの箱の、その正体に関してだ。あまり期待しない方がいい」

 

フロンタルの言葉に、バナージは呆ける。

 

「あの、それは……?」

「ラプラスの箱、その正体は、まず間違いなく連邦の政治的スキャンダルだろう。そしてそれを利用して、ビスト財団は連邦と取引をした。そのスキャンダルが、当時の時代的背景からくるものか、それとも今でも続くものか、それは分からない。だが、ビスト財団にとって、最初の譲歩を引き出させたその時点で、箱は役目を終えてしまったはずだ」

 

困惑するバナージに、フロンタルは続ける。

 

「最初の譲歩を引き出せたのなら、次はその譲歩を盾に更なる譲歩を引き出せる。あの時は譲歩してくれたじゃないか。その事実を公開されると腹が痛むだろうと。その後はその繰り返しだ。そして、積み重なった回数の分だけ、ビスト財団は連邦に対して強く出れるようになる」

「でも!そんなことをしたら、途中で連邦は、ビスト財団を潰そうとするんじゃ……」

「そこが、ビスト財団のうまいところだったのだろう。決して踏み込み過ぎず、しかしある程度は強気に出る。仕方が無いかと連邦の譲歩は進み、気づいたときには取り返しのつかないところまで来ていた。そんなところだろう」

 

ヤクザと同じ手法さ、そうフロンタルは口に出そうとして、その言葉を噛み潰した。

 

「真実は、行ってみなければ分からない。しかし、あまり大層なものは期待しない方がいい。箱はすでに96年前のアンティークだ。残虐な殺人事件でさえ、世論から風化するほどの年月が経っている。当時の最新技術さえ、今となっては年季の入った古臭い機械になり果てているだろう」

 

バナージは、フロンタルが酷く言葉を選んでいると感じた。そして、フロンタルが何を言いたいのかが、理解できた。

 

「……だから、きっとこの戦争は、どうでもいい昔話の為に引き起こされて、死ななくてもいい人たちが死んでいった。その可能性が、かなり高い。そう言う話、ですよね」

 

バナージの自虐のような言葉に、フロンタルは肯定も否定もしなかった。

 

「箱を回収する。我々がすることはそれだけだ。だが、箱によってゴップ閣下は動き、シャア総帥は動き、今、連邦が変わるやもしれん時が来た。その事実もまた、覚えておいて欲しい」

 

フロンタルは、バナージにハサウェイ暗殺事件を一切伝えていない。そして伝えていないという事実を、ハサウェイを含めゴップらも知っている。

今のバナージには、せめてもの慰めが必要だと、フロンタルはそう思った。そのためには、嘘の一つや二つくらいはつき通してみせよう。痛々し気な少年に対し、フロンタルはそう思った。そして、ハサウェイも微笑を湛えてフロンタルを見つめた。

 

恐怖の修羅場でバナージの心を乱させない、そのためにも、この会話は必要だった。しかし、それが本当に必要だったのか、話した後でなお、フロンタルは思考を逡巡させていた。

 

「少なくとも、今日で一つの戦争が終わる。だからこそ、大いなる修羅場が起こる。それを乗り越えねば、我々に明日はない。職業軍人の辛いところだ」

 

冗談めかすフロンタルに、歴戦のジンネマンとカークスが笑う。

 

「力を尽くそう。諸君らの奮闘に期待する」

 

フロンタルの敬礼に、皆が敬礼を返した。

 

戦争が始まる。戦争が終わる。

 

 

 

 

 

 

「どう?」

「……良いと思う。大丈夫」

 

出撃前の最終チェックとして、バナージはスラスターを増設したシールドを、ファンネルの様に稼働させていた。

シールドファンネル。そのように呼称していた。

 

「本当にギリギリになっちゃったけど、何とか間に合ってよかったよ。感度はどう?」

「大丈夫、少し敏感な気もするけど、シールドならその位が良いと思うし」

 

宇宙に上がってからインダストリアル7に到着するまで、それなり以上のハードスケジュールをバナージもハサウェイもこなしていた。

 

クシャトリヤの通常仕様への換装とサイコミュコントローラーの調整。

ローゼンズールの調整と一部改修作業。

カークス部隊のギラズールの調整とフィッティング。

親衛隊とガランシェールのギラズールへの一部仕様変更。

そして、ユニコーンの調整とシールドファンネルのセットアップ。

 

これらの作業を3日と半日で仕上げた。レウルーラとガランシェールのメカマンたちは疲労困憊だった。パイロットとして作戦の中枢を担うバナージとハサウェイの作業量はある程度加減されていたが、それでもサイコミュ関係の調整で二人以上の適任者はいないため、それなり以上に仕事量は多かった。

 

