ハサウェイがアムロやシャアに影響される前に機械オタクになった世界線のお話   作:陸奥九十九

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私もしかしたらリディ少尉書くの苦手かもしれない。凄まじく筆が進まなかったです。
でも結構いい感じで書けたのでは?と思ったり思わなかったり。

楽しんでいただけると嬉しいです。


鉄風雷火

バナージはこれまで、圧倒的不利という状況を経験したことがなかった。

 

唯一あったとすれば、それは首相官邸ラプラスでの戦闘くらいだ。親衛隊の3マンセルに一方的に翻弄され、手も足も出ずに鹵獲された。

バナージが自分の無力を痛感した戦闘でもあるし、たとえエースクラスであっても、親衛隊の3マンセルを突破することは難しい。

確かにこれは圧倒的不利であった。

 

しかし、アンジェロたちは最初から鹵獲を目標に置いていた。

 

殺すつもりはなく、痛めつけるつもりもなく、効率的に戦闘能力を奪う。極めて特殊な戦闘状況を体験していたともいえる。

 

 

 

それ以外の戦闘で、特に地上に降りて以降、バナージはユニコーンの圧倒的性能を活かす方向で技能を伸ばし、それは功を奏した。

エース級のパイロットが乗ったグスタフカールとリゼルをほぼ無傷で仕留めることができるほどに。

 

ユニコーンは圧倒的なまでに高性能なマシンだ。ユニコーン以上の性能のマシンは、モビルアーマーを含めてもそう多くない。

 

バナージは、圧倒的高性能に立ち向かうという状況を、これまで経験していなかった。

 

 

 

「くうぅ……!」

 

迫るメガ粒子砲を、必死になってバナージは避ける。上下左右、そして前後、あらゆる方向からくる攻撃を、回避し、シールドで防ぎ、時にユニコーンの推力に任せて振り切る。

そして、そのGを必死に耐える。

 

『ラインを下げろ!インコムに囲まれるぞ!』

 

アンジェロの助言に、返答する余裕さえない。

見えてはいるのだ、敵の攻撃も、インコムの動きも。しかし、そこから数手先が読めるほどの技能が今のバナージにはなく、迫る攻撃をNT-Dに任せて避ける以上の選択肢が取れない。

 

迫るインコムが撃墜されてるのも確認できる。キュアロンとセルジの狙撃が、アンジェロのインコムが、囮役となったユニコーンを必死に援護している。

 

敵のヘイトを受けるタンク役ならばこの動きは間違っていない。

 

しかし、ユニコーンは遊撃手もしなくてはならない状況だ。敵の攻撃を掻い潜り、集中力を散らさせ、背部ユニットを破壊する。

 

そのためには迫るインコムを迎撃し、機動的余裕を自ら生み出し、敵の死角を突かなくては話が始まらない。

 

 

 

前提の話として、この役割は当初フロンタルもしくはハサウェイが行う予定だった。

オールレンジ攻撃に対応し、機動力を生かし相手を翻弄する。そしてユニコーンから注意を逸らさせ、不意を突いてユニコーンが狙撃する。

 

しかし、ネオジオングが2機来たことによって、その前提は根底から覆された。

 

アンジェロが囮と遊撃を、バナージが遊撃と狙撃を、そしてキュアロンとセルジはそのフォローを。

 

 

 

この配置しかなかっただろうな、と親衛隊は理解していた。

 

いくらフロンタルとハサウェイであっても、モビルスーツ単機でモビルアーマーの打倒は不可能だ。いや、二人掛かりでも相当な無理筋である。

それでもぎりぎり対応はできる。それは、打破撃墜できる、という意味ではなく、即座に墜とされる可能性は恐らく低い、という意味で。

 

それでも思う。ユニコーンの負担が大きすぎる。せめてフロンタルかハサウェイのどちらかは残って欲しかったと。

ユニコーンとバナージの組み合わせは悪くない。状況次第ではエース級の活躍ができるし、相手が量産機の部隊、今回で言えばゼネラルレビル相手であれば、それなりの活躍は間違いなくできる。

