ハサウェイがアムロやシャアに影響される前に機械オタクになった世界線のお話   作:陸奥九十九

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書けなくなる時って本当に書けなくなるんですね。やる気が出ないというか、構想が練れないというか、書くのに本当に苦労しました。

出来が本当に宜しくない。待ってくれてた方が居たら申し訳ねえ……


怪力無双と反省会 ユニコーン編終了

マーサ・ビスト・カーバインは慎重かつ狡猾な人間だった。

 

確実なる勝利、そのためには手段を選ばない。たとえジオンの姫君を利用しようとも、連邦の英雄を抹殺しようとも、自分の甥を捨て石にしようとも、勝利が全てを覆してくれる。だからこそ勝利しなければならない。

 

その思考が酷く男性的かつ敗北者的思考であると、彼女はついぞ自覚することは無かった。

 

しかし、その確実なる勝利とやらが酷く険しく、ほぼ実現不可能な目標になりつつあることを、彼女は認識し始めていた。

 

 

 

ユニコーンの鹵獲、当初の目的はただそれだけだった。そのために特殊部隊のエコーズをわざわざ用意させ、民間コロニーへの強襲と言うこれ以上ない奇策を用いて強奪を試みた。

 

しかし、結果は失敗。

 

エコーズとロンドベルは任務の異常性を早期に見抜きマーサの手から離れ、強権を発動させるために現場へ送り込んだアルベルトはその状態を見抜けず、隠密作戦は文字通り闇の中へ葬られた。

 

そしてマーサは次善策を取ろうと決断した。

 

ネオジオン、赤い彗星の再来たるフロンタルの飼い主、ジオン共和国、その窓口たるモナハン・バハロへの接触である。

 

連中の手中にはザビ家の末裔ミネバ・ザビがおり、さらにビスト財団が保有するラプラスの箱はジオンにとって強力な武器になる。政治的に連邦へイニシアチブをとる材料になると。

 

モナハンはその接触を快く受け入れ、フロンタルへ状況把握を急がせた。

 

叶うならばジオンのみでミネバ姫もラプラスの箱も抑えたい。そうすれば自らの未来も拓ける。彼はそう確信したからだ。

 

しかし、結果はふるわず。

 

ラプラスの箱開放の為地上へ降りて以降フロンタルからの連絡は途絶え、もはや生きているのかも死んでいるのかもわからない状況となった。

 

 

 

そんな折だった。二人の情報網に、詳細は不明だが月にて特別な会合が行われた、と報告が掛かったのは。アナハイムの要人護送用のルートが使用され、しかし護送された人物は一切不明。データログからもその痕跡を追うことはできなかったという。

 

その時二人は直感した。状況が悪化している、そして、ミネバ・ザビもフル・フロンタルも、そしてハサウェイ・ノアも、すべて関係し、我々の関知せぬ場所で状況が回っていると。

 

良くも悪くも、マーサ・ビスト・カーバインとモナハン・バハロは優秀なのだ。

そして、自身へ降りかかる危険に対してこれ以上なく敏感だった。

 

二人は、持ち得る限りの全ての手札を切ることを決めた。

 

マーサ・ビスト・カーバインは連邦へのコネクション、そこからドゴスギア級ゼネラルレビル、そして旧ティターンズや、未だ再起を図る失脚した連邦将校に声をかけ、アナハイムから旧式のモビルスーツ、さらには最後の備えとしてコロニーレーザーまでも用意した。

 

モナハン・バハロは、2機のネオジオング、それを操縦するゾルタン・アッカネンとその部隊、さらにはネオジオンへ迎合しなかった旧アクシズやジオン残党軍を招集した。

 

そして、運よく手に入ったミネバ・ザビの身柄、そして都合よく彼女に執着するリディ・マーセナス、それらすべてを戦場へ送り込み、戦後への保証も掛けた。

 