「最終確認いくよ。ネオジオングの疑似サイコフレームは、恐らく大規模なサイコフィールドを発生させるためのシステムで間違いないと思う。だからこそ、ネオジオングが背部ユニットを展開し始めたら、通常薄く広く展開していたサイコフィールドを、濃く狭く小さく圧縮させて、敵サイコフィールドを押し返す。多分それで相手の機能は半減するはず」

「そして基本は遠距離からのビームマグナムの狙撃で対応。とにもかくにも、基本は相手のサイコフィールド内に入らない、だよね」

「そう。ユニコーンのサイコフィールドならもしかしたらそこまで気にしなくていいかもしれないけど、それでも警戒して。ここまで大仰に、しかもユニコーンの設計にも関わっているだろうアナハイムが、ジオンと協力して作った虎の子だからね。ユニコーンに対抗するために干渉力に特化させた可能性も十分にある。その場合、何が起きるか分からない」

 

ハサウェイもバナージも、教科書を読み返すように理解している内容を反芻する。

 

「ふう……」

 

バナージが息を吐く。

緊張している。バナージ自身それをよく感じていた。

 

最初の願いは、小さなものだった気がする。

彼女の、オードリーの力になりたい。それがいつの間にか戦争に巻き込まれ、彼女のために戦った。それがいつしか連邦とジオンを巻き込むほどの大きな戦争になって、しかも、自分のルーツさえそこに関係していた。

その戦争の原因が何であろうと、それを、受け入れることができるのか?

 

心のどこかで、もっと単純なものを想像していた。

オードリーの行く道には大きな障害物があって、それを取り除くのか、はたまた迂回するのか、その手助けをするのだと。

 

けれど、その程度では何もすまされなかった。今でも初心は変わらない。彼女を助けたいと。

けれど、彼女が命を賭して、そしてこれほどの戦争を引き起こして、その先にあるものが、フロンタルさんの言う通り、なんてことないものだとしたら……

 

それを、仕方がなかったと、そう言うものだと、俺は受け入れることができるのだろうか?

 

「はあ……」

 

吐く息が重い。それに震えている。それが何よりバナージを鬱屈させていた。

 

「バナージ」

 

ふとハサウェイの声に顔を上げる。

 

「息をするように!」

「っ、ctrl + S!」

「無駄なフォルダは!」

「すぐに消す!」

「今日も一日!」

「ご安全に!」

 

指を立ててそう言うハサウェイに、バナージは阿吽の様に答えを返していた。

それは学校の授業でも、アナハイムでのアルバイトでも、作業前や仕事の前に繰り返していた、挨拶のような標語だった。反射的に、零れるようにバナージはそう返した。

そして、その様子にハサウェイはにんまりと笑顔を浮かべた。

 

「大丈夫。一人じゃないし、みんないる。練習通りにユニコーンを操縦して、作戦通りに進行すれば、きっと上手く行く」

 

言い聞かせるように、ハサウェイはバナージに言葉を紡ぐ。

 

「フロンタルさんがいて、アンジェロさんがいて、キャプテンがいて、マリーダさんがいる。親衛隊のセルジさんもキュアロンさんも、ガランシェールのフラストさんもギルボアさんも」

 

ハサウェイの言葉が、すんなりと心に沁み込んでゆく。緊張を溶かしてゆく。

 

「僕もいる」

 

ハサウェイはこぶしを握って、バナージの胸に押し当てた。

 

「そして、バナージがいる」

 

ノーマルスーツ越しに押し当てられた拳は、そんなはずないのに、その熱が直接伝わってくるようだった。

 

「できないことなんて、あると思う?」

 

バナージは、ゆっくりと頭を横に振った。

 

「よし。なら、気張っていこうぜ」

「……うん」

『ユニコーン、発進準備!』

 

格納庫にアナウンスが流れる。それに反応して、ハサウェイがユニコーンから離れる。

 

「ハサウェイ!」

「なーに!」

「……行ってきます!」

「行ってらっしゃい!」

 

コクピットハッチを閉め。全天周囲モニターが格納庫を映す。

視界の端に、去ってゆくハサウェイが見えたが、バナージはもう目で追わなかった。

 

帰ってくる。だから、俺は行くんだ。

 

『バナージ君、問題ないな?』

「はい、行けます」

 

フロンタルの声にバナージが答える。

カタパルトが開き、宇宙が見える。その先に、インダストリアル7が見える。

 

始まりの地、そして、この旅の終わり。

 

箱が何であろうと、今は関係ない。為すべきを為す。そして、また帰ってくる。

 

「バナージ・リンクス、ユニコーン、出ます!」

 

純白の聖獣は、漆黒の闇へと飛翔した。

 

 

 

 

 

 

「どうだった?」

「大丈夫だと思いますよ。バナージはあれこれ考えちゃうタイプですけど、腹が決まれば突き進めるタイプですし」

「そうか。まったく、手間をかけさせる」

「あはは、仕方ないですよ。アンジェロさんみたく潔くは中々行きませんって」

 

そう言うとアンジェロさんはフンッと鼻を鳴らす。

 