 

だが、今回はそれなりの実力者では困るのだ。準エース級では即殺されかねない状況、最低エースクラス、叶うならスーパーエースクラスが必要な状況、ジャイアントキリングを為す戦場だ。

 

その戦場において、バナージは必死に役目を果たそうとしていた。

 

 

 

『フォローします!立て直して!』

 

セルジがバナージに迫るインコムを迎撃し、何とかユニコーンの余裕を生み出そうと努力する。

 

ここだ、とバナージはほぼ直角にマシンを機動させ、マニューバで攻撃を振り切る。

 

『バナージ!背面へ回れ!』

 

全身に掛かる強烈なGに耐えながらも、バナージは必死に次の行動へ移ろうとしていた。

 

そうだ、狙撃地点に入らなければ話が始まらない。インコムを振り切った今なら……

 

その思考に、ユニコーンは応える。モニターにとらえるネオジオング、そしてそこから光の矢のように放たれるメガ粒子砲を、必死に目で追いながら回避し、何とかネオジオングの背面へ回り込もうと。

 

 

 

しかしネオジオングとて案山子ではない。

何より、リディの視界にはもはやバナージしか映っていなかった。

 

『バナアージイィィーー!』

 

そんなに叫ばなくても聞こえてるよ、そう心の中で毒づくが、声に出せるほどの余裕はなかった。

 

ネオジオングは鈍重だ。いくらスラスターを吹かしても、その大推力を活かしても、質量を無視することはできない。動き出しは遅いし、動き出せば止まらないし、止まるためには逆方向のスラスター制御が必要になる。

 

それを全てNT-Dで制御していたとしても、思い通りにマシンが動くかどうかは別だ。そのことをバナージは経験から理解していた。

 

マシンを十分に理解できていなければ、NT-Dは単純な機動しか出力してくれない。アマチュアがプロの真似をしてもプロと同じ結果を出せないのと同じように、その過程を理解しなくてはNT-Dはその性能を発揮できない。

例えばその行動によって生じる、人体に耐えがたい程のGを、NT-Dは軽減してはくれないのだ。そのためにバナージはユニコーンの加速Gで一度気絶している。

 

 

 

ユニコーンを追って回り込もうとすれば、それだけでネオジオングは一大事なはずだ。

 

距離を取り、しかし速度で回り込む。弾幕を避け、それでも死角を……

 

 

 

いや、難しいか。

 

インコムはアンジェロらによって順に墜とされているが、それでもすべてを墜とすには時間がかかる。

何よりも、インコムを墜としているのは、それ以外に明確に通用する攻撃手段が現状ないからだ。

 

今この状況を続けても、じり貧である現状は改善されない。

 

余力があるときでないとチャレンジはできない。

 

ハサウェイがそんなことをしばしばバナージに話していた。

モビルスーツ戦闘だけでなく、その他の多くにおいても、追い詰められた先で打つ一か八かは、たいてい失敗すると。そんな状況に陥らないことが最善だが、もしそんな予兆を感じたら、八方塞がりになる前に打開策を見つける必要がある。

 

それは今だと、バナージは思った。

 

シールドファンネルをユニコーンに先行させ、強固なサイコフィールドを作り、その緩衝地帯を利用して射撃体勢を作る。そうすれば狙撃できるはずだ。

 

「吶喊します!援護お願いします!」

『よし行け。サブアームに警戒しろ』

 

バナージは左手に装着したシールド、そして補助スラスター的に背中に装着した2枚のシールド全てを展開する。

 

迫るインコムをアンジェロが迎撃し、道を切り拓く。

 

距離を詰めろ、躊躇わずに一気に。下手な距離で迷えば火力に押しつぶされる。

 

被弾覚悟の吶喊。親衛隊の援護、シールドファンネルのIフィールド、そしてNT-Dの直感回避。

 

バナージはその距離を詰める。

 

まだだ、まだ詰めろ。確実な距離を捉えろ。

 

ユニコーンは加速する。剣林弾雨のしのぎ切り、なおも前へと距離を詰める。

 

 

 

今、ここ!