全てが宇宙に消えれば、その責任は特殊行動をしたロンドベル、フル・フロンタル、ひいてはその背後にいるであろうフィクサーに降りかかる。

 

我々は地球連邦という大義を背負っているのだから。

 

 

 

結果、ラプラスの箱奪取のために2機のネオジオング、ゼネラルレビル、バンシィを派遣し、もしもの備えとして用意したコロニーレーザーに残りの旧ティターンズと連邦勢力、そしてジオン残党軍を派遣した。

 

さらにコロニーレーザー発射の保険として、地上のシャイアン防空指令基地にはマーサを、グリプス2にはモナハン・バハロが乗り込み、基本は地上からマーサが、もしもの際にはグリプス2からモナハンが指示を出せるように命令系統を複数用意した。

 

完璧な備え、二人はこの状況をそのように評価した。

 

そしてその評価はあながち間違ったものでは無かった。単艦で戦術状況を確定できるゼネラルレビル、戦略兵器のネオジオングを2機、同じく戦略兵器のコロニ―レーザー。

 

そして最大の敵たるロンドベルは、緊急招集をあちらこちらにかけることでその勢力を散らすことができた。

 

それでも旗艦ラー・カイラム、ブライト・ノアとアムロ・レイはどうにでも動くだろうが、だからどうしたというのだ。

 

最強の石ころでは、津波を防ぐことはできない。

 

グリプス2かメガラニカ、ロンドベルはどちらかにしか戦力を割くことはできない。そして、どちらか選ばなければいけない状況になっている時点で、マーサとモナハンの策は成功しているのだから。

 

そして、シャイアン基地に降り立つラー・カイラムを見て、マーサは勝利を確信した。

 

 

 

 

 

 

グリプス2は、かつてのグリプス戦役を彷彿とさせるモビルスーツが群を為していた。

ジムII、ネモ、ハイザック、マラサイ、最前線からは退き、しかし未だ現役として働く二線級のモビルスーツたち。

マーサとモナハンの呼びかけに応じ参上した、この戦場を再起の場として選んだ敗北者たちの群れ。

 

なれど数は凄まじく。その兵数、およそ1個連隊。

 

戦いは兵の多寡で殆どの趨勢が決まる。それは歴史が証明している。

 

1機のギラドーガよりも3機のジェガン、10機のドライセンよりも50機のジムIII。エースを多対一の状況に追い込み確実に墜とす。数の暴力は戦況を確実なものへと昇華させることができる。

 

そして、彼らは死兵でもあった。ここよりほかに行くべき場所などない。ティターンズもアクシズも無くなり、ネオジオンさえ今や協調路線を歩み始めた。

ここから先、戦争犯罪を背負ったまま立身出世を望むのは不可能だ。

そして、このまま朽ち果てたくなどない。この戦場で名を上げる。この戦場で返り咲く。

 

戦場を渡り歩いてきた古兵が、今や時代遅れとなったモビルスーツと戦艦でもって、最新鋭の最精鋭に挑む。

 

ビスト財団とジオン共和国に操られている、弄ばれている。そんなことは百も承知なのだ。

 

それでも、戦わなくてはこの先などない。

 

さあ来いロンドベル、さあ来いガンダム、アムロ・レイ。功名を上げ、再び栄光を掴むのだ。

 

彼らは覚悟を決めていた。

 

 

 

なぜ、そのような覚悟を彼らは決めることができたのか。

不幸なことに、彼らは一年戦争を経験しなかった世代が多くを占めていた。

旧ティターンズ派閥は、グリプス戦役で20代前半、現在30代となって、最後の花を掴むために躍起になっていた。

ジオン残党軍もその多くはネオジオン抗争で名を上げ、しかし内乱にて散り散りとなり、アクシズ事件に関われずに落ちぶれた者が多かった。

 

彼らは知らなかった。連邦の白い悪魔を。

何故アムロ・レイがそのような異名で呼ばれたのかを。何故アムロ・レイが地球連邦に7年にわたって軟禁され続けたのかを。

 