「こちらも最終チェックだ。この後はコクピットで待機。レウルーラのレーダーに反応が出た時点で出撃、襲来する敵部隊へ対応する」

「了解です」

「それにしても、随分とごちゃつかせたものだな」

「ええー?ローゼンズールほど見た目うるさくないですよ?結構シンプルですって」

「どこが。まあ、装備はあって困るものでもないか」

「まあ、出てくるのがトンデモですからね。無くて困る状況にはしたくないので」

「それで、追加サイコフレームをこれだけ付けたわけだ」

「いやいや、ギラドーガ系はもともと使ってる量が少ないですから。見た目がごちゃつくのは仕方ないですって」

「それで?機能は問題ないんだろうな?」

「ユニコーンを使って実験済みです。やっぱ怖いですねユニコーン。サイコフィールドの状況によっては相手のファンネルさえジャック出来ました。そう言った干渉力からの防御機構は、これでちゃんと機能します」

「ならばいい。本当に、サイコフレームもサイコミュも凄まじいシステムだが、使える者がこれほど少なくてはな」

「そう言う意味でも、今が最盛期かもですね。特にファンネルとかは。その内ローゼンズールみたいなインコム式が主流になるんじゃないですか?高くて使いづらい兵器なんて無用の長物ですし」

「そうなることを願うよ。そして、ネオジオングのような怪物が、もう二度と出てこないこともな」

「ここで墜とせば、多分もう二度と出てこないんじゃないですかね?コスト的にも費用対効果的にも」

「ふっ、確かにな。モビルスーツに墜とされるモビルアーマーでは、コストパフォーマンスが悪いか」

「そうですよ。だったらシナンジュとかローゼンズールでいいやってなると思いますし」

「まあ、その試金石にされる我々は何とも不幸だがな」

「あはは、それはそうですね」

 

アンジェロさんと共に、マシンの前で待つセルジさんとキュアロンさんの前に降りる。

3人が敬礼しあい、それを真似るように僕も敬礼をする。

 

「さて諸君、決戦だ。今回は部外者もいるが、基本はこの4マンセルで動く。後衛をハサウェイ、中衛にキュアロン中尉とセルジ少尉、前衛を私が務める。目標は、ユニコーン2号機バンシィ。これの無力化である」

 

はっ!とキュアロンさんとセルジさんが返事を返す。

 

「恐らく私一人で問題ないが、状況によってはフォローを頼む。そして、手が空くものはチベ級とドゴスギア級の対応に回ってもらう。……まあ、今更細かく言う必要も無いな」

 

詳細を言わずとも理解できているし、戦場での互いのフォローは言わずともできる。

そう言った信頼関係が親衛隊にはあった。

 

「では、健闘を祈る。各員騎乗」

「「了解」」

「はい」

 

それぞれのマシンへ乗り込む。

 

「……はあ」

 

1週間以上見続けてなお、戦闘に必要なセッティングをほぼ自分でこなしてなお、絶妙に愛着がわかない、このマシン。

良い機体なんだけど、色が嫌いなんだよな、この子。何だよピンクと白って。宇宙でしか使わないんだから黒くしとけばいいのに。けど塗り直すのも手間だし、そんな時間も無かったしなあ。

 

マシンに乗り込み、ノーマルスーツをシートに固定し、ハッチを閉じる。

ピリピリと、何とも言えぬ戦場の空気が肌を刺す。何度戦いに出ても慣れない、この感覚。

 

『ハサウェイ』

「?はい!」

『死ぬなよ。大佐の戦場で味方が死ぬのは縁起が悪い』

 

アンジェロさんがそれだけ言って通信を切る。

一瞬ぽかんとして、すぐに思わずにやけてしまった。本当にアンジェロさんって、いい人だよな。

 

 

 

直後に、警戒音がアナウンスされる。

 

『レーダーに感有り。モビルスーツ部隊発進。繰り返す、モビルスーツ部隊発進』

 

さあ、お仕事の時間だ。

 

『先に出る。アンジェロ・ザウパー、出るぞ』

『キュアロン・マスカ、出ます』

『セルジ・ヘルファー、ギラズール、発進します!』

 

戦争が始まる。そして、これで戦争が終わる。そう信じて。

 

「ハサウェイ・ノア、ヤクトドーガ、出ます」

 

カタパルトによるGを感じながら、僕は戦場へと飛び出した。

 




読了ありがとうございました!

ハサウェイの乗るマシンはヤクトドーガでございます。こいつホンマにガンダム乗らんな。
次回から戦闘になると思いますが、最後の戦闘の展開がどうしたもんかと結構悩んでます。
とりあえず、頑張って良ければなと思います。

誤字報告ありがとうございます。大変助かります。

そしていつも感想、高評価ありがとうございます。ココ好きとかもたくさんいただけて本当に嬉しいです。

引き続き感想、高評価など頂けると嬉しいです!
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