 

 

 

超高速機動の中、それを止めることなく、バナージはビームマグナムを放つ。

 

NT-Dの発動、そして鉄火場の緊張感により磨かれたバナージのニュータイプ能力は、現在のバナージでは為しえないほどの精密射撃をその瞬間可能にしていた。

 

咄嗟に守らんとするネオジオングのサブアームを貫通し、サイコフィールドを貫通し、Iフィールドを貫通し、その一射は背部ユニットまで届いた。

 

届いた、しかし、破壊ならず。

 

守らんとするリディの意思をNT-Dは確実に拾い上げ、その疑似サイコフレームに確実に指示を与えた。

 

 

 

バナージもそれを理解する。

 

「くっ!」

『まだだ!撃ち続けろ!』

 

歯噛みするバナージと同時に、アンジェロの指示が飛ぶ。

 

今だ。むしろアンジェロはここが天王山だと判断した。

ビームマグナムがサイコフィールドを撃ち抜き、今ならば攻撃が通る可能性がある。攻め込め。

 

言葉にする必要もなく、セルジとキュアロンが即座に反応する。

 

ギラズールのロングビームライフルが、ローゼンズールのメガ粒子砲が殺到する。

 

そして、ユニコーンも次なる一撃を放たんと動く。

 

 

 

ネオジオングは、既にユニコーンを手中に収めていた。

 

「なっ!」

 

ネオジオングは鈍重である。その大質量を動かすためには、莫大な推力が必要になる。

 

だが、それは初動だけだ。その莫大な推力をもってすれば、迫りくるユニコーンを捕捉する程度容易い。

 

そして、サイコシェードから形成される疑似サイコフレームがNT-Dに呼応し、サイコフィールドによる斥力を動作させ、ネオジオングに限定的な敏捷性を与えていた。

 

 

 

『振り切れ!』

 

アンジェロの声もむなしく、ユニコーンは動けずにいた。

 

ユニコーンを解放させんと親衛隊の放つ火器が、先ほどまで欠片も通らなかったネオジオングの装甲にダメージを与えていた。

 

それはサイコフィールドの出力低下を意味するものではなく、ネオジオングは、ユニコーンを掴み捕獲するための力場の形成のために、サイコフィールドのリソースを割き始めていた。

 

NT-Dは、パイロットの脳波を拾い、マシンを確実に動作させる。

 

 

 

『ユニコーン……そうだ、お前が居なければすべては始まらなかったんだ……ビスト財団も、マーセナス家も、みんな、みんなクソッタレだ!』

「ぐっ……!」

 

バナージはその感応現象により、ユニコーンの受けるダメージを自らのその身体にも一部フィードバックさせていた。

まるで自分の体が万力によって掴まれているかのような痛みを。そして、それにより遮られる呼吸を。

 

 

 

これは、まずいかも。

 

 

 

バナージは直感した。これほど強力なサイコミュマシンが集うと、パイロットはマシンと自分を同一視するような錯覚さえ覚えてしまう。

 

 

 

これはまずい。早々に終わらせないと、オードリーの体がもたない。

 

 

 

『俺はやり遂げなくちゃいけないんだ……死んだハサウェイ・ノアに報いるために、ミネバを守るために、全部を、全部を壊さなくちゃ!!』

『子供のようなことを言う』

 

見苦しいことこの上ない。アンジェロの言葉が、鮮明に聞こえた。

 

万力の如きサイコフィールドが、その力を弱めた。

そして、ネオジオングを囲む6基のビットを、バナージは見た。

 

『長くは持たん、サイコフィールドを中和させろ!』

「っ、了解!」

 

アンジェロはサイコジャマーと言う手札を切った。

ユニコーンを失った時点で、この戦線は瓦解する。ギラズールとローゼンズールでネオジオングを打倒できる可能性は万に一つもない。アンジェロはそのように判断した。

 