 

 

閃光。

 

そして宇宙に星が煌めく。

 

グリプス2を囲む時代の敗残兵らは、戦闘の始まりを味方の爆散でもって認識した。

 

「か、回避行……」

 

直撃、再び爆散。

 

その時になってやっと気づいた。これは戦場ではない。奴らの、ロンドベルの狩場なのだと。

 

 

 

 

 

 

『命中。この距離で十分です』

「よし、ボッシュはこのまま狙撃体勢を維持。艦隊護衛の指示を取りつつ指揮官機を狙え。予定通り首狩り戦術だ」

『了解です』

「ケーラ、準備は良いな?」

『はい、問題ありません』

「そして……」

『私も問題ないよ、アムロ』

「……了解した。では、ケーラと共についてこい。我々はねずみ花火だ。エコーズの潜入工作を助けるためにも、派手に暴れて敵の注意を引きつける」

 

よろしいかな?クワトロ・バジーナ大尉。

 

アムロの言葉に、彼はニヤリと口角を上げる。

 

『勿論だとも。アムロ・レイ大尉殿』

「よろしい。では、かかれ」

 

マシンが奔る。アムロのニューガンダムが、ケーラのリ・ガズィカスタムが、クワトロの量産型ニューガンダムが。

 

 

 

マシンが宇宙をかけ、そして閃光が奔る。

 

 

 

星が灯るかのように輝き、そして消える。また灯り、消える。

 

純白のニューガンダムが、そして同様の塗装を施された量産型ニューガンダムが、漆黒の宇宙を切り裂き、星をともす。

 

それは命の輝きであり、終焉の光。

 

土砂降りの雨の如き弾幕の中で、彼らは晴れた日にする散歩のように、悠々と宇宙を駆けていた。

 

ビームが光り、そして太陽を小さくしたかのような閃光が灯る。

 

星の光がいくつも灯り、それが我が身に近づいたとき、彼らはようやく気付いた。

 

この場が自分たちの処刑場になっていたのだと。

 

ティターンズも、アクシズも、連邦政府も、ジオン共和国も、そしてジオン公国も。今この場においては何ら関係ない。

 

白い悪魔が、ガンダムが、おめおめと生き延びて生き恥をさらしていた憐れな我々を、こうして殺しに来たのだと。

 

 

 

数の暴力とは圧倒的なものだ。シンプルで、強力で、勝利に最も近い。それを知らぬものは軍人ではないし、文明人ではない。

 

自明の理ともいえるその当然の前提、しかしそれは、戦力の基準点がある程度均衡していなければ機能しない。

 

散兵戦術を戦列歩兵が圧倒したように、戦列歩兵を弾幕射撃が駆逐したように、弾幕射撃を塹壕戦術が防御したように、塹壕戦術を戦車突撃と爆撃が破壊したように。

 

戦力のレベルが一定以上離れると、戦争というものは一気に片が付く。

 

彼らはグリプス戦役以降、そしてネオジオン抗争以降、まともな装備更新をできなかった。そして、マーサの用意したモビルスーツも、所詮は急ごしらえの旧式に過ぎなかった。

 

第二世代モビルスーツは現在でも主力のマシンだ。ムーバブルフレームにガンダリウム合金。どれも現役で使われている技術で、たとえ性能的に劣っていたとしても、大人と子供ほどの差があるわけでは無い。

 

恐らく彼らも、敵が一般的な連邦軍のモビルスーツパイロットであれば、善戦以上の働きをできただろう。

 

 

 

しかし、彼らが相対したのは一年戦争から、グリプス戦役から、ネオジオン抗争から、そしてアクシズ事件まで、最前線で戦い続けてきたエースオブエース達なのだ。アクシズ事件の前兆から編成され、今やトップオブトップしか在籍できない、ロンドベル旗艦ラー・カイラムのモビルスーツ部隊なのだ。

 

そして、一番槍として戦っているのは、あのアムロ・レイと、あのシャア・アズナブルなのだ。

 

