ハサウェイがアムロやシャアに影響される前に機械オタクになった世界線のお話   作:陸奥九十九

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いよいよハサウェイをGSXで走らせられました。なお走行しているのは私有地です。宇宙世紀の免許区分ってどうなってるんでしょう?アムロもカミーユも車に乗ってたし、ハサウェイも逆シャアで乗ってたっけ?にわかが極まってますね。


僕はわかっていきたい Z2(Z750RS)

ヤードの裏手にはちょっとした山がある。というより、この山の麓だからこそヤードは作られたらしい。この山を含め、ヤードの一帯はヤシマ家の持ち物なのだ。ルートこそ異なるが、山の中にちょっとした別荘があり、母さんは子供の頃よく遊びに行ったらしい。

 

ではなぜ山の麓にヤードが作られたか。まあ、遊ぶためだろうなあ。このようにして。

 

GSXが荒れた路面を追従するが、やや跳ねる。アクセルオン。油冷エンジンのトルクはすさまじい。3速でもパワーバンドに入れれば前輪がリフトする。そしてマシンが加速する。3速9000rpm、エンジンはまだまだ加速しようとする、コーナーが迫る。フルブレーキ、5500rpm、2速へ落とす。ブレーキをやや残し、フルバンク。地面が迫る。荒れた路面にマシンがすべり始める、一瞬のカウンター、アクセルオン、立ち上がれ!

ブワアアァァーーン!

エンジンの振動がステアリングから、タンクからボディから、そしてエンジン音から体を震わす。250km/h、いや300km/hにも耐えうるカウルが風を切り裂き加速する。

 

 

 

なぜこんなことをしているかというと、祖父ちゃんのこの一言からだった。

「セッティングを出すなら、まずは自分で走らなきゃ」

 

マシンのセッティングは終わりが無い。というより人に合わせるからこそセッティングは十人十色なのだ。メーカーが推奨するセッティング(純正仕様)は、多くの人に受け入れられるように懐が深く設定されている。初心者でも危なくなく、玄人でもちゃんと楽しく。決して悪いものではないし、むしろ正解と言っていい。

 

ただ、と祖父ちゃんが重ねる。

「誰にでも乗れる車は、そこから先が難しい。特にスポーツモデルやレースモデルはね。誰にでも乗れる領域と、玄人が乗って早くなる領域と、その両方を100点満点で同居させることはかなり難しい。例えば、街乗りで40km/hでも走れる、郊外で100km/hで飛ばしても走れる、サーキットで200km/hを出しても問題ない。どこでも走れる。何の問題もないセッティングがあるとする」

 

ただ、どこでも100点が取りづらい。

街乗りが楽なセッティングにすれば、柔らかすぎて郊外でもふらふらするし、サーキットで全開走行なんて恐ろしくてまず無理だ。

郊外で気持ちよく乗れる足にすれば、街乗りでは足が固く、サーキットでは物足りない。

じゃあサーキットにセッティングを合わせたら?レースマシンが街を走れると思うか?

 

セッティングとは最初のチューニングでもある。そしてセッティングとは、誰が、どこを、どのように走るのか?その条件をクリアするようにマシンを設定することだ。

 

「まずはハサウェイが乗りやすいように車をいじってごらん。セッティングは沼だよ。見えないゴールに向かっていくようなものだ。80点までは案外取れるけど、そこから先はじりじりとしか前に進めない。90点から先はもっと進まないし、そこまで労力をかけて、果たしてリターンはあるのか?我慢して乗るのが正解じゃないか?なんて思ったりもする」

 

だからこそ、最高に楽しいよね。祖父ちゃんはそう笑った。

 

 

ヤードの先の庭は意外にも広く、祖父ちゃんはそこでバイクの走らせ方を教えてくれた。これまたヤードで埃被っていたパイロンを持ちだして、それを並べてジムカーナのようなコースを作って、あとはひたすら練習。祖父ちゃんは走りに関しては意外にもスポ根だった。できるようになるまでやろう。ひたすらやろう。できないわけはないのだから。そして、安全な庭先である程度のレベルに達するまで、峠を走ってはいけない、とも。