だが、サイコジャマーを失った時点で、ミネバとリディの保護という選択肢もまた消失する。そしてそれは、任務の失敗を意味する。

 

ここですべて押し切る。それがアンジェロの結論だった。

 

 

 

バナージもそれを理解した。そして、ここで押し切れなければ、敗北が確定することも。

 

「マップ3!」

 

音声入力と言う古めかしい手段を取ってまで、バナージは一瞬さえも無駄にしたくはなかった。

 

ユニコーンのOSには3つのマップが存在する。

マップ1は通常仕様。NT-Dを使用しない状況でもバナージが問題なく使用できる、いわばリミッターが掛かった状態。

 

マップ2は戦闘仕様。マシンマキシマムにほど近く、NT-Dの仕様を前提とし、エース以上のパイロットの感度に合わせたセッティング。先ほどまでバナージはこの仕様を使っていた。

 

そして、マップ3は過激仕様。サイコフレームの性能を完全に発揮させ、NT-Dとの感応を最大限に共鳴させ、パイロットの負荷を一切考えずに、全性能を発揮する仕様。

 

膨大な量の戦闘データやバナージのシミュレーターのデータを反映させ、その上で何とかNT-Dにバナージの操縦のイメージを学習させることで、この仕様は完成した。

 

これによって、当初バナージが気絶するほどの性能を、ロスなく確実に発揮させられるようになった。

 

 

 

しかし、パイロットへの負荷は依然変わりなく。この仕様での長時間戦闘は不可能なものだった。

 

それは肉体的にも、また脳のキャパシティ的にも。

ユニコーンの全性能を、バナージは確かに発揮できる。それほどの耐久限界をバナージは保持している。そして、これは強化措置を施されたマリーダよりさらに高い限界域だ。

 

それでもなお、マップ3で長時間戦闘を行えば、バナージの脳は確実に焼き切れる。ハサウェイも、フロンタルも、またバナージ自身も、それをよく理解していた。

 

 

 

「インパクト!」

 

サイコフレームの出力を上げ、ユニコーンに鳴動させる。

 

ユニコーンが、ネオジオングの両腕を押し返す。サイコフィールドを押し返し、そしてサイコフレームがユニコーンのパワーを確実に強化していた。

 

『どうして……どうしてお前なんだ!?ただ巻き込まれただけのお前が!どうして!!』

 

押し返さんとするネオジオングの腕がひしゃげていく。まるでコンクリートに押し付けられた発泡スチロールの様に、ユニコーンの腕を起点に崩れていく。

 

『くそっ!!』

 

再びとらえようと残るサブアームを取り出すが、それより早くユニコーンはネオジオングの懐に潜り込む。

 

「アンジェロさん!オードリーを救出します!」

『サイコジャマー、出力全開』

 

ユニコーンがネオジオングのスカートをはぎ取ると、そこには球形の脱出ポッドが見えた。

 

「……オードリーは、返してもらいます」

『ミネバは、お前のものなんかじゃない!俺の、俺の!……』

「……そうですね。なら、頂いていきます」

 

バナージは慎重に、しかし迅速に脱出ポッドをはぎ取り、それを後方へと放した。

 

「お願いします」

『了解した。隊長、戦線を離れます』

『頼んだぞ、キュアロン中尉』

 

脱出ポッドをキュアロンが受け取り、即座に戦域から離れる。

 

『さあ続きだ。気張れよ』

「はい!」

 

『ふざけるなあぁぁーーー!!』

 

ネオジオングはひしゃげた腕を振り回し、ユニコーンを打擲せんと迫る。

が、シールドファンネルがそれを防ぎ、残る1枚のシールドファンネルがバンシィのすぐ横、ネオジオングの肩へと突き刺さる。

 

「サイコフィールド、確実に弱まってます」

『了解、解体するぞ』

 

バナージは近接での戦闘を継続しようとした。理由は単純で、その巨体で近接格闘は不可能だと考えたからだ。

 