目視した瞬間に、もしくはその前に戦闘が始まり、一瞬で戦闘が終わる。

 

牽制のように撃たれたビームライフルは当然のように命中し、モビルスーツ本体に気を取られればファンネルが躊躇なくマシンを撃ち抜く。

 

瞬きの合間に視界にいた僚機が爆散する。ハッと機を取られた瞬間に撃ち墜とされる。

 

これは最早、戦闘ではない。

 

これは処理だ。白い影が、宇宙に星を灯してゆくだけの、ただの処理。

 

 

 

「マシンは問題ないな?」

『ああ、ニューガンダムは良い機体だな』

「当然だ。俺とチェーン、それにハサウェイが作ったマシンだからな」

『ふっ、それもそうか』

 

『こちらエコーズ、ダグザ・マックール中佐だ。部隊はグリプス2に侵入完了。これより制圧に移る』

「了解。こちらは派手に花火を打ち上げ続けましょう」

『頼もしい限りだ。次は任務完了の報告を』

 

「そう言うことだ、行けるな?シャア」

『無論だ。グリプス2の発射機構であれば外部からの破壊も可能だ。あちらに先んじて、仕事を巻き取ってしまおうか』

「そうできるよう努力しよう!」

 

そうして、マシンが再び宇宙を駆ける。

 

 

 

戦闘を開始してから15分と少し。グリプス2は完全に沈黙した。

 

戦果報告、ロンドベル、エコーズ共に損耗無し。

敵部隊は壊滅。一部投降したパイロットが、知る限りの情報を吐き出した。

 

モナハン・バハロをエコーズが捕獲し、グリプス2の戦闘は完全に終息した。

 

その事実をマーサ・ビスト・カーバインが知ったのは、コロニーレーザー発射予定時刻のおよそ3分後のことである。

 

 

 

 

 

 

メガラニカは、インダストリアル7から分離され、サイド1へ向かっていた。

 

目的地は、ネオジオンの拠点たるスウィートウォーター。

表向きの理由として、インダストリアル7は先の戦闘によって大規模な修復が必要な為、コロニー修復用の専用設備を備えたコロニービルダーに換装が必要で、メガラニカが不要になったので、そのメガラニカを構造的に不安定とされていたスウィートウォーターに移設し、コロニーの拡張性を実験する、というものだった。

 

ネェル・アーガマとレウルーラはメガラニカに収容され、搭乗員はメガラニカにて状況を整理していた。

 

 

 

リディ・マーセナスは、特別にあてがわれた将校用の貴賓室にて、極めて文化的かつ穏当な取り調べを受けていた。

 

多くの配慮が用意され、取調官役をネオジオン将校かつ部隊の副長たるアンジェロ・ザウパーが務め、筆記官兼監査官として親衛隊のセルジ・ヘルファーが駆り出されていた。

 

「では、貴官は簡易的な強化措置による、ある種の洗脳工作によって正気を失い、結果として戦闘行動に参加してしまったが、この時点で心神喪失状態であり、詳細に関しては記憶していない。そのため作戦参加に関しての責任は全く無く、それらは洗脳工作を図り作戦参加を命じたマーサ・ビスト・カーバインにある。間違い無いな?」

 

それは用意されたシナリオを形式的になぞるものであり、リディ本人の意思は特に関係のない物ではあったが、それゆえに最大の配慮がなされていた。

 

アンジェロは懇切丁寧に誘導した。

 

貴官は高潔なる連邦軍人であったが、ご実家とそのお得意様との関係から軍を一時的に離れざるを得なくなった。

またミネバ様の要請を身分の違いから断ることが出来ずに、結果としてミネバ様に不利になるような行動をしてしまったが、それも全てビスト財団が原因で起こった不慮の事故だった。

せめてモビルスーツパイロットとして力になりたいと考えたが、その高潔な挺身さえマーサ・ビスト・カーバインに利用されサイコミュマシンに搭乗させられ、その結果サイコミュシステムの暴走と共に心神喪失状態になった。