基本的なアクセルワーク、ブレーキング、荷重移動、視線移動。開けて路面も安定している平地での練習でうまくいかないことが、より悪条件の峠道で出来るわけがない。GSXは速い車だ、峠での高速域のミスは、死と直結するよ。その時の祖父ちゃんに冗談の色などなく、真剣そのものだった。

祖父ちゃんが言っていた。運転はスポーツだと。数をこなせばそれなりに上手くなるし、上手くなる様よく考えて練習すればさらにうまくなる。そうしてレベルをちょっとずつ上げていくと、マシンの限界がちょっとずつ分かってくる。

どのようにセッティングを出すか、そのための運転技量は、高くて困ることは無い。

祖父ちゃんがお手本を走り、その真似をする。ダメな個所を洗い出して、再チャレンジ。あとはその繰り返し。

最終的にジムカーナ本番のように、設定されたコースを祖父ちゃんが走った時間の105%以内で走り切れたら合格、といった試験をして、何とかクリアできた。

 

その後はジムカーナごっこで感覚を慣らし、マシンのセッティングを煮詰め、その後は峠を走る。

マシンを運転し、セッティングをし直して、また走る。

さっきよりもよくなった、さっきよりも悪くなった。さっきよりも速いが乗りづらい。さっきよりも遅いが乗りやすい。

何が正しくて何が間違っているか、まだ分からない。ただ、GSXのことが分かってくる。分かったような気がする。その感覚がとても嬉しく感じた。

 

 

遠くから低いエンジン音が聞こえる。何の音だ?メカがかみ合うような高い音も…。

そのバイクは如何にもな形だった。丸いヘッドライト、茶とオレンジでペイントされた涙型のタンク、ブラックに塗装されたエンジンに、そこから伸びるブラックの集合管マフラー。

「Z900?」

「惜しい、これはZ750RS、Z2だね」

祖父ちゃんがニコニコ顔でバイクから降りる。

 

「かっこいいね、あとめっちゃ奇麗だけど、どこにあったの?」

「ずっと持ってたのさ。祖父ちゃん秘蔵のガレージでね」

 

ふふん、と祖父ちゃんが鼻を鳴らすが、ええ…じゃああのヤードマジで物置じゃんよ。完璧に2軍のお気にじゃん。で、あとで直そうと思って放置されていたもわかるけど…なんだかなあ…。

 

「秘蔵のガレージかあ、いいねえ。他には何があるの?」

「さっき言ってたZ1もあるし、あとはそうだね、911ターボとか、フェラーリも何台かあるよ」

 

悲報:ヤードさん、2軍のお気にでさえなかった。964RSさんは泣いても良い。完璧に要らなくなったけど捨てるには惜しいガラクタ置き場じゃん。まあ、だから遊び場にさせてくれてるとも思うけども。でもさあ……。

 

「いいね、今度連れてってよ。楽しそう」

「良いよ!絶対楽しいからね、それは保証できるよ」

「で、今日はどうしたの?秘蔵のZ2も連れて」

「いやあ、思えばちゃんと前を走ってバイクの乗り方を教えてあげられてないなあ、と思ってね。今日はもう何本か走った?」

「庭は走ったけど、峠はまだ。ちょっとフロントサスいじってて」

「いいねえ。じゃあ今日のセッティングがどうか、一緒に試してみようか」

 

そう言って祖父ちゃんが走りだす。良い音だ、ヨシムラの集合管。ただ、見れば見るほど驚く。奇麗なのもそうだけど、雰囲気がある。速そうな車というか、凄そうな車というか、周囲を圧倒するような、そして周囲の視線を集めるような、そういう雰囲気。

Z2、Z750RSは、凄まじいプレミアこそついているが、今ではもう古いだけのバイクだ。散々ボロだの何だのとこけ下したGSX-R750よりさらに古い。なのにこうも雰囲気がある。

 

峠に入ると祖父ちゃんがふとこちらに振り向き、ライドポジションを変える。瞬間、Z2がカッとんでいく。

マジか!一呼吸遅れてGSXに鞭を入れる。アクセルオン、間を置かずにGSXも加速する。しかし初動の遅れか、Z2との距離は縮まらない。

2速11000rpm、3速へシフトアップ。意識を置き去りにするような荒々しい加速。Z2も同じく加速する!速すぎる!