そしてそれは当たっていた。クロスレンジならともかく、ゼロレンジでモビルアーマーができる対応策はほぼ無い。

マリーダほどの技量があれば、サーベルの鍔迫り合いの最中でもファンネルで敵を狙撃することは可能ではあるが、それはマリーダの驚嘆すべき技量が前提になる。

 

コクピットの1メートル向こうを正確にファンネルで狙撃するなどまず不可能だし、そして携行武器のビーム程度のファンネルの火力ならともかく、ネオジオングのインコムはメガ粒子砲だ。

たとえ精密な攻撃が出来たとしても、威力が高すぎて危険すぎる。

 

まともなパイロットであればそんな危険は冒さない。

 

 

 

そう、まともであれば。

 

瞬間、悪寒を感じる。

バナージは踏み込んだその足で、ネオジオングを蹴り返してその場から退避した。

 

直後、ネオジオングのスカート部分を、ネオジオングのメガ粒子砲が撃ちぬいた。

 

『っ、離れろバナージ!』

 

自傷さえ躊躇わないかのようなその狂気に、バナージは一瞬気圧され、動きを止めた。

そして、その一瞬を見逃すほど、NT-Dは愚鈍ではない。

 

アンジェロの声にバナージは反射し、一気に距離を取る。

ユニコーンを守護せんとシールドファンネルが飛翔し、そこにメガ粒子砲が何発か突き刺さる。

 

四方八方へとまき散らされるメガ粒子砲が、サイコジャマーを発生させていたビットを破壊する。

 

 

 

ミネバと言うジェネレーターを失い、しかしネオジオングは失速こそすれ止まりはしなかった。

NT-Dは、サイコフレームに呼応してパイロットの限界以上の性能を実現させることができる。それはトップエースの動きを、疑似的に新兵が体験できるようなものでもある。

 

人は何事にも慣れる。

モビルスーツという大きな機械を動かすことに四苦八苦していた新兵が、宇宙戦闘で音速近いマニューバに体を痛めていたビギナーが、その状況を繰り返すことで次第にそのサイズに、スピードに、そしてGにも慣れて、耐性が出来ていく。

 

リディはこの戦闘で多くを学んだ。

 

アンジェロら親衛隊の連携、ハサウェイのオールレンジ攻撃、ユニコーンの突破力と格闘能力、そして何より、強烈なサイコフィールド下での高次元戦闘を。

 

リディはその才能を開花させようとしていた。

 

自分が成長すべき方向を、必要な能力を、才能を。

そしてNT-Dは、サイコフレームは、その羽化のような成長を後押しした。

 

そしてその成長が、リディにニュータイプ能力を発露させた。

 

 

 

『消えろユニコーン!消えろ、イレギュラー!!』

 

メガ粒子砲の雨が降り注ぐ。敵を視界にとらえるのではなく、空間に、その領域にとらえる。

そこにいることさえ感知できれば、NT-Dが照準も補正も全て補ってくれる。

 

『回避』

 

しかし、その程度の攻撃は相手からすれば問題にさえならない。

ローゼンズールが、ユニコーンが、ギラズールが、その攻撃の雨を確実に防御し、確実に回避していく。

 

『まだ動くか、面倒だな』

 

ハサウェイめ、目測を見誤ったか?とアンジェロは皮肉気に吐き捨てた。

 

ギラズールのビームがネオジオングのバックアームに命中し、その腕を焼く。

 

『攻撃は通るようになっています。性能は確実に落ちているかと』

『そのようだな。バナージ、まだ動けるな?』

「行けます!」

 

よし、とアンジェロはネオジオングを見下ろした。

 

『まずは目障りな腕を処理する。その次にメガ粒子砲の発射口、そしてスラスターだ。踏み込める状況と判断すれば各自吶喊。バンシィを引きはがし、ネオジオングを撃破する』

 

では、掛かれ。

 

 

 

声と同時に、バナージは前へ出た。

 

ユニコーンが前に出れば、サイコフィールドはより中和される。攻撃が通りやすくなる。そして、敵の狙いが自分ならば、その動きを限定できる。

 