その果てに戦闘状況へ参加させられたが、これら一連の流れ全て、リディ少尉の責任ではない。

全てマーサ・ビスト・カーバインと、その協力者によって引き起こされた事件で、不幸にもそれに巻き込まれてしまった。

 

そう言うシナリオになった、分かるよな?と。

 

 

 

ユニコーンとラプラスの箱をめぐる一連の事件に関して、落としどころはほぼすべて決まっている。ゴップ、ガバナン、シャアの3人がおおよそのことの方向性を決めており、詰め腹は全てビスト財団、ひいてはマーサ・ビスト・カーバインに切らせることで決まっているのだ。

その過程において、しかし連邦議会の重鎮を切り取るのは後に面倒を起こす。ならば貸しにしてあとから利子をつけて返済してもらう。

今回の一件で、マーセナス家を公式に糾弾することは無い。これも決定事項だった。

 

それゆえに、リディの行動は一切咎められることなく流されることになった。

 

当初リディ・マーセナスはネェル・アーガマでの戦闘においてMIAになり、その後奇跡的に発見され保護された、というシナリオすら考えられたが、ユニコーンが地上で拿捕された際の映像記録が連邦にもビスト財団にも確保され、その時の映像記録にリディが残っている可能性が高いため、洗脳により戦闘に参加せざるを得なかったという方向へシフトした。

 

 

 

取り調べの最中、リディは酷く意気消沈した様子でアンジェロの質問に答えていた。

それこそまるで、勢いでやった窃盗行為が見つかってしまった学生のように。

 

「では、取り調べは以上だ。この記録情報はロンドベルへ譲渡され、その後正式に連邦からの聞き取り調査が行われるだろう。その際の調査で今回の取り調べと違った内容での回答が確認された場合、より厳重な調査が始まる。そのことを忘れないように。では……」

「……どうして」

 

アンジェロが席を立とうとすると、それまで虚ろ気だったリディが声をかけた。

 

「どうして、お前たちは俺を責めない?」

 

リディは、睨みつけるように、ねめつけるようにアンジェロを見上げた。

 

アンジェロはセルジへ視線を向けた。レコーダーはとっくに切っているな?

セルジは頷く。ええ、とっくに。

 

その確認をして、アンジェロはリディを見下ろした。

 

「どうして、か。何故、私たちがお前を責めなければならない?」

「……俺は、俺はお前たちの作戦行動の妨害をした。殺そうとしたんだ。ミネバを連れて地上へ降りて、ユニコーンを捕まえて……」

「そんなことは理解している。先の取り調べを忘れたのか?その上で聞く。どうして、私たちが、お前を責めなければならない?」

 

リディは信じられないというように目を見開いて動揺した。

その様子に、アンジェロは酷くため息をついた。

 

「分かりやすく言ってやろう。どうして、私たちが、お前如きに、そんな風に心を割いてやらねばならない?正直に言ってやろう。どうでも良いのだよ、貴様如き小物が何をしようが」

 

その言葉に、リディはたじろぐ。

 

「貴様に何が出来た?聞けばバンシィに乗り込む際も随分大層なノーマルスーツを着ていたらしいじゃないか。ネオジオングもそうだ。ネオジオングの操作に必要なサイコフィールドは姫様任せで、貴様は何をしたわけでもない。ただコクピットに乗って戦闘をしたつもりになっていただけだ」

 

アンジェロはいらついたように言葉を吐く。

 

「戦闘に参加した私たちが全員生き残っているのがその答えだ。ネオジオングの仕様書を見た時、驚いたものだよ。このスペックを十全に発揮された場合、全戦力をネオジオング1機に投じる必要がある。それでも勝てるかどうかは分からない。それほどの性能だと」

 