この道を、こんなペースで走るのか。路面は荒れている。サーキットなんかとは比べられないし、それどころかヤードの庭先よりなお悪い。

アスファルトはひび割れているし、雑に直したであろうつぎはぎで面圧も場所によっては全く違う。真っ直ぐのストレート加速でさえ、マシンは酷く跳ねて安定しない個所もある。何より落ち葉や木の枝だってそこらに散らばっているんだ。何かの拍子ですっ飛んでいってもおかしくない。

しかし、なおもZ2は前へ出る。

 

速い、Z2というマシンが速いというのもあるが、それ以上にライディングに無駄がない。加速、ブレーキング、コーナリング、全部に無駄がないから速いんだ。そして余裕がある。凄まじく速いと思ったけど、ちゃんと僕を待ってくれてる。それに、祖父ちゃんのラインと速度をトレースすればそれなりに走れる。

コーナーが迫る、体験したことのないスピードで。怖がるな、コーナーの先を見ろ、祖父ちゃんのマシンを視線で追え。恐怖に負けてコーナーに釘付けになれば、その瞬間にクラッシュするぞ。

分かりやすいほどに祖父ちゃんがハングオフしている。ありがたい。コーナーの手前で大きく腰をシート外側に置き直せば深いコーナー、小さく置き直すなら浅いコーナー。高速セクションでもポジションチェンジしてくれる。

乗れる。これまでよりも全然速いスピードレンジで。このコーナーはこんな速度域でもクリアできるのか。この直線はここまでペースを上げられるのか。

荒れた路面にあえぎながらも、それでもなおペースを上げられる。Z2との距離が縮まっていく、いや、これなら追いつけるかもしれない。コーナーをクリアして、しばしの直線。ストレートならGSXに分があるはず。アクセルを開ける。Z2のテールがこれまで以上に迫る、がコーナーも迫る。しかし依然としてペースは上げられる。

これなら追いつける、次の直線でいける。そう思った瞬間、コーナ―の立ち上がり、GSXのリアがすべる。

マジか!考えるより先にリアブレーキを踏んでいた。リアに荷重がかかりタイヤがグリップし直す。

同じ速度、同じライン、ライディングを丸っと真似していたはずなのに、こっちだけ姿勢が崩れた。何故?疑問が脳内を駆け巡る。

タイヤの性能が違う?それともZ2とGSXでトラクションが違う?違う。もしそうならこちらが破綻するわけがない。GSXはZ2と違ってラジアルだし、軽いスイングアームに高性能なモノサスなんだ。マシン性能は確実にGSXが勝っている。ならば…。

 

荷重だ。多分、ブレーキングが早くて荷重移動が中途半端だった。そのせいで距離が余って、気が逸ってアクセルオンが早くなった、その結果中途半端な姿勢でリアに荷重をかけてリアが滑り出した。

トレースした気になっていた。祖父ちゃんに追いつけるようになって、気を抜いたんだ。こんなもので大丈夫だろうって。自分の能天気さ加減に笑えてくる。

でも分かる。どうして祖父ちゃんが速いのか。どうしてマシンが暴れたのか。何が足りてないのか。分かるようになったんだ。この走りで。

 

 

 

「どうだった?」

峠を走り終えると、ほくほく顔で祖父ちゃんが話しかけてくる。

「祖父ちゃんめっちゃ速くない?」

「んふふふ、そうでしょ?祖父ちゃんこれでも若い頃はちょっとしたものだったんだよ?」

「超速かったよ。あとZ2も凄いわ。GSXで追いつけないとは思わなかった。かなりいじってる?」

「そりゃそうよ。言ったでしょ?祖父ちゃん秘蔵のZ2だって」

「マフラーとポンカムとかで出る速さじゃないよね?GSXだってざっくり100馬力は出てるんだし、同じくらい出てるの?」

「エンジンは凄いよ?ヨシムラコンプリートみたいなもんだしね。ハイカム、ハイコンプピストン、軽量コンロッド、軽量クランクシャフト、強化スタットボルト、強化バルブ、強化バルブスプリング、燃焼室加工、その他諸々ね。100馬力は、どうだろ?出てるかもね」