その動きを、アンジェロとセルジは瞬時に理解した。

 

アンジェロは近中距離を確保しインコムを展開させ、オールレンジ攻撃による遊撃に務め、セルジは遠距離から確実な狙撃によって攻撃能力の奪取を図る。

 

 

 

『どうしてお前なんだ!どうして俺じゃない!俺が助けるって言ったのに!!』

 

NT-Dは必死にネオジオングを操作する。ユニコーンを追え、攻撃を避けろ、それらを信号として受信し、ダメージを受けた背部ユニットから何とか疑似サイコフレームを形成、マシンを制御していた。

 

『ミネバも俺と共に来てくれたのに!なのに俺を見捨てるのか!』

 

しかしそのダメージは大きい。不完全なサイコシェードに、もはやネオジオング本来の性能を引き出すだけの出力は無かった。

 

『パイロットになりたくて、ロンドベルに入って!なのにどうしてお前がそこにいる、ハサウェイ・ノア!!』

 

ネオジオングは最早ただの大型モビルアーマーになり果てていた。その火力に警戒すれど、その弾幕に警戒すれど、もはや攻撃の一切が通らない様な、ユニコーンのようなサイコミュマシンが居なければ一方的に蹂躙される様な、理不尽極まる戦略兵器ではなくなっていた。

 

『俺は、俺だって!必死に戦ったんだ!ネェルアーガマを守ったんだ!なのに!!』

 

そしてリディの能力もまた、その限界を迎えていた。

どれほど才能が開花しようとも、その技量が一足飛びに飛躍するわけでは無い。他の追随を許さないほどの才能、それこそアムロ・レイほどの才能があれば別なのだろうが、リディの才能はバナージやハサウェイのニュータイプ能力にも遠く及んでいなかった。

 

『どうしてこうなった!どうして!!俺は、俺はああぁぁーー!!』

 

バナージは確実に囮の役目をこなし、サイコフィールドを中和させ続けていた。

そしてアンジェロとセルジは確実にネオジオングを解体していく。

 

「どうして、自分のしたことを誇れなかったんですか?」

 

ふと、バナージが呟く。

 

「どうしてハサウェイと比べるんですか?為すべきことをしたと、そう思うのなら、ハサウェイなんかどうでもいいんじゃないんですか?」

 

マニューバを取りながらも、バナージはそう呟く。

 

「あなたは、ただ自分が注目されなかったことに、腹を立てているだけなんじゃないですか?」

 

そんなの、ただの我儘な子供じゃないですか。

 

『っ、黙れええぇぇーーー!!』

 

ネオジオングが、ユニコーンに火力を集中させる。放たれるメガ粒子砲を、バナージは3枚のシールドファンネルによるIフィールドとサイコフィールド、そして、ユニコーン本体のサイコフィールドで受け流す。

 

『よくやった』

 

いい挑発だ。

アンジェロは、ネオジオングの注意力が完全にユニコーンに注がれるその瞬間を見逃さなかった。ネオジオングから放たれたメガ粒子砲が収束しきる前に、その発射口を狙撃する。

 

爆発、ネオジオングが大きくその体勢を崩す。

 

それと同時に背部ユニットにも攻撃が通り、サイコシェードは完全にその能力を喪失する。

 

 

 

ローゼンズールの火砲がネオジオングに注がれる。

 

スラスターへ、そして誘爆し、爆破により装甲が歪んだ箇所にまた攻撃が突き刺さる。

その巨体故に回避もできず、ローゼンズールのインコムを、もはやネオジオングは捕捉することさえできずにいた。

 

『くっ、まだだ!!』

 

もはやその機能を完全に消失させ、デッドウェイトになり果てたネオジオングの外殻ユニットを、リディは放棄した。

 

バンシィがネオジオングから飛び出し、ユニコーンへ斬りかかる。

しかしその動きに、もはやキレは無かった。

 

迫るビームトンファーを、ユニコーンは確実にシールドで防ぐ。

 