その戦力分析は、ハサウェイ、バナージ、そしてフロンタルが見積もったものだった。レウルーラとガランシェールの全戦力を投じ消耗戦へ持ち込めば問題なく勝てる。逆に言えば、それほどのコストを掛けないと戦線が瓦解しかねない。そういった戦力分析だった。

 

「だが結果はどうだ?親衛隊3機とユニコーン、たった4機のモビルスーツで犠牲者なく制圧できた。サイコフィールドも疑似サイコフレームもオールレンジ攻撃も、何もかもが想定を大きく下回り、作戦は問題なく遂行できた、予定通りに。それが、すべてだ。貴様の為しえたことなど何もない」

 

地上でのユニコーン拿捕はバンシィでなければ為しえなかっただろう。しかし、リディ・マーセナスでなければ為しえなかったことではない。

ネオジオングでの戦闘に至っては、言うまでもない。ゾルタン・アッカネンであれば親衛隊とユニコーンを打破しえたかもしれない。もしもリディ・マーセナスがゾルタンほどの能力を持っていれば、戦線はさらに混沌と化しただろうことは想像に難くない。だが、そうはならなかった。

リディ・マーセナスが居たためにこの状況を作り出した、苦境に陥ったなどと言う事実は何一つとして存在しないのだ。

 

「はっきりと言ってやろう。どうでもよいのだ、貴様のことなど。貴様を責める理由など何一つない。我々は、路傍の小石に注意を払うほど暇ではないし、小石に躓くほど間抜けでもない」

「待て!」

 

話しは終わりだ、とアンジェロが部屋から出ていこうとすると、リディがそれに待ったをかけた。

 

「なら!俺はどうすればよかった!?彼女を助けようとして、家の秘密を知って、俺は!」

「それは我々が関知するところではない」

 

アンジェロが冷たく吐き捨てる。

 

「自分の意見を通したいのなら実力を付けろ。力なきものの言葉など、この世界では何の価値も無いと知れ」

 

崩れ落ちるようにうずくまるリディを、アンジェロは見ることさえなく部屋を後にした。

 

 

 

「……あれで軍人なのか?腐っても奴はロンドベルだろう?」

「いやあ、あはは……」

 

思わず顔をしかめるアンジェロに、セルジは苦笑する他なかった。

 

「情けないというか、卑しいというか、ハサウェイでさえもっとちゃんとしているぞ?」

「いやあ、ハサウェイ君は甘えん坊に見えて結構しっかりしてますから」

「だが16だろう?奴はいくつだ?私よりも年上じゃなかったか?」

「そうですね、たしか、23くらいだと」

 

アンジェロは面白いほどに顔をゆがめた。

 

「……それであれか」

「まあ、順風満帆のエリートコースでしたから、彼。挫折と言うものをこれまで経験してこなかったんじゃないでしょうか?まあ、だからと言って擁護できる点はあまりないですけど」

「あまり無いどころか一つとして無いだろう?姫様も姫様だ。あんな男にほだされて御身を危険にさらすなど、ジンネマンは何をしていたのだ」

「ガランシェールとしても、姫様への接し方に迷いがあったのかもしれません。あくまで護衛にとどまり、教育や指導官役はじきに大佐が差配するだろうと」

「それがこの惨状では笑えもしないよ。今頃姫様も大佐に絞られているだろうが、こんなことは二度と起きないように猛省いただく必要がある」

「それは本当に」

 

はあ、と何となくため息が漏れる。

 

「スウィートウォーターまでは、2週間程度だったか?」

「はい、護衛艦隊を総帥とロンドベルが手配しているようですから、先にそちらと合流する予定です。それが4日後ですね」

「まあ、ゼネラルレビルはガランシェールが壊滅させてくれた。奴らが手出しできる戦力はもう無いだろう」

「マーサ・ビスト・カーバインもモナハン・バハロも拘束済みですから、あと出てくるとすれば海賊程度でしょうか?」

「それも今回の一件と全くかかわりのない、な。まあ問題無いだろう。シナンジュもクシャトリヤもユニコーンも完品状態だ。ギラズールも2個小隊は編成できる。それにネェルアーガマの部隊は損耗無しだろう?予期せぬ敵が来てもひと当てでどうにかなるか」