「エンジンは全部やってるわけね、OKよくわかった。それにしてはホイールはスポークホイールだし、タイヤはクロスプライタイヤなんだ。フレームもノーマルっぽい……いやフレームはがっつり強化されてるね。補強プレートめっちゃあるわ。何この奇麗な溶接と塗装、純正かと思ったわ」

「すごいでしょ?あくまで見た目は純正に、しかし中身はスペシャルに。速そうに見えない車が実はめっちゃ速いフルチューンZ2、最高にクールでしょ?」

「分かる分かる。クールだしロックだね。でもスポークホイールって、パワー負けしない?」

「するねえ。でも純正サスの形状のままだと、どんなに中身に手を入れてもサスの時点でエンジンパワーに負けちゃうんだよね。その分を柔らかいホイールで吸収してバランスがとれている、気がする?まあ多分そんなことないんだけど。まあ純正の見た目縛りがなければFXのホイールとか履かせてるかも」

「なるほどね。でもいいね、こだわり部分だ」

 

 

「それでどうだった?何か得るものはあった?」

「うん、何かしら掴めた気がする」

「例えば?」

「自分の甘さとか?」

「あらら」

「いや、でも良かったと思う。足のセッティングとか、キャブのセッティングとか、そういうメカ類のセッティングを出すときにはあんなに気を遣ってたのに、走りに関して結構スポイルしてた部分があったと思う。そういう甘さがあったって、今日分かった」

「そっか。走ってみて、怖かった?」

「怖かったね!祖父ちゃんめっちゃハイペースなんだもん。ただ、自分でたらたら走ってたら、気づくこともなかったと思う。それに、庭先でのジムカーナごっこだと出ないスピード域を知ることもできた。例えば、この峠を走るなら、足はもっと固くしても良かった、とかね」

「うん、何かしら得るものがあったなら良かったよ」

 

「父さんがね、いろんな物事は繋がっていて、体験したものや分かったことは、その分野だけに限らず、色んな物と繋がるよって言ってたんだ」

「ブライト君が?」

「うん。だから色んなことを体験しなって。その時はそういうものなんだあ、ってそれで終わってたけど、今ならもっとよくわかる気がする。直さなきゃバイクは走れないし、その直し方が走行性能に関わってくる。さらにマシンを分かろうとして乗らなきゃそのマシンの本質は見えてこないし、適当に乗ってたらどこかでしっぺ返しが来る。僕はGSXしか乗ってないから、もっと他の、それこそカブとかモペットは全然違うのかもしれないけどさ、直すのも乗るのも、適当じゃだめだよね。そんなの当たり前かもしれないけど、そう思うよ」

そう言うと、祖父ちゃんは優し気に笑ってくれた。

 

「楽と楽しいは違うよね」

祖父ちゃんが言う。

「テレビを寝っ転がって見て、面白くて笑って、私も嫌いじゃないんだ。そういうの。楽で良い。お手軽で良い。でも、そこから得るものは、そう多くない。そう思うんだ」

祖父ちゃんがZ2のタンクを撫でる。

「バイクに乗る。それだけで楽しい。街を適当に走って、喫茶店で休憩がてらコーヒーでも飲んで、宛てもなく走って、そういう楽しみ方もある。むしろ健全な楽しみ方だ。ただ、そうじゃない楽しみ方もある。必死になってバイクを操って、時間と労力をかけて、怖い思いもして。でもその先に、そのマシンがどういうバイクなのか、体感することができる。雑誌やカタログを読んで得られる情報とは全く違う、自分の体で知る情報がね」

 

祖父ちゃんがにやりと笑う。

言いたいことが分かる気がする。分かる気がすることが、無性に嬉しい。

 

「ねえ祖父ちゃん。もう一本走れる?」

「もちろん。でも、足は固めなくていいのかい?」

「うん、今はこれでいい。これで走りたい」

 

言い訳をせずに、少しずつ分かっていこう。たとえ遠回りでも、しっかりと分かっていきたい。

楽しい。僕は今、最高に楽しい。

 




読了ありがとうございます。次回はハサウェイを車にも乗せたい。
良ければ感想など頂けますと大変励みになりますので、よろしくお願いいたします。
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