攻撃を受けるとほぼ同時に、バンシィがローゼンズールのインコムの物理クローによって真横へ吹き飛ばされる。

 

『ぐあぁっ!』

 

体勢を崩すその瞬間を、バナージは見逃さない。

コクピットへ向けて、瞬時加速し、キックを叩きつける。

 

『ぐうぅーー……まだ!』

 

吹き飛ばされ、沈黙せんとする意識を叩き起こし、リディは尚も前を向く。

 

前を向いたその先、ローゼンズールがクローを構え待ち構えていた。

アンジェロはとどめとばかりにコクピットを叩く。1回、2回。

 

『ま……だ……』

『……教えてやる、ガキ』

 

世の中を良くしようと誰かを殺してもな、大抵より悪くにしかならんのだ。

 

 

 

バンシィが崩れ落ちる。

一瞬間を置き様子を見るが、バンシィは完全に沈黙していた。

 

『……バンシィの沈黙を確認。セルジ少尉、バンシィをレウルーラまで曳航、収容後にパイロットを即時排出、その後に戦線復帰、いけるな?』

「了解」

『よし、では頼んだ』

 

ギラズールがバンシィを引き、レウルーラへ飛んで行く。

 

『……ユニコーン、動けるか?』

「はい、いけ……」

 

行けます、そう言おうとして、バナージは今にも体が崩れ落ちそうなほど消耗している事実に気付いた。

 

途端に呼吸が荒れる。

それは当然とも言えた。戦闘が始まって以降、バナージはほぼ絶え間なく動き続けた。それも単純な移動行動ではなく、回避マニューバを取り続けていたのだ。

 

肉体的にも精神的にも、バナージは限界近かった。

 

そしてそれはアンジェロにも同じことが言えた。

 

アンジェロの駆るローゼンズールは、バンシィとの正面戦闘を考慮し、敏捷性を高めるためにハサウェイとバナージによって各スラスターへの調整が度々行われ、その結果として、シナンジュを凌駕するほどの推力を、如何なく発揮できるほどのスペックを有していた。

 

しかし、そのマシンを駆るためには尋常ならざる負荷がかかる。

アンジェロもそれは理解していた。理解した上で、それでも戦闘機動を取り続ける必要があった。

 

アンジェロはネオジオングとの戦闘で、本来はアンジェロ、フロンタル、ハサウェイの3人でこなす予定の役割を、ほぼ一人でこなしきった。

 

ユニコーンへの支援、ネオジオングへのストレス攻撃、武器破壊、そして囮。

 

恐らくマリーダであってもこの役割をこなすことは難しかったであろう。そしてそれを遂行できたのは、全分野において優秀な技量を持ち、視野広くマルチタスクも可能であり、その上で機動力と突破力のあるローゼンズールを十全に乗りこなせるアンジェロだからこそ為せたともいえる。

 

しかし、その負荷はあまりにも大きかった。

 

 

 

息苦しさから、思わずアンジェロはヘルメットを脱いだ。

汗をぬぐい、口元をぬぐうと、そこには血が付着していた。度重なるマニューバと、それに伴うGによって、毛細血管が破裂したか、それとも内臓がダメージを受けたか。

 

『……全方位警戒、この場で待機する』

 

アンジェロのその言葉に、バナージは息が切れるばかりで応答できずにいた。

 

『現状で戦闘行動は無理だ。症状が落ち着き次第、レウルーラへの帰投、ないし戦線への復帰をする』

 

視線の先には、未だ戦火がいくつも見える。

 

その閃光を見ながら、切れそうな意識を何とかつなぎ、二人はただ息を整えることに尽力した。

 




読了ありがとうございました!

次回はゾルタン様との戦闘になる、はずです。

いつも誤字報告ありがとうございます。なんでこんなミスしてるん?といつも思うのですが、思うだけで改善出来てません。申し訳ねえ。

そして感想と高評価ありがとうございます。嬉しい、本当に嬉しい。今はただ読んでくださる皆様に感謝を。

引き続き感想、高評価いただけると嬉しいです。
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