 

戦闘終了から既に2日経つが、襲撃どころか周辺に機影さえ確認されていない。

マーサ・ビスト・カーバインがロンドベルの戦力を分散させるために宇宙の各地へ出撃要請を連邦を通して出したのが、奇しくもこの平穏を作り出していた。

 

「ハサウェイとバナージは?」

「今日は起きてますよ。モビルスーツの修理に動いているはずです」

「1日で回復したか。全く、あれしきの戦闘でへこたれるとは情けない」

「無茶なマニューバとってましたからね、特にバナージ君は。ハサウェイ君も大分消耗してましたが、大事無いようでよかったです」

 

ふん、とアンジェロは鼻を鳴らすが、その顔には微笑が浮かんでいた。

 

「アルベルト・ビストは?」

「酷く落ち込んでいたようですが、マーサ・ビスト・カーバインの所業を聞いて全面協力を約束しれくれました。詳細はゴップ閣下とガバナンCEOが詰めるそうですが、彼を次のビスト財団当主へ据えて、あとはアナハイムがビスト財団を分割するか、解体するか、そんなところでしょうか?」

「バナージは……いや、奴に政治は無理か」

「出来ないとは思いませんが、適役とも言い難いように思います。それに、彼の出自もありますし」

「まあ、あとはお偉方に任せよう。良いようにしてくれるだろう」

 

酷い戦争だった。いや、アクシズ事件と同様に、これも戦争として歴史に残ることは無いかもな。

アンジェロはまた小さく息をついた。

 

 

 

 

 

 

「下手を打った。その自覚はございますか?」

 

ミネバに貸し出されたレウルーラの総帥用個室にて、フロンタルはミネバに説教していた。

そして、その言葉を俯きながらもミネバは聞いていた。

 

「我々は、ミネバ殿下へ教えを説くような立場ではございません。総帥閣下や摂政殿ほどの地位も身分も無いためです。しかし、事ここに至って、事態の鎮圧を行った部隊の長として、言わせて頂くことがございます」

 

フロンタルはその仮面を取り、ミネバを見つめる。

 

「ご存じのことと思いますが、私は総帥閣下を模して造られた強化人間です。モナハン・バハロは穏健派に回った総帥の失脚を狙い、その後釜に据える神輿として、私を造った。そして、私の他にもあと何人か同じように強化された人間がおります」

 

揺れた瞳で、ミネバはフロンタルを見た。

 

「先の戦闘で、その内の一人と戦いました。我々、シャア・アズナブルの模造品に求められた能力は、一定以上のニュータイプ適性と、パイロット技能。そして、モナハン・バハロの操り人形となれる思想の薄さです。彼は自我の強さゆえに不適格とされ、私はそれを隠し通すことができた」

 

フロンタルは外した仮面の縁をスッと撫でた。

 

「私には、私たちにはいくらでも代わりがいるのです。そして、それは殆どの軍人にも当てはまる。極端な話、あのアムロ・レイでさえ優秀な軍人でしかない。彼一人の為しうる戦果は、雑多なパイロット十数人で代替できる。世の中はそういった無数の歯車で構成され、それ故に回り続けております」

 

しかし、そうではない人間もいる。お分かりですね?

フロンタルは目を細めてミネバを見つめる。

 

「御身の代わりはいないのです。今回の戦闘で、殿下を救出できたのは奇跡的なことでした。バナージ君がネオジオングに拘束された殿下に気付かなければ、ハサウェイ君がその状況を理解し的確な指示を出せなければ、我々は殿下に気付くことなくネオジオングを撃破していたかもしれない。もしもそうなっていた場合、この戦争はネオジオン抗争の焼き直しとなっていたことでしょう。終わりのない戦争、利益では無く感情で戦う戦争。そうならなかったのは、奇跡的に、我々に良いように歯車がかみ合ってくれた為です。そして、そうならなかった可能性の方がはるかに高かった」

 

リディの操縦するネオジオングは、その性能を十全に発揮できていなかった。ハサウェイとアンジェロ、セルジとキュアロンが墜としにかかれば、問題なく撃墜できていたと思える程度には。

そして、その際にリディの身の安全は確保できても、ネオジオングは確実に墜としていたはずだ。サイコフィールドに干渉して、墜としたつもりがまだ動いてしまった、なんてことになったら目も当てられない。

 

結果としてミネバは救出された。

ネオジオング本体への直撃を十分に避け、多分なる注意を必要以上に払わせ、バナージとアンジェロの内臓に無茶なマニューバによってダメージを与え、救出に際してキュアロンを前線から離脱させ、様々な戦力の低下を招きながら。

 

「なぜ、ガランシェールを抜け出し、おひとりでカーディアス・ビストの元へ行かれたのか。なぜ、リディ・マーセナスに連れられ地球に行かれたのか。殿下のお気持ちをお伺いするつもりも、その理由を問うつもりもございません。しかし、どうか覚えて頂きたいのです。とりあえず動いて状況を解決させる、御身はそんな軽挙を取っていいご身分ではないのだと」

 

ミネバはただただフロンタルの言葉を噛みしめ、そしてその苦さを実感していた。

 

「幸いなことに殿下に強化措置が為された形跡はございません。恐らく、極めて短期的な刷り込み学習にて殿下を催眠的に制御したのでしょう。これらはカウンセリングで解消できます。今感じられるご不快も、じきに消えてゆくものと存じます。私とマリーダ中尉は同様の刷り込みをされた経験がございます。スイートウォーターへ着くまでに異変があった場合は、すぐにご報告くださいませ」

 

フロンタルは仮面を再び被り、席を立つ。

 

「私の立場で言えることではないと理解しておりますが、十分にご反省ください。今回の殿下の行動で、褒められる箇所は何一つとしてございません。ともすれば、御身の軽挙によって第二次ネオジオン抗争が始まるやもしれなかった。くれぐれも、その旨お忘れなきよう願います。詳細な反省点等は総統閣下が教師をご用意くださるでしょう。その折に、今回の失敗をしっかりと噛みしめて頂きたい。では……」

「っ、待って!」

 

部屋を出ようとするフロンタルに、ミネバは声を上げた。

 

「……何か?」

「大佐、その……すまなかった。本当に、迷惑をかけた」

 

その言葉に、フロンタルは小さく息を吐いた。

 

「殿下、私が如き臣下に対してそのように謝罪してはなりません。お言葉が軽くなります。御身のお立場をご理解ください」

「でもっ、その……」

「……ですが、綸言汗の如しとも言います。私に対して過分なるお言葉ですが、今回はありがたく頂戴いたします」

 

フロンタルはそう言って微笑を湛えた。

 

「バナージ君は体調も回復して。今日はモビルスーツの修復作業をしているようです。どちらかで散策ついでに訪れるのも良いかと存じます」

 

それでは。

そう言って、フロンタルは部屋を後にした。

 

ふう、と思わず吐く息が、どこか軽かった。

 

その時、フロンタルは改めて実感した。

 

ああ、戦争が終わったのだなと。

 




読了ありがとうございました!

苦しかった。書いては消して書いては消して、そしてフッと書けなくなる。
最後に残った要素を拾ってエピローグ的なもの書いて終わり!だと思ってたのに、全然筆が進まなくてビックリでした。

そして出来も大して良くない。でもこれが現状の精一杯ということで、ご容赦ください。

次回から空白期間で日常編に戻ると思います。閃ハサに行きつくまでの幕間的な感じの予定です。まったり待っていただけたらなと思います。

創作の励みとなりますので、感想、高評価など頂けると嬉しいです。
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